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第三章 御伽の国のお姫様
第三十六話
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「もう、彼女の要請に応える必要はないからね? まぁ、ビーに接触しないよう、既に根回ししてあるから、もう来ないとは思うけど、一応念のために言っておく」
「……行っちゃいけなかった?」
「というか、君との接触を許した僕のミスかな。まさか昨日の今日であんな暴挙に出るとは思わなかったよ。ほんっと規格外だよ彼女。常識って奴を見事にひっくり返してくれる。本当は今日中に強制送還しようかと思ったんだけど、ちょっと問題が持ち上がってね、もう少し様子を見なくちゃならなくなったから気をつけて?」
問題?
「そ、問題。何にもなきゃいいけど、何かあるようなら掃除しておかないといけないからね」
何だろう?
「もうちょっと詳しく聞いてもいい?」
「あー……そうだね。アロイス・フォレストって魔術師覚えている?」
ちょっと考えて、
「天眼の力を使う為に国中を回ってた時、ビーに接触してきた魔術師がいたでしょ?」
ああ、思い出した。笑顔の怖い魔術師さん。
私がそう言うと、オスカーに、え? という顔をされた。
「怖い?」
「うん、怖い。笑いかけられて、ドン引きしたけど、我慢した」
何か含みのある笑みなんだよね、あれ。お父様の笑顔とよく似ている。だから、ぞぞぞってなるっていうか……怖い。私がそう言うと、吹き出されて、
「あ、はは、我慢、我慢してたんだ! 多分、あれ、女を引っかける時の甘い顔って奴だよ。なのに、怖いって……あははははは!」
ざまあ! とかオスカーが言ったような気が……もしかしてあの魔術師さんの事、嫌ってる? 何か気に入らない事でもあったのかな?
オスカーはひとしきり笑った後、
「で、あの魔術師がね、どうも君を狙ってるみたいなんだ」
え? 初めて聞かされた台詞にどきりとなる。私を狙ってる?
「正確には君の天眼を、かな。手に入れたいと、そう思ってるみたいだね?」
青ざめた私の顔にオスカーの手が触れた。暗に大丈夫とそう言われた気がして、ほわりと心が温かくなる。オスカーはいつもこうだ。私の不安を先読みして、こうしてそれを払拭してくれる。泣きたくなるほど優しい。
「けど、前回の事件じゃ、尻尾を掴ませてくれなかった。証拠らしい証拠が出なくてね、牢にぶち込めなかったの。あれがね、エレーヌ王女と接触してる」
私がびっくりすると、
「何にもなきゃいいよ? 単なる偶然ってこともある。だから様子見。ビーは僕がいないところで彼女と接触しちゃ駄目だからね?」
私は再び頷く。情報戦って言うのかな、こんな風に水面下で繰り広げられる攻防戦って、妙に不安をかき立てられるから嫌だ。ここはそういう世界なんだって分かってはいたけれど……。オスカーはこういった事の処理が、もの凄く上手いよね。私が気が付かないうちにいろいろと事件解決してそう。
「オスカーはそういった情報をどこで拾ってくるの?」
「専門の間者がいるし、まぁ、いろいろ。今回のは夕闇の魔女経由」
「スカーレットさん?」
「そ、君のこと随分気にかけてるみたいだね? 気をつけろって昼間言われたよ」
昼間、あ……そうか、スカーレットさんとのダンスの練習だ。
「ダンスの練習どうだった?」
私がそう問うと、
「ああ、うん。悪くはないけど、ね……」
オスカーのそれは苦笑い。
「時々抱きつくふりしてくれちゃったりするから、ダンスの練習だか魔術合戦だか、ちょっとわからなくなる時があるかな」
ダンスというよりは格闘に近くなっているという。悪ふざけも大概にしようか、とか漏れる辺り、少し疲れてるのかも。どっちも力ある魔術師だもんね。
「まぁ、けど、あれはあれでいいと思う。目的には適ってるものね?」
オスカーがそう言った。人との接触に対して動揺しないようにするのが目的だから、らしい。つまり、エレーヌ王女のようなアーパー(口悪い)な抱きつき行為に、過剰反応しないようにするのが目的なんだとか。成る程。
「見に行ってもいい?」
私がそう言うと、
「ああ、それなんだけどね、明日はエレーヌ王女に張り付かないと駄目だから、しばらくはお休みかな。何を企んでいるのか、あぶり出さないといけない」
そうなんだ。
「この件が片付いたら一緒に踊ろうね?」
オスカーはそう言って笑ってくれたけど、何だろう? 一抹の不安が残ってしまった。危ないことしないでね? そう言いたかったけど、立場上無理なことも分かっているから、その時は何も言えなかった。
「……行っちゃいけなかった?」
「というか、君との接触を許した僕のミスかな。まさか昨日の今日であんな暴挙に出るとは思わなかったよ。ほんっと規格外だよ彼女。常識って奴を見事にひっくり返してくれる。本当は今日中に強制送還しようかと思ったんだけど、ちょっと問題が持ち上がってね、もう少し様子を見なくちゃならなくなったから気をつけて?」
問題?
