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第10話 秘密の帰宅

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 ミミズクの鳴き声が目立つほど耳に届き、深夜の静寂を感じさせる時間となり――。

「そろそろ……かしら」

 指定された時間近くになって全てが闇夜に包まれる中、明かりも持たずに二人で玄関扉の内側で待っているのはなんとも奇妙な時間である
 落ち着かないのに話をするのも雰囲気的に憚られ、ハンナは無言のまま荷物を握る手にジワリと妙な汗をかいていた。
 その時、こちらに近付いてくる馬車の音が聞こえてきたのだった。

「来たわっ」

 エステルはグッと手を握り締めた。
 程なくしてノックの音が聞こえ、ハンナがドアを開けて応対する。

「準備はいいか?」

 使者と思われる男はドアが開いた瞬間にぶっきらぼうにそれだけ言い放ち、床に置かれた荷物を勝手に持ち上げるとヒョイヒョイと馬車に積んでいく。
 あっという間に済んだそれにエステルとハンナはお互いに顔を見合わせ、コクリと頷くと急いで馬車に乗るのだった。

「乗ったか? 行くぞ」

 男はサッと確認すると握った手綱で馬に合図し、再び馬車を走らせる。
 使いに寄越すとエマが言った馬車には全てをこなすこの男が一人きりで馬車も小さくて地味――これが極秘のことだとよく分かる選択であった。

 窓らしい窓なんてないこの馬車はタッタカタッタカと夜を突き抜け、いつの間にか王城の敷地より外へと出たが中にいるエステルとハンナには分からない。
 ただ二人で手を握り合い、馬の蹄の音よりも自分の心臓の音の方が大きいんじゃないかと思うほどに共に怖さと緊張からドキドキしていた。
 だが馬の走る音が気が付けばゆっくりとしたものになり、まだ夜明けも遠い真っ暗な内にエステルの実家であるヴィラルドワン家のお邸へと着いたのだった。

「さぁ、降りろ」

 そう言われて馬車の扉が開けられた。

「えっ? ここは……離れ?」

 王都にある貴族邸の中で一番大きな敷地面積を誇り、その中で小さな森に囲われてポツンと建っているのがこの離れである。
 邸に勤める使用人にさえ見付かる事は無く、入り口も別にあるので目立たずに出入りができ、この家の者が誰かしらと密会するのに昔から使われていたそんなところ。

「着いたわね」

 中へと入るとソファーに座ってエマが待っていた。

「……エマ。なんで……」

「確認の為よ。まぁ、どうせあなたは抵抗もできないし逃げようがないんですけどね」

 図星を突かれ、何も言えないエステルは唇を嚙みしめた。

「お医者の話だと今月中には産まれるらしいの。だからいつでも出ていけるようにはしておいてよね」

「えっ!? でもお腹が……」

「出てないって言いたいの? 目立たない様な服にしてるのよ。何しろ不義の子を身籠っているのはではなくなのですからね」
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