元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~

白乃いちじく

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第二章 銀色の拘束

第三十五話 想定外の反応

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「舞踏会用の衣装なんだ。似合うか?」

 そう聞いてみると、ふっとゼノスが笑う。

「ああ、似合ってる。綺麗だ」

 ゼノスに大真面目にそう返され、へ? っとなってしまう。え? ちょ……。いや、何この反応……。つい、見つめ合ってしまう形になり、本気で狼狽えた。

 前々から思ってたけど! こいつ笑うと、むちゃくちゃ良い男になるんだが! マジで照れるぞ! こんな反応は予想してなかった。似合う似合う、頭ぽんぽんとかやられて、それで終わりと思っていただけに、ど、どうしよう。
 顔がかあっと熱くなった。

「そ、そう、か?」
「ああ」

 うああ! 間が持たない! 前は笑えって詰め寄っていたけど、逆にやめろと言いたくなってきたぞ!

「ロイはどこだ? 自分の部屋か?」

 慌てて話題を逸らせば、

「僕に用?」

 ふっくらとした丸顔が、ひょいっと奥から出てきた。肉に埋もれた目はいつも笑っているように見える。あ、一緒にいたのか、助かった。相変わらず仲いいな。

「えーっと、似合うかどうか聞こうと思ってさ」
「うん、似合ってるよ。妖精みたいだね?」

 ロイがにこにこと笑う。おおう、妖精。本気か? 本気なんだな? ただし、こいつの場合、誰に向かっても同じ事を言いそうだってのが何とも。

「エラは舞踏会に出るんでしょう? いいなぁ」

 ロイが羨ましそうに言った。おや?

「出たかった?」
「うん。だってごちそういっぱい出るんでしょ?」

 なる。

「ごちそうも出るけど、聖光騎士団の連中もわんさとくるよ」

 合成種ダークハーフを専門で狩る連中だ。顔を合わせるのは止めた方が良いと思う。乱闘になりかねない。

「ああ、あれかぁ……あれを誤魔化すって出来ないかな?」

 ロイがゼノスを見上げると、

「……どっちにしろ魔道士には俺達の正体が一発でばれるからやめとけ」

 ゼノスにそう言われてしまう。
 そう、呪印を隠しても、あいつらには必ずばれるんだよな。魔道士の感覚って一体どうなってんだ? 分からない。

「ルーファスに頼んでみようか?」

 私がそう提案すれば、

「あの爺さんなぁ……」

 ゼノスは渋い顔だ。

「ルーファスは一応五大魔道士だけど?」
「薪に火を付けようとして、自分の尻に火を付けたりするんだよな」

 ゼノスがそう口にする。ああ、あれ……。

「ルーファスは遊ぶからな」
「遊びで自分の尻を焼くのか?」
「というか、呪文で遊ぶんだ。呪文の改変って高度な技なんだけど、そのまんまなんてつまらないって言って、ルーファスの場合は、わざわざいらない改変を加える。だから予想もしない展開になったりするんだよ。真面目にやれば大丈夫なんだけど……」

 ルーファスは、中々真面目にならないんだよなと心の中で呟く。
 あれの存在自体がふざけていると言ってもいい。なのに、そのあいつがサイラスと仲がいいのだから、世の中って不思議だ。うーん。

「お爺さんに頼めば、僕も舞踏会に出られるの?」

 ロイがそう口にする。

「聞いてみるよ」

 どうせ衣装を見せようと思っていたところだから、ついでに頼んでみよう。

「エラ」

 背を向け、歩き出すと、ゼノスに呼び止められる。

「無理はするな? ロイのは単なる我が儘だ」
「分かってるよ」

 笑って立ち去った。で、護衛のエドガーがきっちりついてくると……。本当に文句を言わなくなったな、こいつ。助かるが。

「おお、エラ! めかし込んでるな! ははは、よう似合っているではないか!」

 ルーファスの部屋を訪れると、何も言わなくてもルーファスは、開口一番褒めてくれた。木の根のような髭をわっさわさはやした小柄な爺さんが目を細めて笑う。
 本当、ルーファスは良い奴なんだよな。ふざけなければ、サイラスにいたずらさえしなければ、本当に良い奴なんだが……はあ。

「え? エラ?」

 ひょいっとルーファスの部屋から顔を出したのはヨアヒムである。
 長い亜麻色の髪にすみれ色の瞳。こうして見ると、儚げな雰囲気の美少女そのものだ。男なのに相変わらず綺麗だな。細っこい体も相変わらずか。もう少し鍛えないと、また女に襲われるぞ? そんな風に思ってしまう。
 私の姿を目にするなり、

