上 下
7 / 36

【6】酒と涙

しおりを挟む
 気まずい空気の流れる中、樹と亮は軍の宿舎へと帰ってきた。
 まるでどんよりとした陰を背負ってるかのような顔をした亮をみかね、樹はグイッと亮の腕を掴む。

「この後少し時間あるか? 明日はほら、戦争日だ。お前が新兵を卒業して初の実戦の日だし……」

 亮は黙ったままコクリと頷く。

「じゃあ……ちょっとこい!」

 掴んだ腕を引っ張ってそのままズンズンと廊下を歩き、自室へと招き入れてベッドに座るように亮を促した。
 4畳半もない狭い部屋に粗末なベッドと小さな机と椅子が一つ。
 樹は机の上に備え付けられた小さな棚から中身がもう残り少なくなっていた酒瓶を取り出し、一緒に出して机に置いた2つのコップにトプトプと酒を注いだ。

「まぁ……飲め」

 グイッと目の前に差し出された小さなコップを亮は黙って掴む。
 樹は椅子に座ると酒を一気に煽り、空のコップを机のトンと置いた。
 そして意を決したかのように口を開く。

「俺はな。俺にとってはな、お前が希望なんだ。だからガキの頃も年頃の近い奴らを集めて協力してお前を守った。辛いなんて思ったことはないんだよ」

 樹の言葉に亮はポタリと涙を落とす。

「そんなことはないはずだよ! 養親おやじに仕事だと言って何度も連れていかれた時も……。本当は僕が行かなきゃならない時だってあったはずだよ?」

「まぁ……な。でもほら、俺って丈夫だから」

 そう言って樹はニッと笑ってみせた。

「嘘つかないで!」

 自分に対して弱みを隠すようにして笑う樹にイラつき、亮は小さな子供のように泣きじゃくり始める。
 樹は樹で泣き叫びだした亮を前にしてイライラが募り、頭をガシガシと掻きむしって立ち上がった。
しおりを挟む

処理中です...