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【29】怖い現実

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「言っただろう? 昨日……。僕は樹にこれ以上傷付いてほしくないんだって」

「でも……。亮は知らないだろうけど、初陣に立てば士官どもにお前の存在が見付かる。今までは訓練期間中で、下っ端だけの集まりだったからいいものの……」

 その言葉の意味がいまいち分からずに量は首を傾げた。

「それぞれに好みはあっても、士官どもの多くは幼い顔立ちをした線が細めの男を好む傾向にある。毎度の戦争のおり、士官どもは初日の夜に集まった時に品定めをするんだ」

「品定め?」

「あぁ、そうだ。天幕に呼び、一夜を共にするお気に入りを選ぶんだ」

「一夜を共にって、つまりは――」

「自分に奉仕する男を選ぶわけだ。しかもされること全てを受け入れなければならず、呼びだしも断れない。――亮は確実に呼びだしがかかるだろう。それも複数から」

 そこで亮は肩を落とし、初めて現実を知った。
 この時代に生きているにしては大人の汚い部分に対して少し疎い傾向にあるが為に知らなかった事だった。
 それもこれも樹による自己犠牲の賜物なわけなのだが……。

「複数だと――どうなるの? 僕は呼びだしてきた上官全員のところへ?」

「いや、その中でも一番トップにいる人間の所に行くことになる」

「それなら……」

 樹は若干ホッとしていた亮を強く抱きしめ返し、首を横に振った。

「そうじゃない……。そうじゃないんだ。階級が上の方になるほどに残虐性の強い人間になる傾向がある。戦争で生き残っても、その夜に上官の天幕で死ぬなんてことも――」

 そこまで聞いて亮はゾワリと背中が震える。
 出世の為にと士官たちの夜のお供をする呼び出しを喜ぶやつもいるが……大概は戦々恐々としているという実状なのだ。
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