「き、綺麗、だよ。うん、すっごく似合ってる」

 ヨアヒムが頬を頬を赤らめて、もじもじし始める。
 何だろう、これはこれでなんかこそばゆい。ヨアヒムが本気で言ってるってのが分かるだけに、何て言えばいいのやら。

「ありがとう」

 素直に礼を言っておいた。痒いけどな。

「な、ルーファス。合成種ダークハーフも舞踏会に参加って出来るか?」

 私がそう言うと、ルーファスは髭に手を当て、うーむと唸った。

「そうじゃのう。わしは面白そうで大賛成じゃが、オースティンがなんて言うかな……」

 オースティン・リーフは五大魔道士の長で、まとめ役だ。暁の塔で、いっちゃん偉い奴。つまり魔道界でいっちゃん偉い奴ということになる。

「聖光騎士団の連中も来るんだろ?」
「ああ。わしら五大魔道士が、ここにいる合成種ダークハーフと争うのは認めていないから、ここでは手は出さんはずじゃよ」

 そうなのか。エレミアはそんな事一言も……言うわけないか。あいつじゃあなぁ。

「僕も舞踏会に出られるの?」

 ヨアヒムがそんな事を言い出して、

「うん? ぼうずも出たいのか?」
「エラが出るなら……」

 ヨアヒムが、ぽっと頬を赤らめる。やっぱり可愛い。ずるいぞ。

「仮面舞踏会にすればどうじゃろうな」

 ルーファスがそう言い出した。仮面舞踏会?

「顔を隠したって、魔道士には合成種ダークハーフだって、ばれるだろ?」

 呪印を見なくても、あいつらは一発で合成種ダークハーフだと見抜くからな。一体どうやっているんだか。魔道士の感覚って本当に謎だ。
 ルーファスが朗らかに笑った。

「ははは、このわしの魔術の腕を甘く見るなよ? 生命波動を攪乱してやれば、見分けが付かなくなる。後は顔を隠してしまえば、それで大丈夫じゃ」

 ルーファスの説明によると、魔道士は人も物も全て波動でとらえるんだそう。それを攪乱させる魔法を使えば、魔道士でも合成種ダークハーフだと分からなくなるらしい。そりゃ、凄いな。いや、こいつが凄いのは元からだ。ふざけまくるからぱっと見分からないだけで。

「舞踏会場に結界を張って、波動攪乱をかけてやれば無問題!」

 ルーファスがふんすと胸を張るも、

「……魔道士の目を誤魔化すってだけで、問題ありありのような気が」

 つい、じっとりとした視線を送ってしまう。

「ははは! 気にするな! ばれたらばれたで、冗談ぴょーん! って言って逃げれば、問題ナッシング!」
「それですむのはお前だけだぁ!」

 ルーファスの髭を引っ張れば、ひたたーと涙目だが、ちっとも懲りてないな!

「なら、聖女様の鶴の一声! 合成種ダークハーフと仲良くしろ!」

 ルーファスが言い切った。おいおい、こっちにふるなよ。効果あるのか? つい疑わしそうな視線を向ければ、

「今回の舞踏会な、エラの婚約者候補がわんさとやってくるぞ?」

 ルーファスがそう告げた。はい?

「どの国も聖女様を取り込みたいんじゃろ? 何せ、五大魔道士すら頭を下げる尊い存在じゃからのう! 仲良くしろって言えば、絶対ご機嫌取りに回る! やってみぃ!」

 ほんとーか? で、ゼノスにそう言ったら、渋い顔をされた。

「……止めた方が良い」
「なんで?」

 仲良くなれるならその方がいいと思うけど。

「あのな……」

 ゼノスにため息をつかれてしまった。

「聖光騎士団の連中と俺達が仲良くなんかなれるわけないだろ? あいつらは合成種ダークハーフと見ると赤ん坊だって殺すぞ? エラが言えば、確かに表面上は大人しくなるかもしれないが、俺達に対する悪感情がエラにも向く。やって欲しくない」

 サイラスと同じような事を言うんだな。

「サイラスは……」
「ん?」
「サイラスは今、どうしてる?」

 気になるけど会いに行けないんだよな。せめて友達って認めてくれればなぁ……。

「……サイラス様の事が気になるのか?」

 そりゃあ……。

「俺達と同じ合成種ダークハーフだから?」

 ゼノスにつっこまれて狼狽えてしまう。いや、違う、けど……。元妻ですなんて言いにくくて、言葉に詰まると、

「アイダ・プワソン」

 前世での自分の名前を言われてびっくりした。顔を上げると、ゼノスの灰色の目とばっちり目があってしまう。彼の目は真剣そのもので……気付かれた?

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