追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第9話 決意

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 夕方近くになって片付けも済み、先程までしていたパーティーの為に彩られた花瓶の花がポツンともの悲しげに机の中央に置かれている。
 空はもう半分暗く、太陽がジワジワと沈んでいくのが窓から見えて刻一刻とその時が迫っているのを感じていた。

「わずか一年ばかし……か」

「もっとここで過ごす時間は長いと思っていましたが……案外、あっけないものでしたね」

 ハンナは諦めにも似た表情で部屋を見渡し、まるでエステルが子供の頃のようにブラシで髪をといていた。

「ハンナは――どうしてこの館に、私について入ってくれたの?」

「えっ? 突然なんです?」

「ちょっと聞きたくなったの……。ねぇ、なんで?」

「そうですね~ぇ……。心配だったから、ですかね」

「心配? 私が?」

 ハンナらしいといえばらしい返事にフフッと笑い声を漏らしてエステルは聞き返した。

「子供の頃からお仕えして、専属の侍女としてずっとお傍にいましたからね……。失礼かもしれませんが年の離れた妹の様な、自分の子供の様な……いつの間にかそんな感覚だったのです」

 髪をといていた手を一旦止め、背後で悟られぬよう静かに涙を拭うとポケットからリボンを取り出し、エステルの髪をゆっくりと束ねだす。

「――嬉しい。私も……あの冷たい家でハンナだけが唯一の家族の様な……そんな気持ちだったの」

「エマ様がお邸にいらしてからエステル様はいつも奥様から八つ当たりを受けてましたものね」

「えぇ……。お母様もお辛かったとは思うのだけど、子供の私にはどうすることもできなかったし我慢するしかなかった。――お父様やお母様の前では泣くことも許されなかったから、ハンナがいなければ私はとっくに……」

「私はお嬢様の御心を少しでもお救いできたのなら幸せですよ。身分も中途半端で、貧乏な家でしたので年端も行かぬ頃からお邸で使用人として働いていましたので……結婚も望めませんでしたから。だからお嬢様と過ごしてきた日々は宝物で、本当に幸せでした。幸せでした……」

 昔を思い出し、これで満足、もう運命なのだとばかりに穏やかに話をするハンナの様子にエステルは胸は奥底からマグマが湧きだすように熱くなった。

 三日前からずっと悩んでいたことがある。
 実行するのも怖いと思っていたし、うまくいく保証だってなかった。
 だがエステルに対する思いを聞き、ハンナの深い愛情に包まれて覚悟は決まったのだった。

「ねぇ、ハンナ。私の事……信じてくれる? この先も永遠にずっと――」

「えっ、えぇ……。勿論ですけど? そうは言っても私の時間は――あっても後数日ってところが関の山だと思いますが」
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