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第三章 愛と欲望の狭間
第百二十八話 胡椒クッキーの行方
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「クローゼ、これは?」
菓子の山に目をとめたエルランドが、妹のクローディアに問う。
ここは学園内にある留学生用の宿舎だが、クローディアは王族なので特別室をあてがわれており、内装は素晴らしい。ふかふかの絨毯に、光源はシャンデリアだ。
「ティナお姉様の魔道オーブン発売記念で、売り出していたお菓子を買ってきたの」
クローディアがサクサクとカボチャクッキーを口にしながら言う。ほっぺたが落ちそうと上機嫌だ。
「人間の作ったお菓子だそうです。こんなものを王女様が食すなんて……」
お茶の給仕をしていた侍女のカーラは、何とも不満そうだ。
「全部食うのか、これ?」
エルランドが呆れたように言う。テーブルの上には、菓子が山と積まれている。
「もちろんよ。全種類買ってきたの。あ、でもぉ……ティナお姉様が作ったにんじんマフィンだけは、手に入らなかったのよね。残念だわ。売店に行った時にはもう、売り切れちゃってて……」
「ふーん? 人気だったんだな?」
「それはもう! ティナお姉様の手作りだもの!」
クローディアが当然と言いたげに鼻高々だ。
「ん? こっちのクッキーは? 真っ黒だけど……ああ、胡椒か」
ふんふんと袋の匂いを嗅ぎ、エルランドが言う。
「そっちはシャルの手作りらしいわ」
「へー……シャーロット嬢もティナちゃんも公爵令嬢なのによくやるな」
エルランドは、ぽいっと胡椒クッキーを一つ口に入れ……げほげほと盛大に咳き込んだ。
「お兄様?」
クローディアが不思議そうにくいっと首を傾げる。狼獣人だが、相変わらず子犬のように可愛らしい。
「かっら! 何だこりゃ、胡椒入れすぎ!」
エルランドの金色の目が涙目だ。
「あー……そうそう、胡椒をサービスしたって言ってたわ」
エルランドはぶんぶん首を横に振る。
「いやいやいやいやいやいや、これ、サービスの域超えてるから! クッキーじゃなくて、胡椒そのまんま食ってるみてーだよ」
「胡椒そのまんま……」
じーっとシャーロットが作った胡椒クッキーを見て、クローディアはえへへと笑う。
「お兄様?」
「……俺は食わねーぞ。甘党だかんな。辛いのは苦手だ」
エルランドがきっぱり言ってのける。
「カーラ、は無理よね……」
クローディアがしょんぼりと肩を落とし、侍女のカーラがごほんと咳をする。
「……あの半竜が作ったものですか?」
「ええ、そうよ?」
「わ、わたくしが、その……た、食べてもよろしいですわ?」
『え゛』
エルランドとクローディアの声が唱和する。
「カーラは辛いものが好きだっけ?」
カーラが再びごほんと咳払いをする。そっぽを向いた頬が少し赤い。
「は、半分でも彼女はドラゴン様ですからね。ま、ちょっぴり敬意を表しまして……」
「敬意……」
クローディアの呟きを慌てて否定する。
「ほ、ほんのちょっぴりです! ちょっぴり! 半分は人間ですからね、ああもう! とにかく、クローディア様が召し上がらないのでしたら、わたくしが! 嫌々ですが!」
カーラは手にした胡椒クッキーを、ざらあっと口の中に放り込む。それを見たクローディアは目を剥いた。
「カ、カーラ? だ、大丈夫?」
「いや、無理しない方が……」
二人の視線が、豹獣人のカーラに釘付けだ。クッキーを咀嚼している彼女の顔が、今や真っ赤である。相当辛いに違いない。紅茶を何杯も口にしつつ、カーラは口の中の物をゴックンと飲み込んだ。
「お、おいしゅうございました」
ぜーはーぜーはーと肩で息をしつつ、カーラは涙目でそう言ってのける。クローディアがぽつりと言った。
「カーラ……見直したわ」
「ああ、すげえな。俺、真似出来ねぇ」
二人して頷き合う。
◇◇◇
「ママ、これなぁに?」
小さな子供が、母親が扱う魔道オーブンを不思議そうに眺める。親子がいるのは釜のあるこじんまりとした台所だ。
「魔法の箱よ。実演を見たけれど凄かったわ」
母親が魔道オーブンを操作し、プリンがあっという間に出来上がったのを見て、子供は歓声を上げた。
「うふふ、ビックリした? ええ、ママもビックリよ。お料理が楽しくなりそう」
母親が楽しそうに言う。
平民が料理に使う熱源は薪か炭なので、火の調節や管理が大変である。それがこうして手軽に調理出来るようになったのだ。喜ばないわけがない。
おいしいプリンを毎日口に出来るようになった子供は、開発者のセレスティナにお礼の手紙を書いた。ありがとう、魔法使いのお姉さん、と。
オルモード邸にそんな手紙がたくさん届き、セレスティナは喜んだ。
「あちこちで感謝されまくっているみたいね」
温室のティールームで、手紙を見つつシャーロットが笑う。
「ティナは卒業前なのに凄いな。一人前の魔工技師も顔負けじゃないか」
ジャネットがそう口にする。
「そういや、エリーゼの話って、何だったんだ?」
お菓子を売りさばいた時の事を、ふと思い出したイザークが言う。セレスティナがふわりと笑った。邪気のない笑みだ。
「応援しているから、がんばってって激励されたわ。エリーゼは良い人ね」
セレスティナの返答に、イザークは何ともいいようのない顔をする。
「良い人、ねぇ……」
「ちょっとイメージ違うわね?」
シャーロットがそう言い添えた。
「そう?」
「うん、なんつーか……」
「彼女って、したたか?」
イザークとシャーロットは、そう口にし頷き合う。二人はセレスティナよりもエリーゼと付き合いが長い。なにせ王立魔道学園に通う前から彼女の事を知っている。
シャーロットが言った。
「悪い子じゃないわよ? それは分かってる。でも、エリーゼの場合、打算的なところがあるのよね。利益を優先させるようなところがあるのよ。だから、ティナから魔道オーブンの仕組みを聞いて、二人っきりで話したいって言った時は、てっきり……」
「てっきり?」
「あ、ううん、何でもない。思い違いだったみたいね」
シャーロットが笑って誤魔化した。そう、エリーゼがセレスティナを利用しようとしているのではと、シャーロットは勘ぐった。なので話し合いの場までセレスティナについて行ったのだが、思い違いで良かったと思う。
「チョコレートケーキが出来ましたよ。どうぞ召し上がれ」
料理長のブーシェがケーキの載った皿を手に登場だ。
セレスティナが彼にプレゼントした魔道オーブンは、一時間を一秒に縮める優れもので、火力も大きさもプロ仕様である。料理の幅がさらに広がったと毎日ご機嫌だ。
ブーシェが手にしたチョコレートケーキを目にして、シャーロットとイザークは喜んだ。二人とも大の甘い物好きである。
「旦那様にはこちらをどうぞ」
ブーシェがシリウスに差し出したのは、ビターなチョコレートボンボンだった。
「おいしい?」
シリウスが口にするチョコレートボンボンに、セレスティナは興味津々だ。
だがこれは、シリウスの為に作られた菓子である。アルコール濃度がかなり高かったようで、ちびちびとそれを口にしていたセレスティナは、お茶会が終わる頃にはすっかり出来上がっていた。甘えん坊と化した彼女は、シリウスにぴったりくっついて離れようとしない。
「……酔うと、ティナってこうなるの?」
シャーロットがぽつりと言う。
抱きついて離れず、「シリュウ、しゅき……」と口にする舌っ足らずなセレスティナをまじまじと眺めた。頬がほんわりピンク色。可愛い、シャーロットは掛け値なしにそう思った。よしよしと頭を撫でたくなってしまう。
「そうだ。まさか菓子で酔っ払うとは……」
シリウスが片手で顔を覆う。
