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【外伝2】白の祭典~あれから百年後の世界~
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これはあの思いがけない召喚によって思いがけなく男がこの世界初の聖女となり、愛し愛された末に精霊の子を産んでから百年後の世界のこと。
あのあと世界はどう変わったのか……、気になる方に少しお話しするとしよう………。
あの出来事はこの世界において衝撃的で最も喜ばしい事であり、歴史を動かした事として民衆に広く語り継がれてきた。
誰もが思っていたこと……、真に愛する人との間には子供を生す事が出来ないという事実に、世界中の男らが悩み苦しんできたということ………。
その誰もが抱える苦しみは闇を生み、汚らわしき女の手を借りなければ子を、跡継ぎを、種の存続をなす事が出来ない事に悲観してアルコールや死の世界へと逃げる者は後を絶たなかったのだ。
また年頃となり、我が身が卑しき女の腹から産まれたと知ると、己の存在さえ呪う者も多かった……。
それ故に愛する者を見付けると、退廃的なまでに堕落した肉欲に溺れる生活を送る者もいた。
しかしながらそれらの行動はどれをとっても、誰もが真の愛を追い求めた結果であり、愛の証を未来へと残したいというとても純粋な願いから表面化したことでしかない。
それが……、それがであるっ!!
あの偉大なる大聖女様によって世界は動き、変革をもたらしたのだ。
真に愛する人との間に未来を紡ぎ、愛の証を遺すことが出来るという素晴らしき麗しの光溢れる世界へと……。
「爺ちゃん、爺ちゃん。爺ちゃんは大聖女様を見たことがあるの?」
ここに実の祖父に昔話が書かれた本を読んでもらい、はしゃぐ一人の幼い少年がいる。
「あぁ……。精霊の子が無事に産まれたことを記念して、世界に知らしめる為に行われたパレードでちょこっとだけなら見たことあるよ。」
「へ~ぇ。どんな人だった?」
「陽の光が当たるとキラキラと艶めく綺麗な黒髪をした美しい男じゃった……。まだ儂がお前ぐらいの年の頃だったが、その姿を見て子供心にキュンと胸をときめかせたものだよ……。」
この少年に羨望の眼差しを向けられている老人は昔を思い起こし、話をしながら記憶にある光景を目の前で見ているかの如く遠い目をさせていた。
「僕も……見たかったな~ぁ……。」
祖父に自分が横に居る事さえ忘れているかの様に意識を遠ざけられ、少年はそれが少し寂しくなったので拗ねてみせた。
「お前は現代に生まれ、未来に生きる子供だ。生まれる前の事を羨んでも仕方ないよ……。」
老人は斜向かいに座っている少年の頭をヨシヨシと撫でて宥めた。
「それよりもお前ももう12歳だ……。そろそろアノ時期がきたんじゃないか?」
「ん~……。う~んん………。まだよく分かんないよ。」
「そうか……。まぁもう5日後には大聖女様が降臨なされてから百周年を祝う白の祭典だ。当日にはこの大きな街にはあらゆる地方からパレードを見に入ってくる者も多かろう。お前も見慣れぬ多くの人間がいる中にいればそれが刺激になって自覚するかもしれないし、もしかしたら運命の番に出会えることもあるやもしれんぞ? フワッハッハッハッハッハッ……!」
『運命の番』………。
それは大聖女がこの男ばかりしか生まれない世界に生まれ育つ多くの者の願いを叶えるかの様に、精霊に注がれ続けた神子と聖女の大いなる愛によって創世された恩恵の力によって新たに産まれた概念……。
それはこの世界はあの時から真に愛する者同士の間から子を生すことが叶う様になったが、その為に男は2つの種族とも性別ともいえるモノに別れた。
1つは『種を蒔く人(Qui semina)』、「クィ」と呼ばれている。
これは愛を与えて注ぎ満たす側の者であり、元々持っていた男の性質を色濃く残した者たちのことで自らの種を与えたい欲求が強く、だからと言っては何だが……積極的だが周りが見えなくなるタイプの男が多い。
