16 / 121
第二章 麗し殿下のお妃様
第十六話
しおりを挟む
「それはもちろん。彼女がクラリスですよ、兄上。私の婚約者」
ビンセントがそう言うと、大人しそうな方の女性が進み出て、優雅な貴婦人の礼をした。
「は、初めまして、オスカー殿下。サビニア王国の第二王女クラリスと申します。どうぞお見知りおきを」
眼鏡をかけ、茶色の髪をきっちり結い上げている。化粧も控えめで、教師のように堅い雰囲気だ。ということは、彼女がお姉さんか。
ビンセントは苦笑し、
「でも、兄上はもう彼女に会ったことがあるでしょう?」
そんな事を口にした。え? 会ったことがある?
「そこは言わぬが花だよ、ビンセント」
オスカーもまたくすくすと笑う。まるでいたずらっ子のよう。
でも、クラリス王女は初めましてって言っていたけれど、どういうことだろう?
私が不思議そうにオスカーを見上げると、その視線に気が付いたのか、幻術を使ったからねと耳打ちされる。なるほど。クラリス王女はオスカーだと知らずに会っていたってことか。
続いてもう一人の女性が進み出た。
「初めまして、オスカー殿下。わたくしはサビニア王国の第三王女アニエスと申します」
そう言って挨拶をした第三王女のアニエスは大輪の花のようだった。長く伸ばした茶の髪を肩に流し、明るい口元が春を思わせる。社交性があるとでもいうのだろうか、人を引きつける魅力がある。きっと性格が全く違うんだろうな。
アニエス王女が言う。
「オスカー殿下。少々よろしいでしょうか?」
「うん?」
「わたくし、ビンセント殿下とお姉様を二人っきりにさせてあげたいと思っておりますの。ご一緒してよろしいかしら?」
ビンセントの代わりに、オスカーに城の中を案内して欲しいと言う。
「アニエス、待って。それはちょっと……」
姉のクラリスが慌てたように反対するも、妹のアニエスがにっこりと笑ってそれを遮った。
「わたくしがいてはお邪魔でしょう? どうぞ、お二人でごゆっくり……」
何か言いかけたクラリスの声が、すうっと消える。
やっぱり見た目通り、姉のクラリスの方は大人しいようだ。妹のアニエスに頭が上がらないようにも見えるけど……。
「兄上、よろしいですか?」
ビンセントがそう尋ねると、
「うん、いいよ。二人で親交を深めておいで?」
オスカーが気軽に引き受け、ビンセントはクラリス王女殿下を連れて立ち去った。
クラリス王女殿下は何か言いたげに、途中何度もこちらを振り返ったものの、やがて二人そろって廊下の向こうへ消えた。
「では、オスカー殿下。腕をよろしいかしら?」
アニエス王女殿下がそう言って手を差し出した。
エスコートして欲しいという。
「ごめんね? それは駄目」
にっこり笑ってかわされ、アニエスが唖然となる。断られるとは思っていなかったのか、どうしてです? と食い下がった。
「だって、ビーがいるもの。夫婦が同席している場合、他の女性をエスコートするのは非常識だよ? お客様だから、我が儘聞いてあげたいけど、勘弁して?」
「妃殿下、だったんですのね? 申し訳ありません」
アニエスが謝罪するも、何故か睨まれたような気がして、身がすくんだ。妻以外の女性に抱きついてキスなんてしていたら、問題のような気がするけど……。見えてたよね? 確実に。廊下は見通しがいいもの。そんな疑問が頭の中をよぎる。
「では、アニエス王女殿下。こちらへどうぞ」
オスカーの誘導に従って歩き出す。
後ろ姿も綺麗だよなぁ、オスカーの背を眺めながら、私はぼんやりとそう思う。オスカーは見目形だけじゃなくて、立ち振る舞いも綺麗。幼少の頃は放っておかれた私と違って、生まれながらの王子様だもんね。
庭園につくと、アニエスが言った。
「オスカー殿下。殿下は幻術がお得意だとお聞きしました。とても幻想的で美しい光景を作り出せるそうですわね? 是非、見せていただけませんか?」
そう言えば……パーティーではよくやると聞いている。とっても綺麗だとか……私には見えないから、どんなものか知らないけれど。
「そうだね、いいよ」
オスカーは気軽に引き受け、
「ビー、おいで?」
何故か側へ来るよう言われてしまう。何だろう? 近づくと、顎を持ち上げられ、両のまぶたにキスをされた。顔が真っ赤になったと思う。ここでそれする必要あるの? 物言いたげに見上げた私に、オスカーはふんわりと笑いかけ、
「ほら、見てごらん? 見えるといいけどね?」