「申し分けございません。その……旦那様用にと作ったもので……」
ブーシェがそう言って謝った。
「んー? いいんじゃない? 全然気にする必要なんてないわ。きっとこれって、神様からのプレゼントよ。わたくしに可愛い妹をくれるつもりなのね」
ほほほとシャーロットは小悪魔の笑いだ。
「シャル……」
「何よ、ティナならあとちょっとで十八才よ。文句ある?」
シリウスがぴしゃりと言った。
「いい加減にしなさい。たとえここで結婚しても、避妊するから子供は出来ない!」
シャーロットは目を見開いた。
「は? えぇ! そーなの?」
「あ、た、り、ま、え、だ! ティナが卒業式に出られなくなるだろう!」
「あー……まぁ、そっか。そうよ、ね……」
シリウスにぴったりひっついて離れないセレスティナを眺め、シャーロットははふうとため息をつく。ひょいっと肩をすくめた。
「じゃ、ま、てきとーに頑張って?」
「こ、このまま放置する気か?」
「だってパパだもん。ティナに絶対手を出さないって自信ある。何をしても結果は一緒でしょ? つまらないからもう行くわ」
「いや、ちょ、待……」
シャーロットの後に、イザークとジャネットも続く。どうしようもないと言いたげに。
「旦那様。入浴用の衣装を……」
用意しましょうかという侍女のメリーの言葉を、シリウスは遮った。
「……今日はこのまま寝る」
シリウスは憮然とそう言い切った。前回のような天国と地獄のループなど冗談じゃない、そう言いたげに。ティナの酔いが覚めた朝方、風呂にはいればいい、シリウスはそう考え、セレスティナを抱えて歩き出す。
これで一件落着かと思いきや、そうは問屋が卸さなかった。
「シリュウ、しゅき……」
ベッドの中でも、セレスティナは甘え放題だ。彼女が抱きつけば、たっぷりとした胸の感触は否が応でも分かる。甘い吐息が耳をくすぐり、柔らかな太ももが絡みつく。甘えん坊と化したセレスティナがくっついて離れず、やはり天国と地獄のループだったことは言うまでもない。
がんばれ?(天の声)
菓子の山に目をとめたエルランドが、妹のクローディアに問う。
ここは学園内にある留学生用の宿舎だが、クローディアは王族なので特別室をあてがわれており、内装は素晴らしい。ふかふかの絨毯に、光源はシャンデリアだ。
「ティナお姉様の魔道オーブン発売記念で、売り出していたお菓子を買ってきたの」
クローディアがサクサクとカボチャクッキーを口にしながら言う。ほっぺたが落ちそうと上機嫌だ。
「人間の作ったお菓子だそうです。こんなものを王女様が食すなんて……」
お茶の給仕をしていた侍女のカーラは、何とも不満そうだ。
「全部食うのか、これ?」
エルランドが呆れたように言う。テーブルの上には、菓子が山と積まれている。
「もちろんよ。全種類買ってきたの。あ、でもぉ……ティナお姉様が作ったにんじんマフィンだけは、手に入らなかったのよね。残念だわ。売店に行った時にはもう、売り切れちゃってて……」
「ふーん? 人気だったんだな?」
「それはもう! ティナお姉様の手作りだもの!」
クローディアが当然と言いたげに鼻高々だ。
「ん? こっちのクッキーは? 真っ黒だけど……ああ、胡椒か」
ふんふんと袋の匂いを嗅ぎ、エルランドが言う。
「そっちはシャルの手作りらしいわ」
「へー……シャーロット嬢もティナちゃんも公爵令嬢なのによくやるな」
エルランドは、ぽいっと胡椒クッキーを一つ口に入れ……げほげほと盛大に咳き込んだ。
「お兄様?」
クローディアが不思議そうにくいっと首を傾げる。狼獣人だが、相変わらず子犬のように可愛らしい。
「かっら! 何だこりゃ、胡椒入れすぎ!」
エルランドの金色の目が涙目だ。
「あー……そうそう、胡椒をサービスしたって言ってたわ」
エルランドはぶんぶん首を横に振る。
