22 / 32
第22話 挨拶
しおりを挟む
「おはようございます。ステラ」
先に起きていたハンナが身支度を終え、そっとステラを起こした。
「おはよう、母さん」
まだ眠い目を擦って体を起き上がらせるがまだ眠く、ステラには目覚めた感覚が薄い。
それは最初こそぐずってはいたもののひとしきり泣き喚くとスッキリしたのか疲れたのか、すぐに眠ってくれたので赤ん坊のせいではなく……。
「あら? 昨夜はあまり眠れませんでしたか?」
「ん~、まぁ……ね」
「そんなに昨夜は赤ん坊がぐずってましたっけ?」
「そういうわけじゃないの。そういうわけじゃ……。ただちょっと落ち着かなかっただけよ」
何かを隠して言い訳をするように慌てて喋るステラの様子はどう見ても不思議で、ステラの髪をといていたハンナの手も止まった。
「落ち着かない……ですか?」
「私の気持ちの問題で……。ほ、ほら! 隣の部屋の人のことが気になるでしょ? 何か問題があるとかではないから全然っ」
「はぁ……そうですか? それなら、まぁ」
これ以上は話してくれそうにない雰囲気だなと分かるや、ハンナは諦めて止まっていた手を再び動かしだした。
これ以上聞かれないことに少しホッとしたステラは身支度を済ませるとサッとドアを開ける。
「さっ、朝ご飯に向かいましょ。いつものパンとスープが置かれた食卓に」
この宿に泊まってからずっと同じ朝ご飯の繰り返しであるのに、今日は心なしかウキウキとした顔をステラは見せるのだった。
「――そうですね。いつもの食卓に向かいましょう」
廊下を歩き、階段を降り、食堂に向かうと答えは後からやってきて。
「おはよう、お嬢さん」
「おっ、おはようございます!」
背後から昨夜の男から声を掛けられ、ステラの声が弾んでいたことでハンナはピンと来た。
ご機嫌なのはこの男が原因なのだと。
「おや? こちらにもレディがいたようだね。赤ん坊を抱いているが――君の姉君かな?」
「えっと……私の母、です」
された質問にステラはポッと顔を赤らめ、照れ恥ずかしそうにはにかんで答えた。
「お母上でしたか。私は隣室に泊っている者でして、名を――ユリシーズと言います。昨夜お嬢さんとは知り合いましてね。どうぞお見知りおきを」
そう言って男は胸に右手を置き、ハンナに向かって軽く会釈をして紳士的に挨拶をしてきた。
「まぁ! ユリシーズ様とおっしゃるの?」
「そういえば昨夜は突然のことで名乗ってませんでしたね。お嬢さんの名前も聞きそびれてしまって……お名前は?」
ハッとしたステラは立ち上がり、つい身に付いた癖でスカートを摘まみ上げて貴族的な挨拶に。
「私はステラ―ーですわ! 母と2人、移住先を探して旅をしていますの」
先に起きていたハンナが身支度を終え、そっとステラを起こした。
「おはよう、母さん」
まだ眠い目を擦って体を起き上がらせるがまだ眠く、ステラには目覚めた感覚が薄い。
それは最初こそぐずってはいたもののひとしきり泣き喚くとスッキリしたのか疲れたのか、すぐに眠ってくれたので赤ん坊のせいではなく……。
「あら? 昨夜はあまり眠れませんでしたか?」
「ん~、まぁ……ね」
「そんなに昨夜は赤ん坊がぐずってましたっけ?」
「そういうわけじゃないの。そういうわけじゃ……。ただちょっと落ち着かなかっただけよ」
何かを隠して言い訳をするように慌てて喋るステラの様子はどう見ても不思議で、ステラの髪をといていたハンナの手も止まった。
「落ち着かない……ですか?」
「私の気持ちの問題で……。ほ、ほら! 隣の部屋の人のことが気になるでしょ? 何か問題があるとかではないから全然っ」
「はぁ……そうですか? それなら、まぁ」
これ以上は話してくれそうにない雰囲気だなと分かるや、ハンナは諦めて止まっていた手を再び動かしだした。
これ以上聞かれないことに少しホッとしたステラは身支度を済ませるとサッとドアを開ける。
「さっ、朝ご飯に向かいましょ。いつものパンとスープが置かれた食卓に」
この宿に泊まってからずっと同じ朝ご飯の繰り返しであるのに、今日は心なしかウキウキとした顔をステラは見せるのだった。
「――そうですね。いつもの食卓に向かいましょう」
廊下を歩き、階段を降り、食堂に向かうと答えは後からやってきて。
「おはよう、お嬢さん」
「おっ、おはようございます!」
背後から昨夜の男から声を掛けられ、ステラの声が弾んでいたことでハンナはピンと来た。
ご機嫌なのはこの男が原因なのだと。
「おや? こちらにもレディがいたようだね。赤ん坊を抱いているが――君の姉君かな?」
「えっと……私の母、です」
された質問にステラはポッと顔を赤らめ、照れ恥ずかしそうにはにかんで答えた。
「お母上でしたか。私は隣室に泊っている者でして、名を――ユリシーズと言います。昨夜お嬢さんとは知り合いましてね。どうぞお見知りおきを」
そう言って男は胸に右手を置き、ハンナに向かって軽く会釈をして紳士的に挨拶をしてきた。
「まぁ! ユリシーズ様とおっしゃるの?」
「そういえば昨夜は突然のことで名乗ってませんでしたね。お嬢さんの名前も聞きそびれてしまって……お名前は?」
ハッとしたステラは立ち上がり、つい身に付いた癖でスカートを摘まみ上げて貴族的な挨拶に。
「私はステラ―ーですわ! 母と2人、移住先を探して旅をしていますの」
14
お気に入りに追加
192
あなたにおすすめの小説