「そ、問題。何にもなきゃいいけど、何かあるようなら掃除しておかないといけないからね」
何だろう?
「もうちょっと詳しく聞いてもいい?」
「あー……そうだね。アロイス・フォレストって魔術師覚えている?」
ちょっと考えて、
「天眼の力を使う為に国中を回ってた時、ビーに接触してきた魔術師がいたでしょ?」
ああ、思い出した。笑顔の怖い魔術師さん。
私がそう言うと、オスカーに、え? という顔をされた。
「怖い?」
「うん、怖い。笑いかけられて、ドン引きしたけど、我慢した」
何か含みのある笑みなんだよね、あれ。お父様の笑顔とよく似ている。だから、ぞぞぞってなるっていうか……怖い。私がそう言うと、吹き出されて、
「あ、はは、我慢、我慢してたんだ! 多分、あれ、女を引っかける時の甘い顔って奴だよ。なのに、怖いって……あははははは!」
ざまあ! とかオスカーが言ったような気が……もしかしてあの魔術師さんの事、嫌ってる? 何か気に入らない事でもあったのかな?
オスカーはひとしきり笑った後、
「で、あの魔術師がね、どうも君を狙ってるみたいなんだ」
え? 初めて聞かされた台詞にどきりとなる。私を狙ってる?
「正確には君の天眼を、かな。手に入れたいと、そう思ってるみたいだね?」
青ざめた私の顔にオスカーの手が触れた。暗に大丈夫とそう言われた気がして、ほわりと心が温かくなる。オスカーはいつもこうだ。私の不安を先読みして、こうしてそれを払拭してくれる。泣きたくなるほど優しい。
「けど、前回の事件じゃ、尻尾を掴ませてくれなかった。証拠らしい証拠が出なくてね、牢にぶち込めなかったの。あれがね、エレーヌ王女と接触してる」
私がびっくりすると、
「何にもなきゃいいよ? 単なる偶然ってこともある。だから様子見。ビーは僕がいないところで彼女と接触しちゃ駄目だからね?」
私は再び頷く。情報戦って言うのかな、こんな風に水面下で繰り広げられる攻防戦って、妙に不安をかき立てられるから嫌だ。ここはそういう世界なんだって分かってはいたけれど……。オスカーはこういった事の処理が、もの凄く上手いよね。私が気が付かないうちにいろいろと事件解決してそう。
「オスカーはそういった情報をどこで拾ってくるの?」
「専門の間者がいるし、まぁ、いろいろ。今回のは夕闇の魔女経由」
「スカーレットさん?」
「そ、君のこと随分気にかけてるみたいだね? 気をつけろって昼間言われたよ」
昼間、あ……そうか、スカーレットさんとのダンスの練習だ。
「ダンスの練習どうだった?」
私がそう問うと、
「ああ、うん。悪くはないけど、ね……」
オスカーのそれは苦笑い。
「時々抱きつくふりしてくれちゃったりするから、ダンスの練習だか魔術合戦だか、ちょっとわからなくなる時があるかな」
ダンスというよりは格闘に近くなっているという。悪ふざけも大概にしようか、とか漏れる辺り、少し疲れてるのかも。どっちも力ある魔術師だもんね。
「まぁ、けど、あれはあれでいいと思う。目的には適ってるものね?」
オスカーがそう言った。人との接触に対して動揺しないようにするのが目的だから、らしい。つまり、エレーヌ王女のようなアーパー(口悪い)な抱きつき行為に、過剰反応しないようにするのが目的なんだとか。成る程。
「見に行ってもいい?」
私がそう言うと、
「ああ、それなんだけどね、明日はエレーヌ王女に張り付かないと駄目だから、しばらくはお休みかな。何を企んでいるのか、あぶり出さないといけない」
そうなんだ。
「この件が片付いたら一緒に踊ろうね?」
オスカーはそう言って笑ってくれたけど、何だろう? 一抹の不安が残ってしまった。危ないことしないでね? そう言いたかったけど、立場上無理なことも分かっているから、その時は何も言えなかった。
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