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【3】心配

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「休暇……ではあるが。なに、気にするな。用事は済んだし。亮、お前が心配だからな」

「――っ! ありがとうございます!」

 亮は憧れのエイデンと一緒に市井を歩けることに喜び、見えない尻尾を振っているのが容易に見てとれるほどに嬉しそうに目をキラキラとさせて敬礼をする。
 それを見てエイデンは可愛いやつだなと思いが沸き、胸を思い切り鷲掴みされたのだった。
 心配――というのは嘘ではないが、実はこの世界でただ一人の特別な思いを寄せる相手と仕事関係の人間もいない場所で傍に、共に居たかっただけなのだ。

「……で、なんで一人だったんだ? いつもなら少なくとも二人一組でやる仕事だろう?」

「それが……今日の僕のパートナーだった相手が腹痛で寝込んでしまいまして……。しかも運悪く代わりの人が見付からなかったもんで…………アハハッ」

 困った様に苦笑いをする亮の顔にエイデンは一抹の不安を覚えた。
 下町にはまだそこそこいるが、この地において二人は珍しい存在である。
 世界を分け、国の存続を賭けた戦いであった第三次世界大戦で敗北した日本人の血脈を持つ者。
 見た目からもそれと分かり、どうしても悪目立ちをしてしまうのだ。
 祖先が日本人というだけで差別されて来た二人は軍に入ってからも嫌厭の対象で……。

「またなんだな!? そういう時は俺に相談しろって言っただろ? 遠慮なく俺を頼れって!」

 申し訳なさげに亮は少し俯き、エイデンの顔をチラリと見上げる。

「いいな?」

「……うん」

 不安から無意識に仕事モードから幼馴染モードに切り替わってしまったエイデンに合わせ、亮も幼馴染として返す。
  エイデンが上司という事を気にして口篭もる亮に対し、半ば強制するように語気を強くして言い伏せるのだった。
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