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第6章 仲間と絆
9.異邦人
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「あの―――もう、話せますか?」
「あ、ありがとうございます。」
見た目からおそらくは人間、サクラヴェール国民であろうと思ってその人間に“日本語”で話しかけてみると、相手も俺に日本語で返してきた。
「あなたはもしかして――サクラヴェール国の人ですか? どうしてこんな所に……?」
「そうです。実は―――。」
一応は話ができるにまで落ち着いたその人は、一度大きく深呼吸をした後に話を続けた。
この国での一般人の往来としてはサクラヴェール国民は国境にある街やいくつかの解放された都市しか行くことができないはずであり、けっこう奥まった場所にあって過激派とも言われている黄色エルフの多く住むこの森でエルフ以外の外国人がいるという事自体が異様な事であるのだが……。
「えっ!? 誘拐?」
「はい―――。実は貿易の為に特産品を持ってサクラヴェール国から国境都市に来たのですが……そこでちょっと悪いエルフに捕まっちまいましてね。要するに騙されたんですよ。で、この国では立場の弱いサクラヴェール国民ということを利用して冤罪をかけられて、あれよあれよと言う間にこの森にある黄色エルフの街に奴隷として売られたというわけでして……。」
「奴隷だって!?」
思いもかけない言葉を耳にして吃驚とし、意図せずして俺から発せられた大声にそれまで淡々と話していたこの人間は目を点にして体をビクリと反応させた。
「すまない。つい大声を出してしまって……。」
「いや、無理もない……。奴隷なんて制度、この世からなくなって幾久しい。今ではどの国にもないはずだが――闇社会ではまだ存在していたんだ。どの国でもそうだが……外国人が犯罪を犯したところでそれが例え冤罪であったとしても、守ってくれるものは何もないからね。加えてこのオフィーリア国の人種は長寿種という弊害で子供が生まれにくい。だから―――。」
「だからイイ鴨が国の中に入ってきたら適当に冤罪をふっかけて攫うってわけか。」
「そっ。まさかそこまで危険だとは思わなくってさ……。あっしもね、休戦して国交がもたれたのをチャンスとばかりに荷車に積めるだけ積んでこの国に来たんだけど……それが運の尽きだったわけさ。故郷へ帰ろうと、最初に売られた先の屋敷をどうにかこうにか逃げ出しても、すぐに別のエルフに誘拐されて更に逃げられないこの森奥深くに売られたワケだもの。あの時はもう駄目かと思ったよ。」
そう話すとこの人間は肩を落とし、ハァーと力なく溜め息を吐いた。
「それで―――なんで一人で黄色エルフの街からこっちの方まで走って来ていたの?」
「そう! それっ!!」
しょぼんと弱弱しくなっていた人間はスッと元気を取り戻したように背筋を伸ばし、俺を数度指さして突然声を張り上げた。
その変わりように今度は俺が吃驚し、耳をつんざく様な声と仕草に思わず仰け反ってしまった。
「今日……っていうか今夜はさ~、あの黄色エルフの街では収穫祭の日らしいんだよ。それで冬を前にして今年収穫された豆や野菜を祭壇に捧げて盛大な祭りをしてたんだけど―――起っちまったんだ。」
一度頭を少し下げてから上目遣いで俺の顔をグイッと下から煽るみたいにし、まるで怖い話をする様に顔を近づけて迫ってきた。
その迫力に俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「起こったって……一体なにが―――。」
「祭壇に捧げられていた野菜らが月光を浴びると皆マンドレイクみたいに変異しちまって……。特に数十年に一度とされていた大きさにまで育っていた大蕪が手を付けられない程に暴れ出して街を壊しちまったのさ………。言いつかっていた雑用をしていたあっしもそれを見て恐ろしくなっちまって――ガクガクと立っているのもやっとな程に震えちまっていたが、今しかないと命からがらあそこから逃げ出してきたのさ。」
