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【5】愛は伝説となる (終)

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 精霊の子を宿した俺は、儀式を行う為に用意されたこの部屋からは出る事はできない……。
 よって儀式が無事に達成されるまで警戒に当たる為に居た多くの臣下が解散した今、だだっ広い部屋の中でポツンと2人きりとなってしまったこの部屋の中で、まだ暫くは過ごさねばならなかった。
 ここは個室として一応は御簾によって区切られた所ではあっても、広すぎる部屋に2人という状況が少々落ち着かない状態でありソワソワしてしまっていたが、それでも体はグッタリと疲労していたので使命を果たした達成感と安堵感で緊張の糸の切れた俺はただならぬ眠気に襲われてしまっていた。
 それ故にそんなつもりは毛頭なかったのだが、俺は赤ん坊が甘える様にリオン王子の胸に顔を埋めて体を預け、その腕に抱かれて数日ぶりにぐっすりと眠りについた。
 媚薬を飲まされた所為で、ほぼ不眠不休で4日もの間深い所で繋がり続けたのだ………。
 どれだけ奥深い所で互いに身も心をも投げ出して繋がり続けることができるのか……、それが愛の証となって精霊の子の性質をより良いものにしていくのだという。

 この世界に生きる動植物全てにとっての繁栄と豊穣をもたらす要の存在であり、神子と聖女によって作られ育まれた愛の使者でもある精霊の子……。
 精霊の子はこの世に肉体を持たない存在ではあるが、恩恵という名の下に全ての生きとし生ける者らの体に小さな分身として宿り、本体はこの儀式の間にて消滅の時まで祀られることとなるらしい。
 消滅する直前には、本体は小さな核となって次代を作り出す使命を負った神子に宿り、子作りの行為によって聖女の体内へと送り出され、共に作り出す次代の『精霊の子』を作る為の仕組みの一つとなる。
 この核が聖女の体内の奥深い場所の一番熱くなった所に届かなければ精霊の木は芽吹かず、種となって母となる聖女には落ちてこないので非常に重要らしい。
 だから俺はリオン王子の手によってこの上ないぐらいの享楽の沼に落とされ、自分の体さえ分からなくなる程蕩けていく俺を燃えさせて高熱を生み出させられたのだ。
 儀式の終わった今はもう、リオン王子にただ抱きしめられているだけなのだが……それだけでリオン王子自身が俺の体内に侵入しているかの様な幻惑が生みだされ、繋がっていた時よりかは幾分か少ないものの下腹部が熱を持ってキュンキュンと切なくさせる。
 それ故に『ぐっすりと眠っていた』……はずなのに、早くに目が覚めてしまった。
 こんなにもひどく疲れ果てて3日も眠っていないのに思いもかけずに早くに目が覚めてしまった俺だが……、寝入る時と体勢が変わっていないのでリオン王子が起きない事には起き上がることもできないでいた。

「これから最大三ヶ月はここから出られないのか………。」

「だからといって僕と一緒に居られるのだから……、寂しくはないよ。」

 何とはなしにした俺の呟きに返事を返すリオン王子の声がした。

「えっ? 起きたの?」

「あぁ……。なんだかドキドキしてしまってね………。少し早くに目が覚めてしまったよ。」

「俺も……、同じ………。」

 リオン王子も俺と同じ気持ちなのかなと少し嬉しくなり、ポッと顔が赤くなったのが恥ずかしくなってそれを隠そうと額を前に押し付けた。

「ふふっ……! かわいい子だ……。」

 俺の頭を子犬の頭を撫でるかの様に撫でながら、リオン王子は嬉しそうに笑っていた。
 そうして一ヶ月半が過ぎた頃であった。

「つっ………!」

「ん? どうしたんだい、マモル姫……?」

 俺はいつもの様にあの儀式の間の御簾の部屋の中でリオン王子からの愛を受けていた。
 リオン王子と繋がっている俺の体の中のあの奥深い場所がウズウズと疼きだし、痛みへと徐々に変わっていったのだ……。
 心配したリオン王子が四つん這いになっていた俺の顔を覗き込むと………。

