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第11話 取引の提案
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「えっ!?」
「あなたが、私にとって――いえ、この家にとって不都合なことの全てを肩代わりするの。そう言ったでしょ?」
「そう……だけど――」
「明日には死亡届も出すので、貴族籍からもあなたは消える……」
罪人となってしまっていたがエステルにとってはまだかろうじてこの家の娘であることを――家族との繋がりを証明していた唯一の貴族籍。
そこから消えてしまうという衝撃は幽閉が決定した時以上であった。
「だからってあなたは庶民に落ちるわけではないの」
「それはどういう――」
「庶民は貴族とは違って個人の記録はないけれど、洗礼を受けた教会に家単位での記録名簿はあるって話なの。つまりは存在を示す記録の一切ない、庶民の身分にすらなれない、文字通りのユーレイになるのよ」
クスクスと楽しげに笑うエマ。
「あなたがユーレイならその子供も同じ。どうなるかしらね~、この先。せいぜい苦しむといいわ。楽しみ~」
確かに嫉妬心からイジメはしたが、市民権まで奪われてしまうほどの事をしただろうかとエマからの仕打ちにエステルは愕然とした。
「わ、私は……。私はエマの言う通りに子供を連れて遠くに行くわ。身分証がなければ国境を渡る時にはどうするの?」
村から街へ、街から街へと引っ越す際や国を越えて移動する際には必ず、自分が洗礼式をした教会や国が発行した身分証を引っ越し先に提出する決まりになっている。
その身分証がなければ仕事も就けず、家も借りられずという状態になる。
最悪の場合には国境付近で立ち往生させられた挙げ句、獣に食われて死ぬか餓死となるかの2択で……。
「そんなの、子連れならどうとでもなるわよ。私はそこまで面倒見ないから。あなたと子供の存在が消えてくれさえすれば……なんだっていいのよ!」
不都合な全ての記録を残さないこと、エステルという存在を消すことばかりに囚われてエマは国境問題を忘れていたのだろう……。
標的であるエステルにそれらを指摘されてエマは苛立ってきていた。
「あぁ、もう! うるさいわね!」
大声を出されてビクリとし、一瞬たじろいだがエステルは手をグッと握り締めて恐怖を抑えこんで震えを止めた。
「なら……。なら、ハンナを使ったらどうかしら? ハンナの荷物に紛れてなら問題ないでしょ?」
その提案にエマはハッとしてしばし考え、ニヤリと笑みを返す。
「そうね――。口封じに始末したかったけど……。確かにその方が手間もないし、有効利用できそうね。こんなメイド風情なら、弔いの為に仕事を止めて田舎に引っ越したとでもいえば問題ないか……。た・だ・し――真実を一生口にしないならって話でね」
「あなたが、私にとって――いえ、この家にとって不都合なことの全てを肩代わりするの。そう言ったでしょ?」
「そう……だけど――」
「明日には死亡届も出すので、貴族籍からもあなたは消える……」
罪人となってしまっていたがエステルにとってはまだかろうじてこの家の娘であることを――家族との繋がりを証明していた唯一の貴族籍。
そこから消えてしまうという衝撃は幽閉が決定した時以上であった。
「だからってあなたは庶民に落ちるわけではないの」
「それはどういう――」
「庶民は貴族とは違って個人の記録はないけれど、洗礼を受けた教会に家単位での記録名簿はあるって話なの。つまりは存在を示す記録の一切ない、庶民の身分にすらなれない、文字通りのユーレイになるのよ」
クスクスと楽しげに笑うエマ。
「あなたがユーレイならその子供も同じ。どうなるかしらね~、この先。せいぜい苦しむといいわ。楽しみ~」
確かに嫉妬心からイジメはしたが、市民権まで奪われてしまうほどの事をしただろうかとエマからの仕打ちにエステルは愕然とした。
「わ、私は……。私はエマの言う通りに子供を連れて遠くに行くわ。身分証がなければ国境を渡る時にはどうするの?」
村から街へ、街から街へと引っ越す際や国を越えて移動する際には必ず、自分が洗礼式をした教会や国が発行した身分証を引っ越し先に提出する決まりになっている。
その身分証がなければ仕事も就けず、家も借りられずという状態になる。
最悪の場合には国境付近で立ち往生させられた挙げ句、獣に食われて死ぬか餓死となるかの2択で……。
「そんなの、子連れならどうとでもなるわよ。私はそこまで面倒見ないから。あなたと子供の存在が消えてくれさえすれば……なんだっていいのよ!」
不都合な全ての記録を残さないこと、エステルという存在を消すことばかりに囚われてエマは国境問題を忘れていたのだろう……。
標的であるエステルにそれらを指摘されてエマは苛立ってきていた。
「あぁ、もう! うるさいわね!」
大声を出されてビクリとし、一瞬たじろいだがエステルは手をグッと握り締めて恐怖を抑えこんで震えを止めた。
「なら……。なら、ハンナを使ったらどうかしら? ハンナの荷物に紛れてなら問題ないでしょ?」
その提案にエマはハッとしてしばし考え、ニヤリと笑みを返す。
「そうね――。口封じに始末したかったけど……。確かにその方が手間もないし、有効利用できそうね。こんなメイド風情なら、弔いの為に仕事を止めて田舎に引っ越したとでもいえば問題ないか……。た・だ・し――真実を一生口にしないならって話でね」
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