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第二章 銀色の拘束
第五十話 赤い糸の先は
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「まさか恋人……」
『じゃかましいわ! 人の古傷をつつくな!』
ミネア様がすかさず叫ぶ。
古傷なんだ。ってことはやっぱり、地獄の王とミネア様は恋人同士だったってことか? えー……地獄の王とミネア様のランデブー……あんま想像したくない。世界が終わりそうだ。別れて正解だな、うん。人間が駆逐される未来しか見えないってどうよ。
「地獄の王は人類に滅亡して欲しいのか?」
私がぽつりとそう言うと、
『そりゃ、解放されるからな』
「解放?」
『そ、神魔の最終戦争は人類が滅亡すると始まるって、反乱鎮圧時に宣言されている。だから、人類が滅亡すると、あいつは自分を地獄につなぎ止めている鎖から解放されて、覇権を巡って神魔の争いになるんだ。ただし、あいつ自身の力で人々を滅亡までもっていった場合、永久に解放されない。そういう約束なんだよ』
うっわ。そんな約束事があるのか。
『だから、魔人に人類が滅ぼされるなんて未来を知ったら、見逃すわけがない。絶対妨害に回る。あいつにとっちゃ、魔人の来襲は渡りに船ってわけ。分かったか?』
「だからサイラスも命を狙われている?」
地獄の王の手先はサイラスの命を狙っていた。
『ああ、あれは違う』
ミネア様がパタパタ手を振った。
『そもそも人間達が魔人に滅ぼされる未来は、あいつはまだ知らないはず……。未来を見通せるのは神界だけだからな。マルティスの魂が目的だよ。殺せばマルティスは地獄落ちするから、どうしても殺したいんだ。神族の魂が手に入るなんて好機は、滅多にないからな。しかもマルティスはユーピニーに次ぐ実力者だ。神魔の戦いで相当な戦力になる。ディーにとっちゃ、喉から手が出るほど欲しい逸材ってわけだ』
私は目をむいた。
「サイラスが地獄落ち? 神族だろ? 地獄の王と契約もしていないのに!」
私が叫べば、ミネア様が憤然と怒鳴り返す。
『だから! 魔人どもの血の狂気を浄化するために、あいつらの不浄の血を飲み込んだって言ったろうが! その血が重りになって、死ぬと地獄へ引っ張られるんだよ! 人類救済って簡単に言ってくれるが、こっちにとっては地獄落ちしかねない、もの凄く危険な行為なんだ! 神族のあいつが地獄落ち? やってられるか! あたしとしては人類を見捨てて、そのまま最終戦争に突入した方がいいって思ったくらいだよ!』
「回避する方法は!」
『だ、か、ら! さっきっから、血の浄化だって言ってるだろぉがぁ! なんべん言わせるんだよ! 合成種の血の不浄を浄化して狂気を消滅させる! 血の浄化が終われば、あいつは闇から解放される! 本来の自分に戻れるんだ! たとえ死んでも地獄落ちしない! 分かったかぁ!』
「浄化……」
ぼんやりとそう呟けば、ミネア様がきっとヨアヒムを睨み付け、
『そうだよ! なのにこのろくでなしは精霊の笛を吹かない。あいつに無用な殺人をさせて血の狂気を加速させる! 足を引っ張りまくって、全然血の浄化が進んでない! 何なんだよ、これは! あたしが出てくる時には、マルティスの封を解くはずだったのにぃ! 本当に死ね! 今すぐ死ね! 地獄へ落ちろ! っていうか、今すぐあたしが地獄へ送ってやる! ディーの責め苦を延々味わえぇええええ!』
「落ちついてぇえええええ!」
ストップストップぅ! ヨアヒムの首を絞めないで!