私は目を見張った。色とりどりの蝶が舞っている! 庭園の景色と二重写しになっているけれど、確かに幻想的で素敵な光景だった。
私は思わず手を叩いて喜んでしまったけれど、はっとなる。
淑女らしからぬはしゃぎ方だったような気がして、ちらりとアニエス王女殿下に視線を走らせ、そこでぎくりとなった。やっぱり睨まれている、そう感じた瞬間、アニエス王女殿下は何事もなかったかのようにふっと相好を崩し、
「素晴らしいですわ、殿下」
そう褒めちぎった。気のせい……じゃないような……。心臓がばくばくいっている。
予想外の出来事は、やはり心臓に悪い。私、何やったんだろう? 初対面だし、何かした覚えは全くない。無作法な真似でもしただろうか? やったのかもしれない。オスカーに引き取られるまで、私は礼儀作法なんてまったく教わってこなかったから、時々そういったものが出てしまう時がある。
再び歩き出したオスカーの背を追い、
「ね、さっきは何をしたの?」
幻覚が見えたことを不思議に思って問うと、
「ん? 君の天眼に働きかけたの。要は力の強弱を加減すればいいだけなんだけどね、自分じゃまだ出来ないでしょ? だから代わりに僕がやったの」
「強弱?」
「そ、天眼を完全に閉じると、みんなと同じように幻覚が見える。逆に全開すると、多分、君の目は深紅になって、天竜が降りて来ちゃうから、そこらへんちゃんとしようか?」
「どうするの?」
「詳しいことは後でね?」
オスカーが柔らかく笑う。ふわっと包み込むような笑い方だ。
「ときに、オスカー殿下。殿下は側室をおもちにはなりませんの?」
アニエス王女殿下の言葉で、私の心臓は跳ね上がった。側室って……。オスカーが別の女の人とってことだよね? 砂を飲み込んだような嫌な気分になる。
「ん? とらないよ? 僕には必要ないもの」
オスカーの返答にアニエスは驚いたようで、
「どうして?」
「どうしてって……側室の目的は子供でしょう? 僕は魔術師だよ? ビーに必ず子供を産ませることが出来るから必要ないよ」
「で、ですが、一度くらい試してみては如何です? その方がもっと殿下の見識も広がるかと……。殿下好みの美女を集めてみては?」
「いらない。必要ないって言ったろ?」
「でも……」
アニエスが食い下がり、
「……しつこいよ?」
うわっ。オスカーの目つきが変わった。本当にうっとうしいと思ってる時の目だ。私はそっと目をそらした。自分に向けられてなくても怖い。これは嫌だ。
「も、申し訳ありません!」
慌ててアニエスが謝った。
うん、それで正解だと思う。オスカーを本気で怒らせると本当に怖いから。普段が穏やかすぎるくらい穏やかだから、そのギャップがまた凄い。
恐る恐る見上げると、もういつもの彼になっていて、ごめんね、というように私の髪に触れた。オスカーは本当によく見てるなぁ。私が怖がったのが分かったんだ。
「あの王女は問題だね」
部屋に戻ってからオスカーがそんなことを言い出して、私は首を捻った。
「問題?」
どの辺が? 無作法な真似なら多分、自分の方がしてる。
私がそう言うと、オスカーが苦笑したのが分かった。
「気が付かなかったんなら、いいよ。その方がね」
首を傾げると、前のようにいい子いい子と撫でられる代わりに、オスカーにキスされる。対応が完全に変わったなぁ。嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
「天眼を使うのはね、そんなに難しくない。思うだけでいいから」
「思うだけ?」
「そう、こうして欲しい、ああして欲しいって思うだけ。力の強弱もそう。自分の意志で見ようとすればいい。使おうと意識すれば、直ぐに使いこなせるようになると思う。ただ、一つ問題なのはね」
オスカーが諭すように言う。
「天眼の意志に従う天竜はね、君の感情に引きずられるんだ。激しい感情の高ぶりがあると大雨が降ったり、最悪、嵐になったりする。そして、怒りの感情のままに天竜に命じると、大災害が起こる」
何か怖くない? 私がそう言うと、オスカーが頷く。
「使い方を誤るとそうだね。でも、君の場合はそんなに心配はしていないよ? 優しい心根の持ち主だもの。ただ、きちんと注意しておかないと、何かあった場合困るでしょ?」
オスカーの誘導に従って窓辺に近寄った。
「雨を降らせてごらん? 優しく、そっとね。大地の生命を優しく包み込むようにお願いするんだ。きっと叶えてくれる」
優しく、そっと?