もう1つは『実りある大地(Fructus terrae)』、「ターレ」と呼ばれている。
こちらは愛を器に受け止め守る側の者であり、生物的には女の様に子供をその身に宿すことができる者たちのことで、性格的には家族や仲間などの身内を守りたいという思いから警戒心が強い反面、誰とでもお喋りができる程に社交性が高くて身内ネットワークを大事にしている男が多い。
ターレは年頃を過ぎると周期的に短い発情期が起こり、その度に強い色欲状態に覚醒し、種を求めてクィにしか判別できないフェロモンを撒き散らす様になる。
初めて発情期が起こってからまだ大人になりきっていない最初の内は不定期にこれが訪れ、またフェロモンの拡散が不安定行われる為に暫しトラブルも起こることがある。
自らの出過ぎたフェロモンに中てられたクィがのぼせて一種の酩酊状態となって襲おうとしてきたり、クィ同士が自分をめぐって争いを始めたりするのだが……、年齢を経る内に拡散は一ヶ月に1度ほどの一定の周期となって量も落ち着いてくるので年を取れば何の問題もなくなってくる………大多数の人は。
そしてどちらも生まれた時にはどちらなのか判別はできず、12歳辺りを過ぎてから「大人になった印」としてある日突然にふとした弾みで症状が出てから初めて判るものなのである。
そんな世界へと変貌してしまったことは、当の本人である神子と聖女は死んだ後なので幸せな部分しか知らない事とはいえ、以前にはなかったトラブルの数々………、愛の力とはなんとも恐ろしいものか。
加えて一部のターレは気が弱かったりするが故に発情期には自らのフェロモンに酔った積極的なクィに押し負け、幾人もの男と閨事に耽って交わりを繰り返し、女の様に汚れた存在となってしまったという差別的な意味合いを込めて「メス腹」と陰でヒソヒソと蔑称されていた。
だがここで『運命の番』という者が存在する。
まるで伝説にある、あの神子と聖女様の様に強く深く結ばれ、真の愛がある者同士の事を言うのだが、その『運命の番』にしかどんなに頑張っても子供は宿らないのである。
まさに愛の証っ!!
そう言えるに相応しい存在なのだ……。
今代の精霊の子は正に愛の証であり、その為に生命力も強くて今までの倍以上は軽く生きるとされている。
豊穣の力は強く、毎年実りは豊作で……、人々は皆、大聖女様へ感謝の念に堪えない。
そういった思いから毎年、大聖女様に感謝を伝える為にこの時期に行われる白の祭典では、自らも同じ様に愛の証を遺したいと祭りの間中誰もが『運命の番』を探すのに必死である。
どうしようもなく惹かれ合い、強く求め合い、体の奥深い所でまで熱く結ばれ繋がり合いたいと本能で感じ、白き熱情を放出する度に離れたくないという思いは増してゆき、体も心も離れられなくなってしまうという『運命の番』……。
更にこの祭りの日に結ばれた『運命の番』は祭りで興奮が昂っているのもあってか、枯れ果てるまで白きものに塗れて没頭してしまう……。
それが毎年行われる大聖女降臨記念感謝祭……、白の祭典なのである。
あのあと世界はどう変わったのか……、気になる方に少しお話しするとしよう………。
あの出来事はこの世界において衝撃的で最も喜ばしい事であり、歴史を動かした事として民衆に広く語り継がれてきた。
誰もが思っていたこと……、真に愛する人との間には子供を生す事が出来ないという事実に、世界中の男らが悩み苦しんできたということ………。
その誰もが抱える苦しみは闇を生み、汚らわしき女の手を借りなければ子を、跡継ぎを、種の存続をなす事が出来ない事に悲観してアルコールや死の世界へと逃げる者は後を絶たなかったのだ。
また年頃となり、我が身が卑しき女の腹から産まれたと知ると、己の存在さえ呪う者も多かった……。
それ故に愛する者を見付けると、退廃的なまでに堕落した肉欲に溺れる生活を送る者もいた。
しかしながらそれらの行動はどれをとっても、誰もが真の愛を追い求めた結果であり、愛の証を未来へと残したいというとても純粋な願いから表面化したことでしかない。
それが……、それがであるっ!!