ああ、ヨアヒムが青ざめて、ぷるっぷる震えている。これ以上虐めると、本当にお亡くなりになりそうだ。心臓発作とかで……。それは勘弁。
「私に何か出来ることは?」
『あいつに無用な殺人をさせないこと』
ミネア様が憮然とそう答えた。
「殺人をさせない……」
『これ以上あいつが、血の狂気に飲み込まれないよう配慮するんだ。血の狂気の活性化が一番やばい。あいつの周囲を清浄な空気で保つ。分かったか?』
分かった。
『それと、言っとくけどな。浄化に失敗して、マルティスが地獄落ちにでもなろうものなら、あたしはあんた達の敵に回るからな? あたしの助力なんか期待すんなよ? 人間の信仰心なんかくそくらえだ。ユーピニーの怒りなんか知ったことか。そもそもマルティスがいるから、あたしは神界に残ったようなもんなんだから』
もしかして……。
「地獄の王って、元々は神族だったんですよね? 神界で反乱を起こして地獄落ちになったって聞いてますけど、もしかしてミネア様も一緒に付いて行きたかった、とか?」
『行かない!』
ミネア様がぷいっとそっぽを向く。
『大っ嫌いだ! あんな奴! 愛してないって言いやがった! 死ね、くそったれ!』
どう見ても、拗ねてるって感じだよなぁ……。ははは、やっぱり地獄の王とランデブー……見ない見ない。見ざる言わざる聞かざるで行こう、うん、そうしよう。
「とにかく、この先、サイラスの狂気が暴走しないよう注意すればいいんですね? で、ヨアヒムが精霊の笛で浄化の手伝いをすると」
『そーいうこと』
あ、ミネア様が笑った。
『お前が添い寝をするのも効果大だ』
「へー、私が添い寝……」
え? 添い寝?
「何で!」
ぎょっとなって問い質せば、
『何でって、お前は神界の光を取り込んでるだろ? お前が傍にいれば、あいつの魂が活性化する。特に睡眠時に神界の光が加わると効果大なんだ。血の浄化がぐんぐん進む。本当ならあたしがやってやりたいけど、憑依にも限界があるから、お前がやれ。特別に許可してやる。ありがたく思え』
「いや、でも、サイラスに拒絶されまくってるんですけどぉ!」
事情を話すと、ミネア様が顔をしかめた。
『あん? 自分が殺すかもしれないから手元に置きたくない? 逆だ馬鹿。聖女が傍にいると狂気の揺れが収まるから、無用な殺人を避けれる。いいから何が何でもへばりつけ。じゃないと折檻だ!』
いや、あの、嬉しいんですけどぉ! 説得できるかな?
その後、揃ってサイラスの所まで行くことになったけど、大丈夫かな? エドガーを途中で拾うと、何故かロイまで加わり大所帯に。今回はゼノスとロイとエドガーだけじゃなく、ルーファスとヨアヒムまでいるからな。
んで、見張りをしていたユリウスに驚かれた。
大所帯だから、じゃなくて、ミネア様の姿に驚いたようだ。確かに、ミネア様の見た目は神々しくて、度肝を抜かれるよな。六枚の銀の翼を持った絶世の美女だ。中身は地獄の王とランデブーする精神だから、超怖いけど。
で、どうなることかと思ったけど、
『ユリウス・クラウザーだな? お役目ご苦労さん。加護をやるから剣よこせ』
うわっ! ミネア様が超ご機嫌だ。
もしかして、ユリウスはサイラスの護衛をしているからか? いや、あれだ。ユリウスはサイラスに対して忠誠心に厚いって言ってたから、そのせいかも。
ユリウスが恭しく跪き、
「戦女神様のお言葉、ありがたくお受けします」
そう答えた。南国の騎士としての礼節だ。
あー、そういや、あっちは血の気の多い連中が多いからか、最高神のユーピニーよりも、確か戦女神と軍神の二神の方が人気が高かったっけ。強さこそ正義、みたいなところがあるんだよなぁ。拳で語り合う奴が喜ばれると。分かりやすい民族だ。
ミネア様がユリウスの剣に触れると、一瞬雷撃がほとばしり、消える。
『雷剣だ。この剣の主人はお前。お前以外にこの剣は従わないから注意しろ?』
「ありがたき幸せ」
そう答えてユリウスは剣を高々と掲げた。雷剣かぁ……威力、凄そうだな。
んで、中に入った途端、
『マルティスうううううぅう!』
感極まったように、ミネア様が両手を広げて、サイラスに抱きつきかけるも、さっと避けられる。先までの威厳、どこ行った? ミネア様、成長しない……。
『じゃかましいわ! 人の古傷をつつくな!』
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古傷なんだ。ってことはやっぱり、地獄の王とミネア様は恋人同士だったってことか? えー……地獄の王とミネア様のランデブー……あんま想像したくない。世界が終わりそうだ。別れて正解だな、うん。人間が駆逐される未来しか見えないってどうよ。
「地獄の王は人類に滅亡して欲しいのか?」
私がぽつりとそう言うと、
『そりゃ、解放されるからな』
「解放?」
『そ、神魔の最終戦争は人類が滅亡すると始まるって、反乱鎮圧時に宣言されている。だから、人類が滅亡すると、あいつは自分を地獄につなぎ止めている鎖から解放されて、覇権を巡って神魔の争いになるんだ。ただし、あいつ自身の力で人々を滅亡までもっていった場合、永久に解放されない。そういう約束なんだよ』
うっわ。そんな約束事があるのか。
『だから、魔人に人類が滅ぼされるなんて未来を知ったら、見逃すわけがない。絶対妨害に回る。あいつにとっちゃ、魔人の来襲は渡りに船ってわけ。分かったか?』
「だからサイラスも命を狙われている?」
地獄の王の手先はサイラスの命を狙っていた。
『ああ、あれは違う』
ミネア様がパタパタ手を振った。
『そもそも人間達が魔人に滅ぼされる未来は、あいつはまだ知らないはず……。未来を見通せるのは神界だけだからな。マルティスの魂が目的だよ。殺せばマルティスは地獄落ちするから、どうしても殺したいんだ。神族の魂が手に入るなんて好機は、滅多にないからな。しかもマルティスはユーピニーに次ぐ実力者だ。神魔の戦いで相当な戦力になる。ディーにとっちゃ、喉から手が出るほど欲しい逸材ってわけだ』
私は目をむいた。
「サイラスが地獄落ち? 神族だろ? 地獄の王と契約もしていないのに!」
私が叫べば、ミネア様が憤然と怒鳴り返す。
『だから! 魔人どもの血の狂気を浄化するために、あいつらの不浄の血を飲み込んだって言ったろうが! その血が重りになって、死ぬと地獄へ引っ張られるんだよ! 人類救済って簡単に言ってくれるが、こっちにとっては地獄落ちしかねない、もの凄く危険な行為なんだ! 神族のあいつが地獄落ち? やってられるか! あたしとしては人類を見捨てて、そのまま最終戦争に突入した方がいいって思ったくらいだよ!』
「回避する方法は!」
『だ、か、ら! さっきっから、血の浄化だって言ってるだろぉがぁ! なんべん言わせるんだよ! 合成種の血の不浄を浄化して狂気を消滅させる! 血の浄化が終われば、あいつは闇から解放される! 本来の自分に戻れるんだ! たとえ死んでも地獄落ちしない! 分かったかぁ!』
「浄化……」
ぼんやりとそう呟けば、ミネア様がきっとヨアヒムを睨み付け、
『そうだよ! なのにこのろくでなしは精霊の笛を吹かない。あいつに無用な殺人をさせて血の狂気を加速させる! 足を引っ張りまくって、全然血の浄化が進んでない! 何なんだよ、これは! あたしが出てくる時には、マルティスの封を解くはずだったのにぃ! 本当に死ね! 今すぐ死ね! 地獄へ落ちろ! っていうか、今すぐあたしが地獄へ送ってやる! ディーの責め苦を延々味わえぇええええ!』
「落ちついてぇえええええ!」
ストップストップぅ! ヨアヒムの首を絞めないで!