「いやいやいやいやいやいや、これ、サービスの域超えてるから! クッキーじゃなくて、胡椒そのまんま食ってるみてーだよ」
「胡椒そのまんま……」
じーっとシャーロットが作った胡椒クッキーを見て、クローディアはえへへと笑う。
「お兄様?」
「……俺は食わねーぞ。甘党だかんな。辛いのは苦手だ」
エルランドがきっぱり言ってのける。
「カーラ、は無理よね……」
クローディアがしょんぼりと肩を落とし、侍女のカーラがごほんと咳をする。
「……あの半竜が作ったものですか?」
「ええ、そうよ?」
「わ、わたくしが、その……た、食べてもよろしいですわ?」
『え゛』
エルランドとクローディアの声が唱和する。
「カーラは辛いものが好きだっけ?」
カーラが再びごほんと咳払いをする。そっぽを向いた頬が少し赤い。
「は、半分でも彼女はドラゴン様ですからね。ま、ちょっぴり敬意を表しまして……」
「敬意……」
クローディアの呟きを慌てて否定する。
「ほ、ほんのちょっぴりです! ちょっぴり! 半分は人間ですからね、ああもう! とにかく、クローディア様が召し上がらないのでしたら、わたくしが! 嫌々ですが!」
カーラは手にした胡椒クッキーを、ざらあっと口の中に放り込む。それを見たクローディアは目を剥いた。
「カ、カーラ? だ、大丈夫?」
「いや、無理しない方が……」
二人の視線が、豹獣人のカーラに釘付けだ。クッキーを咀嚼している彼女の顔が、今や真っ赤である。相当辛いに違いない。紅茶を何杯も口にしつつ、カーラは口の中の物をゴックンと飲み込んだ。
「お、おいしゅうございました」
ぜーはーぜーはーと肩で息をしつつ、カーラは涙目でそう言ってのける。クローディアがぽつりと言った。
「カーラ……見直したわ」
「ああ、すげえな。俺、真似出来ねぇ」
二人して頷き合う。
◇◇◇
「ママ、これなぁに?」
小さな子供が、母親が扱う魔道オーブンを不思議そうに眺める。親子がいるのは釜のあるこじんまりとした台所だ。
「魔法の箱よ。実演を見たけれど凄かったわ」
母親が魔道オーブンを操作し、プリンがあっという間に出来上がったのを見て、子供は歓声を上げた。
「うふふ、ビックリした? ええ、ママもビックリよ。お料理が楽しくなりそう」
母親が楽しそうに言う。
平民が料理に使う熱源は薪か炭なので、火の調節や管理が大変である。それがこうして手軽に調理出来るようになったのだ。喜ばないわけがない。
おいしいプリンを毎日口に出来るようになった子供は、開発者のセレスティナにお礼の手紙を書いた。ありがとう、魔法使いのお姉さん、と。
オルモード邸にそんな手紙がたくさん届き、セレスティナは喜んだ。
「あちこちで感謝されまくっているみたいね」
温室のティールームで、手紙を見つつシャーロットが笑う。
「ティナは卒業前なのに凄いな。一人前の魔工技師も顔負けじゃないか」
ジャネットがそう口にする。
「そういや、エリーゼの話って、何だったんだ?」
お菓子を売りさばいた時の事を、ふと思い出したイザークが言う。セレスティナがふわりと笑った。邪気のない笑みだ。
「応援しているから、がんばってって激励されたわ。エリーゼは良い人ね」
セレスティナの返答に、イザークは何ともいいようのない顔をする。
「良い人、ねぇ……」
「ちょっとイメージ違うわね?」
シャーロットがそう言い添えた。
「そう?」
「うん、なんつーか……」
「彼女って、したたか?」
イザークとシャーロットは、そう口にし頷き合う。二人はセレスティナよりもエリーゼと付き合いが長い。なにせ王立魔道学園に通う前から彼女の事を知っている。
シャーロットが言った。
「悪い子じゃないわよ? それは分かってる。でも、エリーゼの場合、打算的なところがあるのよね。利益を優先させるようなところがあるのよ。だから、ティナから魔道オーブンの仕組みを聞いて、二人っきりで話したいって言った時は、てっきり……」
「てっきり?」
「あ、ううん、何でもない。思い違いだったみたいね」
シャーロットが笑って誤魔化した。そう、エリーゼがセレスティナを利用しようとしているのではと、シャーロットは勘ぐった。なので話し合いの場までセレスティナについて行ったのだが、思い違いで良かったと思う。
「チョコレートケーキが出来ましたよ。どうぞ召し上がれ」
料理長のブーシェがケーキの載った皿を手に登場だ。
セレスティナが彼にプレゼントした魔道オーブンは、一時間を一秒に縮める優れもので、火力も大きさもプロ仕様である。料理の幅がさらに広がったと毎日ご機嫌だ。
ブーシェが手にしたチョコレートケーキを目にして、シャーロットとイザークは喜んだ。二人とも大の甘い物好きである。
「旦那様にはこちらをどうぞ」
ブーシェがシリウスに差し出したのは、ビターなチョコレートボンボンだった。
「おいしい?」
シリウスが口にするチョコレートボンボンに、セレスティナは興味津々だ。
だがこれは、シリウスの為に作られた菓子である。アルコール濃度がかなり高かったようで、ちびちびとそれを口にしていたセレスティナは、お茶会が終わる頃にはすっかり出来上がっていた。甘えん坊と化した彼女は、シリウスにぴったりくっついて離れようとしない。
「……酔うと、ティナってこうなるの?」
シャーロットがぽつりと言う。
抱きついて離れず、「シリュウ、しゅき……」と口にする舌っ足らずなセレスティナをまじまじと眺めた。頬がほんわりピンク色。可愛い、シャーロットは掛け値なしにそう思った。よしよしと頭を撫でたくなってしまう。
「そうだ。まさか菓子で酔っ払うとは……」
シリウスが片手で顔を覆う。
「申し分けございません。その……旦那様用にと作ったもので……」
ブーシェがそう言って謝った。
「んー? いいんじゃない? 全然気にする必要なんてないわ。きっとこれって、神様からのプレゼントよ。わたくしに可愛い妹をくれるつもりなのね」
ほほほとシャーロットは小悪魔の笑いだ。
「シャル……」
「何よ、ティナならあとちょっとで十八才よ。文句ある?」
シリウスがぴしゃりと言った。
「いい加減にしなさい。たとえここで結婚しても、避妊するから子供は出来ない!」
シャーロットは目を見開いた。
「は? えぇ! そーなの?」
「あ、た、り、ま、え、だ! ティナが卒業式に出られなくなるだろう!」
「あー……まぁ、そっか。そうよ、ね……」
シリウスにぴったりひっついて離れないセレスティナを眺め、シャーロットははふうとため息をつく。ひょいっと肩をすくめた。
「じゃ、ま、てきとーに頑張って?」
「こ、このまま放置する気か?」
「だってパパだもん。ティナに絶対手を出さないって自信ある。何をしても結果は一緒でしょ? つまらないからもう行くわ」
「いや、ちょ、待……」
シャーロットの後に、イザークとジャネットも続く。どうしようもないと言いたげに。
「旦那様。入浴用の衣装を……」
用意しましょうかという侍女のメリーの言葉を、シリウスは遮った。
「……今日はこのまま寝る」
シリウスは憮然とそう言い切った。前回のような天国と地獄のループなど冗談じゃない、そう言いたげに。ティナの酔いが覚めた朝方、風呂にはいればいい、シリウスはそう考え、セレスティナを抱えて歩き出す。
これで一件落着かと思いきや、そうは問屋が卸さなかった。
「シリュウ、しゅき……」
ベッドの中でも、セレスティナは甘え放題だ。彼女が抱きつけば、たっぷりとした胸の感触は否が応でも分かる。甘い吐息が耳をくすぐり、柔らかな太ももが絡みつく。甘えん坊と化したセレスティナがくっついて離れず、やはり天国と地獄のループだったことは言うまでもない。
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