上 下
23 / 32

第23話 相談

しおりを挟む
「ふふっ」

 思わずユリシーズの口からは笑みが漏れ出た。

「いや、失礼。こんな場所であまりにも上品に挨拶を返されたことに驚きのあまり――つい」

 優し気に微笑むユリシーズの視線を感じ、しまったという思いと恥ずかしさからステラの顔は真っ赤になってしまった。

「ステラさんはどこかの良家の方なので?」

「うっ……あっ……えっとぉ」

 返事に困って口篭もっているステラを見てハンナはハラハラとしていた。
 怪しまれやしないか、うっかりと何かを口走ってしまうのではと。
 そこですかさず助け船を出すことにした。

「そうではありませんが――似たようなものでしょうか。私たちはとある貴族筋のお邸にて住み込みで働かせていただいていたので、その時に見様見真似ですが教育も少し」

「あぁ――なるほど。私はてっきり……いえ、そうなのですね」

 ユリシーズは訝しげに目を細めてハンナをジッと見ながらしばし思案した。
 そしてうんうんと頷き、それ以上は聞こうとしなかったのだった
 子連れの親子がこんな場所で、何かしらの訳ありだろうとは予想がつく。
 それを今初めて顔を見たばかりの男に正直に話すはずもなく、ハンナがユリシーズのことを警戒視しているのは感じていたのだ。
 ならば誤魔化す為に嘘だって当たり前に吐くものだろう……と、言われるがままに今は飲み込むしかない。

「ところで移住先をと言っていましたが何か伝手が? 赤子を連れての旅は大変でしょう?」

「いえ、なにも……なにもないのです。ですが贅沢は求めませんし、ゆったりのんびりとした空気の田舎の方へ住みたいなと。ただ落ち着いて住める場所であれば何も……」

「えぇ。娘の言う通り田舎の方へ移住したいのです。街中は疲れたのでできるだけ離れた場所で……。ユリシーズ様、これもご縁と相談に乗ってくださいませんか? どこか良い所を知っていましたら教えてください」

「う~ん。そう言われましても……。赤子連れですしねえ」

 頭を搔きながらユリシーズは悩んだ。

「赤ん坊がいるとやはり、難しいですか?」

「一応、ひとつ思い当たる場所はありますが……しかし……場所がね~」

「場所……ですか?」

 ステラは首を傾げた。

「子育てにもいい場所――ではあると思うのですが、そこは陸の孤島とも言われてまして。赤子連れですとそこまでの道のりが困難かと」

 ハンナは『陸の孤島』と聞いてハッとする。

「もしやそこは……流刑地とされる場所ではありませんか? でなければ『陸の孤島』だなんて」

 何か嫌な予感がしたハンナは怖々とユリシーズに尋ねてみるが……。

「い、いや! 違いますよ! そこは心配なさらないでください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

殿下が好きなのは私だった

恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。 理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。 最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。 のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。 更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。 ※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

もう、あなたを愛することはないでしょう

春野オカリナ
恋愛
 第一章 完結番外編更新中  異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。  実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。  第二章   ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。  フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。  護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。  一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。  第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。  ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!  ※印は回帰前の物語です。

冷遇王女の脱出婚~敵国将軍に同情されて『政略結婚』しました~

真曽木トウル
恋愛
「アルヴィナ、君との婚約は解消するよ。君の妹と結婚する」 両親から冷遇され、多すぎる仕事・睡眠不足・いわれのない悪評etc.に悩まされていた王女アルヴィナは、さらに婚約破棄まで受けてしまう。 そんな心身ともボロボロの彼女が出会ったのは、和平交渉のため訪れていた10歳上の敵国将軍・イーリアス。 一見冷徹な強面に見えたイーリアスだったが、彼女の置かれている境遇が酷すぎると強く憤る。 そして彼が、アルヴィナにした提案は──── 「恐れながら王女殿下。私と結婚しませんか?」 勢いで始まった結婚生活は、ゆっくり確実にアルヴィナの心と身体を癒していく。 ●『王子、婚約破棄したのは~』と同じシリーズ第4弾。『小説家になろう』で先行して掲載。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

円満婚約破棄をしたらゆるい王妃様生活を送ることになりました

ごろごろみかん。
恋愛
死霊を祓うことのできる霊媒師・ミシェラは皇太子から婚約破棄を告げられた。だけどそれは皇太子の優しさだと知っているミシェラは彼に恩返しの手紙を送る。 そのまま新興国の王妃となったミシェラは夫となった皇帝が優しい人で安心する。しかもゆるい王妃様ライフを送ってもいいと言う。 破格の条件だとにこにこするミシェラはとてつもないポジティブ思考の持ち主だった。 勘違いものです ゆるゆる更新で気が向いた時に更新します

処理中です...