ああ、ヨアヒムが青ざめて、ぷるっぷる震えている。これ以上虐めると、本当にお亡くなりになりそうだ。心臓発作とかで……。それは勘弁。
「私に何か出来ることは?」
『あいつに無用な殺人をさせないこと』
ミネア様が憮然とそう答えた。
「殺人をさせない……」
『これ以上あいつが、血の狂気に飲み込まれないよう配慮するんだ。血の狂気の活性化が一番やばい。あいつの周囲を清浄な空気で保つ。分かったか?』
分かった。
『それと、言っとくけどな。浄化に失敗して、マルティスが地獄落ちにでもなろうものなら、あたしはあんた達の敵に回るからな? あたしの助力なんか期待すんなよ? 人間の信仰心なんかくそくらえだ。ユーピニーの怒りなんか知ったことか。そもそもマルティスがいるから、あたしは神界に残ったようなもんなんだから』
もしかして……。
「地獄の王って、元々は神族だったんですよね? 神界で反乱を起こして地獄落ちになったって聞いてますけど、もしかしてミネア様も一緒に付いて行きたかった、とか?」
『行かない!』
ミネア様がぷいっとそっぽを向く。
『大っ嫌いだ! あんな奴! 愛してないって言いやがった! 死ね、くそったれ!』
どう見ても、拗ねてるって感じだよなぁ……。ははは、やっぱり地獄の王とランデブー……見ない見ない。見ざる言わざる聞かざるで行こう、うん、そうしよう。
「とにかく、この先、サイラスの狂気が暴走しないよう注意すればいいんですね? で、ヨアヒムが精霊の笛で浄化の手伝いをすると」
『そーいうこと』
あ、ミネア様が笑った。
『お前が添い寝をするのも効果大だ』
「へー、私が添い寝……」
え? 添い寝?
「何で!」
ぎょっとなって問い質せば、
『何でって、お前は神界の光を取り込んでるだろ? お前が傍にいれば、あいつの魂が活性化する。特に睡眠時に神界の光が加わると効果大なんだ。血の浄化がぐんぐん進む。本当ならあたしがやってやりたいけど、憑依にも限界があるから、お前がやれ。特別に許可してやる。ありがたく思え』
「いや、でも、サイラスに拒絶されまくってるんですけどぉ!」
事情を話すと、ミネア様が顔をしかめた。
『あん? 自分が殺すかもしれないから手元に置きたくない? 逆だ馬鹿。聖女が傍にいると狂気の揺れが収まるから、無用な殺人を避けれる。いいから何が何でもへばりつけ。じゃないと折檻だ!』
いや、あの、嬉しいんですけどぉ! 説得できるかな?
その後、揃ってサイラスの所まで行くことになったけど、大丈夫かな? エドガーを途中で拾うと、何故かロイまで加わり大所帯に。今回はゼノスとロイとエドガーだけじゃなく、ルーファスとヨアヒムまでいるからな。
んで、見張りをしていたユリウスに驚かれた。
大所帯だから、じゃなくて、ミネア様の姿に驚いたようだ。確かに、ミネア様の見た目は神々しくて、度肝を抜かれるよな。六枚の銀の翼を持った絶世の美女だ。中身は地獄の王とランデブーする精神だから、超怖いけど。
で、どうなることかと思ったけど、
『ユリウス・クラウザーだな? お役目ご苦労さん。加護をやるから剣よこせ』
うわっ! ミネア様が超ご機嫌だ。
もしかして、ユリウスはサイラスの護衛をしているからか? いや、あれだ。ユリウスはサイラスに対して忠誠心に厚いって言ってたから、そのせいかも。
ユリウスが恭しく跪き、
「戦女神様のお言葉、ありがたくお受けします」
そう答えた。南国の騎士としての礼節だ。
あー、そういや、あっちは血の気の多い連中が多いからか、最高神のユーピニーよりも、確か戦女神と軍神の二神の方が人気が高かったっけ。強さこそ正義、みたいなところがあるんだよなぁ。拳で語り合う奴が喜ばれると。分かりやすい民族だ。
ミネア様がユリウスの剣に触れると、一瞬雷撃がほとばしり、消える。
『雷剣だ。この剣の主人はお前。お前以外にこの剣は従わないから注意しろ?』
「ありがたき幸せ」
そう答えてユリウスは剣を高々と掲げた。雷剣かぁ……威力、凄そうだな。
んで、中に入った途端、
『マルティスうううううぅう!』
感極まったように、ミネア様が両手を広げて、サイラスに抱きつきかけるも、さっと避けられる。先までの威厳、どこ行った? ミネア様、成長しない……。
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