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【2】数日後……

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 あの後、俺は当然の様にリオン王子ではなくリアーナとではダメなのかと尋ねたがキッパリと断られた。
 いくら「精霊の子」に限り、それを宿す為のパートナーの性別は関係ないとはいえ……、普通は男女のペアで子供を作るものであり………、大多数派を占める世間一般的な性的思考の者にとって、そして当然の様にノーマルの俺にとっても『あの行為』は男女のペアでするものだ。
 だが精霊の力が弱まり消滅しかけたこの時代において、何十年かぶりに王室に生まれた唯一の女であるリアーナには、本来はこの世界に生まれながらにして与えられるべき精霊の恩恵がほぼ受けられなかったが故に子供を宿せる器が体内に存在せず、加えて神代の昔から聖女と共に精霊の子を生み出す役割は必ず男である王子が担ってきたのだからそれはあり得ない事であり、女には絶対に無理な事のだという。

「わが王家はこの世界の代表者として、神の御意思を紡ぐ神子みこたる役目を担ってきました。それは遥か彼方の昔からこの世界を支える為の精霊の子を生み出し、臣下としてお守りするという神聖なる仕事を神から与えられ、先祖代々と御役目は受け継がれてきました。そして多くの聖女との交わりを繰り返してきた中で神からの影響を多く受けたわが王家では、数百年に一度訪れるその時に聖女と最も相性の良い、お相手となる神に選ばれし神子みことなる王子には啓示として体のどこかに呪印が必ず現れるのだと伝承にあります。そしてそれが兄様……リオン王子に現れたので、私にはそもそも資格がないのです。」

 と、リアーナは俺に対して淡々と語ってくれたが……それが理由らしい。
 酔っ払っていて記憶を無くしていた間の出来事とはいえ、あの王子を女と見間違えたのか俺の方からキスをしてしまったことは事実だ。
 しかし俺は男が好きなわけではない!
 断じてないが……リオン王子の事を見ると、考えると……、心の中でモヤモヤとした今までに味わったことのない何かが揺れ動いているのを感じる。
 どんなに拒絶し回避しようとしても、神によって俺もまた選ばれた存在であるからこそ召喚陣によってこの世界へと招かれたのだから逃げられないのだと、リアーナに話を聞けば聞くほどに痛感する。

「そんなに緊張しなくても……。何の心配もせずに身を任せ、君は何もせずにリオン王子に全てを委ねるだけで良いのですよ。」

 リアーナは俺を安心させようと、まるで修道女が迷える子羊を諭すかの様にニッコリと慈愛の笑みで俺を包み込んできた。

「少し……、時間をくれないか………? 覚悟を決める時間が必要だ。」

 それを認めてもらうのが精一杯だった。
 部屋の中に一人きりになった俺は一先ず落ち着こうと深呼吸をし、グチャグチャになった頭の中を整理しょうと今までの話を思い返した。
 いきなり異世界に召喚されたって事だけでも驚愕して心臓がバクバクしているのに、ファーストキスを自分から……しかも男に………。
 俺はそっと自分の唇に人差し指の腹を乗せた。

「ファーストキス……、だったのに………。」

 酔っ払っていて記憶にないはずなのに、指が触れた所から自分の唇は熱を持ち、ないはずの記憶を再現するかの様に唇や舌にヌルリとした熱いものが触れている感覚を覚えた。

「ンッ……! ッハ~ァ……ハァ……ハァ………。」

 胸の奥から溢れ出た熱い吐息が漏れ出し、自分の中にある本能は再びそれを求めて理性をジワジワと呑み込んでいこうとしているのが分かる。

「ハッ! 俺は何を………!?」

 静寂を打ち破るかの様に廊下で突然鳴り出した時計の時刻を知らせる音に体をビクッとさせ、寸での所で俺は理性を取り戻して我に返った。

「どんなにキレイでも、あれはお……男だ………。」

 頭の中は少し混乱していた。
 どんなに相手は男だと否定しても、その思いの倍の量となった本能が肯定し、リオン王子を追い求めようと体のあちこちで反応しているのが分かる。

