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第二章 銀色の拘束
第五十三話 添い寝
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「いいのか?」
「いいのか、とは?」
私が問うと、オースティンに聞き返されてしまう。
「縁談を断って……」
「無理矢理あなた様と結婚なんて誰も出来ませんよ。決定権はあなた様にあります。もし、万が一あなた様に無理を強いる者がいれば、それはもう、この暁の塔そのものに喧嘩をふっかけたと同義語になりますので、覚悟がいるでしょうな」
「聖女ってどこまで偉いんだよ?」
つい口が滑ると、
「戦女神ミネア様と同列です」
五大魔道士長のオースティンに、大真面目にそう答えられて目をむいた。
あれと同列? ミネア様は天の十二神だぞ? あれと同列……聖女様は神様扱いってことか? え? マジ?
オースティンが真面目くさった顔で頷いた。
「魔道界での認識はそうです。ですが、信仰心にもよりますから、あなた様に不敬を働く者もいるでしょう。そういった者達が暁の塔と敵対することになるわけです」
左様で。何か頭がパンクしそうだ。
「それで、今後の事なのですが、サイラスと四六時中一緒にいる事になると思います。ですがそうなると、入浴や排泄、そういった時に困ると思いますので……」
あ、そうだ。鎖で繋がれているんだった。入浴中、外で待ってるとかそういう事になるのか? 排泄時も……何か嫌だな。音が漏れそうで、赤っ恥。
「寝たきりの病人に使用する魔術ですが、入浴排泄などの手間を省けるよう、あなた様に定期的にそれを使います」
え? そんな便利な魔法があるんだ?
「ええ、はい、ございます。ただ、その……直接体に触れるので、行うのは女魔道士が良いかと思いますが、出来る魔道士もまた限られておりまして、リアン・クリスタかビビアン・ローズかという選択に……」
オースティンの言葉途中で目をむいた。
「入浴排泄の魔術で五大魔道士が!」
「ええ、そうなります」
「何て言うか、申し訳なさ過ぎるんですけどぉ!」
王妃様に体を洗ってもらうような気分だ。
「他の者がやると、失敗する可能性があるので、それこそ……」
「あ、ビビアンでおね」
即答していた。失敗は嫌だろ! お漏らしとか洒落にならん。
ビビアンが意外そうな顔で言った。
「ん? あたしでいいのか? あたしの場合、治療の扱いとかが乱暴だから、嫌がられるんだけどね? そういった繊細な部分はリアンが人気だけどな?」
知ってる! 怪我している部分とか、平気で鷲掴みにしたりするんだよな! 唾付けときゃ治るとか言ったりするし!
けど、リアンだけは絶対嫌だぁ! あれ、色ぼけの癇癪持ちババアだぞ! そんでもって外面の良さだけは、エレミアに匹敵するくらい性悪だ! ビビアンはきっついけど根は正直だからな! そういった意味では安心出来る!
「なら、朝昼晩、様子を見に行くよ」
ビビアンが了承してくれた。良かった。
「それと、よろしければお食事をご用意しますが……」
オースティンがそう言うと、見計らったようにお腹の虫がなった。胃袋は正直だ。
「では、そのように手配致します」
一礼し、オースティンが背を向け、退出した。その後に五大魔道士達がぞろぞろと続く。最後にリアンに睨まれたような気がするけど、気にしたら負けだな。いつもの事だ。
横手を見るとサイラスはまだ寝ていて、寝顔に見入ってしまう。綺麗な金の髪をさらりと手ですいた。久しぶりに見る寝顔で、つい抱きしめたくなってしまう。
でも、本人は嫌がるんだろうな。どうしよう……。
サイラスの背中にぴったりくっついてみると、ごろりと寝返りを打った際、サイラスにそのまま抱きしめられて、顔面沸騰だ。抱き枕にされた格好である。う、嬉しいけど、ど、どうしよう、これ。身じろぎもせずひたすら困っていると、
「……もしかして、心地良い?」
上から覗き込んだロイがそんな事を言い出した。
「ね、ほら、見て。サイラス様はエラにくっついているのが気持ちいいんじゃない? ほら、顔つきが……サイラス様って最近険しい顔多かったよね? 笑うこともなくなってたのに、表情から険がとれてる」
そうなのか? こっからじゃ見えないけど。神界の光って凄い、素直にそう思った。
「……このままでいた方がよさそうだな」
ゼノスがロイに同意し、
「精霊の笛は吹いた方が良い?」
ヨアヒムがそう聞いた。
「そうだな、そうしてくれ」
「ん……分かった」
ヨアヒムはゼノスの要請に応えたものの、何となく覇気が無い?
「ヨアヒム、腕の具合は?」
怪我をしているから調子が悪いのかも、そう思ったけれど、
「うん、大丈夫。もう、痛くないよ」
寂しげに笑って、
「エラはサイラスが好きだったんだね? 全然知らなかった。僕もエラが好きだったんだけどなぁ。何かショックでさ……もう、望みなし?」
ヨアヒムがそう言った。あー、そういや、何だか盛大な告白大会になっちまったな。全員にばれた。
「お前、私のどこがよかったんだ?」
つい、そんな風に言えば、
「え? 優しいところ?」
そうかなぁ? 私もビビアンと同列で、結構がさつだと思うけど。
「おしとやかな女性からは、ほど遠いけどな?」
私がそう言うと、ヨアヒムがふわりと笑った。
「エラは強くて優しいんだ。僕の理想かな」
うーん……まぁ、いいか。褒めてくれているんだから。
「僕の事、ちょっとは好き?」
「ああ、好きだよ。子犬みたいで可愛い」
「子犬……」
喜んで良いのか微妙って顔してる。でも、本当にそんな感じなんだよな。
「あとは可愛い弟とか?」
「僕の方が年上だけど……」
「兄貴って感じ全然しないよ、お前」
失笑してしまう。
その後、初めて耳にした精霊の笛の音が綺麗で心地よくて、つい私もうとうとしてしまったけれど、真夜中頃だろうか、ふっと目を覚ませば、どうやらサイラスも目を覚ましたようで、勢いよく離れられた。
驚いた顔してる。あ、そか。無意識だったからか……。私を抱き枕にしていて驚いたんだな。にしてもちょっと寂しい。いきなり人の温もりが無くなった。
「いいのか、とは?」
私が問うと、オースティンに聞き返されてしまう。
「縁談を断って……」
「無理矢理あなた様と結婚なんて誰も出来ませんよ。決定権はあなた様にあります。もし、万が一あなた様に無理を強いる者がいれば、それはもう、この暁の塔そのものに喧嘩をふっかけたと同義語になりますので、覚悟がいるでしょうな」
「聖女ってどこまで偉いんだよ?」
つい口が滑ると、
「戦女神ミネア様と同列です」
五大魔道士長のオースティンに、大真面目にそう答えられて目をむいた。
あれと同列? ミネア様は天の十二神だぞ? あれと同列……聖女様は神様扱いってことか? え? マジ?
オースティンが真面目くさった顔で頷いた。
「魔道界での認識はそうです。ですが、信仰心にもよりますから、あなた様に不敬を働く者もいるでしょう。そういった者達が暁の塔と敵対することになるわけです」
左様で。何か頭がパンクしそうだ。
「それで、今後の事なのですが、サイラスと四六時中一緒にいる事になると思います。ですがそうなると、入浴や排泄、そういった時に困ると思いますので……」
あ、そうだ。鎖で繋がれているんだった。入浴中、外で待ってるとかそういう事になるのか? 排泄時も……何か嫌だな。音が漏れそうで、赤っ恥。
「寝たきりの病人に使用する魔術ですが、入浴排泄などの手間を省けるよう、あなた様に定期的にそれを使います」
え? そんな便利な魔法があるんだ?
「ええ、はい、ございます。ただ、その……直接体に触れるので、行うのは女魔道士が良いかと思いますが、出来る魔道士もまた限られておりまして、リアン・クリスタかビビアン・ローズかという選択に……」
オースティンの言葉途中で目をむいた。
「入浴排泄の魔術で五大魔道士が!」
「ええ、そうなります」
「何て言うか、申し訳なさ過ぎるんですけどぉ!」
王妃様に体を洗ってもらうような気分だ。
「他の者がやると、失敗する可能性があるので、それこそ……」
「あ、ビビアンでおね」
即答していた。失敗は嫌だろ! お漏らしとか洒落にならん。
ビビアンが意外そうな顔で言った。
「ん? あたしでいいのか? あたしの場合、治療の扱いとかが乱暴だから、嫌がられるんだけどね? そういった繊細な部分はリアンが人気だけどな?」
知ってる! 怪我している部分とか、平気で鷲掴みにしたりするんだよな! 唾付けときゃ治るとか言ったりするし!
けど、リアンだけは絶対嫌だぁ! あれ、色ぼけの癇癪持ちババアだぞ! そんでもって外面の良さだけは、エレミアに匹敵するくらい性悪だ! ビビアンはきっついけど根は正直だからな! そういった意味では安心出来る!
「なら、朝昼晩、様子を見に行くよ」
ビビアンが了承してくれた。良かった。
「それと、よろしければお食事をご用意しますが……」
オースティンがそう言うと、見計らったようにお腹の虫がなった。胃袋は正直だ。
「では、そのように手配致します」
一礼し、オースティンが背を向け、退出した。その後に五大魔道士達がぞろぞろと続く。最後にリアンに睨まれたような気がするけど、気にしたら負けだな。いつもの事だ。
横手を見るとサイラスはまだ寝ていて、寝顔に見入ってしまう。綺麗な金の髪をさらりと手ですいた。久しぶりに見る寝顔で、つい抱きしめたくなってしまう。
でも、本人は嫌がるんだろうな。どうしよう……。
サイラスの背中にぴったりくっついてみると、ごろりと寝返りを打った際、サイラスにそのまま抱きしめられて、顔面沸騰だ。抱き枕にされた格好である。う、嬉しいけど、ど、どうしよう、これ。身じろぎもせずひたすら困っていると、
「……もしかして、心地良い?」
上から覗き込んだロイがそんな事を言い出した。
「ね、ほら、見て。サイラス様はエラにくっついているのが気持ちいいんじゃない? ほら、顔つきが……サイラス様って最近険しい顔多かったよね? 笑うこともなくなってたのに、表情から険がとれてる」
そうなのか? こっからじゃ見えないけど。神界の光って凄い、素直にそう思った。
「……このままでいた方がよさそうだな」
ゼノスがロイに同意し、
「精霊の笛は吹いた方が良い?」
ヨアヒムがそう聞いた。
「そうだな、そうしてくれ」
「ん……分かった」
ヨアヒムはゼノスの要請に応えたものの、何となく覇気が無い?
「ヨアヒム、腕の具合は?」
怪我をしているから調子が悪いのかも、そう思ったけれど、
「うん、大丈夫。もう、痛くないよ」
寂しげに笑って、
「エラはサイラスが好きだったんだね? 全然知らなかった。僕もエラが好きだったんだけどなぁ。何かショックでさ……もう、望みなし?」
ヨアヒムがそう言った。あー、そういや、何だか盛大な告白大会になっちまったな。全員にばれた。
「お前、私のどこがよかったんだ?」
つい、そんな風に言えば、
「え? 優しいところ?」
そうかなぁ? 私もビビアンと同列で、結構がさつだと思うけど。
「おしとやかな女性からは、ほど遠いけどな?」
私がそう言うと、ヨアヒムがふわりと笑った。
「エラは強くて優しいんだ。僕の理想かな」
うーん……まぁ、いいか。褒めてくれているんだから。
「僕の事、ちょっとは好き?」
「ああ、好きだよ。子犬みたいで可愛い」
「子犬……」
喜んで良いのか微妙って顔してる。でも、本当にそんな感じなんだよな。
「あとは可愛い弟とか?」
「僕の方が年上だけど……」
「兄貴って感じ全然しないよ、お前」
失笑してしまう。
その後、初めて耳にした精霊の笛の音が綺麗で心地よくて、つい私もうとうとしてしまったけれど、真夜中頃だろうか、ふっと目を覚ませば、どうやらサイラスも目を覚ましたようで、勢いよく離れられた。
驚いた顔してる。あ、そか。無意識だったからか……。私を抱き枕にしていて驚いたんだな。にしてもちょっと寂しい。いきなり人の温もりが無くなった。
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