25 / 32
第25話 選ぶべきもの
しおりを挟む
「あっ! そろそろ私は……。部屋で寝ている友人に朝食を持って行かなきゃならないので」
そう言って朝食を終えていたユリシーズが席を立ったのを見て、ステラも続けて立った。
「ご、ごめんなさい。お食事が終わった後も長らく話をして引き止めてしまってたみたいで……」
ハンナも立ち上がろうとしたが、赤ん坊を抱いていたからかユリシーズにも制止され……。
「ハハッ。お気になさらず。この街に来るまでが長旅でしたので、友人もそのせいで疲れが出ちゃっただけでしょうし。たいしたことはありませんから」
ステラは頭をぺこりと下げ、楽しいからとつい相手の都合を疎かにして長話をしてしまったことを申し訳なく思い、謝罪したのだがユリシーズはそれにただ笑顔で優しく返すのだった。
その柔らかな応対にステラも感化され、上品に言葉を添えるのだった。
「どうぞ、その方にお大事にとお伝えくださいませね」
「ありがとうございます。出発の予定は3日後なので……その時にまた、お会いしましょう」
「えぇ。分かりましたわ。本当にありがとうございます!」
お礼を告げてから二階へ上っていくユリシーズの背中を見送った。
そしてステラは再び席についたが心は夢の中を漂っているようで、内に溜まった熱を吐き出さんと溜め息がハァ~と漏れていた。
「いい方……でしたわね」
「えぇ……」
ハンナが話しかけてもウットリとした目で何もない空を見上げ、話を聞いているんだか聞いていないんだか。
「ステラ。ダメですよ」
「――何よ」
「今の私たちは――」
そこまで言うとハンナは口をステラの耳にそっと近付け、周りに聞こえないようにヒソヒソ声でその後の言葉を続ける。
「私たちは追放の身。ステラ様に至っては庶民ですらなく……ましてや赤ん坊もいるのですからね」
夢見心地だったステラはそこでハッとする。
「それに――あの方の振る舞いからしてもどう見ても貴族、またはその縁者でしょう? であれば、今のステラ様とは――」
「そ……そうでしょうけどぉ」
喜びで薄っすらと染まっていた頬は消えて寂しそうな顔になり、ガッカリとしたステラはうな垂れてブツブツと。
「分かってる。分かってるけど……」
「優しくされたからと言っても……。私はステラ様に――娘にこれ以上は傷付いてほしくはなのです」
「うん……そうよね。母さんは私のことが心配なのよね。分かってる」
バッと両手で顔を隠して深呼吸をして気持ちを落ち着けると、ステラは赤ん坊のほっぺを確かめるように撫でるとその手の指を反射的に握られた。
弱々しくも掴まれた小さなその手から自分は頼りにされたのだと感じ、ギュッと心をも掴まれて決めた。
「まずは私たち、家族3人で幸せになることを考えなければね!」
そう言って朝食を終えていたユリシーズが席を立ったのを見て、ステラも続けて立った。
「ご、ごめんなさい。お食事が終わった後も長らく話をして引き止めてしまってたみたいで……」
ハンナも立ち上がろうとしたが、赤ん坊を抱いていたからかユリシーズにも制止され……。
「ハハッ。お気になさらず。この街に来るまでが長旅でしたので、友人もそのせいで疲れが出ちゃっただけでしょうし。たいしたことはありませんから」
ステラは頭をぺこりと下げ、楽しいからとつい相手の都合を疎かにして長話をしてしまったことを申し訳なく思い、謝罪したのだがユリシーズはそれにただ笑顔で優しく返すのだった。
その柔らかな応対にステラも感化され、上品に言葉を添えるのだった。
「どうぞ、その方にお大事にとお伝えくださいませね」
「ありがとうございます。出発の予定は3日後なので……その時にまた、お会いしましょう」
「えぇ。分かりましたわ。本当にありがとうございます!」
お礼を告げてから二階へ上っていくユリシーズの背中を見送った。
そしてステラは再び席についたが心は夢の中を漂っているようで、内に溜まった熱を吐き出さんと溜め息がハァ~と漏れていた。
「いい方……でしたわね」
「えぇ……」
ハンナが話しかけてもウットリとした目で何もない空を見上げ、話を聞いているんだか聞いていないんだか。
「ステラ。ダメですよ」
「――何よ」
「今の私たちは――」
そこまで言うとハンナは口をステラの耳にそっと近付け、周りに聞こえないようにヒソヒソ声でその後の言葉を続ける。
「私たちは追放の身。ステラ様に至っては庶民ですらなく……ましてや赤ん坊もいるのですからね」
夢見心地だったステラはそこでハッとする。