庭に咲く花に触れるように、そっと雨を降らせて欲しいと思うと、晴れていた空が曇り始め、ぱらぱらと霧雨のような優しい優しい雨が降った。緑の色が濃くなり、景色が変わる。不思議な光景だった。いつもと変わらない光景のように見えるのに、何か大きなものに包み込まれているような安心感を覚える。
「天竜が喜んでるからだよ、多分ね」
オスカーが私の疑問に答えてくれた。
しとしとふる雨を眺めながら、
「ね、オスカー……どうして今まで教えてくれなかったの?」
本当に凄く簡単なことなのにと、そう言うと、
「だって、天眼の力を君に使って欲しくなかったもの」
私が見上げると、オスカーが笑った。
「だからずっと、使わせないように、意識させないようにしていたかな。天眼の持ち主だってことを、周りに秘密にしておきたかったからね。僕は君に幸せになって欲しかったんだよ、ビー。あの時はまさかこの僕と結婚するなんて思ってもいなかったからさ」
そう答えて優しいキスをくれた。
ビンセントがそう言うと、大人しそうな方の女性が進み出て、優雅な貴婦人の礼をした。
「は、初めまして、オスカー殿下。サビニア王国の第二王女クラリスと申します。どうぞお見知りおきを」
眼鏡をかけ、茶色の髪をきっちり結い上げている。化粧も控えめで、教師のように堅い雰囲気だ。ということは、彼女がお姉さんか。
ビンセントは苦笑し、
「でも、兄上はもう彼女に会ったことがあるでしょう?」
そんな事を口にした。え? 会ったことがある?
「そこは言わぬが花だよ、ビンセント」
オスカーもまたくすくすと笑う。まるでいたずらっ子のよう。
でも、クラリス王女は初めましてって言っていたけれど、どういうことだろう?
私が不思議そうにオスカーを見上げると、その視線に気が付いたのか、幻術を使ったからねと耳打ちされる。なるほど。クラリス王女はオスカーだと知らずに会っていたってことか。
続いてもう一人の女性が進み出た。
「初めまして、オスカー殿下。わたくしはサビニア王国の第三王女アニエスと申します」
そう言って挨拶をした第三王女のアニエスは大輪の花のようだった。長く伸ばした茶の髪を肩に流し、明るい口元が春を思わせる。社交性があるとでもいうのだろうか、人を引きつける魅力がある。きっと性格が全く違うんだろうな。
アニエス王女が言う。
「オスカー殿下。少々よろしいでしょうか?」
「うん?」
「わたくし、ビンセント殿下とお姉様を二人っきりにさせてあげたいと思っておりますの。ご一緒してよろしいかしら?」
ビンセントの代わりに、オスカーに城の中を案内して欲しいと言う。
「アニエス、待って。それはちょっと……」
姉のクラリスが慌てたように反対するも、妹のアニエスがにっこりと笑ってそれを遮った。
「わたくしがいてはお邪魔でしょう? どうぞ、お二人でごゆっくり……」
何か言いかけたクラリスの声が、すうっと消える。
やっぱり見た目通り、姉のクラリスの方は大人しいようだ。妹のアニエスに頭が上がらないようにも見えるけど……。
「兄上、よろしいですか?」
ビンセントがそう尋ねると、
「うん、いいよ。二人で親交を深めておいで?」
オスカーが気軽に引き受け、ビンセントはクラリス王女殿下を連れて立ち去った。
クラリス王女殿下は何か言いたげに、途中何度もこちらを振り返ったものの、やがて二人そろって廊下の向こうへ消えた。
「では、オスカー殿下。腕をよろしいかしら?」
アニエス王女殿下がそう言って手を差し出した。
エスコートして欲しいという。
「ごめんね? それは駄目」
にっこり笑ってかわされ、アニエスが唖然となる。断られるとは思っていなかったのか、どうしてです? と食い下がった。
「だって、ビーがいるもの。夫婦が同席している場合、他の女性をエスコートするのは非常識だよ? お客様だから、我が儘聞いてあげたいけど、勘弁して?」
「妃殿下、だったんですのね? 申し訳ありません」
