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第20回 落ち着かない夜
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結局いつもより2時間近く遅れてステラとハンナは夕食をとることになった。
「すみませんねぇ、お客さん」
「いえ、いいの。それよりも……隣の部屋に新しく来ていらしたお客さんって、どういう人なのです?」
もし夜中にクレームを入れられたらと不安になり、話しかけてきた女将にステラは何気に尋ねてみることにした。
「へっ? あ……いやぁ……」
「あっ、あの! 私たち、赤ん坊がいるでしょ? だから怒りっぽい人かどうか知りたいだけなの! 事前にお断りの挨拶もしておいた方がとも思ったのですが……」
答えにくそうに困っている女将の様子を見るや、その人の気質を知りたいだけだとハンナはフォローのつもりで咄嗟に口を挟む。
お陰で強張りかけていた女将の表情も柔和され、ホッとしたようで――。
「あ、あぁ。そういうことで……。大丈夫ですよ。お優しい方ですから。お部屋に案内する時も私のショールが床に落ちてしまったのを拾ってくださいましたしね」
「そう、ありがとう。ちょっと心配してたのよ」
「まぁ、ただちょっと――」
「おいっ!」
宿の主人からかけられた突然の大声に三人はビクッと体を反応させる。
そうして何かを言いかけていた女将は主人に制止され、店の奥へと引っ込んでいくのだった。
「お客さん」
「は、はいっ!」
「わかるだろ? 他人のことにあまり口を突っ込まんでくだせぇ」
そう渋い表情をした主人の注意は女将だけではなく、ステラとハンナにも向けられた。
「も、もう大丈夫です! 気になっていた心配事はなくなりましたから――ねっ?」
「え? えぇ」
少し怖くなったステラとハンナは二人して返事をし、主人を遠ざける。
昨日までとは打って変わって宿全体がピリピリとした空気。
それだけでステラの心の中では警鐘が鳴っている気がしていた。
「今日はもう……部屋に帰りましょう」
「そうですわね。落ち着きませんもの……」
食べるのもそこそこに客室へと静かに戻ることに。
「なんだか食べた気がしませんわ」
「そう……ですね」
いつもは弾む会話も弾まず、赤ん坊から発せられるご機嫌な声だけが部屋を充満していく。
だがしばらくした後に暗い空気を断ち切るようにして、ステラがおもむろに立ち上がる。
「ちょっとお水を貰ってくるわね」
「それなら私がっ!」
「い、いいのっ! ここに、いて。赤ん坊と」
「――分かったわ」
台所の方に行くと女将がまだ片付けの最中で、お願いするとコップに入れた水を快く渡してくれた。
一応は点いている明かりもまばらな宿の中、特に2階は足元が薄暗くてよく見えない。
「コップを両手に持っていると歩きづらいわね」
と、そろそろと歩いていたステラは何かにつまづいてしまって――。
「危ないっ!」
「すみませんねぇ、お客さん」
「いえ、いいの。それよりも……隣の部屋に新しく来ていらしたお客さんって、どういう人なのです?」
もし夜中にクレームを入れられたらと不安になり、話しかけてきた女将にステラは何気に尋ねてみることにした。
「へっ? あ……いやぁ……」
「あっ、あの! 私たち、赤ん坊がいるでしょ? だから怒りっぽい人かどうか知りたいだけなの! 事前にお断りの挨拶もしておいた方がとも思ったのですが……」
答えにくそうに困っている女将の様子を見るや、その人の気質を知りたいだけだとハンナはフォローのつもりで咄嗟に口を挟む。
お陰で強張りかけていた女将の表情も柔和され、ホッとしたようで――。
「あ、あぁ。そういうことで……。大丈夫ですよ。お優しい方ですから。お部屋に案内する時も私のショールが床に落ちてしまったのを拾ってくださいましたしね」
「そう、ありがとう。ちょっと心配してたのよ」
「まぁ、ただちょっと――」
「おいっ!」
宿の主人からかけられた突然の大声に三人はビクッと体を反応させる。
そうして何かを言いかけていた女将は主人に制止され、店の奥へと引っ込んでいくのだった。
「お客さん」
「は、はいっ!」
「わかるだろ? 他人のことにあまり口を突っ込まんでくだせぇ」
そう渋い表情をした主人の注意は女将だけではなく、ステラとハンナにも向けられた。
「も、もう大丈夫です! 気になっていた心配事はなくなりましたから――ねっ?」
「え? えぇ」
少し怖くなったステラとハンナは二人して返事をし、主人を遠ざける。
昨日までとは打って変わって宿全体がピリピリとした空気。
それだけでステラの心の中では警鐘が鳴っている気がしていた。
「今日はもう……部屋に帰りましょう」
「そうですわね。落ち着きませんもの……」
食べるのもそこそこに客室へと静かに戻ることに。
「なんだか食べた気がしませんわ」
「そう……ですね」
いつもは弾む会話も弾まず、赤ん坊から発せられるご機嫌な声だけが部屋を充満していく。
だがしばらくした後に暗い空気を断ち切るようにして、ステラがおもむろに立ち上がる。
「ちょっとお水を貰ってくるわね」
「それなら私がっ!」
「い、いいのっ! ここに、いて。赤ん坊と」
「――分かったわ」
台所の方に行くと女将がまだ片付けの最中で、お願いするとコップに入れた水を快く渡してくれた。
一応は点いている明かりもまばらな宿の中、特に2階は足元が薄暗くてよく見えない。
「コップを両手に持っていると歩きづらいわね」
と、そろそろと歩いていたステラは何かにつまづいてしまって――。
「危ないっ!」
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