追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第19話 隣の客

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 あれから宿に泊まって一週間が過ぎた頃。

「ちょっとここで長く休みすぎちゃったかしら? 母さん」

「そうですわね。国境からは早く遠ざからなければ怖いですし……」

「えぇ。我が国の国境沿いにある街は実家とはライバル関係にある貴族の領地。近ければ噂も耳にするでしょうし、なによりも何かあれば巻き込まれる危険性も……」

「とはいえ……私たちには何の伝手つても無いですものねぇ。こちらの国の事はあまり知らないですし、いったいどこへ向かっていけばいいのか……正直迷いますもの」

「本当に……あの国の国境からは遠く離れた、人のあまり来ない寂れた村にでも腰を落ち着けたいものだわ、早く」

 ステラとハンナがこれからのことを相談しあって悩んでいると、珍しく客室の外でバタバタと忙しなく人の歩く音が聞こえてくる。

「あら? どうしたのかしら」

 建物の大きさ的にもこの街の規模的にも、大勢の客がやってくるような宿ではないのにと気になっていると、この部屋のドアがノックされる音がした。

「は、はい! なんですか?」

 ハンナがドアを開けると、この宿の女将がそこに立っていた。

「お客さん。お寛ぎ中のところすみませんねぇ。あの……今日の夕飯なんですけどね」

「何かありました?」

「えっと……隣の部屋のお客さんの関係でちょっと……遅らせていただきたいのですが……」

 なんとも歯切れの悪い調子でモゴモゴと女将はそう伝えてくるのだった。

「えっ? えぇ。赤ん坊用のミルクさえ先に頂ければ私たちは大丈夫ですが……何かありましたか?」

「あっ! いや~、ちょっと……人数の多いお客さんが一度に来てしまって……それだけです! それだけ。では」

 客であるステラに尋ねられたことに何か慌てだし、きまりが悪そうにそう言いきって女将はドアを閉め、一階へと帰って行った。
 何かを隠しているようなその態度に、ステラとハンナは二人して顔を見合わせて不思議だなと首をかしげるのだった。

「どうしたのかしらね?」

「まさか貴族が――ってことはないでしょうが。きっとどこぞの権力者でも泊まりに来たんじゃないですかねぇ。例えば有名な大商会の会頭だったりとか……」

「あぁ、なるほどね~」

「赤ん坊の泣き声がうるさいってクレーム付けられなきゃいいですけど……」

「心配よねぇ」

「男のひとですと、泣き声が気になって怒りだす方も多いとか、聞いたことありますしねぇ」

「怖いわね~。私たちはなるべくかかわらない様に気を付けましょう」

「明日か、明後日か……。この街を出て行く時まで何事もないと良いですね」

「えぇ。何か問題が起きる前に、早くここを出て行きましょう」
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