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第22話 挨拶

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「おはようございます。ステラ」

 先に起きていたハンナが身支度を終え、そっとステラを起こした。

「おはよう、母さん」

 まだ眠い目を擦って体を起き上がらせるがまだ眠く、ステラには目覚めた感覚が薄い。
 それは最初こそぐずってはいたもののひとしきり泣き喚くとスッキリしたのか疲れたのか、すぐに眠ってくれたので赤ん坊のせいではなく……。

「あら? 昨夜はあまり眠れませんでしたか?」

「ん~、まぁ……ね」

「そんなに昨夜は赤ん坊がぐずってましたっけ?」

「そういうわけじゃないの。そういうわけじゃ……。ただちょっと落ち着かなかっただけよ」

 何かを隠して言い訳をするように慌てて喋るステラの様子はどう見ても不思議で、ステラの髪をといていたハンナの手も止まった。

「落ち着かない……ですか?」

「私の気持ちの問題で……。ほ、ほら! 隣の部屋の人のことが気になるでしょ? 何か問題があるとかではないから全然っ」

「はぁ……そうですか? それなら、まぁ」

 これ以上は話してくれそうにない雰囲気だなと分かるや、ハンナは諦めて止まっていた手を再び動かしだした。
 これ以上聞かれないことに少しホッとしたステラは身支度を済ませるとサッとドアを開ける。

「さっ、朝ご飯に向かいましょ。いつものパンとスープが置かれた食卓に」

 この宿に泊まってからずっと同じ朝ご飯の繰り返しであるのに、今日は心なしかウキウキとした顔をステラは見せるのだった。

「――そうですね。いつもの食卓に向かいましょう」

 廊下を歩き、階段を降り、食堂に向かうと答えは後からやってきて。

「おはよう、お嬢さん」

「おっ、おはようございます!」

 背後から昨夜の男から声を掛けられ、ステラの声が弾んでいたことでハンナはピンと来た。
 ご機嫌なのはこの男が原因なのだと。

「おや? こちらにもレディがいたようだね。赤ん坊を抱いているが――君の姉君かな?」

「えっと……私の母、です」

 された質問にステラはポッと顔を赤らめ、照れ恥ずかしそうにはにかんで答えた。

「お母上でしたか。私は隣室に泊っている者でして、名を――ユリシーズと言います。昨夜お嬢さんとは知り合いましてね。どうぞお見知りおきを」

 そう言って男は胸に右手を置き、ハンナに向かって軽く会釈をして紳士的に挨拶をしてきた。

「まぁ! ユリシーズ様とおっしゃるの?」

「そういえば昨夜は突然のことで名乗ってませんでしたね。お嬢さんの名前も聞きそびれてしまって……お名前は?」

 ハッとしたステラは立ち上がり、つい身に付いた癖でスカートを摘まみ上げて貴族的な挨拶に。

「私はステラ―ーですわ! 母と2人、移住先を探して旅をしていますの」
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