「俺は……。俺は、どうかしちまったのか……?」

 首をどんなに横に振ろうが、体は少しずつ熱を帯びていく………。
 ただ条件を満たしていたというだけでなく、これが本当に俺が神に選ばれた人間だという証明なのか………。
 俺は掛布団を頭からスッポリと被り、理性を取り戻して本来の自分に戻ろうと、本能に呑みこまれそうになる自分の体をギュッと両手で抱き着く様に抑えつけて抗おうとした。
 それからは、どうやっても落ち着かない状態の俺は部屋へと引きこもり、部屋からもベッドからも出る事のない俺を気遣ってか、朝・夜と枕元に置かれた机に用意された食事を少量口にするのみにとどまった。
 使用人と思われる人間やリアーナが心配して何度か訪ねてきたが今はまだ何も決められない……。
 そうして3日ほどが過ぎ、多少の緊張も解れていたその夜に布団の中でウトウトしていると、頭をそっと撫でる手がある感触を感じた。
 吃驚した俺は反射的に起き上がり、叫び声を上げそうになるとサッと手の平で口を塞がれ、暗闇の中からシーっという小さな声が聞こえた。

「リ、リオン王子!?」

「ふふっ! 我慢できなくて……、夜這いにきちゃった。」

 リオン王子は悪戯っぽく子供の様に笑うと、俺の耳に唇を近づけてそっと囁いた。
 熱い吐息の触れる色気のある甘い囁き声に身がゾワリと震え、胸の奥から下へと向かって熱が零れ落ちてゆき、体の中からキュウッと掴まれた。
 その刹那、身悶えするのも許さぬほどの速さでリオン王子は有無を言わせずに俺の唇を奪いに来た。

「今度は…、僕からだね……。」

 軽くキスをした後に一度唇を離したリオン王子はそれだけ言うと、枕元に用意されていたワインを口に含み、俺の両肩を掴んでから再び俺の唇を重ねて今度は舌をねじ込み、ワインを口移しで俺に飲ませつつ口の中を愛撫してきた。

「やっ! やめっ……!! ぅん……、んんっ……、んーっ……、んっ………。」

 重ねた唇の端から互いに段々と荒ぶってくる吐息を漏らしながら、俺は抑えきれない何かが体の中を駆け巡り、零れんばかりに充満してくるのを感じていた。
 だがそれは理性では抗おうとするがそれを許さない本能が俺の体を動けなくさせ、抵抗できなくさせるものであった。
 時間が経つにつれて激しくなっていくそのキスはワインの香りと共に俺の頭を痺れさせ、俺が今まで培ってきた常識も何もかもをも消し飛ばさせ、リオン王子をウットリとした目で見つめて何の躊躇いもなく受け入れるまでに変えていった。

「ふっ………。あんなに抵抗がとか言っていたのに……、ワインのお陰かな……。もう、抗おうと考えるなんて、無駄な事……やめなよ……。神に選ばれた者同士が……、惹かれ合い……、こうして求め合うのは、ごく自然の……、神に決められたことなのだからさ……。ほら、すっかりと蕩ける表情かおになっちゃって………。マモル姫は可愛いなぁ……。」

 その言葉に長時間に及ぶキスに苦しくなってハァハァと息をすることしかできなくなっているのにも拘らず唇を離されると途端に寂しくなり、無意識に唇に残された感覚を余さず味わおうと舌舐めずりをしている自分に気が付いた。

「そんなに寂しそうな表情かおを……、しないでおくれ……、マモル姫………。これからだよ。」

 俺と同じ様に息絶え絶えのリオン王子ではあったが、次々とこちらを攻める手を止めることは無く、小動物を愛しむかの様に俺をベッドへと優しく押し倒すと首に舌を這わせ、鎖骨にチュッとキスをした。

「あっ……、ぅんん………。」

 初めて味わうその柔らかな刺激に、俺は思わず無意識に喘ぎ声を出してしまった。

「可愛い声をあげちゃって……。ここが、感じるのかい?」

 リオン王子は俺の喘ぎ声を初めて聞けたことに喜び、再び聞こうと楽しそうに何度も首筋や鎖骨にキスをして俺に感度を確かめてきた。
 しかし自らの初めてのその切なげな声に俺はたまらなく恥ずかしくなり、唇とギュッと強く噛んだまま蒸気させた顔を無言でコクリと頷かせることしかできなかった。

「ふふっ! ここが弱いんだね……。」

 俺の弱い部分を1つ知った事で楽しげに笑うリオン王子は更なる先へいこうと、俺の着ていたシャツを剥ぎ取る様にサッと脱がせて上半身を裸にさせると、今度は露わとなった胸の辺りを攻めてきた。
 触れるか触れないかのギリギリの感覚でソッと指を這わせながら、俺の胸の突起を唇で軽く何度も食んでは刺激ともいえぬ程の絶妙なくすぐったさを与え続けてもてあそぶ。

「ぅっ、んん………。んはぁ…、はぁ…、はぁ………。」

「可愛い喘ぎ声に、僕自身も昂っていくのを感じるよ………。もっと……、もっと聞かせておくれ……。僕の可愛い、マモル姫……。」

 リオン王子の指先は、まるで楽器でも奏でているかの如く軽やかに俺の体の上を舞い踊る。
 そしてその指はそのままわき腹からヘソの方へとスーッと流れ落ちる水滴の様に行き、ヘソの縁をなぞる様にクルリと撫でてそこで止まる。

「あっ……!」

「ふふふっ! 期待しただろう? どうしてほしいんだい? 僕の可愛いマモル姫……。」

 初めての体験に、ただ恥ずかしがって照れるばかりの受け身の俺から求めさせようと、リオン王子は意地悪く焦らしながら質問してきた。
 耳たぶを唇で食んだり、胸の突起やヘソの縁を舌でなぞる様に這わせたりと、最終地点には一切触れずにリオン王子によって生み出された体内にある熱が増えていくだけでもどかしくなるばかりであり、俺は散々もてあそばれたことで頭がおかしくなりそうになった。

「もう……。もうっ……!」

「ん~? どうしたのかな~ぁ?」

「お願いっ……! 下を……。下を、触って………!!」

 俺はじれったくなるばかりなだけの優しい刺激に俺は耐えられなくなり、恥ずかしくて仕方がなかったが一番大事な所を触ってほしいと、息絶え絶えにしながらも縋る様にリオン王子に懇願するしかなかった。

「よく言えたね~ぇ。いい子だ。」

 そう言ってしてやったりとニンマリ笑うと、俺本人よりも正直にリオン王子を求めて主張する俺自身を、服の上からヨシヨシと撫でた。

「しかし……、マモル姫本人よりもこっちの方が正直者でいい子かもしれないな……。服にも染みているぐらいこんなにも泣き濡らして……。僕の事を待っていると、この子からはよーく伝わってくるよ。」

 リオン王子はフーフーと荒い息遣いをさせながら舌舐めずりをすると、上機嫌で俺のズボンに手をかけた。

「さて……、ごたーいめぇ~ん。」

 そう言ってリオン王子は俺の下半身へと顔を動かし、俺のズボンを下へとスルスルとおろした。

「ほぅ……。」

 俺自身を目の当たりにしたリオン王子は素晴らしい美術品でも鑑賞しているかの如く深いため息を漏らし、愛おしそうにピンと気を付けの姿勢で固まった俺自身を両手で包み込み、それに頬擦りをしてきた。

「も、もう……。もう……、もう……、ダメーーー!」

 服の上からならばまだ堪えることができたが、自分の手以外の肌が初めて俺自身に触れた事による衝撃は強く、俺の中で必死に抑え込んでモゾモゾと蠢いていた熱情を暴発させ、俺自身はビクンビクンと身震いをしながら白い弧を描いて体内に溜め込まれていたいた熱情の塊は放出された。
 リオン王子は「えっ!」と驚き、お楽しみが突然終わりを告げた事に少し残念といった様子で白い弧を描いて放出されて落ちた熱情の塊を寂しげに見つめ、俺は何とも言えない気持ちになって身を縮こまらせていた。

「流石、マモル姫だね……。初めてなのだから我慢ができないよね……。思ったよりも早かったのは寂しいけども………、僕の手に、唇に、吐息に感じてくれてとても嬉しいよ。」

「あ………、うん……。」

 放心状態の俺はこの後どうしたら良いのかも分からぬまま、熱の無くなった空っぽの俺はただ素っ気なく返事をしていた。

「もう夜も遅い……。この続きはまた明日ね……。僕も明日は全力でやっちゃうから………、覚悟しておくんだぞ。」

 魂が抜けた様に素っ気なくなった俺を気にすることも無く、リオン王子は「おやすみ」と優しく甘い声で囁いてから唇にキスをし、この部屋をあとにした。
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