「なるほど………。」
ここまでの話を聞き、この人間の姿を改めて観察してみたが特に怪しい所も見当たらず、このまま放置することもできないしまあ大丈夫かと精霊の手に案内した。
「お兄ちゃん!」
精霊の手の中へ入ると、いの一番にリリアが俺に抱き着いてきた。
その俺に抱き着いてきた手はフルフルと震え、落ち着かせる為にとギュッと抱き締めるとリリアが俺の無事を確認する様に目を合わせてきた顔は不安そのものといった感じであった。
その表情から横に視線を移すと、起きていた猫たちも不安そうな面持ちをしていた。
「心配かけたみたいで……ごめんな。」
安心させようとリリアの頭を撫で、その後で少し手を伸ばしてイブ、ピエトロ、アンドレアの順に頭を撫でた。
相変わらずパウロとアダムはグースカと寝ていたのにはちょっと―――笑ってしまった。
「肝が据わっているというか、何と言うか……。この二人は大物だな。」
「流石にこんな時に微動だにせず起きないというのは――問題なのではないですかにゃ?」
「まっ、特に問題が起こったわけでもないし、いいよ。大丈夫、大丈夫。」
「ルカ様がそういうのでしたら……。」
フフッと笑いながら溢した俺の言葉に半ば呆れ気味で話しかけてきたイブは、俺のした返事にしょうがないなと鼻でフンスと息を吐いていた。
「―――で、入り口前で突っ立っているこちらの御仁は?」
「えっと……そういえばあなたの名前は?」
アンドレアに聞かれてこの人間から聞いたことを説明しようとした今になって初めてハッと名前をまだ聞いていないことに気が付き、後ろを振り返って聞いたけど返事はなかった。
それもそのはずで目を見開いたまま口をポカーンと開けており、どう見てもその様相は驚愕といった感じであった。
「ね、猫が―――喋ってる…………!!」
俺が肩を揺さぶってやっと開いた口からはアワアワと狼狽えながらもそう発せられた。
「あ、ありがとうございます。」
見た目からおそらくは人間、サクラヴェール国民であろうと思ってその人間に“日本語”で話しかけてみると、相手も俺に日本語で返してきた。
「あなたはもしかして――サクラヴェール国の人ですか? どうしてこんな所に……?」
「そうです。実は―――。」
一応は話ができるにまで落ち着いたその人は、一度大きく深呼吸をした後に話を続けた。
この国での一般人の往来としてはサクラヴェール国民は国境にある街やいくつかの解放された都市しか行くことができないはずであり、けっこう奥まった場所にあって過激派とも言われている黄色エルフの多く住むこの森でエルフ以外の外国人がいるという事自体が異様な事であるのだが……。
「えっ!? 誘拐?」
「はい―――。実は貿易の為に特産品を持ってサクラヴェール国から国境都市に来たのですが……そこでちょっと悪いエルフに捕まっちまいましてね。要するに騙されたんですよ。で、この国では立場の弱いサクラヴェール国民ということを利用して冤罪をかけられて、あれよあれよと言う間にこの森にある黄色エルフの街に奴隷として売られたというわけでして……。」
「奴隷だって!?」
思いもかけない言葉を耳にして吃驚とし、意図せずして俺から発せられた大声にそれまで淡々と話していたこの人間は目を点にして体をビクリと反応させた。
「すまない。つい大声を出してしまって……。」
「いや、無理もない……。奴隷なんて制度、この世からなくなって幾久しい。今ではどの国にもないはずだが――闇社会ではまだ存在していたんだ。どの国でもそうだが……外国人が犯罪を犯したところでそれが例え冤罪であったとしても、守ってくれるものは何もないからね。加えてこのオフィーリア国の人種は長寿種という弊害で子供が生まれにくい。だから―――。」
「だからイイ鴨が国の中に入ってきたら適当に冤罪をふっかけて攫うってわけか。」
