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【コミック1巻】&【小説3巻】発売記念SS
レナードの追憶:後編
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「あー、なんか世話になったみてーだな?」
子爵邸の廊下を歩きながら、オーギュストの背に向かって、レナードがそう口にする。オーギュストは振り返らない。
「……王家の影は任務中に亡くなった場合、残された家族の面倒は王家が生涯みるものだ」
「そうなのか?」
「そういう契約になっている。なのにあれはそれを放棄した」
忌々しげにオーギュストが舌打ちを漏らす。
あれ……ハインリヒ陛下のことだよな?
「まぁ、確かに俺はお袋共々王家に世話になったことなんてねーけど、なんであんたがそれを肩代わり? ああ、貴族だからか?」
「そう思って貰っていい」
やはりオーギュストは振り向かない。
と、その目線が窓の外を向き、レナードもつられてそちらを見ると、七、八歳くらいの金髪の可愛らしい女の子が、鍬を持って一生懸命畑を耕していた。少女の笑顔にオーギュストが目を細め、まただ、とレナードは思う。眼差しが柔らかい。
「可愛い子っすね?」
「ああ、自慢の娘だ」
視線を外すことなくオーギュストが肯定する。
ということは、あの子がローザ?
「お嬢様!」
そうローザに声をかけたのは、二十代後半くらいの侍女らしき女性だった。ふわふわの茶色の髪をした明るい笑顔を振りまく女性である。
「新しい芋の苗が届きましたよ! ほら、見てください! こんなにたくさん!」
「わぁ! アンバー、ありがとう!」
ローザの可愛らしい幼顔がふわりと綻んだ。本当に可愛らしい。
しかし、芋の苗に喜ぶ令嬢って……
レナードはぷっと吹き出してしまった。
普通はドレスや宝石を喜ぶと思うけれど、変わったお嬢ちゃんだ。
「声をかけなくていいのか?」
背を向けたオーギュストをレナードが呼び止める。
「あの芋の苗、手配したのあんただろ? 机の上にあった注文書を見たよ。顔を見せてやれば喜ぶんじゃないか?」
「……あの子は喜ばない」
素っ気ないオーギュストの返答をレナードは怪訝に思う。
そんなことはねーと思うけど。父親なんだし……あー、無愛想だから怖いとか?
後日、その考えを肯定するかのように、レナードはがちごちに緊張したローザを目にすることになる。
「ご機嫌よう、お父様!」
ドルシア子爵邸でばったり出くわした時の出来事だ。
侍女のアンバーを連れたローザがドレスをつまみ、淑女の礼である。窓から目にした姿は作業着姿で、まるで使用人の子のように見えたが、こうして身なりを整えると目の覚めるような器量よしだ。しかも、緊張で顔を真っ赤にしている様がさらに可愛らしい。
けど……
レナードはちらりとオーギュストに視線を向け、内心ため息だ。
親子なのに、まるで教官とその部下みてー……。こんな年端もいかない子なのに、父親の前で緊張しっぱなしって……どんだけ厳しいんだよ。俺の親父もきつかったけどここまでじゃなかったぞ? ちょっとやり過ぎてねーか?
「ご機嫌よう、ローザ」
オーギュストが笑いかけるも、ローザの緊張がほぐれることはない。淑女の礼をしたままだ。見かねたレナードがふいっとローザの横に立ち、金の頭をわしわしと撫でた。ローザはきょとんとし、侍女のアンバーが目を剥く。
「ちょっ! な、なんなんですかあなたは! い、いいいいきなりローザ様に何をするんですか! レディの体に不用意に触れるなど、ぶ、無礼千万ですわ!」
幼いローザを庇うようにアンバーが割って入り、レナードはひょいっと肩をすくめる。
「だってよ……他人行儀過ぎて見てられねーっての。あんたもさ、無愛想も大概にしろって。可愛いって思ってんなら態度に出さないと。な?」
オーギュストに向かってレナードがへらへらと笑い、アンバーは卒倒しそうな勢いだ。
「旦那様に向かって、あ、あんたって……こ、言葉遣いも! その軽薄な態度も直しなさぁい! 旦那様は貴族です! 子爵ですよ!」
「俺はその客人なんだから、大目に見てくれよ。な? ほら。子供ってのは頭を撫でてやれば喜ぶもんだよ。スキンシップも大事だぜ?」
レナードにせっつかれ、オーギュストが手を出せば、ローザの肩がびくりと震える。目をぎゅっと瞑り、まるで殴打にでも身構えているかのよう。どう見ても怯えている。それを目にしたオーギュストの手が一瞬止まったが、そのままローザの頭を軽く撫で、立ち去った。ゴールディがその後を追う。
一人その場に残ったレナードがローザに声をかけた。
「なぁ、お前、父ちゃんが怖いか?」
「……はい」
ローザの返事に、レナードはなんとも言えない気持ちになる。
アンバーがぽつりと言った。
「旦那様はお優しい方です。ローザ様はほんの少し誤解をなさっているだけで……」
誤解、ねぇ……
レナードは今一度ローザの頭をわしわし撫で、オーギュストの後を追った。重厚な黒い背に追いつくと、レナードは先程の出来事を取り繕った。
「俺の親父も強引でおっかなかったけど、俺は好きだったよ」
「……アリソンはいい息子を持ったようだな?」
オーギュストに失笑され、レナードは押し黙る。なんと言えばいいのか分からない。この時の出来事は後味が悪く、交流をごり押ししたのは失敗だったかと思ったが、その後、レナードはやたらとローザの頭を撫でるオーギュストを目にすることになる。
「お父様?」
「ご機嫌よう、ローザ」
朝食時の出来事だ。
オーギュストに頭を撫でられて、目の玉がこぼれ落ちそうになっているローザと、一生懸命愛娘と交流をしようとしているオーギュストを目にして、レナードは笑いが込み上げて仕方がない。あの一件以来、朝の挨拶や食事時など、娘と顔を合わせるたびにこれである。重厚な彼の不器用な愛情表現は、妙に笑いを誘う。
ちょ、なんだ、これ……。やっぱりもの凄く可愛いと思ってるのか? それで一生懸命頭を撫でて、愛しているアッピール?
レナードは笑いをこらえるのが大変だった。
――旦那様はお優しい方です。ローザ様はほんの少し誤解をなさっているだけで……
は、はは、確かにこれならな。
侍女アンバーの言葉が今なら分かる気がして、レナードは二人の姿に目を細める。それから程なくして例の結果とやらが出た。
オーギュストに呼び出されたレナードが応接室に入ると、ソファに腰掛けたオーギュストがいて、傍にザインが立っている。勧められるままソファにレナードが座ると、侍女が茶を入れて退出し、護衛のゴールディは扉の外で見張りだ。
「え……親父は同じ影に始末された?」
オーギュストから告げられた真実に、レナードはショックを隠せず呆然となる。
事故じゃなかった? 親父は殺されていた……
「謀反人に味方する反逆者、そういった扱いだったようだ」
調査報告書らしき紙を、オーギュストがばさりとテーブルに置く。
「い、いや、でも! 単なる調査だろ? 殿下の身の潔白を証明しようとしただけで、なんだよ、それ! 後ろ暗いところがないなら、なんで!」
「国王となったハインリヒに始末しろと言われれば影はそれに従う」
レナードがぐっと拳を握る。
「……あんたは親父を殺った奴を知っているのか?」
「知っている。敵を取りたいか?」
「当たり前だ!」
「なら、残念だが協力は出来ない。そいつは今、私の味方となっている」
「あんたもグル?」
「違う」
白い仮面を取れば、そこにあったのはオーギュストの顔だ。レナードはもちろんオーギュストの顔を知っている。絶句した。なんて言っていいのか分からない。
「あ……オーギュスト殿下?」
「そうだ」
レナードは目を細める。
太陽のようなと形容されるほど温かかった緑の瞳はそこにはなく、凍てつく氷のような瞳に気圧されたが、間違いなくオーギュスト殿下だった。温かさが消えた分、持って生まれた美貌が研ぎ澄まされ、ぞくりとするほど美しい。
レナードがごくりと喉を鳴らす。
「な、なんで、生き、生きて……」
「冤罪をかけられ、処刑されそうになったが助け出された」
「もしかして親父が?」
「いや、アリソンは私が牢獄に囚われている間に始末されたようだ」
残念だと口にするオーギュストを、レナードはまじまじと見た。
「冤罪、なんですね? 親父の推測通り……」
「そうだ」
「親父を殺した奴は……ああ、最初はハインリヒ陛下の命令に従い、その後はオーギュスト殿下が冤罪だと知ってあなたに従った、そういうことですね?」
「ああ」
「……は、はは。なら、俺の本当の仇はハインリヒ陛下か……」
肩を落としたレナードの耳に、オーギュストの声が滑り込む。
「以前言ったように、影が任務中に亡くなった場合、その家族の面倒は王家が見る決まりだ。だからお前とお前の母親の面倒は私が見よう」
レナードは怪訝な顔だ。
「任務中って……任務だったって認めてくれるのか?」
親父が勝手に動いたのに、レナードがそう呟く。
「私の冤罪を晴らそうと動いた。忠義には報いる」
「ははは、親父が聞いたら喜ぶな。あんたに心酔してたから……」
ザインに差し出された酒をレナードは口にし、その眼差しがオーギュストを捉える。決意に満ちた瞳だ。
「俺、このままあんたの護衛を続けたい、いいか?」
「金なら……」
レナードはオーギュストの言葉を遮った。
「金の問題じゃない。俺がそうしたいんだ。親父の意志を継ぎたい。それに、あんたといればまたあんたの演奏を聴けるだろ? 好きなんだ、あんたの演奏が」
レナードが泣き笑いのような表情を浮かべる。その顔をじっと見つめたオーギュストは、やがてぽつりと言った。
「……好きにしろ」
「ジャック様! 流石にそれは……アリソンの息子とはいえ、彼は影としての訓練をうけてはいませんよ?」
オーギュストが片手を上げ、ザインの言葉を止めた。主人であるオーギュストにいいと言われれば、ザインは黙らざるを得ない。
不満そうなザインの様子をレナードは無視してのける。
「なぁ、もしかしてあんたも親父と同じ王家の影か? だったら、俺を鍛えてくれよ。殿下の護衛にふさわしいくらいになるまで」
「……私の訓練は厳しいですよ?」
「ははは、そうこなくっちゃ」
ザインの返事にレナードが口角を上げた。
「優秀な影だった親父に乾杯」
そう告げ、レナードは手にした酒を飲み干した。
子爵邸の廊下を歩きながら、オーギュストの背に向かって、レナードがそう口にする。オーギュストは振り返らない。
「……王家の影は任務中に亡くなった場合、残された家族の面倒は王家が生涯みるものだ」
「そうなのか?」
「そういう契約になっている。なのにあれはそれを放棄した」
忌々しげにオーギュストが舌打ちを漏らす。
あれ……ハインリヒ陛下のことだよな?
「まぁ、確かに俺はお袋共々王家に世話になったことなんてねーけど、なんであんたがそれを肩代わり? ああ、貴族だからか?」
「そう思って貰っていい」
やはりオーギュストは振り向かない。
と、その目線が窓の外を向き、レナードもつられてそちらを見ると、七、八歳くらいの金髪の可愛らしい女の子が、鍬を持って一生懸命畑を耕していた。少女の笑顔にオーギュストが目を細め、まただ、とレナードは思う。眼差しが柔らかい。
「可愛い子っすね?」
「ああ、自慢の娘だ」
視線を外すことなくオーギュストが肯定する。
ということは、あの子がローザ?
「お嬢様!」
そうローザに声をかけたのは、二十代後半くらいの侍女らしき女性だった。ふわふわの茶色の髪をした明るい笑顔を振りまく女性である。
「新しい芋の苗が届きましたよ! ほら、見てください! こんなにたくさん!」
「わぁ! アンバー、ありがとう!」
ローザの可愛らしい幼顔がふわりと綻んだ。本当に可愛らしい。
しかし、芋の苗に喜ぶ令嬢って……
レナードはぷっと吹き出してしまった。
普通はドレスや宝石を喜ぶと思うけれど、変わったお嬢ちゃんだ。
「声をかけなくていいのか?」
背を向けたオーギュストをレナードが呼び止める。
「あの芋の苗、手配したのあんただろ? 机の上にあった注文書を見たよ。顔を見せてやれば喜ぶんじゃないか?」
「……あの子は喜ばない」
素っ気ないオーギュストの返答をレナードは怪訝に思う。
そんなことはねーと思うけど。父親なんだし……あー、無愛想だから怖いとか?
後日、その考えを肯定するかのように、レナードはがちごちに緊張したローザを目にすることになる。
「ご機嫌よう、お父様!」
ドルシア子爵邸でばったり出くわした時の出来事だ。
侍女のアンバーを連れたローザがドレスをつまみ、淑女の礼である。窓から目にした姿は作業着姿で、まるで使用人の子のように見えたが、こうして身なりを整えると目の覚めるような器量よしだ。しかも、緊張で顔を真っ赤にしている様がさらに可愛らしい。
けど……
レナードはちらりとオーギュストに視線を向け、内心ため息だ。
親子なのに、まるで教官とその部下みてー……。こんな年端もいかない子なのに、父親の前で緊張しっぱなしって……どんだけ厳しいんだよ。俺の親父もきつかったけどここまでじゃなかったぞ? ちょっとやり過ぎてねーか?
「ご機嫌よう、ローザ」
オーギュストが笑いかけるも、ローザの緊張がほぐれることはない。淑女の礼をしたままだ。見かねたレナードがふいっとローザの横に立ち、金の頭をわしわしと撫でた。ローザはきょとんとし、侍女のアンバーが目を剥く。
「ちょっ! な、なんなんですかあなたは! い、いいいいきなりローザ様に何をするんですか! レディの体に不用意に触れるなど、ぶ、無礼千万ですわ!」
幼いローザを庇うようにアンバーが割って入り、レナードはひょいっと肩をすくめる。
「だってよ……他人行儀過ぎて見てられねーっての。あんたもさ、無愛想も大概にしろって。可愛いって思ってんなら態度に出さないと。な?」
オーギュストに向かってレナードがへらへらと笑い、アンバーは卒倒しそうな勢いだ。
「旦那様に向かって、あ、あんたって……こ、言葉遣いも! その軽薄な態度も直しなさぁい! 旦那様は貴族です! 子爵ですよ!」
「俺はその客人なんだから、大目に見てくれよ。な? ほら。子供ってのは頭を撫でてやれば喜ぶもんだよ。スキンシップも大事だぜ?」
レナードにせっつかれ、オーギュストが手を出せば、ローザの肩がびくりと震える。目をぎゅっと瞑り、まるで殴打にでも身構えているかのよう。どう見ても怯えている。それを目にしたオーギュストの手が一瞬止まったが、そのままローザの頭を軽く撫で、立ち去った。ゴールディがその後を追う。
一人その場に残ったレナードがローザに声をかけた。
「なぁ、お前、父ちゃんが怖いか?」
「……はい」
ローザの返事に、レナードはなんとも言えない気持ちになる。
アンバーがぽつりと言った。
「旦那様はお優しい方です。ローザ様はほんの少し誤解をなさっているだけで……」
誤解、ねぇ……
レナードは今一度ローザの頭をわしわし撫で、オーギュストの後を追った。重厚な黒い背に追いつくと、レナードは先程の出来事を取り繕った。
「俺の親父も強引でおっかなかったけど、俺は好きだったよ」
「……アリソンはいい息子を持ったようだな?」
オーギュストに失笑され、レナードは押し黙る。なんと言えばいいのか分からない。この時の出来事は後味が悪く、交流をごり押ししたのは失敗だったかと思ったが、その後、レナードはやたらとローザの頭を撫でるオーギュストを目にすることになる。
「お父様?」
「ご機嫌よう、ローザ」
朝食時の出来事だ。
オーギュストに頭を撫でられて、目の玉がこぼれ落ちそうになっているローザと、一生懸命愛娘と交流をしようとしているオーギュストを目にして、レナードは笑いが込み上げて仕方がない。あの一件以来、朝の挨拶や食事時など、娘と顔を合わせるたびにこれである。重厚な彼の不器用な愛情表現は、妙に笑いを誘う。
ちょ、なんだ、これ……。やっぱりもの凄く可愛いと思ってるのか? それで一生懸命頭を撫でて、愛しているアッピール?
レナードは笑いをこらえるのが大変だった。
――旦那様はお優しい方です。ローザ様はほんの少し誤解をなさっているだけで……
は、はは、確かにこれならな。
侍女アンバーの言葉が今なら分かる気がして、レナードは二人の姿に目を細める。それから程なくして例の結果とやらが出た。
オーギュストに呼び出されたレナードが応接室に入ると、ソファに腰掛けたオーギュストがいて、傍にザインが立っている。勧められるままソファにレナードが座ると、侍女が茶を入れて退出し、護衛のゴールディは扉の外で見張りだ。
「え……親父は同じ影に始末された?」
オーギュストから告げられた真実に、レナードはショックを隠せず呆然となる。
事故じゃなかった? 親父は殺されていた……
「謀反人に味方する反逆者、そういった扱いだったようだ」
調査報告書らしき紙を、オーギュストがばさりとテーブルに置く。
「い、いや、でも! 単なる調査だろ? 殿下の身の潔白を証明しようとしただけで、なんだよ、それ! 後ろ暗いところがないなら、なんで!」
「国王となったハインリヒに始末しろと言われれば影はそれに従う」
レナードがぐっと拳を握る。
「……あんたは親父を殺った奴を知っているのか?」
「知っている。敵を取りたいか?」
「当たり前だ!」
「なら、残念だが協力は出来ない。そいつは今、私の味方となっている」
「あんたもグル?」
「違う」
白い仮面を取れば、そこにあったのはオーギュストの顔だ。レナードはもちろんオーギュストの顔を知っている。絶句した。なんて言っていいのか分からない。
「あ……オーギュスト殿下?」
「そうだ」
レナードは目を細める。
太陽のようなと形容されるほど温かかった緑の瞳はそこにはなく、凍てつく氷のような瞳に気圧されたが、間違いなくオーギュスト殿下だった。温かさが消えた分、持って生まれた美貌が研ぎ澄まされ、ぞくりとするほど美しい。
レナードがごくりと喉を鳴らす。
「な、なんで、生き、生きて……」
「冤罪をかけられ、処刑されそうになったが助け出された」
「もしかして親父が?」
「いや、アリソンは私が牢獄に囚われている間に始末されたようだ」
残念だと口にするオーギュストを、レナードはまじまじと見た。
「冤罪、なんですね? 親父の推測通り……」
「そうだ」
「親父を殺した奴は……ああ、最初はハインリヒ陛下の命令に従い、その後はオーギュスト殿下が冤罪だと知ってあなたに従った、そういうことですね?」
「ああ」
「……は、はは。なら、俺の本当の仇はハインリヒ陛下か……」
肩を落としたレナードの耳に、オーギュストの声が滑り込む。
「以前言ったように、影が任務中に亡くなった場合、その家族の面倒は王家が見る決まりだ。だからお前とお前の母親の面倒は私が見よう」
レナードは怪訝な顔だ。
「任務中って……任務だったって認めてくれるのか?」
親父が勝手に動いたのに、レナードがそう呟く。
「私の冤罪を晴らそうと動いた。忠義には報いる」
「ははは、親父が聞いたら喜ぶな。あんたに心酔してたから……」
ザインに差し出された酒をレナードは口にし、その眼差しがオーギュストを捉える。決意に満ちた瞳だ。
「俺、このままあんたの護衛を続けたい、いいか?」
「金なら……」
レナードはオーギュストの言葉を遮った。
「金の問題じゃない。俺がそうしたいんだ。親父の意志を継ぎたい。それに、あんたといればまたあんたの演奏を聴けるだろ? 好きなんだ、あんたの演奏が」
レナードが泣き笑いのような表情を浮かべる。その顔をじっと見つめたオーギュストは、やがてぽつりと言った。
「……好きにしろ」
「ジャック様! 流石にそれは……アリソンの息子とはいえ、彼は影としての訓練をうけてはいませんよ?」
オーギュストが片手を上げ、ザインの言葉を止めた。主人であるオーギュストにいいと言われれば、ザインは黙らざるを得ない。
不満そうなザインの様子をレナードは無視してのける。
「なぁ、もしかしてあんたも親父と同じ王家の影か? だったら、俺を鍛えてくれよ。殿下の護衛にふさわしいくらいになるまで」
「……私の訓練は厳しいですよ?」
「ははは、そうこなくっちゃ」
ザインの返事にレナードが口角を上げた。
「優秀な影だった親父に乾杯」
そう告げ、レナードは手にした酒を飲み干した。
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ヒューゴみたいなゴミを親友と思ってる辺りエイドリアンって単純に人を見る目も無いのか
いくら父親の事があるとしてもこんな無能相手に尻拭いを散々して唯一無二の宝の娘を与えて丁度良い教育をして一緒にお菓子まで作る仮面卿の面倒見の良さよ
不可能を可能にする男が不可能だったのはエイドリアンを有能にする事だけだわな
田舎の男 様
感想ありがとうございます。三度目Σ(・∀・;)
エイドリアンを有能……
まぁ、適材適所ということでw
ヨルグとかいうゴミの末路が知りたくて2巻読んだらエイドリアンとドルシア子爵がイチャイチャしてて仲ええ親子だなって思いました。
田舎の男 様
二度目の感想ありがとうございます(`-ω-´)キリッ✧
ヨルグの末路は(ピー:ネタバレ防止音)でしたね。
そして、イチャイチャ……そう見えるんだ?w
仲が良いのは良いことだよ、うん(目逸らし)
フルールとかいうゴミは本当に身の程を弁えて死んで欲しかった
田舎の男 様
感想ありがとうございます!
うん、まぁ、フルールは、ね……