あの偉大なる大聖女様によって世界は動き、変革をもたらしたのだ。
真に愛する人との間に未来を紡ぎ、愛の証を遺すことが出来るという素晴らしき麗しの光溢れる世界へと……。
「爺ちゃん、爺ちゃん。爺ちゃんは大聖女様を見たことがあるの?」
ここに実の祖父に昔話が書かれた本を読んでもらい、はしゃぐ一人の幼い少年がいる。
「あぁ……。精霊の子が無事に産まれたことを記念して、世界に知らしめる為に行われたパレードでちょこっとだけなら見たことあるよ。」
「へ~ぇ。どんな人だった?」
「陽の光が当たるとキラキラと艶めく綺麗な黒髪をした美しい男じゃった……。まだ儂がお前ぐらいの年の頃だったが、その姿を見て子供心にキュンと胸をときめかせたものだよ……。」
この少年に羨望の眼差しを向けられている老人は昔を思い起こし、話をしながら記憶にある光景を目の前で見ているかの如く遠い目をさせていた。
「僕も……見たかったな~ぁ……。」
祖父に自分が横に居る事さえ忘れているかの様に意識を遠ざけられ、少年はそれが少し寂しくなったので拗ねてみせた。
「お前は現代に生まれ、未来に生きる子供だ。生まれる前の事を羨んでも仕方ないよ……。」
老人は斜向かいに座っている少年の頭をヨシヨシと撫でて宥めた。
「それよりもお前ももう12歳だ……。そろそろアノ時期がきたんじゃないか?」
「ん~……。う~んん………。まだよく分かんないよ。」
「そうか……。まぁもう5日後には大聖女様が降臨なされてから百周年を祝う白の祭典だ。当日にはこの大きな街にはあらゆる地方からパレードを見に入ってくる者も多かろう。お前も見慣れぬ多くの人間がいる中にいればそれが刺激になって自覚するかもしれないし、もしかしたら運命の番に出会えることもあるやもしれんぞ? フワッハッハッハッハッハッ……!」
『運命の番』………。
それは大聖女がこの男ばかりしか生まれない世界に生まれ育つ多くの者の願いを叶えるかの様に、精霊に注がれ続けた神子と聖女の大いなる愛によって創世された恩恵の力によって新たに産まれた概念……。
それはこの世界はあの時から真に愛する者同士の間から子を生すことが叶う様になったが、その為に男は2つの種族とも性別ともいえるモノに別れた。
1つは『種を蒔く人(Qui semina)』、「クィ」と呼ばれている。
これは愛を与えて注ぎ満たす側の者であり、元々持っていた男の性質を色濃く残した者たちのことで自らの種を与えたい欲求が強く、だからと言っては何だが……積極的だが周りが見えなくなるタイプの男が多い。
もう1つは『実りある大地(Fructus terrae)』、「ターレ」と呼ばれている。
こちらは愛を器に受け止め守る側の者であり、生物的には女の様に子供をその身に宿すことができる者たちのことで、性格的には家族や仲間などの身内を守りたいという思いから警戒心が強い反面、誰とでもお喋りができる程に社交性が高くて身内ネットワークを大事にしている男が多い。
ターレは年頃を過ぎると周期的に短い発情期が起こり、その度に強い色欲状態に覚醒し、種を求めてクィにしか判別できないフェロモンを撒き散らす様になる。
初めて発情期が起こってからまだ大人になりきっていない最初の内は不定期にこれが訪れ、またフェロモンの拡散が不安定行われる為に暫しトラブルも起こることがある。
自らの出過ぎたフェロモンに中てられたクィがのぼせて一種の酩酊状態となって襲おうとしてきたり、クィ同士が自分をめぐって争いを始めたりするのだが……、年齢を経る内に拡散は一ヶ月に1度ほどの一定の周期となって量も落ち着いてくるので年を取れば何の問題もなくなってくる………大多数の人は。
そしてどちらも生まれた時にはどちらなのか判別はできず、12歳辺りを過ぎてから「大人になった印」としてある日突然にふとした弾みで症状が出てから初めて判るものなのである。
そんな世界へと変貌してしまったことは、当の本人である神子と聖女は死んだ後なので幸せな部分しか知らない事とはいえ、以前にはなかったトラブルの数々………、愛の力とはなんとも恐ろしいものか。
加えて一部のターレは気が弱かったりするが故に発情期には自らのフェロモンに酔った積極的なクィに押し負け、幾人もの男と閨事に耽って交わりを繰り返し、女の様に汚れた存在となってしまったという差別的な意味合いを込めて「メス腹」と陰でヒソヒソと蔑称されていた。
だがここで『運命の番』という者が存在する。
まるで伝説にある、あの神子と聖女様の様に強く深く結ばれ、真の愛がある者同士の事を言うのだが、その『運命の番』にしかどんなに頑張っても子供は宿らないのである。
まさに愛の証っ!!
そう言えるに相応しい存在なのだ……。
今代の精霊の子は正に愛の証であり、その為に生命力も強くて今までの倍以上は軽く生きるとされている。
豊穣の力は強く、毎年実りは豊作で……、人々は皆、大聖女様へ感謝の念に堪えない。
そういった思いから毎年、大聖女様に感謝を伝える為にこの時期に行われる白の祭典では、自らも同じ様に愛の証を遺したいと祭りの間中誰もが『運命の番』を探すのに必死である。
どうしようもなく惹かれ合い、強く求め合い、体の奥深い所でまで熱く結ばれ繋がり合いたいと本能で感じ、白き熱情を放出する度に離れたくないという思いは増してゆき、体も心も離れられなくなってしまうという『運命の番』……。
更にこの祭りの日に結ばれた『運命の番』は祭りで興奮が昂っているのもあってか、枯れ果てるまで白きものに塗れて没頭してしまう……。
それが毎年行われる大聖女降臨記念感謝祭……、白の祭典なのである。
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