追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第32話 病の名は

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「ユリシーズ様からの頼みでしたら、まぁ。事情……ですか」

「あぁ。だが無理にできないことを頼むつもりはないのでダメならダメと言ってくれ」

「了解しましたよ」

 アイアスはしょうがないなと思い、頭を掻いた。
 ユリシーズはとかく身の内に入った者に対しては甘く、面倒見が良いという言葉を通り越して世話焼きなのである。
 なのでこういったことも初めてではなく、上官である前に親友でもあるユリシーズのそんな優しさが好きでアイアスも面倒だなと思いつつも毎回付き合っているのだった。

「あっ……!」

「どうされました?」

 赤ん坊の触診をし、喉や目などをジックリと診ていたアイアスが何かに気づいてあげた声にステラが反応した。

「あぁ~。なるほど……」

「どうだ?」

「ユリシーズ様が俺に『診てくれ』といった意味が分かりましたよ」

「では……私の予想通りということかな」

「とはいえ、俺も医者じゃないんで絶対とは言い切れませんがね。これは恐らく『低エーテル濃度浮遊症』でしょうね」

 2人のその会話に目をパチクリとさせ、初めて聞く病名にハンナは困惑の表情を浮かべた。

「やはり……。赤ん坊で罹ることは極めて珍しいといえるが、症状がまさにそれであったからな」

「ですね。でも一体なぜ……」

 ユリシーズとアイアスの2人も赤ん坊が罹るには珍しい病気であることに困惑して頭を悩ませる。
 ステラ達を置き去りにして。

「あっ、あの!」

 と、説明もされずに話が進んでいることにステラは耐えきれなくなったとばかりに声を上げた。

「それで……それはどういうご病気なんですか? もしや、重い病気とか……」

 ユリシーズとアイアスの空気感からはそうだとしか思えなかったのである。
 特に話さなくとも分かっているという風に2人だけで目の前で話をしている様子は不安しかない。
 不安そうな表情で青ざめた顔を向けられ、ハッとしたユリシーズは慌てて表情を取り繕ったのだった。

「ご安心ください、ステラさん。赤ん坊には珍しい病気ではありますが、治療法はあります。すぐに治ります」

「ほんとう……ですか?」

「えぇ。ご不安にさせたようでしたら申し訳ございません」

「い、いえ。そんなっ」

 ユリシーズの言葉を聞いて少しホッとしたのか、ステラの顔色が徐々に戻っていく……。

「それで……ですね。『低エーテル濃度浮遊症』というのは簡単に言うと――器である身体と、その身体に入るべきエーテルの塊である魂の不具合によって起こる病気の1つです。通常は器の大きさに合わせたエーテルレベルの魂が宿り、器の成長に合わせて魂が成長していくので問題が起こることはないのですが――」
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