骸骨殿下の婚約者

白乃いちじく

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番外編 白亜の城の王子様

第九話

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 あれと何か関係が? そんな感じで場がざわめいた。話は中々終わりそうにない。兵士達の間で様々な憶測が飛びかう中、アルベルトはその場からそっと抜けだし、オスカーを捜し回った。オスカーが参戦していたのなら、彼の無事を確かめたかったのだ。
 しかし、ようやく彼の居所を突き止めたと思ったのもつかの間、
「面会謝絶」
 アルベルトはクレバー・ライオネットにそう言われてしまう。
 相変わらずヒキガエルのような風貌が不気味だ。いや、不気味なだけじゃない、こうして目の前に立てば、やはりその存在感に圧倒される。自分より遙かに小柄な老人なのに、これが魔術師の迫力というものなのだろうか? オスカーが寝ているであろうテントの前で通せんぼをされてしまった。
「オスカーは負傷したのか?」
 アルベルトが心配になってそう問えば、
「いや、魔力枯渇を起こしてぶっ倒れただけじゃ。まったく無茶しおって」
 吐き捨てるようにそう言われてしまう。
「魔力枯渇って……」
「あの場にいた石巨人トロル全てに幻術を送り込んだんじゃよ、あの阿呆たれめ。やり過ぎだ」
「もしかして石巨人トロルが使い物にならなくなったのは……」
「そう、殿下の仕業じゃよ。魔術師達の手助けで、術の効果を増幅し、あの場にいた石巨人トロル全部の体を幻術で切り刻んだ。あいつらの進撃をここで何が何でも食い止める。その意気込みは買うが、限度がある。下手すりゃ死んでおった」
 死……ぎくりとなる。
「オスカーはいつ目を覚す?」
「さあな。明日か、明後日か……会いたいのならわしが連絡を入れる。それまで大人しくしておれ」
「一目会えないか?」
 話そうと思ったわけじゃない。意識がないようなので、それは無理だろう。単純に彼の無事を確かめたかっただけなのだが、クレバーに一瞥され、
「面会謝絶」
 やはり、そっけない一言が返ってきただけだった。
「ああ、もう、いい加減にして頂けませんかね!」
 数日後の昼日中、多くのテントが張られた兵士達の駐屯場で、そんな叫びを上げたのはエティエンヌだった。早く王都へ帰りたいと言う。だが、境が完全に修復されるまで引き上げることは出来ないだろう。
「もう少し待て」
 アルベルトがそう命令を下すも、食ってかかられた。
「もう少し、もう少しって……。アルベルト殿下、お願いします。こんな不衛生な場所にいたら気が狂いそうですよ。私だけでも王都へ帰して頂けませんか?」
 哀願されてしまった。ろくすっぽ風呂にも入れないこの状況に耐えられないらしい。まったく、くそみたいな根性だな。少年兵ですら文句を言っていないというのに。
 エティエンヌが食い下がった。
「負傷したフリッツの呻き声が、うっとうしくて仕方が無いんです。何ですかあれは。醜い顔がよけいに醜くなって見苦しい」
 おい、それは……。
「何と言ったかな? お若いの」
 私が口を開くより早く、別の声が割って入った。見るとクレバー・ライオネットが立っている。杖を手に、やはり不気味なほどの存在感を醸し出していた。
「流石のわしも、寄る年波には勝てぬようで、少々耳が遠くなったようじゃ。もう一度言って欲しい。見苦しいとかなんとか……」
 にたーっと笑う顔が怖い。いや、笑ってるわけじゃない? どちらかというと怒っているように見える。
「ええ、ええ、見苦しいですとも。たいした傷でもないのに、大げさにわめき立ててみっともない」
 びしっと虚空を走ったのは稲妻か? 気が付けば、クレバーの体からパチパチという光が踊っている。小さな雷が周囲を舞っているかのようで、かなり怖い。
 エティエンヌが一歩下がった。
「先程見苦しいといったフリッツという兵士じゃが……」
 クレバーが一歩前へ出る。
「確か、おぬしをかばった兵士じゃったな? 敵の刃を代わって受け止めてくれた」
 そう、その通りだった。しかも、今もって苦しんでいるのは、その時受けた毒素がまだ体内に残っている為である。
 エティエンヌが冷めた目で言った。
「それが? クリムト王国の兵士なら、それくらい当然でしょう。私の盾になれたことを光栄に思うべきですね」
「ふむ、なるほど……」
 どんっと直ぐ傍に雷が落ちる。木の切り株が真っ二つに割れ、黒焦げとなった。しんっと周囲が静まりかえる。魔術師を怒らせるものじゃない、誰もがそう思っただろう。
 クレバーが再びにたーっと笑う。
「おぬしの盾になるのは光栄か、なら、盾になる者を探してみてはどうかな?」
「え?」
「わしはこれから、ちょいと雷をおぬしに落とすでな。栄誉ある役目を引き受ける者を探してみい。じゃないと、少々やっかいなことになりますぞ?」
「え? いや、ちょ、ま……」
「ほれほれ、栄誉ある役目なんじゃろ? 皆喜んで名乗りを上げるはずじゃ。とりあえず、わしはせっかちなので、十数える間に見つけることじゃ。いーち、にーい……」
 もの凄く意地の悪い声で数を数える。
「誰か! 誰か私の盾になりなさい!」
 阿呆か。なるわけがない。皆ドン引きだ。というより、逃げている。こっち来んなとばかりにあちこちで突き飛ばされ、エティエンヌは兵士達の集団からつまはじきにされた。巻き添えはごめんだと言いたいらしい。気持ちわかる。
 杖を手にしたクレバーが、逃げ回るエティエンヌを追いかけて回り。
「じゅう!」
 の声と共に雷鳴が轟く。どんどんどんっと三回ほど雷鳴が轟き、エティエンヌの周囲を焼き焦がした。盾にしようとした水妖精は寸前で逃げ、よほど怖かったのかエティエンヌは失禁した。あー……まぁ、直撃はしていないから、手加減してくれたことに感謝するべきだろうな。
 クレバーがにんまりと笑う。
「エティエンヌ殿? 口は災いの元じゃ。少しは自粛せい」
 醜いガマガエルが! とでも言いたかったのか、エティエンヌは口をパクパクさせたが、結局そのまま白目をむいて、ふうっと意識を失った。
 次いで、クレバーの目がこちらを向いたので、アルベルトはぎくりとなった。まずいな。部下の不始末は私の不始末……こっちにも怒りの余波がくるとアルベルトは覚悟したが、彼はその事については言及せず、
「殿下が目を覚ました。付いてきなされ」
 そう言って、身を翻した。どうやら迎えに来てくれたらしい。

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