アニエスが謝罪するも、何故か睨まれたような気がして、身がすくんだ。妻以外の女性に抱きついてキスなんてしていたら、問題のような気がするけど……。見えてたよね? 確実に。廊下は見通しがいいもの。そんな疑問が頭の中をよぎる。
「では、アニエス王女殿下。こちらへどうぞ」
オスカーの誘導に従って歩き出す。
後ろ姿も綺麗だよなぁ、オスカーの背を眺めながら、私はぼんやりとそう思う。オスカーは見目形だけじゃなくて、立ち振る舞いも綺麗。幼少の頃は放っておかれた私と違って、生まれながらの王子様だもんね。
庭園につくと、アニエスが言った。
「オスカー殿下。殿下は幻術がお得意だとお聞きしました。とても幻想的で美しい光景を作り出せるそうですわね? 是非、見せていただけませんか?」
そう言えば……パーティーではよくやると聞いている。とっても綺麗だとか……私には見えないから、どんなものか知らないけれど。
「そうだね、いいよ」
オスカーは気軽に引き受け、
「ビー、おいで?」
何故か側へ来るよう言われてしまう。何だろう? 近づくと、顎を持ち上げられ、両のまぶたにキスをされた。顔が真っ赤になったと思う。ここでそれする必要あるの? 物言いたげに見上げた私に、オスカーはふんわりと笑いかけ、
「ほら、見てごらん? 見えるといいけどね?」
私は目を見張った。色とりどりの蝶が舞っている! 庭園の景色と二重写しになっているけれど、確かに幻想的で素敵な光景だった。
私は思わず手を叩いて喜んでしまったけれど、はっとなる。
淑女らしからぬはしゃぎ方だったような気がして、ちらりとアニエス王女殿下に視線を走らせ、そこでぎくりとなった。やっぱり睨まれている、そう感じた瞬間、アニエス王女殿下は何事もなかったかのようにふっと相好を崩し、
「素晴らしいですわ、殿下」
そう褒めちぎった。気のせい……じゃないような……。心臓がばくばくいっている。
予想外の出来事は、やはり心臓に悪い。私、何やったんだろう? 初対面だし、何かした覚えは全くない。無作法な真似でもしただろうか? やったのかもしれない。オスカーに引き取られるまで、私は礼儀作法なんてまったく教わってこなかったから、時々そういったものが出てしまう時がある。
再び歩き出したオスカーの背を追い、
「ね、さっきは何をしたの?」
幻覚が見えたことを不思議に思って問うと、
「ん? 君の天眼に働きかけたの。要は力の強弱を加減すればいいだけなんだけどね、自分じゃまだ出来ないでしょ? だから代わりに僕がやったの」
「強弱?」
「そ、天眼を完全に閉じると、みんなと同じように幻覚が見える。逆に全開すると、多分、君の目は深紅になって、天竜が降りて来ちゃうから、そこらへんちゃんとしようか?」
「どうするの?」
「詳しいことは後でね?」
オスカーが柔らかく笑う。ふわっと包み込むような笑い方だ。
「ときに、オスカー殿下。殿下は側室をおもちにはなりませんの?」
アニエス王女殿下の言葉で、私の心臓は跳ね上がった。側室って……。オスカーが別の女の人とってことだよね? 砂を飲み込んだような嫌な気分になる。
「ん? とらないよ? 僕には必要ないもの」
オスカーの返答にアニエスは驚いたようで、
「どうして?」
「どうしてって……側室の目的は子供でしょう? 僕は魔術師だよ? ビーに必ず子供を産ませることが出来るから必要ないよ」
「で、ですが、一度くらい試してみては如何です? その方がもっと殿下の見識も広がるかと……。殿下好みの美女を集めてみては?」
「いらない。必要ないって言ったろ?」
「でも……」
アニエスが食い下がり、
「……しつこいよ?」
うわっ。オスカーの目つきが変わった。本当にうっとうしいと思ってる時の目だ。私はそっと目をそらした。自分に向けられてなくても怖い。これは嫌だ。
「も、申し訳ありません!」
慌ててアニエスが謝った。
