異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
上 下
52 / 89
第5章 港湾都市オズリック

1.リリアの気持ち

しおりを挟む
「やっと着いたぞ~!」

「にゃ~ぁ!」

 化けガエルの2度に亘る襲撃により、予定よりも3日近く遅れて港湾都市オズリックに俺たちは着いた。

「さぁ! まずは道中で手に入れた物を売ったらご飯でも食べるか~。」

 提げていた鞄をポンポンと叩いて示すと、買い取ってくれる店を探そうとキョロキョロと周りを見渡しながら街の中へと入っていった。
 今回は昼日中に街へと入ることができたのであちこちから子供の声も聞こえ、昼の騒がしさを感じられた。

「やっぱり日の高い内に街に着けると余裕があっていいなぁ。この世界には24時間営業の店なんてないし、結構早くにどの店も閉まっちゃうからなぁ……。」

「お兄ちゃんの居た世界では24時間開いてるお店なんてあったの? そんなの…、寝る時間無いとか奴隷じゃん……。しかも夜中なんて、来るお客さんいるの?」

 リリアは24時間という言葉にギョッとして不思議そうに俺の顔を見た。

「ハッハッハッハッハッ…。俺の居た世界では色んな時間に働いてたりする人も居てな、需要があったんだよ。それにほら、急に何か欲しくなった時とか便利だろ? 店もずっと1人でしてるんじゃなくて、何人もの人でそれぞれ時間を分けて働いているから大丈夫なんだよ。」

「ふぅ~ん…。何だか変わってるんだね~。何百年も前にここでは廃止された奴隷制度が、お兄ちゃんの居た世界ではまだあったのかと思ったよ。」

「廃止? へ~ぇ、そうだったんだ……。サクラヴェール国ぐらいの文明レベルだと奴隷って居そうなのに見ないな~と思ってたら、そういうことだったのか……。」

 この世界に来て最初に見たサクラヴェール国の印象は中世ヨーロッパという感じだったので意外に思え、俺が思ってたよりも結構文明とか進んでいるのかもしれないなと思った。

「それにしてもこの街は何だか面白いね。ホレイショーの街と違ってどの建物の壁や屋根も色取り取りに塗られていて派手で、この街にいる人たちも見たことの無い色をしてるし陽気だし。」

 アシュワガンダの街に来てた商隊や、ホレイショーの街で見た住人のエルフたちは地球のゲームとかでよく描かれている様な俺の想像通りの姿だったが、この街にいるエルフはどの人も今までとは違っていて驚き、右を見ても左を見ても俺はポカンと口が開いたままになってしまっていた。

「淡い白藍の肌に紺碧の髪の人に、淡い桜色の肌に蘇芳の髪の人とか……。なんだか作り物みたいだね。」

「この街はエルフの禁忌を犯すことによって力を得る代わりに、その身の姿形が変わってしまった人たちだけで作られた街だってアージェが言ってたからにゃ。そのせいじゃにゃい?」

 俺の懐に潜っていたパウロが俺にボソリと小さな声で言った。

「そっか…。しかし、エルフの街なのによく見りゃ巨乳美人が多……。」

「もうっ! お兄ちゃんっ!」

 街のどこを見ても巨乳で美人のお姉さんが多く、思わず見とれて顔が緩んででもいたのか、俺のポロッと溢した言葉によってリリアにつま先を思いっきり踏まれてしまった。

「ごめん、ごめん。リリア。」

 俺のついうっかり発した言葉にまたリリアを怒らせてしまい、暫くは謝りどおしとなってしまった。
 リリアは可愛いが、16歳の健康的な男子の俺としてはついつい巨乳で美人のお姉さんに目が行ってしまうのは仕方のないことなので、それぐらい許してほしいなと謝りながらも心の中で呟いていた。

「目が行っても、ヘタレな俺には声を掛けるとかもできないし、見るぐらいはさ……。」

「何か言った!? お兄ちゃん?」

「い、いや。別に……。」

 ボソッと口から洩れた俺の呟きに、リリアは語気を強めて俺に迫ってきたが何とか宥めようと誤魔化した。
 俺よりも5歳も年下だということに加え、まだ成人する前の胸もつるペタの子供だということがコンプレックスなのか、人のたくさんいる街に入るとリリアはやたらとピリピリとした雰囲気になり、ちょっとした事ですぐに焼きもちを焼く。

「多少なら可愛いんだけどなぁ…。それにまだ11歳の成長途中だし、そんなことを気にしても仕方ないのに……。」

 俺も自分の見た目にコンプレックスはあるが、リリアと違って救いが見当たらない。
 リリアの場合、これから5年10年と経って成長してしまえば問題は解決し、何も気にならなくなるだろう些細な事でしかない。

「だが俺の場合は……。」

 この世界には母の姿がないので比べられるということがもう無く、最近は少しだけ心は軽くなっていたが、幼い頃からずっと周りの人たちに言われ続けて心に深く刻まれたコンプレックスはそう易々とはなくならない。

「この世界で黒髪黒目がバレると、神殿とか王様の所に連れていかれたりして自由が無くなるしな~。地球の時とは理由は違っても…、やっぱりこの黒髪黒目が気になって気になって仕方がないや……。」

 ため息を吐きながら前屈みに俯いて歩いていると、前から歩いて来ていた人にドンッとぶつかってしまった。

「あっ! ご、ごめんなさい!」

「もうっ。お兄ちゃん、何してるの~。気を付けて歩かなきゃダメでしょ。」

 俺よりも少し前を歩いていたリリアが俺が誰かに謝っている声に気付き、こちらへ振り返って注意をした。

「私も前をちゃんと見てなかったから…。ごめんなさいね。」

 そう言って俺とぶつかった女の人とはお互いにペコリとお辞儀をし、謝り合った後に顔を上げて見合わせた。
 すると、その瞬間俺は驚きと気恥ずかしさから顔が真っ赤になって固まってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...