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

すれ違い夫婦の大冒険~花嫁を放置した旦那様と白黒つけるため追いかけます~
白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「まともな夫婦生活は諦めてくれ。その代わり、好きに過ごしてもらって構わない……ですってぇ~!?」
王家から命じられた結婚相手からの手紙に、私はわなわなと震えた。
思えば学生時代から周囲に振り回されっぱなしだった私。王子の婚約者から頼まれて殿下お気に入りの平民の世話を焼けばいじめられたと断罪され、婚約破棄された令嬢は隣国の王子に気に入られたので私一人が割を食って修道院行きになり、戻ってきて結婚が決まったと思えば、相手は没落貴族で滅多に帰らない冒険者――
「やってられますかっての! いいわよ、好きに過ごせと言うのなら……」
溜まりに溜まった鬱憤を、一度も顔を見せに来ない夫(暫定)にぶつける事にする。早いとこ会って話をつけ最速で白い結婚を成立させるため、私は旦那の足取りを追うのだった。
※第16回恋愛小説大賞に参加。
※カクヨムでも連載中。
幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される
ちゃっぷ
恋愛
家族から産まれたことも生きていることも全否定され、少しは役に立てと言われて政略結婚する予定だった婚約者すらも妹に奪われた男爵令嬢/アルサイーダ・ムシバ。
さらにお前は産まれてこなかったことにすると、家を追い出される。
行き場を失ってたまに訪れていた教会に来た令嬢は、そこで「産まれてきてごめんなさい」と懺悔する。
すると光り輝く美しい神/イラホンが現れて「何も謝ることはない。俺が君を幸せにするから、俺の妻になってくれ」と言われる。
さらに神は令嬢を強く抱きしめ、病めるときも健やかなるときも永遠に愛することを誓うと、おでこにキス。
突然のことに赤面する令嬢をよそに、やたらと甘い神様の溺愛が始まる――。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

とても「誠実な」婚約破棄をされてしまいました
石里 唯
恋愛
公爵令嬢フェリシアは、8年に及ぶ婚約関係にあった王太子レイモンドから、ある日突然、前代未聞の「誠実な」婚約破棄を提示された。
彼にしなだれかかる令嬢も、身に覚えのない断罪とやらもない。賠償として、レイモンドはフェリシアが婚姻するまで自身も婚姻せず、国一番の金山と、そして、王位継承権まで、フェリシアに譲渡するという。彼女は承諾せざるを得なかったが、疑問を覚えてしまう。
どうして婚約破棄をするの?どうしてここまでの賠償を――?
色々考えているものの、結論は考えていないものと大差が無くなってしまうヒロインと愛が深すぎて溺愛を通り越してしまったヒーローの話です。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる