異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第4章 出会いと別れ

3.成長

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「ねぇ、お兄ちゃん。そろそろ1回休もうよぉ…。」

「もう? 街を出てからまだそんなに経って無いぞ?」

 俺たちはアージェと一緒に朝食を食べるとすぐにホレイショーの街を出発した。

「ワタチも疲れちゃったから休みたいにゃ~。」

「私も少し休みたいですにゃ。」

「だらしがないわね~ぇ。アダム。」

 街の門を出てすぐの所でエルフの乗る宙に浮く自転車の様な乗り物とすれ違った時、怪我をしたので抱きかかえられているイブは俺の腕の中から見下ろした先に居るしんどそうに歩いているアダムを煽り立てた。

「ルカ様に抱っこされて楽をしてるイブに言われたくないにゃ。」

「私は仕方ないでしょ~。」

「まぁまぁ…。それにしても…、あの乗り物が撥ねた小石がイブの足に当たって怪我したっつっても擦り傷程度で済んで良かったなぁ。」

 撥ねた石が当たった直後はイブもその痛さのあまり叫んでもいたが、俺がサクラ王に持たされていた塗り薬を塗って手当てをすると、スゥ―っと痛みが引いたらしく元気になった。
 だが痛みが引いたとはいえ怪我をした足ではヒョコヒョコと歩きにくく、俺も心配だったので暫くはイブだけ抱っこをして移動する事にしたのだ。

「おっ! ここら辺ならいいか……。」

 そこまで急ぐ旅でもなかったが、夜になって暗くなる前に野営し易い場所まで着いておきたかった俺はここで休みたくはなかったもののよく開けた場所がふと目に留まり、皆がどうしても休みたいと騒がしいので一旦休憩時間にした。
 ハァハァと息を切らしていたリリアとアダムは座り込んで水を飲み、また歩ける様に体力が少し回復するまで1時間近く休息をとったが、なんとか日が暮れる前に山裾から広がる森の傍まで来ることが出来たのでホッとした。

「とりあえずここまで来れて良かった~! 野営は街道から外れて人から見えない場所でしなきゃならんのにこの国は道が整備され過ぎてて、この森の傍まで来ないとずーっと場所が無かったんだよな~。」

 サクラヴェール国も街の内部は石畳の道もあったが大体が土を踏み固めただけの道となっており、オフィーリア国に入ってもホレイショーの街の近くまではそれが続いていた。
 しかし明らかにサクラヴェール国よりも文明レベルの高いオフィーリア国では、街の内部だけではなく外にある街道まで謎の素材で舗装がなされていた。

「石でもアスファルトでもなく、一枚の長ーい鉄板が敷かれた様な独特の道だな~。さっき見た宙に浮く乗り物に合わせているのかな……。」

 ジーっと見ても俺のよく知る地球に存在する文明では推し量れないその作りに、もしかしたら地球よりも進んだ文明レベルなのかもしれないと胸が躍った。
 中世ヨーロッパっぽい雰囲気の中に魔道具や魔法が存在するという世界観であったサクラヴェール国もゲームの中にあるファンタジーそのものって感じでワクワクしたが、それとは違って何か俺の暮らしていた時代の地球に近い様なそれよりも先を行っている様な雰囲気にドキドキしていた。

「まるでラノベやRPGの様な雰囲気に最初の方こそワクワクしたけども、魔法があるって言っても中世ヨーロッパレベルの文明度だと、便利な生活に慣れていた俺には少々キツイんだよな~。でもこの様子だと、オフィーリア国にはその辺の期待が持てそうだから楽しみだな~。」

 テントを張りながらそんな事を思ってニマニマ笑い、薪拾いに向かわせたリリアと猫たちを待った。

「お兄ちゃ~ん。いっぱい枯れ枝拾えたよ~。」

「おぉ! お帰り。」

 リリアたちに渡された枯れ枝を薪にして焚き火を作った俺は、皆を休ませて夕飯にする為の魔物を狩りに一人で森に入った。

「今日この森で、風属性の小型の魔物を4匹狩る許しを神様に貰ったから、これで街に着くまでの食料が持つかな~。順調にいけば5日でオズリックに行けるらしいけど……。」

 俺はキョロキョロと魔物を探して辺りを見回していると、低木の茂みからガサガサと兎にも狐にも似た、風属性を表す薄緑色の毛皮をした魔物がピョンっと1匹飛び出てきた。
 森に入ってすぐに見つけれた風属性のその獲物は俺の思い切りが付かず、タイミング悪く獲物に飛び掛かった為に攻撃が甘かったので逃がしてしまった。

「肉を食べる為には殺さなきゃならないのにな……。やっぱり俺には厳しいな…。でも、パウロたちの為にも……やらなきゃ!」

 俺は次こそはと剣を握り直し、再び先程の魔物を探した。
 すると今度は2匹寄り添っているのを発見し、「よしっ!」と覚悟を決めて今度こそはと剣を振り下ろした。

「ヤーァッ!」

 さっきと違い剣はこの魔物の首を切り落とし、土の上へ頭と切り離されて意識のない体がボトリと落ちた。

「うっ………。」

 俺は落ちた体と頭を拾って麻袋の中へ入れて再び獲物を探した。
 先程ので覚悟の決まった俺は残り2匹も首をはねて捕らえ、少々時間はかかったが4匹の小型の魔物を麻袋に詰めてテントのある場所まで戻ってきた。

「ただいま~。魔物狩ってきたぞ~。」

「「「わぁ~い!」」」

 どうしても少し躊躇われていた肉への下処理は「家の手伝いで慣れているから。」と、リリアが買って出てくれたので問題なく夕飯が作れた。

「完成~! ミャエナのシチューが出来たよ~。」

「「「いっただきまーす!」」」

 美味しそうな匂いと共に焚き火から空へと立ち上る湯気と煙がさっき初めて自らの食料の為だけに殺した小さな魔物、ミャエナへ抱く俺の何とも言えない思いを慰めてくれた。
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