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第15話 休息
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「あの~」
「おや、いらっしゃい。旅の人かい?」
国境を越えてすぐの名も無き小さな集落、そこにポツンと1軒だけある喫茶店のような所へとハンナは入っていった。
すると出迎えてくれたのは背筋のまだシャンとした小柄なお婆さんで。
「えぇ、まぁ……。それで、水を売っていただきたくて……あとヤギのミルクもあれば……」
「あぁ~らぁ! 赤子連れてるんかい。そら大変だぁ」
「え、えぇ……。ですが私の子供ではないのでこの子のミルクが欲しいのです」
この集落に来るまでの間、乳がたくさん出て余っている母親がいると聞けば母乳をもらったりしてどうにかしていた。
だが都合よくそんな人がどこにでもいるわけもなく、道中ではこうやってヤギのミルクを買って代用として与えることも多くあったのだった。
「おぉ、おぉ! 子供のミルク分ぐらいなら金はいい。うちの分を分けてもかまわないが……お前さんの子供じゃないってのは? まさか――」
「えっと、ちょっと訳ありでして……。いえ、誘拐などではありませんよ。この子の――母親に託されたんです」
その言葉にお婆さんの眉がピクリと動く。
「託されたって……もしかしてその母親ってのは、死んだってことかい?」
「まぁ……」
ハンナは視線を落として曖昧な返事をして言葉を濁す。
本当のことが言えないのは勿論、性格上ウソもつけないからだ。
それにある意味、死んだというのもウソとは言い切れない状態であり……。
「そうか……聞いて悪かったね。しかし、そんな乳飲み子を連れて旅とは――」
「ふぇっ、ふぇっ、ふぇええーーーんぇええ~ん!」
長話をし過ぎたのか、ハンナの腕に抱かれた赤ん坊が目を覚ましてグズり始めた。
「あぁ、ごめんよ。ミルクだったね。すぐ用意するからね~」
赤ん坊の泣き声でハッとしたお婆さんは厨房の方へと引っ込み、ガタガタとミルクの用意をし始めた。
「おぉ~、よしよし。お腹すいたよね~。もうちょっと待ってね~」
生まれてから十日足らずで生家を追い出され、赤ん坊にしては過酷な旅を強いられた憐れな子供。
なのにもかかわらずここまで元気に生きているというのは、なんと強い子供なのだろうか。
腕に抱いた子供を揺らしてあやしながらふと、ハンナはそんなことを思うのだった。
「はい。人肌に温めてきたよ」
ハンナの居る方へと戻ってきたお婆さんはそう言ってミルクの注がれた温かいカップを近くの机の上に置いた。
「ありがとうございます」
ハンナは一緒に渡された木製のスプーンでヤギのミルクを少しすくい、赤ん坊の口へと持って行く。
唇にスプーンが触れた条件反射で赤ん坊が口を開くと中へ注ぎ入れ……それを赤ん坊が要らないという仕草をするまで繰り返したのだった。
「おや、いらっしゃい。旅の人かい?」
国境を越えてすぐの名も無き小さな集落、そこにポツンと1軒だけある喫茶店のような所へとハンナは入っていった。
すると出迎えてくれたのは背筋のまだシャンとした小柄なお婆さんで。
「えぇ、まぁ……。それで、水を売っていただきたくて……あとヤギのミルクもあれば……」
「あぁ~らぁ! 赤子連れてるんかい。そら大変だぁ」
「え、えぇ……。ですが私の子供ではないのでこの子のミルクが欲しいのです」
この集落に来るまでの間、乳がたくさん出て余っている母親がいると聞けば母乳をもらったりしてどうにかしていた。
だが都合よくそんな人がどこにでもいるわけもなく、道中ではこうやってヤギのミルクを買って代用として与えることも多くあったのだった。
「おぉ、おぉ! 子供のミルク分ぐらいなら金はいい。うちの分を分けてもかまわないが……お前さんの子供じゃないってのは? まさか――」
「えっと、ちょっと訳ありでして……。いえ、誘拐などではありませんよ。この子の――母親に託されたんです」
その言葉にお婆さんの眉がピクリと動く。
「託されたって……もしかしてその母親ってのは、死んだってことかい?」
「まぁ……」
ハンナは視線を落として曖昧な返事をして言葉を濁す。
本当のことが言えないのは勿論、性格上ウソもつけないからだ。
それにある意味、死んだというのもウソとは言い切れない状態であり……。
「そうか……聞いて悪かったね。しかし、そんな乳飲み子を連れて旅とは――」
「ふぇっ、ふぇっ、ふぇええーーーんぇええ~ん!」
長話をし過ぎたのか、ハンナの腕に抱かれた赤ん坊が目を覚ましてグズり始めた。
「あぁ、ごめんよ。ミルクだったね。すぐ用意するからね~」
赤ん坊の泣き声でハッとしたお婆さんは厨房の方へと引っ込み、ガタガタとミルクの用意をし始めた。
「おぉ~、よしよし。お腹すいたよね~。もうちょっと待ってね~」
生まれてから十日足らずで生家を追い出され、赤ん坊にしては過酷な旅を強いられた憐れな子供。
なのにもかかわらずここまで元気に生きているというのは、なんと強い子供なのだろうか。
腕に抱いた子供を揺らしてあやしながらふと、ハンナはそんなことを思うのだった。
「はい。人肌に温めてきたよ」
ハンナの居る方へと戻ってきたお婆さんはそう言ってミルクの注がれた温かいカップを近くの机の上に置いた。
「ありがとうございます」
ハンナは一緒に渡された木製のスプーンでヤギのミルクを少しすくい、赤ん坊の口へと持って行く。
唇にスプーンが触れた条件反射で赤ん坊が口を開くと中へ注ぎ入れ……それを赤ん坊が要らないという仕草をするまで繰り返したのだった。
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