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第二章 最狂ダディは専属講師
第五十八話 金色の何か
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「そうだ。ティナは魔工学の基礎を、既に学び終えている。そして、ティナの勉学速度に、他の生徒達はついていけない。なので、私がティナの専属講師になったんだ。卒業までみっちりティナに魔工学の講義をしようと思う。ふふふふふふふふ、楽しみだ」
シリウスの台詞に、シャーロットが身を乗り出した。
「え? ちょ、ま……魔工学の勉強は、パパとティナのマンツーマンってこと?」
「そう。歴史や語学など、共通科目だけ、他の連中と一緒に勉強だ」
シャーロットが目を剥いた。
「そ、それだと! ティナの学園生活は半分以上、パパにべったりって事になるじゃない! ううん、パパがティナにべったりになるのよね?」
シリウスがしれっと言う。
「そーなるな。ま、仕方がない。ティナの勉学スピードに、他の生徒はついていけないんだ。既に分かりきったことを、のらくら学んでどうする? 私はティナの才能を埋もれさせる気はないぞ?」
シャーロットがじっとりと言う。
「……パパの計画通りってわけ?」
シリウスがちらりと視線を送った。
「そうでもしないと時間の無駄になる。私の場合は飛び級だった。六年間通う予定だった学園は二年で卒業だ。ああ、お前達が専攻した防衛科の在学期間は三年だが……。で、どちらがいい? 卒業までの三年間、ティナと一緒に学園に通いたいか? それとも飛び級で学んだティナが、今から二年後に卒業するのを見送る方がいいか?」
「……ティナと一緒に三年間通う方がいいわ」
シャーロットがそう答える。
「それだと、ティナもわたくし達と一緒に卒業するのよね? そうでしょう?」
「もちろんだ。ティナと一緒に卒業証書を受け取る。嬉しいだろう?」
シリウスが面白そうに笑い、シャーロットが肩をすくめた。
「で、卒業と同時に結婚ってことね。パパったら囲い込みが凄すぎる」
「……何とでも言え。婚約する前に忠告はしたぞ?」
シリウスがふんっとそっぽを向いた。口は挟ませない、そう言いたげだ。
「はいはい、分かってるわよ。ティナが喜んでるから許すわ」
シャーロットがげっそりと言った。
喜んでる……見透かされている気がして、セレスティナはどきりとしてしまう。確かに嬉しい。シリウス様とこうして一緒にいられれば幸せなの。見つめられるだけで、どきどきするわ。抱きしめられれば、ただそれだけで舞い上がってしまう。
セレスティナは改めてシリウスの姿に目を向けた。
輝く長い白銀の髪は流星の色。厳格な顔は綻べば温かい。透明で優しくてハチャメチャな私だけの天使様……。ずっとずっとそのままでいて欲しい。ただ、手にしている審判の爆弾だけは、爆発しないように、そっとしまっておいてくれると嬉しいのだけれど。
浮かれた気持ちで、セレスティナはカタコト揺れる馬車内から窓の外を見て、ふと、晴れ渡った空に金色に輝く何かを見たような気がして、ピキリと固まった。き、気のせい、よね? 建物の影に隠れて、金色の何かは、あっという間に見えなくなった。
「ティナ、どうしたの?」
シャーロットが不思議そうに問う。
「え? えと、それが、その……」
何て説明すればいいの? ドラゴンは人間嫌いだと言うし、まさか王都まで竜王様がやってくるなんてことは、ない、わよね?
「あ、あの、シリウス様? そ、空に、金色の何かを見た気がするの」
「ん? ああ……もしかして、アルゴンを見たのか? 打ち落とそうか?」
シリウスがさらっと言い、セレスティナは泡を食う。
だ、駄目よ、打ち落としちゃだめ! 魔道具を操らないで、シリウス様、お願い!
「ここ、王都なのに! りゅ、竜王様が来るなんてことがあるんですか?」
「ああ、一度来た事がある。サマンサとの結婚式の時に。あの時は来ることが分かっていたから、騒ぎにならないよう手を回しておいたが……」
言っている間に。シリウスが手にした魔道具が、ピーピー鳴り出した。魔道具に浮かび上がる文字を目にして、シリウスの表情が曇る。
「どうしたの?」
「……国軍からだ。黄金竜が現れたから、何とかして欲しいそうだ。知るか。私は今王都にいないから、そちらで何とかしろ、以上」
ぶつっとシリウスが通信を切り、セレスティナは慌てた。勿論、シリウスは今王都にいる。王立魔道学園に向かう途中なのだから完璧な嘘だ。
「ほ、放置なの?」
「一応、防衛担当のマジックドールに指示を出しておく。国軍が持て余すようなら、瞬間冷凍ミサイルで固めて回収しよう」
「あ、あの、でも、引き返した方が……」
「ティナの入学式の方が大事だ。ティナの晴れ姿。絶対見逃してなるものか。録画機器もばっちり用意してある。他の奴になどまかせられん」
ふふふふふふと笑いながらシリウスがそう言い切った。
ドラゴンが王都にやってくる案件より、私の入学式の方が大事……う、嬉しいけど、この先ずっとこれだと、ちょっぴり不安だわ。
シャーロットがそろりと言った。
「パパ……なんだかんだ言っていたけど、もしかして、ティナを学園に入れたのって、制服姿の可愛いティナを見たかったから、とか、入学式とか卒業式とかの晴れ姿を見たかったから、とかじゃないわよね?」
「……楽しみにして何が悪い」
そっぽを向いたままシリウスが言い切った。
「ひ、開き直った!」
「ああ、やっぱりぃ!」
シリウスがいきり立つ。
「がたがた煩いぞ! ティナをずっと邸に閉じ込める方がいいのか?」
「よくない」
「ごめん、言い過ぎたわ」
イザークとシャーロットが速攻謝った。そんな様子を見ていたセレスティナの口元が緩む。頬をほんのり染めたシリウス様が、ちょっぴり可愛くて嬉しかったというのは内緒。
シリウスの台詞に、シャーロットが身を乗り出した。
「え? ちょ、ま……魔工学の勉強は、パパとティナのマンツーマンってこと?」
「そう。歴史や語学など、共通科目だけ、他の連中と一緒に勉強だ」
シャーロットが目を剥いた。
「そ、それだと! ティナの学園生活は半分以上、パパにべったりって事になるじゃない! ううん、パパがティナにべったりになるのよね?」
シリウスがしれっと言う。
「そーなるな。ま、仕方がない。ティナの勉学スピードに、他の生徒はついていけないんだ。既に分かりきったことを、のらくら学んでどうする? 私はティナの才能を埋もれさせる気はないぞ?」
シャーロットがじっとりと言う。
「……パパの計画通りってわけ?」
シリウスがちらりと視線を送った。
「そうでもしないと時間の無駄になる。私の場合は飛び級だった。六年間通う予定だった学園は二年で卒業だ。ああ、お前達が専攻した防衛科の在学期間は三年だが……。で、どちらがいい? 卒業までの三年間、ティナと一緒に学園に通いたいか? それとも飛び級で学んだティナが、今から二年後に卒業するのを見送る方がいいか?」
「……ティナと一緒に三年間通う方がいいわ」
シャーロットがそう答える。
「それだと、ティナもわたくし達と一緒に卒業するのよね? そうでしょう?」
「もちろんだ。ティナと一緒に卒業証書を受け取る。嬉しいだろう?」
シリウスが面白そうに笑い、シャーロットが肩をすくめた。
「で、卒業と同時に結婚ってことね。パパったら囲い込みが凄すぎる」
「……何とでも言え。婚約する前に忠告はしたぞ?」
シリウスがふんっとそっぽを向いた。口は挟ませない、そう言いたげだ。
「はいはい、分かってるわよ。ティナが喜んでるから許すわ」
シャーロットがげっそりと言った。
喜んでる……見透かされている気がして、セレスティナはどきりとしてしまう。確かに嬉しい。シリウス様とこうして一緒にいられれば幸せなの。見つめられるだけで、どきどきするわ。抱きしめられれば、ただそれだけで舞い上がってしまう。
セレスティナは改めてシリウスの姿に目を向けた。
輝く長い白銀の髪は流星の色。厳格な顔は綻べば温かい。透明で優しくてハチャメチャな私だけの天使様……。ずっとずっとそのままでいて欲しい。ただ、手にしている審判の爆弾だけは、爆発しないように、そっとしまっておいてくれると嬉しいのだけれど。
浮かれた気持ちで、セレスティナはカタコト揺れる馬車内から窓の外を見て、ふと、晴れ渡った空に金色に輝く何かを見たような気がして、ピキリと固まった。き、気のせい、よね? 建物の影に隠れて、金色の何かは、あっという間に見えなくなった。
「ティナ、どうしたの?」
シャーロットが不思議そうに問う。
「え? えと、それが、その……」
何て説明すればいいの? ドラゴンは人間嫌いだと言うし、まさか王都まで竜王様がやってくるなんてことは、ない、わよね?
「あ、あの、シリウス様? そ、空に、金色の何かを見た気がするの」
「ん? ああ……もしかして、アルゴンを見たのか? 打ち落とそうか?」
シリウスがさらっと言い、セレスティナは泡を食う。
だ、駄目よ、打ち落としちゃだめ! 魔道具を操らないで、シリウス様、お願い!
「ここ、王都なのに! りゅ、竜王様が来るなんてことがあるんですか?」
「ああ、一度来た事がある。サマンサとの結婚式の時に。あの時は来ることが分かっていたから、騒ぎにならないよう手を回しておいたが……」
言っている間に。シリウスが手にした魔道具が、ピーピー鳴り出した。魔道具に浮かび上がる文字を目にして、シリウスの表情が曇る。
「どうしたの?」
「……国軍からだ。黄金竜が現れたから、何とかして欲しいそうだ。知るか。私は今王都にいないから、そちらで何とかしろ、以上」
ぶつっとシリウスが通信を切り、セレスティナは慌てた。勿論、シリウスは今王都にいる。王立魔道学園に向かう途中なのだから完璧な嘘だ。
「ほ、放置なの?」
「一応、防衛担当のマジックドールに指示を出しておく。国軍が持て余すようなら、瞬間冷凍ミサイルで固めて回収しよう」
「あ、あの、でも、引き返した方が……」
「ティナの入学式の方が大事だ。ティナの晴れ姿。絶対見逃してなるものか。録画機器もばっちり用意してある。他の奴になどまかせられん」
ふふふふふふと笑いながらシリウスがそう言い切った。
ドラゴンが王都にやってくる案件より、私の入学式の方が大事……う、嬉しいけど、この先ずっとこれだと、ちょっぴり不安だわ。
シャーロットがそろりと言った。
「パパ……なんだかんだ言っていたけど、もしかして、ティナを学園に入れたのって、制服姿の可愛いティナを見たかったから、とか、入学式とか卒業式とかの晴れ姿を見たかったから、とかじゃないわよね?」
「……楽しみにして何が悪い」
そっぽを向いたままシリウスが言い切った。
「ひ、開き直った!」
「ああ、やっぱりぃ!」
シリウスがいきり立つ。
「がたがた煩いぞ! ティナをずっと邸に閉じ込める方がいいのか?」
「よくない」
「ごめん、言い過ぎたわ」
イザークとシャーロットが速攻謝った。そんな様子を見ていたセレスティナの口元が緩む。頬をほんのり染めたシリウス様が、ちょっぴり可愛くて嬉しかったというのは内緒。
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