上 下
60 / 198
第二章 最狂ダディは専属講師

第五十八話 金色の何か

しおりを挟む
「そうだ。ティナは魔工学の基礎を、既に学び終えている。そして、ティナの勉学速度に、他の生徒達はついていけない。なので、私がティナの専属講師になったんだ。卒業までみっちりティナに魔工学の講義をしようと思う。ふふふふふふふふ、楽しみだ」

 シリウスの台詞に、シャーロットが身を乗り出した。

「え? ちょ、ま……魔工学の勉強は、パパとティナのマンツーマンってこと?」
「そう。歴史や語学など、共通科目だけ、他の連中と一緒に勉強だ」

 シャーロットが目を剥いた。

「そ、それだと! ティナの学園生活は半分以上、パパにべったりって事になるじゃない! ううん、パパがティナにべったりになるのよね?」

 シリウスがしれっと言う。

「そーなるな。ま、仕方がない。ティナの勉学スピードに、他の生徒はついていけないんだ。既に分かりきったことを、のらくら学んでどうする? 私はティナの才能を埋もれさせる気はないぞ?」

 シャーロットがじっとりと言う。

「……パパの計画通りってわけ?」

 シリウスがちらりと視線を送った。

「そうでもしないと時間の無駄になる。私の場合は飛び級だった。六年間通う予定だった学園は二年で卒業だ。ああ、お前達が専攻した防衛科の在学期間は三年だが……。で、どちらがいい? 卒業までの三年間、ティナと一緒に学園に通いたいか? それとも飛び級で学んだティナが、今から二年後に卒業するのを見送る方がいいか?」
「……ティナと一緒に三年間通う方がいいわ」

 シャーロットがそう答える。

「それだと、ティナもわたくし達と一緒に卒業するのよね? そうでしょう?」
「もちろんだ。ティナと一緒に卒業証書を受け取る。嬉しいだろう?」

 シリウスが面白そうに笑い、シャーロットが肩をすくめた。

「で、卒業と同時に結婚ってことね。パパったら囲い込みが凄すぎる」
「……何とでも言え。婚約する前に忠告はしたぞ?」

 シリウスがふんっとそっぽを向いた。口は挟ませない、そう言いたげだ。

「はいはい、分かってるわよ。ティナが喜んでるから許すわ」

 シャーロットがげっそりと言った。
 喜んでる……見透かされている気がして、セレスティナはどきりとしてしまう。確かに嬉しい。シリウス様とこうして一緒にいられれば幸せなの。見つめられるだけで、どきどきするわ。抱きしめられれば、ただそれだけで舞い上がってしまう。

 セレスティナは改めてシリウスの姿に目を向けた。
 輝く長い白銀の髪は流星の色。厳格な顔は綻べば温かい。透明で優しくてハチャメチャな私だけの天使様……。ずっとずっとそのままでいて欲しい。ただ、手にしている審判の爆弾だけは、爆発しないように、そっとしまっておいてくれると嬉しいのだけれど。

 浮かれた気持ちで、セレスティナはカタコト揺れる馬車内から窓の外を見て、ふと、晴れ渡った空に金色に輝く何かを見たような気がして、ピキリと固まった。き、気のせい、よね? 建物の影に隠れて、金色の何かは、あっという間に見えなくなった。

「ティナ、どうしたの?」

 シャーロットが不思議そうに問う。

「え? えと、それが、その……」

 何て説明すればいいの? ドラゴンは人間嫌いだと言うし、まさか王都まで竜王様がやってくるなんてことは、ない、わよね?

「あ、あの、シリウス様? そ、空に、金色の何かを見た気がするの」
「ん? ああ……もしかして、アルゴンを見たのか? 打ち落とそうか?」

 シリウスがさらっと言い、セレスティナは泡を食う。
 だ、駄目よ、打ち落としちゃだめ! 魔道具を操らないで、シリウス様、お願い!

「ここ、王都なのに! りゅ、竜王様が来るなんてことがあるんですか?」
「ああ、一度来た事がある。サマンサとの結婚式の時に。あの時は来ることが分かっていたから、騒ぎにならないよう手を回しておいたが……」

 言っている間に。シリウスが手にした魔道具が、ピーピー鳴り出した。魔道具に浮かび上がる文字を目にして、シリウスの表情が曇る。

「どうしたの?」
「……国軍からだ。黄金竜が現れたから、何とかして欲しいそうだ。知るか。私は今王都にいないから、そちらで何とかしろ、以上」

 ぶつっとシリウスが通信を切り、セレスティナは慌てた。勿論、シリウスは今王都にいる。王立魔道学園に向かう途中なのだから完璧な嘘だ。

「ほ、放置なの?」
「一応、防衛担当のマジックドールに指示を出しておく。国軍が持て余すようなら、瞬間冷凍ミサイルで固めて回収しよう」
「あ、あの、でも、引き返した方が……」
「ティナの入学式の方が大事だ。ティナの晴れ姿。絶対見逃してなるものか。録画機器もばっちり用意してある。他の奴になどまかせられん」

 ふふふふふふと笑いながらシリウスがそう言い切った。
 ドラゴンが王都にやってくる案件より、私の入学式の方が大事……う、嬉しいけど、この先ずっとこれだと、ちょっぴり不安だわ。
 シャーロットがそろりと言った。

「パパ……なんだかんだ言っていたけど、もしかして、ティナを学園に入れたのって、制服姿の可愛いティナを見たかったから、とか、入学式とか卒業式とかの晴れ姿を見たかったから、とかじゃないわよね?」
「……楽しみにして何が悪い」

 そっぽを向いたままシリウスが言い切った。

「ひ、開き直った!」
「ああ、やっぱりぃ!」

 シリウスがいきり立つ。

「がたがた煩いぞ! ティナをずっと邸に閉じ込める方がいいのか?」
「よくない」
「ごめん、言い過ぎたわ」

 イザークとシャーロットが速攻謝った。そんな様子を見ていたセレスティナの口元が緩む。頬をほんのり染めたシリウス様が、ちょっぴり可愛くて嬉しかったというのは内緒。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

赤ちゃんプレイ

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:21

【完結】おじさんはΩである

BL / 完結 24h.ポイント:589pt お気に入り:754

出来損ない皇子に転生~前世と今世の大切な人達のために最強を目指す~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,173pt お気に入り:2,717

【本編完結】白紙の未来

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:480

婚約破棄され娼館に売られてしまいました【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:612pt お気に入り:197

僕の愛を君に捧ぐ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,726pt お気に入り:5

処理中です...