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【1】故郷の今

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「何だ貴様は? 昼間から酒臭いな……。こんな道端で……おいっ! 止めろっ!」

 生きているのが不思議なぐらいにやせ細った中年男は目をらんらんと輝かせ、汚れた下町に不似合いな兵士にガバリと抱き着く。
 酒に侵されてプルプルと震える手で酒はないか金はないかと兵士の懐に勝手に手を入れ、ゴソゴソとまさぐってくる姿はどう見てもアルコール中毒者のそれだった。

「貴様っ!」

 まさぐられた中年アル中男の手の感触に背筋がゾワリとして不快感を覚え、兵士は反射的に拳を振り上げる。
 自己防衛の為に握られた拳には加減などなく、本能のままに思いっきり殴ってしまった。
 が、中年アル中男はヘラヘラと笑うばかりで薄気味悪くなり、なんとか自分の体から引き剥がすとそのまま勢いからよろけて地面にペタリと尻もちをついていた。
 これ幸いとばかりに兵士はその場から走り去り、まだ安全な場所だと思われる大通りへと逃げたのだった。

「ハァ、ハァ、ハァ……。この辺の治安も、だいぶ……悪くなってきた、な…………」

 壊れた街灯に片手をつき、荒くなった呼吸の中からポツリと零れた。
 別段に愛着があるわけでもなかったが、自らが育った下町の状況の変化に愁意を抱いてか。

 気が付けば予想をはるかに超えて百年以上も続いている小氷期。
 勃発した戦争も時間をかけずして紛争から内戦へ、内戦から外戦へと戦火は拡大していくこととなり、頻発する飢餓から起こった戦争は世界規模にまで繋がって絶えることはない。
 そうして寒さは人々の心も凍てつかせ、今や戦争は娯楽産業。

「軍人になれば……下町からは抜け出せるが、下町に来れば格好の的だな。危険極まりない」
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