うん、それで正解だと思う。オスカーを本気で怒らせると本当に怖いから。普段が穏やかすぎるくらい穏やかだから、そのギャップがまた凄い。
恐る恐る見上げると、もういつもの彼になっていて、ごめんね、というように私の髪に触れた。オスカーは本当によく見てるなぁ。私が怖がったのが分かったんだ。
「あの王女は問題だね」
部屋に戻ってからオスカーがそんなことを言い出して、私は首を捻った。
「問題?」
どの辺が? 無作法な真似なら多分、自分の方がしてる。
私がそう言うと、オスカーが苦笑したのが分かった。
「気が付かなかったんなら、いいよ。その方がね」
首を傾げると、前のようにいい子いい子と撫でられる代わりに、オスカーにキスされる。対応が完全に変わったなぁ。嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
「天眼を使うのはね、そんなに難しくない。思うだけでいいから」
「思うだけ?」
「そう、こうして欲しい、ああして欲しいって思うだけ。力の強弱もそう。自分の意志で見ようとすればいい。使おうと意識すれば、直ぐに使いこなせるようになると思う。ただ、一つ問題なのはね」
オスカーが諭すように言う。
「天眼の意志に従う天竜はね、君の感情に引きずられるんだ。激しい感情の高ぶりがあると大雨が降ったり、最悪、嵐になったりする。そして、怒りの感情のままに天竜に命じると、大災害が起こる」
何か怖くない? 私がそう言うと、オスカーが頷く。
「使い方を誤るとそうだね。でも、君の場合はそんなに心配はしていないよ? 優しい心根の持ち主だもの。ただ、きちんと注意しておかないと、何かあった場合困るでしょ?」
オスカーの誘導に従って窓辺に近寄った。
「雨を降らせてごらん? 優しく、そっとね。大地の生命を優しく包み込むようにお願いするんだ。きっと叶えてくれる」
優しく、そっと?
庭に咲く花に触れるように、そっと雨を降らせて欲しいと思うと、晴れていた空が曇り始め、ぱらぱらと霧雨のような優しい優しい雨が降った。緑の色が濃くなり、景色が変わる。不思議な光景だった。いつもと変わらない光景のように見えるのに、何か大きなものに包み込まれているような安心感を覚える。
「天竜が喜んでるからだよ、多分ね」
オスカーが私の疑問に答えてくれた。
しとしとふる雨を眺めながら、
「ね、オスカー……どうして今まで教えてくれなかったの?」
本当に凄く簡単なことなのにと、そう言うと、
「だって、天眼の力を君に使って欲しくなかったもの」
私が見上げると、オスカーが笑った。
「だからずっと、使わせないように、意識させないようにしていたかな。天眼の持ち主だってことを、周りに秘密にしておきたかったからね。僕は君に幸せになって欲しかったんだよ、ビー。あの時はまさかこの僕と結婚するなんて思ってもいなかったからさ」
そう答えて優しいキスをくれた。
26
お気に入りに追加
2,097
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
愛されない王妃は王宮生活を謳歌する
Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。
政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。
まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。
私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡
【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】
恋愛要素の強いファンタジーです。
初投稿です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる