異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
上 下
77 / 89
第7章 成長と変化

6.マザコン疑惑

しおりを挟む
 アダムとピエトロとアンドレアがやんややんやと騒ぐ中、照れと恥ずかしさから俺とリリアは互いに顔を背けたまま暫し口を開けずにいた。
 こういう時、年上である俺が率先して話しかけて場の空気を変えた方が良いのは分かっているが……分かってはいるのだが、今まで恋人がいたことすらも無く、これまでの人生の中で女性と関わった経験も指の先ほどしかないが為にどう切り出したらいいものかと思いあぐねていた。

「まったく………。」

 そんな中をやれやれといった様子でフウ~と鼻から息を吐きながら、イブは騒いでいた三人をキッと睨んで静かにさせて窘めた。

「ルカ様、リリア。いつまでそうやって恥ずかしがって黙ったままになってるんですか……。それぐらいの事には慣れていただかないと――。こうやって隙を見つけては騒ぐのが好きな男どもがいるんですから。」

 そう言ってイブはチラリと横目で三人を見ると、アダムもピエトロもアンドレアも体をビクリとさせてシュンと俯き、尻尾もダラリと垂れ下がっているので相当応えている様だった。

「ルカ様から色が失われたなんて大問題ですよ。そんな呑気に構えていていいんですか? 邪神の呪いのせいかもしれないってのに……。もうちょっと慌てた方がいいと思うんですよね、私は。」

「う~ん……。そうは言ってもさ、イブ。ずーとフードや帽子を被っていて周りには見られていないし、見られた事のある相手が居る場所では今まで通り隠していれば俺の髪色や目の色が変わったことを知られる事なんてないと思う。それに黒色である方が何かと不便だったから、この先は隠す必要もなく楽になると思うよ。今まで見慣れていた物じゃなくなったことで少し寂しい部分はあるけども、……俺にとってはコンプレックスだったから寧ろ解放されて気持ち的には楽になったんだけどな。」

「もうちょっと事の重大さをですねぇ―――。」

 抱っこしているパウロの頭を撫でながら俺はあっけらかんとハハハッと笑いながらイブと話をしていると、ゴロゴロと鳴らしていた喉の音を止めてパウロが話しに割って入ってきた。

「イブ~。そんなにカリカリしないでもうちょっと落ち着くにゃ~。ワタチもお揃いじゃなくなったことは寂しいけど……もう仕方のないことだと諦めたにゃ~。お兄ちゃんはお兄ちゃんなのだし……。何かあった時には何かあった時に考えればいいにゃ。今そんなにカリカリしたって何にもならないにゃ~。」

「―――パウロ様がそう仰るのでしたら……。」

 パウロののほほんとした雰囲気に圧され、イブはそれ以上口を出すのを止めた。
 少しくすんだ金髪に近い色合いの髪はいいとして、正直目の色が菫色というのは少々奇異ではあるのだが――ここは異世界だ。
 異世界なので地球でほどはおかしくは無いだろうと俺はそこまで悩まずにいたし、人生初の明るい髪色に少し顔がにやけもしていた。

「これで――今までよりは、母さんに少しは似てるかな?」

 親子に見えないと散々言われてきていたのは髪や目の色の所為だけではないのは自分でもどこかで分かっていたが、髪や目の色さえ同じならという思いが年齢を重ねていくほどに深まっていっていた。
 だから美人な母さんとは違って女子にモテる見た目でもなく平凡な見た目で、なおかつ身長も低いというわけではないがイタリアとのダブルとしてみれば高くもなく、見た目にコレと言って特徴のない俺は自分自身に劣等感を抱き、その一方で母さんへの憧れにも似た思いから風に揺れてキラキラと艶めいていたあの大好きな髪は「あれさえあれば……」という俺の欠けた思いの象徴だったのだ。
 イタリアと日本のダブルだと聞くとさぞや美男もしくは美女がといった感じで想像されて期待され、実際の俺を見た友達の母親らからは「せっかくの欧州人との混血の失敗作」だと陰で言われた事があり、それは幼い頃だけではなく小学校にあがっても中学校へ行くようになっても……ずっと変わらなかった。
 それが俺の心の傷となって始終付きまとっていたからこそ、およそ日本人らしくないこの髪や目の色に変わったことでより母を身近に感じられて嬉しくなっていた。

「――『母さんに』って?」

「い、いやいやいや。別に俺はマザコンじゃないからなっ!」

 ポツリと言った独り言にリリアが不意に質問してきたので恥ずかしさから焦り、俺は慌てて否定した。

「『マザコン』? 『マザコン』って何?」

「えっ――と、まぁ……。なんというか………。俺は母さんの事は好きだが、度を越してまで好きってわけでもなく―――。別に執着もしてないし―――。」

 しどろもどろになってしまっていた。
 この世界にない『マザコン』という言葉の意味を聞かれ、説明しようとすればするほど「あれっ? もしかして俺って……」という思いが湧いてきて土壺に嵌ってしまい、どうにも上手く言えなかった。

「―――この年齢になってまで母さんのことが好きって……変、かな?」

「ううん。」

 あわあわしながら放った俺の一言にリリアは静かに首を横に振り、俺の目を見てニッコリと微笑んだ。

「私も自分の母さんの事が大好きだし、全然悪い事なんかじゃないわ。特にお兄ちゃんはもう二度と会えないんだから……年齢なんて関係なく、自信をもって大好きだって言える方がずっとずっといい事なのよ。私もそんなお兄ちゃんの方が嬉しいわ。」

「ワタチも!」

 リリアの話に賛同する様にパウロも右手をあげた。

「ワタチもママの事は好きだし、お兄ちゃんの事も大好きにゃ~!!」

「クスッ……。パウロったら。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...