「そっ。まさかそこまで危険だとは思わなくってさ……。あっしもね、休戦して国交がもたれたのをチャンスとばかりに荷車に積めるだけ積んでこの国に来たんだけど……それが運の尽きだったわけさ。故郷へ帰ろうと、最初に売られた先の屋敷をどうにかこうにか逃げ出しても、すぐに別のエルフに誘拐されて更に逃げられないこの森奥深くに売られたワケだもの。あの時はもう駄目かと思ったよ。」
そう話すとこの人間は肩を落とし、ハァーと力なく溜め息を吐いた。
「それで―――なんで一人で黄色エルフの街からこっちの方まで走って来ていたの?」
「そう! それっ!!」
しょぼんと弱弱しくなっていた人間はスッと元気を取り戻したように背筋を伸ばし、俺を数度指さして突然声を張り上げた。
その変わりように今度は俺が吃驚し、耳をつんざく様な声と仕草に思わず仰け反ってしまった。
「今日……っていうか今夜はさ~、あの黄色エルフの街では収穫祭の日らしいんだよ。それで冬を前にして今年収穫された豆や野菜を祭壇に捧げて盛大な祭りをしてたんだけど―――起っちまったんだ。」
一度頭を少し下げてから上目遣いで俺の顔をグイッと下から煽るみたいにし、まるで怖い話をする様に顔を近づけて迫ってきた。
その迫力に俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「起こったって……一体なにが―――。」
「祭壇に捧げられていた野菜らが月光を浴びると皆マンドレイクみたいに変異しちまって……。特に数十年に一度とされていた大きさにまで育っていた大蕪が手を付けられない程に暴れ出して街を壊しちまったのさ………。言いつかっていた雑用をしていたあっしもそれを見て恐ろしくなっちまって――ガクガクと立っているのもやっとな程に震えちまっていたが、今しかないと命からがらあそこから逃げ出してきたのさ。」
「なるほど………。」
ここまでの話を聞き、この人間の姿を改めて観察してみたが特に怪しい所も見当たらず、このまま放置することもできないしまあ大丈夫かと精霊の手に案内した。
「お兄ちゃん!」
精霊の手の中へ入ると、いの一番にリリアが俺に抱き着いてきた。
その俺に抱き着いてきた手はフルフルと震え、落ち着かせる為にとギュッと抱き締めるとリリアが俺の無事を確認する様に目を合わせてきた顔は不安そのものといった感じであった。
その表情から横に視線を移すと、起きていた猫たちも不安そうな面持ちをしていた。
「心配かけたみたいで……ごめんな。」
安心させようとリリアの頭を撫で、その後で少し手を伸ばしてイブ、ピエトロ、アンドレアの順に頭を撫でた。
相変わらずパウロとアダムはグースカと寝ていたのにはちょっと―――笑ってしまった。
「肝が据わっているというか、何と言うか……。この二人は大物だな。」
「流石にこんな時に微動だにせず起きないというのは――問題なのではないですかにゃ?」
「まっ、特に問題が起こったわけでもないし、いいよ。大丈夫、大丈夫。」
「ルカ様がそういうのでしたら……。」
フフッと笑いながら溢した俺の言葉に半ば呆れ気味で話しかけてきたイブは、俺のした返事にしょうがないなと鼻でフンスと息を吐いていた。
「―――で、入り口前で突っ立っているこちらの御仁は?」
「えっと……そういえばあなたの名前は?」
アンドレアに聞かれてこの人間から聞いたことを説明しようとした今になって初めてハッと名前をまだ聞いていないことに気が付き、後ろを振り返って聞いたけど返事はなかった。
それもそのはずで目を見開いたまま口をポカーンと開けており、どう見てもその様相は驚愕といった感じであった。
「ね、猫が―――喋ってる…………!!」
俺が肩を揺さぶってやっと開いた口からはアワアワと狼狽えながらもそう発せられた。
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