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第4話 嵐の来訪

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「お嬢様、お茶をどうぞ」

 この館唯一のメイドであるハンナは温かいお茶をカップに注ぎながら声を掛けた。
 窓辺の椅子に座っていたエステルはそれを聞いて本を閉じ、ハンナの方へと振り向く。

「あら、ありがとう。もう昼過ぎだったのね。今日のお菓子は何かしら~?」

「本日のお茶請けはナッツのスコーンですよ」

「ふふっ。おいしそう!」

 この館にエステルが引っ越してきてもうすぐ一年。
 実家の邸からエステルについて来てくれたハンナとは幼い頃からの付き合いであったが、それはあくまでも主人と使用人としてのものだった。
 しかしここで二人きりで過ごすようになってからはいつの間にか親友のようにお喋りのできる関係に。

「ほら、ハンナも!」

 エステルの斜向かいにある椅子を叩いて同席を促した。

「はいはい」

 ここでは誰に憚ることも必要ないのでハンナはエステルに乞われるがまま、こうして毎日のようにティータイムを共にして午後の一時を寛いでいた。
 そんな2人きりの静かな時間を壊すようにしてこの日、突然の訪問者がやってきた。

「あら? 珍しく門扉のところが騒がしいわね?」

 週に一度、城で働く下男が食料や生活必需品を持ってくる以外に門扉は開かれる事はない。
 ましてや門扉を見張る衛士が騒ぐ事なんて……。

「お嬢様。私、ちょっと見てきますね」

「え? えぇ……」

 また何か良からぬことでも起きるのではと胸がざわつき、齧っていたスコーンを皿に戻してハンナはパタパタと外へと出ていった。

「開けて! 開けてって言ってるでしょ!」

 門扉の前ではフードを目深にかぶって体全てを覆い隠す外套を着た、いかにも怪しい身なりの者が衛士と言い合いをしている。

「ど、どうしたのですか?」

「あぁ、ハンナさん。いや、この怪しいやつが突然来て中に入れろと――」

「いいから私をこの中に入れなさい。私はここにいる女に用があるのよ!」

 衛士は怪しいこの者を制止しつつ、ため息をついて目だけハンナの方に向ける。

「――終始この調子で」

 ほとほと困っているという衛士の様子にハンナはフードを下から覗き込むようにして顔を確認しようとした。
 それに気付くや否や両手でフードを前にバッと引っ張り、見られないようにされた。

「あっ! あなたは――」

 しかしちらりと見えた横顔からハンナはそれが誰だか分かり、咄嗟に名前を口にしようとしたが……。

「メイド! 今ここで口にしようとした言葉はあなたの身を亡ぼすことになるわよ」

 ドスの効いた声にハンナはブルッと背筋が寒くなった。
 逆らえば何があるか分からない……。
 ハンナは命令されるがまま、この怪しい者を館の中へと通すしかなかったのだった。
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