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第一章 骸骨殿下の婚約者
第二話
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やっぱり有名なんだ。骸骨おじさんの反応を見てそう思う。ほとんど家から出たこともなくて、実感なかったけれど、リンデル家の娘として恥ずかしいとお父様がよく言っていたから、名家だということは分かっていた。
「で、魔力がないって?」
こっくりと頷く。
「ふうん? でも、別の才能がありそうだね、君」
「別の才能?」
「そう。だって僕の幻視を見抜ける奴なんて、まずいないんだよ?」
とっても難しい事だったらしい。けど、これが一体何の役に立つんだろう? お父様に言ってもきっと鼻で笑われるだけのように思う。
「おじさん、年いくつ?」
そう聞いてみた。
「おじさんは傷つくな。十七才だよ。お兄さんって呼んでくれる?」
「お兄さんはどうして骸骨になったの?」
「さあね。何かの呪いらしいけど、生まれた時からこうだったから、もうどうしようもないって感じ?」
生まれたときから骸骨。お母さん、さぞびっくりしたんじゃないだろうか……。
「母上が優秀な魔女で助かったよ。じゃなかったら、きっと、僕、化け物扱いされて殺されていたんじゃないかな」
化け物って……こんなに優しいのに? つい理不尽な思いがわき上がる。
「そういや、君。僕の本当の姿が見えているんだよね? 怖くなかった?」
「初めて見た時はびっくりしたけど、声が優しそうだったから……」
そう言うと、骸骨のお兄さんは楽しそうに笑った。
「声、声か! あはは、いいね、それ。見知らぬ人に声をかける時は、うん、優しく声をかけるようにするよ」
今のままで十分じゃないかなと、そう思ったけど、あえては言わない。
「お兄さんの名前は何て言うの?」
「僕? 僕はオスカー・フィル・オズワルト」
「何て呼べばいい?」
そう言うと、骸骨のお兄さんはおやっていうように首を傾げた。
「僕の名前、聞いたことない?」
家の中から出してもらったことないから、外の事情は詳しくない。首を横に振った。
オスカーの骸骨顔がじっと私の顔を眺め、
「ふうん? そっか。オスカーでいいよ。敬称もいらない」
そう言った。私はメリル以外、名前で呼び合う人なんていなかったから、友達が出来たみたいでちょっと嬉しかった。オスカーは優しくて気さくないい人らしい。
「ね、君、僕の助手になる気ある?」
唐突な申し出にぽかんとなった。
「助手? でも私は魔力が……」
「ああ、大丈夫、大丈夫。そんなの必要ないない。助手ったってね、ほとんどが雑用なんだよ。仕事を覚える気があるんなら、君でも出来るはずさ」
素直に嬉しかった。こんな私でも必要としてくれる人がいるなんて思わなかったから。
一緒に暮らしてみて直ぐに分かったけど、オスカーは本当にいい人だった。何をしても褒めてくれる。こんなことはただの一度もなくて……思わず泣いてしまった事は一度や二度じゃない。大げさだなぁといってオスカーは笑うけど、大げさじゃないと思う。
「ほら、もっと、ちゃんと食べないと駄目だよ? 君、痩せすぎだからね?」
今までまともな食事をしてこなかったせいか、どうも食が細かったらしい。他と比べたことがないから分からなかったけれど。ふうふういいながらも、ちゃんと完食すると、これまた偉い偉いと言って頭をなでてくれる。照れくさいけど、やっぱり嬉しい。
オスカーの骸骨顔を眺め、
「オスカーは物を食べるの?」
そんな事を聞いてみた。
「食べるふりはするよ? けど、本当に食べるのは無理かな。なにせ骸骨だからね」
「食べなくても平気なの?」
「ありがたい呪いのせいでね。空腹も感じない」
「呪いはどうやったら解けるの?」
「さあ? 母上も随分と解呪の方法を探し回ったけど、分からなかったみたいだ。何せ呪った相手が夕闇の魔女だもの。やっかいだよねぇ」
「夕闇の魔女?」
「そ、大魔女だよ。何でも母とは犬猿の仲だったとか。好きな男を取り合ったんだって? 母が勝ったらしいけど……それ聞いて、何か僕、とばっちり受けてない? って思ったけど、流石に口には出せなかったかな。母が絶対へこむと思う」
「お父さん、ハンサムだったの?」
「あー、そうだね。息子の僕が言うのもなんだけど、いい男だと思うよ?」
オスカーが笑って肯定した。笑ったような気がしただけだけど……何だろう? オスカーって表情ないのに、どうしても表情があるように見えてしまう。
「お父さんに夕闇の魔女に呪いを解いてって頼んでもらえば良くない?」
「ああ、それね。父上が夕闇の魔女のものになるってことだから。父上に言っちゃ駄目だよ? 君が母上に呪われる」
オスカーのお母さんは怖いらしい。
「それに、これはこれで別にいいかなって思ってる。生活するのには特に支障はないし、弟も生まれたから、跡継ぎ問題も解決したしね」
あれ?
