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【31】温もりの鼓動

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 抱き締め合って伝わる互いの温もりに安堵し、時が止まれば良いのにと二人は願う。
 今日の集合時間は昼頃で、あと四時間ぐらいはまだ余裕があった。

「亮……。今日で最期かもしれない。例え幸運にも死ななかったとしても、明日心身ともに無事だとは――」

「――うん。そう……だね」

「だからさ。昨日の続き……しよう」

「続き……」

 亮はポッと頬を赤くして目を閉じると樹の顔が迫ってくる感覚がする。
 途中止めだった昨日からの壁を乗り越え、今日遂に本当の大人になるのだとドキドキと胸が高鳴り始めるが……。

「ちょっ! ちょっと待って! 時間は大丈夫?」

 夢の中へと沈み込むその直前に隣室からガタガタという音がし、意識が引き戻されてハタと気が付いてしまった。
 気付きたくもなかった現実のことを。

「大丈夫さ。全然余裕――とまではいかないかもだけど……。俺は残り少ない時間を後悔ないものにしたい」

「そうだけど……」

「嫌……か?」

 問われて亮は首を横に振る。

「嫌じゃない……。嫌じゃないよ。ちょっと心配なだけなんだ……」

 どうにもザワザワとする胸の内で、小さなモンスターが突っ走ろうとする自分を掴んで止めようとしてくるような感覚が亮はした。
 樹から抱かれて愛の実感を得られれば不安は消えそうな気がするけども……。

「亮……ほら、温かいだろう? トクン、トクンって脈打ってるだろう……?」

 するとそんな気持ちを察してか亮の手を握り、樹は自分の胸に押し当てるのだった。

「うん……」

「この熱い情熱を伝え――亮にとって初めての愛の交わりを得る相手になりたい。それは今という機会しかないんだ!」

「樹、僕も――。避けようのない恐怖が後にあろうとも、最初は樹が良い……」
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