「それに――あの方の振る舞いからしてもどう見ても貴族、またはその縁者でしょう? であれば、今のステラ様とは――」
「そ……そうでしょうけどぉ」
喜びで薄っすらと染まっていた頬は消えて寂しそうな顔になり、ガッカリとしたステラはうな垂れてブツブツと。
「分かってる。分かってるけど……」
「優しくされたからと言っても……。私はステラ様に――娘にこれ以上は傷付いてほしくはなのです」
「うん……そうよね。母さんは私のことが心配なのよね。分かってる」
バッと両手で顔を隠して深呼吸をして気持ちを落ち着けると、ステラは赤ん坊のほっぺを確かめるように撫でるとその手の指を反射的に握られた。
弱々しくも掴まれた小さなその手から自分は頼りにされたのだと感じ、ギュッと心をも掴まれて決めた。
「まずは私たち、家族3人で幸せになることを考えなければね!」
3
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
転生したので前世の大切な人に会いに行きます!
本見りん
恋愛
魔法大国と呼ばれるレーベン王国。
家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。
……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。
自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。
……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。
『小説家になろう』様にも投稿しています。
『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』
でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。
冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~
真曽木トウル
恋愛
「アルヴィナ、君との婚約は解消するよ。君の妹と結婚する」
両親から冷遇され、多すぎる仕事・睡眠不足・いわれのない悪評etc.に悩まされていた王女アルヴィナは、さらに婚約破棄まで受けてしまう。
そんな心身ともボロボロの彼女が出会ったのは、和平交渉のため訪れていた10歳上の敵国将軍・イーリアス。
一見冷徹な強面に見えたイーリアスだったが、彼女の置かれている境遇が酷すぎると強く憤る。
そして彼が、アルヴィナにした提案は────
「恐れながら王女殿下。私と結婚しませんか?」
勢いで始まった結婚生活は、ゆっくり確実にアルヴィナの心と身体を癒していく。
●『王子、婚約破棄したのは~』と同じシリーズ第4弾。『小説家になろう』で先行して掲載。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
【本編完結】婚約破棄されて嫁いだ先の旦那様は、結婚翌日に私が妻だと気づいたようです
八重
恋愛
社交界で『稀代の歌姫』の名で知られ、王太子の婚約者でもあったエリーヌ・ブランシェ。
皆の憧れの的だった彼女はある夜会の日、親友で同じ歌手だったロラに嫉妬され、彼女の陰謀で歌声を失った──
ロラに婚約者も奪われ、歌声も失い、さらに冤罪をかけられて牢屋に入れられる。
そして王太子の命によりエリーヌは、『毒公爵』と悪名高いアンリ・エマニュエル公爵のもとへと嫁ぐことになる。
仕事を理由に初日の挨拶もすっぽかされるエリーヌ。
婚約者を失ったばかりだったため、そっと夫を支えていけばいい、愛されなくてもそれで構わない。
エリーヌはそう思っていたのに……。
翌日廊下で会った後にアンリの態度が急変!!
「この娘は誰だ?」
「アンリ様の奥様、エリーヌ様でございます」
「僕は、結婚したのか?」
側近の言葉も仕事に夢中で聞き流してしまっていたアンリは、自分が結婚したことに気づいていなかった。
自分にこんなにも魅力的で可愛い奥さんが出来たことを知り、アンリの溺愛と好き好き攻撃が止まらなくなり──?!
■恋愛に初々しい夫婦の溺愛甘々シンデレラストーリー。
親友に騙されて恋人を奪われたエリーヌが、政略結婚をきっかけにベタ甘に溺愛されて幸せになるお話。
※他サイトでも投稿中で、『小説家になろう』先行公開です
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる