追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第17話 初めての宿

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「うわ~あぁ!」

 街の中に入ってみればスッカリとエステルの不安は消えてしまっていた。

「良かったですね。街の出入りに何の検査もなくて」

「えぇ」

 入る直前までは二人そろってドキドキと緊張していたが来てみれば何もなかった。
 そばを通りがかった旅慣れた商人らしき人に聞いてみれば、この街では事件でも起きない限りは出入り程度で検査することはないらしい。

「お偉いさんの殆どが領の中央都市にいるし、国境が近いと言っても隣の国とはここ何十年かは何もなく平和だしねぇ……。まぁ重要施設もないこんな小さい街じゃあ特に必要がないんだろうよ」

――とのことだった。

 ホッとした二人はしばらくこの街で休もうかと早速宿へと向かう。

「御者の男がコッソリと持たせてくれたお金もそんなにあるわけでもないし、一番安い所がいいわね~」

「田舎町ですからあるのは数軒ってところでしょうが……ただ安いってだけで選ぶと害虫が酷かったりするって言いますから、よく見て選びませんと」

 ここまでの道中では殆どを馬車の中で寝起きしていたエステルにとって初の宿選びとなる。
 貴族であった時代には経験しなかったことであり、それはハンナも同じだった。

「それは……嫌ですわね。赤ん坊もいることですし」

「先程話をした商人が宿は全て西区画に建っていると言っていましたし、行ってチェックしてから決めましょう!」

 ハンナは意気揚々とエステルを引っ張っていく。

「この街の宿は全部で3軒のようですね」

 宿だと分かる看板には宿泊料金もコインの絵で描かれており、中へ入らなくても一目で分かるようになっていた。

「1軒目は……高いっ! 2軒目は……ほぅほぅ。3軒目は……2軒目のより少しお安いぐらい。人の出入りは……。窓の造りは……」

「なんだか詳しいわね」

 ハンナのチェックしている目付きが鋭く、自分と同じ未経験者だとは思えない口ぶりにエステルは呆気に取られていた。

「ふふっ。私、いろんな旅行記を読むのが好きでして」

「そうなの!? 知らなかったわ……」

「寝る前の時間にひとり、コッソリと読んでましたからね~」

 長い付き合いにもかかわらず新たな一面を知ったことにエステルは驚き、嬉しくなった。

「さ、さぁ! 見たところこの宿が一番いいでしょう」

 少し気恥ずかしそうにしながらハンナは2軒目にチェックした宿をエステルに勧める。

「では、そちらにしましょう」

 ドアを開けるとすぐに見える受付カウンターには気の良さそうなおじさんが座って何やら作業をしていた。

「おぅ! らっしゃい。二人連れかい?」

「いえ……あのぉ……」

「――っ! 赤ん坊!?」
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