3 / 26
3.もう一度お会いして決めます!
しおりを挟む
(9月第3土曜日)
2回目は前日の夜遅く帰省した。帰省するのならゆっくりしたいと思ってのことだった。家に帰って、自分の部屋に戻るとなぜかほっとする。私の部屋を両親は高校を卒業して上京したときのままにしてくれている。
就職するときに地元の企業か地方公務員になろうかとも考えたが、やはり都会での生活を続けたかった。地元には無い華やかさとか活気がある。
確かに地元で親元から勤めると経済的にも楽だし、食事の準備や部屋の掃除、洗濯までもしてもらえて快適なのも分かっていた。
でもそれで人生行き止まりのような気がして東京で就職口を探した。大学のネームバリューと勉強もしっかりしていたので、一流の商社へ就職できた。お給料もまずまずで1LDKのマンションが借りられた。
でも世の中順風満帆とはいかないものだ。セクハラが原因で会社を辞めざると得なくなった。次の就職先がすぐには見つからなかったので、派遣会社に登録して派遣社員として今は商社で働いている。
そのため収入は激減した。住まいを安いアパートに替えた。それでも生活がきつい。それで両親の勧めもあって、結婚を考えるようになった。
私も28歳になっている。30歳までには結婚しないと、難しくなると言うのが両親の持論だし、そういうことが言われているのも知っている。心配もかけたくないので、これまでもお見合いをしてきた。
吉川さんは4人目でこれまでで一番いいとは思った。だから、もう一度会って確信が持てれば決めたいと思っている。
この歳になるともう現実がすっかり見えてきている。いくつかの会社に勤めたけど、どこも女性には働きづらいところがある。結婚して子供ができるとなおさらだ。それに母親になるとやはり子供が一番みたい。分かる気がする。
待ち合わせは前回と同じホテルのラウンジにして、時間も同じの土曜日の午後2時としていた。私は随分早く着いた。まだ、1時半だ。早く来過ぎた。連れが来るからと言って注文を待ってもらっている。
15分前に吉川さんが現れた。約束の時間よりも随分早い。私と同じで時間には遅れない主義のようだ。私は手を振って合図した。
「お待たせしましたか?」
「いえ、私は約束の時間に遅れるのが嫌いで、早めに来ました」
「僕も同じで早めに来ました。気が合いますね」
「もう一度会っていただいてありがとうございます。それに会うのをこちらにしてすみません。向こうだと誰かに見られているようで嫌なんです」
「まだ、交際すると決まっていないけど、まるで遠距離恋愛みたいですね。それも良いかと思います。こちらなら確かに集中できる」
「こちらの方が、お見合いして会っていると言う感じがしていいんです。私は今日で決めますから」
「それなら、ここでしばらく話をして、公園を散歩でもしますか? それから夕食を一緒にするというのはどうですか?」
「それもよいのですが、これから私の家へ来ていただけませんか?」
「あなたの家へ、ですか?」
「母にも会っていただきたいのです。ご迷惑でしょうか?」
「いや、手っ取り早くていいんじゃないかな、今からでもいいんですか?」
「出かける時に相談してきましたので大丈夫です。電話だけ入れておきます」
私はすぐに立ち上がって入口付近まで行って電話した。両親とは来る前に、家で話をしたいから先方が承諾したら家に連れて来ると言っておいた。
母が出た。これから連れて行くと言ったら、私も会ってみたいと喜んでいた。
「大丈夫です。せっかちですみません」
「いや、その方が二人には都合がいいんじゃないかな。可否判断が早くできるから」
「それに家の方が周りを気にしないでゆっくりお話しできますから」
「住所は聞いていますが、近くですか?」
「タクシーでここから10分位です」
「じゃあ、すぐに行きましょうか? 時間を大切にしたい」
二人で席を立って、ホテルの入口でタクシーに乗った。私を先に乗せて吉川さんが乗り込んだ。私は行き先を運転手に伝えた。
車の中では何を話したらいいのか分からないので、黙っている。運転手に聞かれるのもいやだから。二人とも黙っている。
10分足らずで家の前に着いた。料金を吉川さんが払いそうだったので、私の都合だからと言って私が支払った。着くと同時に玄関のドアが開いて両親が出てきた。
「よくいらっしゃいました」
「突然、お訪ねして申し訳ありません」
「娘が我が儘を申しまして、母親の登紀子です」
「初めまして、吉川 亮です」
「どうぞ、おあがり下さい」
吉川さんをリビングへ案内する。ソファーでしばらく両親を交えて話をした。父はお見合いの席で吉川さんとは話しているので、母がいろいろ聞いていた。好きな食べ物だとか、趣味について聞いていた。
食べ物は嫌いなものは特にないと言っていた。趣味は特別にないが、パソコンをいじっているのが好きだと言っていた。あとは読書とか、ありきたりの趣味だ。まあ、何かのマニアやオタクでも困る。
母は吉川さんに好感を持ったみたいだった。長い間母娘をやっているから顔つきで分かる。吉川さんも両親を特に嫌がっている様子もない。どちらかと言えば良い印象を持ったみたいで、安心した。
私は吉川さんと二人だけで相談したいことがあった。両親の前では言いにくいことだったからだ。
「私の部屋で二人だけでお話ししてもいいかしら?」
「そうだね、せっかくだから、二人でゆっくりお話ししなさい」
両親は我々を二人にさせてくれた。二階の私の部屋に吉川さんを案内した。こうなっても良いように今朝部屋を掃除して整理しておいた。部屋は8畳の洋室。
部屋の真ん中にふわふわの絨毯を敷いて、そこに座卓を置いている。私が座ったので、反対側に吉川さんが腰を下ろす。近すぎず遠すぎず、話すのに丁度よい距離感だ。
母が飲み物を持って部屋に入ってきた。私は母が部屋を離れてから話を始めようと思っている。
2回目は前日の夜遅く帰省した。帰省するのならゆっくりしたいと思ってのことだった。家に帰って、自分の部屋に戻るとなぜかほっとする。私の部屋を両親は高校を卒業して上京したときのままにしてくれている。
就職するときに地元の企業か地方公務員になろうかとも考えたが、やはり都会での生活を続けたかった。地元には無い華やかさとか活気がある。
確かに地元で親元から勤めると経済的にも楽だし、食事の準備や部屋の掃除、洗濯までもしてもらえて快適なのも分かっていた。
でもそれで人生行き止まりのような気がして東京で就職口を探した。大学のネームバリューと勉強もしっかりしていたので、一流の商社へ就職できた。お給料もまずまずで1LDKのマンションが借りられた。
でも世の中順風満帆とはいかないものだ。セクハラが原因で会社を辞めざると得なくなった。次の就職先がすぐには見つからなかったので、派遣会社に登録して派遣社員として今は商社で働いている。
そのため収入は激減した。住まいを安いアパートに替えた。それでも生活がきつい。それで両親の勧めもあって、結婚を考えるようになった。
私も28歳になっている。30歳までには結婚しないと、難しくなると言うのが両親の持論だし、そういうことが言われているのも知っている。心配もかけたくないので、これまでもお見合いをしてきた。
吉川さんは4人目でこれまでで一番いいとは思った。だから、もう一度会って確信が持てれば決めたいと思っている。
この歳になるともう現実がすっかり見えてきている。いくつかの会社に勤めたけど、どこも女性には働きづらいところがある。結婚して子供ができるとなおさらだ。それに母親になるとやはり子供が一番みたい。分かる気がする。
待ち合わせは前回と同じホテルのラウンジにして、時間も同じの土曜日の午後2時としていた。私は随分早く着いた。まだ、1時半だ。早く来過ぎた。連れが来るからと言って注文を待ってもらっている。
15分前に吉川さんが現れた。約束の時間よりも随分早い。私と同じで時間には遅れない主義のようだ。私は手を振って合図した。
「お待たせしましたか?」
「いえ、私は約束の時間に遅れるのが嫌いで、早めに来ました」
「僕も同じで早めに来ました。気が合いますね」
「もう一度会っていただいてありがとうございます。それに会うのをこちらにしてすみません。向こうだと誰かに見られているようで嫌なんです」
「まだ、交際すると決まっていないけど、まるで遠距離恋愛みたいですね。それも良いかと思います。こちらなら確かに集中できる」
「こちらの方が、お見合いして会っていると言う感じがしていいんです。私は今日で決めますから」
「それなら、ここでしばらく話をして、公園を散歩でもしますか? それから夕食を一緒にするというのはどうですか?」
「それもよいのですが、これから私の家へ来ていただけませんか?」
「あなたの家へ、ですか?」
「母にも会っていただきたいのです。ご迷惑でしょうか?」
「いや、手っ取り早くていいんじゃないかな、今からでもいいんですか?」
「出かける時に相談してきましたので大丈夫です。電話だけ入れておきます」
私はすぐに立ち上がって入口付近まで行って電話した。両親とは来る前に、家で話をしたいから先方が承諾したら家に連れて来ると言っておいた。
母が出た。これから連れて行くと言ったら、私も会ってみたいと喜んでいた。
「大丈夫です。せっかちですみません」
「いや、その方が二人には都合がいいんじゃないかな。可否判断が早くできるから」
「それに家の方が周りを気にしないでゆっくりお話しできますから」
「住所は聞いていますが、近くですか?」
「タクシーでここから10分位です」
「じゃあ、すぐに行きましょうか? 時間を大切にしたい」
二人で席を立って、ホテルの入口でタクシーに乗った。私を先に乗せて吉川さんが乗り込んだ。私は行き先を運転手に伝えた。
車の中では何を話したらいいのか分からないので、黙っている。運転手に聞かれるのもいやだから。二人とも黙っている。
10分足らずで家の前に着いた。料金を吉川さんが払いそうだったので、私の都合だからと言って私が支払った。着くと同時に玄関のドアが開いて両親が出てきた。
「よくいらっしゃいました」
「突然、お訪ねして申し訳ありません」
「娘が我が儘を申しまして、母親の登紀子です」
「初めまして、吉川 亮です」
「どうぞ、おあがり下さい」
吉川さんをリビングへ案内する。ソファーでしばらく両親を交えて話をした。父はお見合いの席で吉川さんとは話しているので、母がいろいろ聞いていた。好きな食べ物だとか、趣味について聞いていた。
食べ物は嫌いなものは特にないと言っていた。趣味は特別にないが、パソコンをいじっているのが好きだと言っていた。あとは読書とか、ありきたりの趣味だ。まあ、何かのマニアやオタクでも困る。
母は吉川さんに好感を持ったみたいだった。長い間母娘をやっているから顔つきで分かる。吉川さんも両親を特に嫌がっている様子もない。どちらかと言えば良い印象を持ったみたいで、安心した。
私は吉川さんと二人だけで相談したいことがあった。両親の前では言いにくいことだったからだ。
「私の部屋で二人だけでお話ししてもいいかしら?」
「そうだね、せっかくだから、二人でゆっくりお話ししなさい」
両親は我々を二人にさせてくれた。二階の私の部屋に吉川さんを案内した。こうなっても良いように今朝部屋を掃除して整理しておいた。部屋は8畳の洋室。
部屋の真ん中にふわふわの絨毯を敷いて、そこに座卓を置いている。私が座ったので、反対側に吉川さんが腰を下ろす。近すぎず遠すぎず、話すのに丁度よい距離感だ。
母が飲み物を持って部屋に入ってきた。私は母が部屋を離れてから話を始めようと思っている。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
地味子と偽装同棲始めました―恋愛関係にはならないという契約で!
登夢
恋愛
都会で就職した老舗の御曹司が父親所有のマンションに引っ越しますが、維持費がかかり過ぎることから同居人を探しました。そして地味な契約女子社員を見つけて同居雇用契約をして偽装同棲を始めます。御曹司は地味子がとても性格の良い娘だと次第に分かってきましたが、合コンで出会った陰のある可愛い娘に一目ぼれをしてしまいます。これは老舗の御曹司が地味子と偽装同棲したら運命の赤い糸に絡め捕られてしまったお話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。
春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

あなたは私を愛さない、でも愛されたら溺愛されました。
桔梗
恋愛
結婚式当日に逃げた妹の代わりに
花嫁になった姉
新郎は冷たい男だったが
姉は心ひかれてしまった。
まわりに翻弄されながらも
幸せを掴む
ジレジレ恋物語

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる