55 / 90
おもしろ小話番外編
3、紡がれる糸(前編:ベネット視点)
しおりを挟む
ベネット・グインの日常は至って平和だった。ぽかぽかとした日差しが気持ちよく、へらりと笑ってしまう。
鈍色の髪はいつものようにボサボサで、無精髭を生やした顔は相変わらずだったが、兵士としての鎧武具を身につけているので、だらしなさは多少軽減されている。
ベネットの今の仕事は王城の警備だ。つまり、下っ端とは言え、国軍の一員というわけである。
バークレア領主の私兵だったベネットは、エイドリアンが未来の王配となってしまったので、こうして仲間共々国に雇ってもらえたのだ。
文句は無い。給金はもちろんのこと、三食きっちり食えるし、兵士用の寝床は清潔に保たれている。毎日代わり映えのしない景色の中での見張りなんて退屈だったが、悪くはなかった。
――ローザ王太子殿下様々だな。
かつての仲間が笑いながらそう言ったが、その通りだと思う。
あのねーちゃんに拾われていなければ、こんな風に国に雇ってもらえるなんて夢のまた夢だったろう。どころか、牢にぶち込まれて、強制労働が関の山だったはずだ。残念ながら犯罪者の末路などそんなものである。
ベネットは持ち場の胸壁前で座り込んだまま欠伸をし、大きく伸びをする。胸壁の向こう側には、王都の美しい街並みが広がっていて、見上げれば快晴だ。
空の青さが目に眩しい。
ベネットは目を細めた。
本当、この国は平和だと思う。血の気の多い国王だと、やたらと戦争をしたがって、兵士達は戦争でいつ死ぬかとヒヤヒヤするもんだが、それもない。
相当やり手の国王らしく、貧民街が消えつつあるという。つまり、貧しい者がいなくなるってことだ。
戦争という手段を使わず、食うや食わずの者達の生活水準を底上げしちまった。本当、財政をどうやって切り回しているんだかわからないが、大したもんだと思う。
国王なんて誰がやろうが大して変わらない、お貴族様なんてどいつもこいつも似たり寄ったりだ、政権交代をしたあの時、ベネットはそんな風に思っていたが、それは違ったのだと今では考えを改めている。
ベネットは懐からY時型のパチンコを取り出した。
木の枝を削って作ったお手製だ。これで石を飛ばし、鳥を取って食うなんて事もやった。腕前には自信がある。今では兵士用の食堂でたらふく食えるので、今となっては単なるお遊びでしか使わないが。
退屈しのぎに持っていたどんぐりを並べ、それをパチンコで弾いていると、
「うまいもんだな」
そんな声が背後から聞こえ、ベネットは機嫌良く笑う。
「ははは、そーだろ、そーだろ。これには自信があるんだ。持ち運びも簡単だしよ、下手な武器よりよっぽど役に立つんだぜ? 目を狙えば敵も撃退できる」
「敵も油断するか?」
「そうそう、分かってるじゃんか。子供の遊び道具だって、大抵馬鹿にしやがるんだ。ほんっと、馬鹿だぜ、あいつら。だから、いったーい目にあうんだよ」
はははとベネットが笑うと、背後の人物も失笑したようだ。
「ふはは、そうか。だが、反撃される場合も想定することだな。悠長に攻撃を待ってくれる敵ばかりだとは限らん。一撃で手を切り落とされる場合もある」
ベネットは一気に肝が冷えた気分だった。
困ったように鈍色の髪をばりばりと掻く。
「あー……そんな危ねー奴相手に、こんなもん使わねーっつうの。それくらいの判断はするよ。つか、あんた、随分物騒な想定しやがるのな」
「私ならそうしているからな」
笑われたような気がして、ふっと後方を振り向き、ベネットは固まった。
そこに立っていたのは黒衣の麗人、オーギュスト陛下その人である。彼が持つ圧倒的な存在感にぎょっとなった。背後にはやはり二人の護衛が睨みを利かせていて、冗談を言えるような雰囲気ではない。
「おわっ! へ、陛下! あ、こ、これは……」
サボっていた事が丸わかりである。ベネットが慌てて立ち上がれば、
「話がある。付いてこい」
特別咎めることもなく、オーギュストがそう告げ、早歩き出す。
「はな、話ぃ?」
つい声が裏返ってしまう。
まさか職務怠慢で首、とか? ベネットは内心穏やかではいられなかった。流石にそれは嫌だぞ。こんなにいい職場はない。稽古はそれなりにきついが、衣食住はきっちり保証されているし、休日には街へ繰り出して、元盗賊仲間と馬鹿騒ぎも出来る。今まで生きてきた中で、ここは抜群に待遇が良かった。
オーギュストの執務室へ通され、ベネットがぐるりと周囲を見渡せば、本と資料だらけである。自分とは一生縁のなさそうな場所だとベネットは考えた。とにかく文字とにらめっこなんて自分の性に合っていない。文官なんぞになる奴の気が知れないとベネットは思う。それにしても……。
国王の傍に控えている護衛二人に目を向ける。
ゴリラのように体格のいい男と、一見優男に見える二人の男だ。どちらもゆったりとした態勢で立っているが、まったく隙が無い。長年の感で分かる、絶対こいつらヤバい奴等だと。そしてそれ以上に……。
ベネットはちらりと椅子に腰掛けた美貌の国王に目を向ける。
途端、ぞぞぞと背筋に悪寒が走った。
こ、こえぇ……。
オーギュスト陛下を前にしていると、肝が冷えてしょうが無いのは何故なのか……。ベネットは先程から顔が引きつってしょうが無かった。何故だ? さっきの危ない発言が脳内に残っていて、そう感じるのか?
濃い陰影を落とすオーギュストの顔立ちは蠱惑的で、立ち振る舞いには気品がある。深い緑の瞳は、何とも言えない魅力があった。
文句なしの美男子だ。女達が騒ぐのも分かる。
けど、オーギュストの顔は嫌みなくらい整いすぎてて、はっきり言ってベネットは苦手だった。嫉妬とかそういうのではなく、とにかく受け付けない。尻がむずむずするというのか、相手が雇い主である国王でさえなければ逃げ出したい、そう思ってしまう。
ベネットが突っ立ったまま、冷や汗をだらだら流していると、
「ひと月ほど前、一般人の中から盗賊の一味を見つけたな?」
オーギュストからそう問われ、ベネットは目を丸くする。
「え? あ、はい……」
「何故分かった?」
「どうしてって……えー、行動が違うから?」
「見る場所が普通と違う?」
オーギュストにそう言われ、ベネットは頷いた。
「ああ、そうです。ああいう奴等って、注目する場所が一般の奴等と違うんですよね。だから分かります」
「流石元盗賊だな」
オーギュストがふっと笑い、ベネットは身を縮めた。
うわっ、ばれてたのか。あの、ねーちゃんがチクったのか? そんな疑問が顔に出たか、オーギュストが再度笑った。
「どうして知っているか、か? 仲間共々お前には賞金が掛けられていたんだぞ? 人相書きくらい出回っている」
オーギュストの答えにベネットは驚いた。ぽかんとなってしまう。
え? じゃあ、最初から盗人だって知っていて、俺を雇ってくれたってことか? 犯罪者を雇うって、随分な太っ腹だ、この国王。
オーギュストが手にした資料を見ながら言う。
「勤務態度は至って普通。可も無く不可も無く、適度に手を抜き、文句は言われない程度に仕事をする。協調性はあるようだが、一人で行動することも多い。酒好きでくだを巻くくせに、のらくら逃げるのも上手くて、大きな問題に発展することもない。意識してやっているのか?」
「あー、ええ、まぁ。首になりたくないもので、そこは身についた習性です。で、あの、お話って……」
「娘婿が自分の護衛役にお前を指名した」
「は?」
ベネットは目を丸くする。
「え? 娘婿……ってことは、あの、エイドリアン王子殿下が?」
そこでベネットは、はたと侍女テレサとのやりとりを思い出す。
――ほどほどにがんばる、ねぇ……もしかしたらそれ、できなくなるかもよ?
テレサは揶揄うようにそう言った。
――はあ? 何でだ?
――エイドリアン王子殿下が、あんたを護衛騎士に取り立てるかもしれないからよ。
のぉおおおおおお! まじかぁああああああああ!
ベネットは、まるでこの世の終わりのような顔になる。
「な、何故ですか!」
「見知った相手だから指名しやすかったんだろう」
た、確かに俺は元ご領主様の! エイドリアン王子殿下の私兵だったけど!
オーギュストの返答にベネットは慌てた。
「いや、でも、ちょ……陛下も知っての通り、俺、元盗賊ですよ? 王子殿下は未来の王配じゃないですか! そんなのの護衛兵! うっわ! 止めた方がいいぞ! 絶対後悔する! 頭ぶったたいて正気に戻してやった方がいい!」
国王に吹き出されてしまった。何でだ?
あ、でも、笑うと怖さが和らぐんだな。そりゃそうか。顔の作りは超絶いいんだから、やりようによっては人たらしにもなれそうだ。自分はゴメンだけれど。
「野心はないか?」
「面倒なだけだよ。やれ礼儀だのなんだのって……」
ベネットがもそもそとそう口にする。自分は礼儀作法が本当に苦手だった。かしこまった席など御免被りたい。
「礼儀ね。黙って立っていればいい」
オーギュストにさらりとそう言われてしまう。
「はい?」
「何も言わなければいいんだ。余計な口を挟まず、危険に気を配る。護衛ならそれで誰も文句は言わん」
「いや、あの……本気ですか?」
「兵士なら命令に従え。任務に就く日は後ほど知らせる。話は以上だ」
退出を促され、ベネットはのろのろと動き出す。部屋の隅に立っている二人の護衛騎士にちらりと目を向けた。ゴリラのような風貌のゴールディと優男のレナードである。
――オーギュスト陛下の専属護衛騎士なんか、元海賊と元詐欺師ですからね?
侍女のテレサは確かにそう言った。
絶対この国王、頭がいかれてる、ベネットはそう思ったが、あえて何も言わず引き下がった。首になりたくない、その一心である。
鈍色の髪はいつものようにボサボサで、無精髭を生やした顔は相変わらずだったが、兵士としての鎧武具を身につけているので、だらしなさは多少軽減されている。
ベネットの今の仕事は王城の警備だ。つまり、下っ端とは言え、国軍の一員というわけである。
バークレア領主の私兵だったベネットは、エイドリアンが未来の王配となってしまったので、こうして仲間共々国に雇ってもらえたのだ。
文句は無い。給金はもちろんのこと、三食きっちり食えるし、兵士用の寝床は清潔に保たれている。毎日代わり映えのしない景色の中での見張りなんて退屈だったが、悪くはなかった。
――ローザ王太子殿下様々だな。
かつての仲間が笑いながらそう言ったが、その通りだと思う。
あのねーちゃんに拾われていなければ、こんな風に国に雇ってもらえるなんて夢のまた夢だったろう。どころか、牢にぶち込まれて、強制労働が関の山だったはずだ。残念ながら犯罪者の末路などそんなものである。
ベネットは持ち場の胸壁前で座り込んだまま欠伸をし、大きく伸びをする。胸壁の向こう側には、王都の美しい街並みが広がっていて、見上げれば快晴だ。
空の青さが目に眩しい。
ベネットは目を細めた。
本当、この国は平和だと思う。血の気の多い国王だと、やたらと戦争をしたがって、兵士達は戦争でいつ死ぬかとヒヤヒヤするもんだが、それもない。
相当やり手の国王らしく、貧民街が消えつつあるという。つまり、貧しい者がいなくなるってことだ。
戦争という手段を使わず、食うや食わずの者達の生活水準を底上げしちまった。本当、財政をどうやって切り回しているんだかわからないが、大したもんだと思う。
国王なんて誰がやろうが大して変わらない、お貴族様なんてどいつもこいつも似たり寄ったりだ、政権交代をしたあの時、ベネットはそんな風に思っていたが、それは違ったのだと今では考えを改めている。
ベネットは懐からY時型のパチンコを取り出した。
木の枝を削って作ったお手製だ。これで石を飛ばし、鳥を取って食うなんて事もやった。腕前には自信がある。今では兵士用の食堂でたらふく食えるので、今となっては単なるお遊びでしか使わないが。
退屈しのぎに持っていたどんぐりを並べ、それをパチンコで弾いていると、
「うまいもんだな」
そんな声が背後から聞こえ、ベネットは機嫌良く笑う。
「ははは、そーだろ、そーだろ。これには自信があるんだ。持ち運びも簡単だしよ、下手な武器よりよっぽど役に立つんだぜ? 目を狙えば敵も撃退できる」
「敵も油断するか?」
「そうそう、分かってるじゃんか。子供の遊び道具だって、大抵馬鹿にしやがるんだ。ほんっと、馬鹿だぜ、あいつら。だから、いったーい目にあうんだよ」
はははとベネットが笑うと、背後の人物も失笑したようだ。
「ふはは、そうか。だが、反撃される場合も想定することだな。悠長に攻撃を待ってくれる敵ばかりだとは限らん。一撃で手を切り落とされる場合もある」
ベネットは一気に肝が冷えた気分だった。
困ったように鈍色の髪をばりばりと掻く。
「あー……そんな危ねー奴相手に、こんなもん使わねーっつうの。それくらいの判断はするよ。つか、あんた、随分物騒な想定しやがるのな」
「私ならそうしているからな」
笑われたような気がして、ふっと後方を振り向き、ベネットは固まった。
そこに立っていたのは黒衣の麗人、オーギュスト陛下その人である。彼が持つ圧倒的な存在感にぎょっとなった。背後にはやはり二人の護衛が睨みを利かせていて、冗談を言えるような雰囲気ではない。
「おわっ! へ、陛下! あ、こ、これは……」
サボっていた事が丸わかりである。ベネットが慌てて立ち上がれば、
「話がある。付いてこい」
特別咎めることもなく、オーギュストがそう告げ、早歩き出す。
「はな、話ぃ?」
つい声が裏返ってしまう。
まさか職務怠慢で首、とか? ベネットは内心穏やかではいられなかった。流石にそれは嫌だぞ。こんなにいい職場はない。稽古はそれなりにきついが、衣食住はきっちり保証されているし、休日には街へ繰り出して、元盗賊仲間と馬鹿騒ぎも出来る。今まで生きてきた中で、ここは抜群に待遇が良かった。
オーギュストの執務室へ通され、ベネットがぐるりと周囲を見渡せば、本と資料だらけである。自分とは一生縁のなさそうな場所だとベネットは考えた。とにかく文字とにらめっこなんて自分の性に合っていない。文官なんぞになる奴の気が知れないとベネットは思う。それにしても……。
国王の傍に控えている護衛二人に目を向ける。
ゴリラのように体格のいい男と、一見優男に見える二人の男だ。どちらもゆったりとした態勢で立っているが、まったく隙が無い。長年の感で分かる、絶対こいつらヤバい奴等だと。そしてそれ以上に……。
ベネットはちらりと椅子に腰掛けた美貌の国王に目を向ける。
途端、ぞぞぞと背筋に悪寒が走った。
こ、こえぇ……。
オーギュスト陛下を前にしていると、肝が冷えてしょうが無いのは何故なのか……。ベネットは先程から顔が引きつってしょうが無かった。何故だ? さっきの危ない発言が脳内に残っていて、そう感じるのか?
濃い陰影を落とすオーギュストの顔立ちは蠱惑的で、立ち振る舞いには気品がある。深い緑の瞳は、何とも言えない魅力があった。
文句なしの美男子だ。女達が騒ぐのも分かる。
けど、オーギュストの顔は嫌みなくらい整いすぎてて、はっきり言ってベネットは苦手だった。嫉妬とかそういうのではなく、とにかく受け付けない。尻がむずむずするというのか、相手が雇い主である国王でさえなければ逃げ出したい、そう思ってしまう。
ベネットが突っ立ったまま、冷や汗をだらだら流していると、
「ひと月ほど前、一般人の中から盗賊の一味を見つけたな?」
オーギュストからそう問われ、ベネットは目を丸くする。
「え? あ、はい……」
「何故分かった?」
「どうしてって……えー、行動が違うから?」
「見る場所が普通と違う?」
オーギュストにそう言われ、ベネットは頷いた。
「ああ、そうです。ああいう奴等って、注目する場所が一般の奴等と違うんですよね。だから分かります」
「流石元盗賊だな」
オーギュストがふっと笑い、ベネットは身を縮めた。
うわっ、ばれてたのか。あの、ねーちゃんがチクったのか? そんな疑問が顔に出たか、オーギュストが再度笑った。
「どうして知っているか、か? 仲間共々お前には賞金が掛けられていたんだぞ? 人相書きくらい出回っている」
オーギュストの答えにベネットは驚いた。ぽかんとなってしまう。
え? じゃあ、最初から盗人だって知っていて、俺を雇ってくれたってことか? 犯罪者を雇うって、随分な太っ腹だ、この国王。
オーギュストが手にした資料を見ながら言う。
「勤務態度は至って普通。可も無く不可も無く、適度に手を抜き、文句は言われない程度に仕事をする。協調性はあるようだが、一人で行動することも多い。酒好きでくだを巻くくせに、のらくら逃げるのも上手くて、大きな問題に発展することもない。意識してやっているのか?」
「あー、ええ、まぁ。首になりたくないもので、そこは身についた習性です。で、あの、お話って……」
「娘婿が自分の護衛役にお前を指名した」
「は?」
ベネットは目を丸くする。
「え? 娘婿……ってことは、あの、エイドリアン王子殿下が?」
そこでベネットは、はたと侍女テレサとのやりとりを思い出す。
――ほどほどにがんばる、ねぇ……もしかしたらそれ、できなくなるかもよ?
テレサは揶揄うようにそう言った。
――はあ? 何でだ?
――エイドリアン王子殿下が、あんたを護衛騎士に取り立てるかもしれないからよ。
のぉおおおおおお! まじかぁああああああああ!
ベネットは、まるでこの世の終わりのような顔になる。
「な、何故ですか!」
「見知った相手だから指名しやすかったんだろう」
た、確かに俺は元ご領主様の! エイドリアン王子殿下の私兵だったけど!
オーギュストの返答にベネットは慌てた。
「いや、でも、ちょ……陛下も知っての通り、俺、元盗賊ですよ? 王子殿下は未来の王配じゃないですか! そんなのの護衛兵! うっわ! 止めた方がいいぞ! 絶対後悔する! 頭ぶったたいて正気に戻してやった方がいい!」
国王に吹き出されてしまった。何でだ?
あ、でも、笑うと怖さが和らぐんだな。そりゃそうか。顔の作りは超絶いいんだから、やりようによっては人たらしにもなれそうだ。自分はゴメンだけれど。
「野心はないか?」
「面倒なだけだよ。やれ礼儀だのなんだのって……」
ベネットがもそもそとそう口にする。自分は礼儀作法が本当に苦手だった。かしこまった席など御免被りたい。
「礼儀ね。黙って立っていればいい」
オーギュストにさらりとそう言われてしまう。
「はい?」
「何も言わなければいいんだ。余計な口を挟まず、危険に気を配る。護衛ならそれで誰も文句は言わん」
「いや、あの……本気ですか?」
「兵士なら命令に従え。任務に就く日は後ほど知らせる。話は以上だ」
退出を促され、ベネットはのろのろと動き出す。部屋の隅に立っている二人の護衛騎士にちらりと目を向けた。ゴリラのような風貌のゴールディと優男のレナードである。
――オーギュスト陛下の専属護衛騎士なんか、元海賊と元詐欺師ですからね?
侍女のテレサは確かにそう言った。
絶対この国王、頭がいかれてる、ベネットはそう思ったが、あえて何も言わず引き下がった。首になりたくない、その一心である。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
14,172
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。