追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

第13話 最後通告

　あの夜から一週間程が過ぎた頃、エマが突然産気づいた。
　だがこれは極秘にしなければならない事であり、本宅に勤める使用人らにもエマ専属メイドであるたった一人を除いて秘密とされていた。
　その為にそろそろだろうと感じていたエマは数日前から離れで生活をしており、当然のようにこの場にはエステルとハンナしかいなかったのだった。

「お医者様は？」

「さっき、メイドに、言って……パパに、呼んでもっ、らたわ。離れに、コッソリと、連れてくる……のに、本宅で、待って、いるはず……よぉ！」

　オロオロとするばかりのエステルの問いかけに、陣痛で苦しみながらもエマは息も絶え絶えに答える。
　ハンナの方はというとエマの腰を擦ったり、濡れたタオルで流れ出る汗を拭いたりしてできる介助をしていた。
　そうこうしている内に医者が到着し、父であるヴィラルドワン公爵に連れられて離れのこの部屋へとやってきて――。

「私の可愛いエマ～。どうだね？　医者を連れてきたから、もう安心して良いのだぞ～」

　公爵は心底心配しているという口ぶりでエマへと駆け寄り、手を握って励ました。

「パ、パぁ……ぅんっ！　だ、大丈夫……よ。耐えてみ、せる……からっ！」

「あぁ！　分かっているさ」

　苦しみに耐えながらニコリと笑って話すエマに返事をすると、公爵は診察をしていた医者の方へと向いた。

「どうですかな？」

「うん、実に順調なようです。このままいけば何の問題もなくご出産できましょう」

「良かった……」

　医者は公爵との話が終わるとエマの世話をしていたハンナを感心するように見て尋ねた。

「君は？　出産介助の経験でもあるのかね？」

「何度か見たことはありますが……介助をしたことあるのは一度だけ。それもお手伝い程度でしたけど……」

「いや～ぁ、実にいい手際だ。そのまま続けたまえ」

　そして運良く何のトラブルもなくそのままお産は進み、小さな男の子がこの世に産まれた。

「ハァ……ハァ……ハァ……やっと、終わった……」

　エマはそう言うと赤ん坊を抱くことなく、医者の診察が終わると疲れたと言って皆を部屋から追い出して寝てしまった。

「あぁ……あの子が、エマが無事で良かった」

　神に祈りを捧げ、公爵はホッとした様子で穏やかな顔をしていた。
　――が、クルリと赤ん坊を抱くエステルの方へと向き直ると不機嫌そうな顔へと変わるのだった。

「あぁ、居たのか。そ・れ・を持・っ・て・一週間以内にはとっとと出て行ってくれよ。エマの輝かしい未来に邪魔なものは早く処分しておきたいんでな。お前はその役割の為に生きているのだろう？」

　まるで汚い生ゴミを見るかのように吐き捨てる公爵の態度に、エステルの目からは光が消えた――。