「あっ! これは……聖生の印っ!!」

 そう叫ぶや否や俺から抜け出し、ワタワタと慌てだした。

「えっ? 何それ……!」

 徐々に痛みを増すお腹を押さえて必死に堪えながら、何を言っているのか分からない俺は不安になりながらもリオン王子に聞き返した。

「精霊が……、精霊の子が遂に生まれるんだよっ!」

「えぇっ!? でも三ヶ月って話じゃ……。いっ、つつっ、つーぅっ……!」

「最大はね。でも、僕がマモル姫に……そして、それはつまり精霊の子に注がれる愛が、産まれるに値すると認められる量を満たせば、三ヶ月も経たなくてもその時は来るのさっ。」

 俺は目を白黒させた……。
 まだまだだと悠長に構えていたのに突然、いよいよ運命のその時がやってきたのだっ!

「いや~ぁ……。このタイミングとは歴代最短じゃないかな~。それだけ僕たちが深く結ばれ、強く愛し合っていたということだね~。」

 リオン王子は慌てながらも嬉しそうにしながら「こうしてはいられない」と、この時を側仕えに知らせるべくハンドベルを鳴らした。

「お呼びでしょうか? 聖下。」

 俺たちのいる御簾囲いの個室の近くへとやってきたリオン王子の側仕えの男は跪いて頭を垂れた。
 この側仕えの男は長年リオン王子に使えている男であり、儀式でここから動けなくなってからずっと俺たちの食事を運んできたりと、何かと面倒を見てくれている人だ。

「あぁ。もう聖生の印が出たぞ! 精霊の子を迎える準備をせよっ!」

「それはっ……! この短期間でおめでたき事でござます! 承知いたしました!」

 側仕えの男はサッと立ち上がると主であるリオン王子の命令である準備をする為に部屋を出ていった。

「これであとは………。」

 リオン王子は落ち着かない様子でブツブツと何やら呟いて考えこんでいた。

「あっ……! うぅっ………!」

「マモル姫! 大丈夫……、大丈夫だからね……!」

 痛みを必死に堪えて出た俺の呻き声にハッとしたリオン王子はこちらを見て、不安そうな顔をしている俺を宥めようとその言葉を繰り返した。
 暫くすると先程の側仕えの男が大きな六角形の水晶等の様々な道具を持って幾人かの男を引き連れて戻ってきた。
 持ってきた道具をガタガタとどこかへと並べるとこちらを向いて跪いた。

「聖下、そして聖女様。精霊の子をお迎えする準備が整いました。」

 そうして準備が整ってから何時間経ったであろうか……。
 長時間を要し、遂に待望の精霊の子が産まれた。
 初めは俺も、どこからどうやって産まれるのだろうかと疑問に思い、とても不安ではあったが終わってみればそう心配する事でもなかった。
 自分の体から剥がれ落ちる様に、確かにこの一ヶ月半の間同じ体で共に過ごした何かがお腹の中からスルリと抜け出て行ったのだ。
 出てきて初めて見たそれはとても可愛らしく、俺にもリオン王子にも似ていた。

「こ奴め、なかなかいい顔をしておるな……。」

 実態を持たない精霊の子は本来は触れることが出来ないのだが、父である神子と母である聖女には触れることが出来る為に抱くことが叶った。
 重さを感じないフワフワとした体は確かに精霊という雰囲気が感じられた。

「あっという間にこの赤ん坊は大きくなる。邪気払いのこの水晶の力によって人間でいうところの病気の様なものになることもない。だからここから先は安心して良いぞ。マモル姫……、よく頑張ってくれたっ!」

 労いの言葉と共にリオン王子は俺の額にキスをした。
 この世界が始まってからおよそ初となるであろう男同士となった神に選ばれし番は、その使命をここで本当に終えたのである。
 それだけではなく、この歴史上初めての番から産まれた精霊の子は世界に変革をもたらしたのだ。
 なんとっ! この世界の人々が、精霊の子の恩恵が薄くなったとしても悲観しなくともよくなったのだ。
 この2人の愛の力が精霊の子に多くの影響をもたらし、男同士でも子供が成せるのが常識となる様に体も世界も変えてしまったのである………。
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