「もしかしてオスカーは長男ってこと? 後は継がないの?」
「継げないよ? だって子供を作れないもの」
「どうして?」
「いや、どうしてって……詳しいことは知らなくていいよ、もう。大人になったらね?」
大人になったら……そういえば子供ってどうすれば出来るんだろう? 考え込んだ私の肩を叩き、ほらほら仕事仕事とせかされた。
「で、魔力がないって?」
こっくりと頷く。
「ふうん? でも、別の才能がありそうだね、君」
「別の才能?」
「そう。だって僕の幻視を見抜ける奴なんて、まずいないんだよ?」
とっても難しい事だったらしい。けど、これが一体何の役に立つんだろう? お父様に言ってもきっと鼻で笑われるだけのように思う。
「おじさん、年いくつ?」
そう聞いてみた。
「おじさんは傷つくな。十七才だよ。お兄さんって呼んでくれる?」
「お兄さんはどうして骸骨になったの?」
「さあね。何かの呪いらしいけど、生まれた時からこうだったから、もうどうしようもないって感じ?」
生まれたときから骸骨。お母さん、さぞびっくりしたんじゃないだろうか……。
「母上が優秀な魔女で助かったよ。じゃなかったら、きっと、僕、化け物扱いされて殺されていたんじゃないかな」
化け物って……こんなに優しいのに? つい理不尽な思いがわき上がる。
「そういや、君。僕の本当の姿が見えているんだよね? 怖くなかった?」
「初めて見た時はびっくりしたけど、声が優しそうだったから……」
そう言うと、骸骨のお兄さんは楽しそうに笑った。
「声、声か! あはは、いいね、それ。見知らぬ人に声をかける時は、うん、優しく声をかけるようにするよ」
今のままで十分じゃないかなと、そう思ったけど、あえては言わない。
「お兄さんの名前は何て言うの?」
「僕? 僕はオスカー・フィル・オズワルト」
「何て呼べばいい?」
そう言うと、骸骨のお兄さんはおやっていうように首を傾げた。
「僕の名前、聞いたことない?」
家の中から出してもらったことないから、外の事情は詳しくない。首を横に振った。
オスカーの骸骨顔がじっと私の顔を眺め、
「ふうん? そっか。オスカーでいいよ。敬称もいらない」
そう言った。私はメリル以外、名前で呼び合う人なんていなかったから、友達が出来たみたいでちょっと嬉しかった。オスカーは優しくて気さくないい人らしい。
「ね、君、僕の助手になる気ある?」
唐突な申し出にぽかんとなった。
「助手? でも私は魔力が……」
「ああ、大丈夫、大丈夫。そんなの必要ないない。助手ったってね、ほとんどが雑用なんだよ。仕事を覚える気があるんなら、君でも出来るはずさ」
素直に嬉しかった。こんな私でも必要としてくれる人がいるなんて思わなかったから。
一緒に暮らしてみて直ぐに分かったけど、オスカーは本当にいい人だった。何をしても褒めてくれる。こんなことはただの一度もなくて……思わず泣いてしまった事は一度や二度じゃない。大げさだなぁといってオスカーは笑うけど、大げさじゃないと思う。
「ほら、もっと、ちゃんと食べないと駄目だよ? 君、痩せすぎだからね?」
今までまともな食事をしてこなかったせいか、どうも食が細かったらしい。他と比べたことがないから分からなかったけれど。ふうふういいながらも、ちゃんと完食すると、これまた偉い偉いと言って頭をなでてくれる。照れくさいけど、やっぱり嬉しい。
オスカーの骸骨顔を眺め、
「オスカーは物を食べるの?」
そんな事を聞いてみた。
「食べるふりはするよ? けど、本当に食べるのは無理かな。なにせ骸骨だからね」
「食べなくても平気なの?」
「ありがたい呪いのせいでね。空腹も感じない」
「呪いはどうやったら解けるの?」
「さあ? 母上も随分と解呪の方法を探し回ったけど、分からなかったみたいだ。何せ呪った相手が夕闇の魔女だもの。やっかいだよねぇ」
「夕闇の魔女?」
「そ、大魔女だよ。何でも母とは犬猿の仲だったとか。好きな男を取り合ったんだって? 母が勝ったらしいけど……それ聞いて、何か僕、とばっちり受けてない? って思ったけど、流石に口には出せなかったかな。母が絶対へこむと思う」
「お父さん、ハンサムだったの?」
「あー、そうだね。息子の僕が言うのもなんだけど、いい男だと思うよ?」
オスカーが笑って肯定した。笑ったような気がしただけだけど……何だろう? オスカーって表情ないのに、どうしても表情があるように見えてしまう。
「お父さんに夕闇の魔女に呪いを解いてって頼んでもらえば良くない?」
「ああ、それね。父上が夕闇の魔女のものになるってことだから。父上に言っちゃ駄目だよ? 君が母上に呪われる」
オスカーのお母さんは怖いらしい。
「それに、これはこれで別にいいかなって思ってる。生活するのには特に支障はないし、弟も生まれたから、跡継ぎ問題も解決したしね」
あれ?
「もしかしてオスカーは長男ってこと? 後は継がないの?」
「継げないよ? だって子供を作れないもの」
「どうして?」
「いや、どうしてって……詳しいことは知らなくていいよ、もう。大人になったらね?」
大人になったら……そういえば子供ってどうすれば出来るんだろう? 考え込んだ私の肩を叩き、ほらほら仕事仕事とせかされた。
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