追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
上 下
3 / 32

第3話 遠い空

しおりを挟む
「空って……こんなにも遠いものだったかしら」

 エステルの他には自分の世話をするメイドがたった1人いるだけの質素な館の窓から外を眺め、今までよりも格段に狭まった世界を嘆いていた。
 ギロチンにもされず、修道院送りにもされず――なぜか生かされた命。
 憎いと思って義姉をハメたはずのエマはなぜ、演技をしてルーカスに懇願してまで私を生かしたのだろうかとエステルは何度も考えていた。
 この館に連れてこられたその日からずっと……。

「母違いの――正妻の娘である私なんて生きているだけで邪魔で仕方ないはずなのに……」

 エマの心情は分からないが境遇にはエステルだって同情していた。
 父であるヴィラルドワン公爵が外に作った子供、それがエマであった。
 エステルとは1歳違いであり、初めて会ったのはエステルが十二歳の頃。
 父は秘密にしていたが、とある子爵家の遠縁にあたるほぼ庶民に近しい身分の女の子供であり、エマ自身も貴族としての教育は一度も受けたことがない庶民育ち。
 母親に似て美人なエマを可愛がっていたヴィラルドワン公爵は、母親が亡くなったことを知るやすぐに引き取ったのである。

「かわいそう……なんて思って、仲良くしようと思っていたのにな……最初は」

 スキャンダルとなるが為に、実子ではなく世間的には養子としてヴィラルドワン公爵に引き取られたエマは常に周囲の者らから気遣われ、可愛がられていた。
 だが義姉であるエステルの前でだけは違ったのだった。

「お姉様~。私、もう貧乏は嫌ですの。ひとの顔色をいちいち窺って生きるのも、もうご免だわ。だ・か・ら! 私、この国で一番偉い人になることに決めましたの!!」

 そう、エステルと二人きりになるとエマは飢えた獣のような顔をしてよく話していた。

「好き勝手が許され、皆がかしずく……それが夢。いいえ、私が必ず叶えるべき野望ですのよ!」

 始めはエマが何を言っているのかエステルにはチンプンカンプンで分からなかったが、大勢の人が集まる中で断罪された時、それが明確に解った。

「本性を唯一知っているはずの私まで騙されてたなんて……ね」

 ネコを被ったエマは周囲の者を巻き込めるだけ巻き込み、遂には王太子妃の地位まで手に入れようとしている。
 いや、今やもう確実に手に入れたと言っても過言ではないだろう。

「今の国王様が退位なされば次は王妃――。跡継ぎが生まれれば国母となり……次はどうなるのかしら」

 考えるだけで恐ろしく、エステルはこの国の未来に身震いがした。
 だが世間から隔絶されたこの冬の館から死ぬまで出ることはもうなく、貴族の義務からも遠ざけられたのに未来を考えるなんて……と、同時に空しくもなるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?

まめまめ
恋愛
 魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。  大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹! 「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」 (可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)  双子様の父親、大公閣下に相談しても 「子どもたちのことは貴女に任せます。」  と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。  しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?  どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

すれ違い夫婦の大冒険~花嫁を放置した旦那様と白黒つけるため追いかけます~

白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「まともな夫婦生活は諦めてくれ。その代わり、好きに過ごしてもらって構わない……ですってぇ~!?」  王家から命じられた結婚相手からの手紙に、私はわなわなと震えた。  思えば学生時代から周囲に振り回されっぱなしだった私。王子の婚約者から頼まれて殿下お気に入りの平民の世話を焼けばいじめられたと断罪され、婚約破棄された令嬢は隣国の王子に気に入られたので私一人が割を食って修道院行きになり、戻ってきて結婚が決まったと思えば、相手は没落貴族で滅多に帰らない冒険者―― 「やってられますかっての! いいわよ、好きに過ごせと言うのなら……」  溜まりに溜まった鬱憤を、一度も顔を見せに来ない夫(暫定)にぶつける事にする。早いとこ会って話をつけ最速で白い結婚を成立させるため、私は旦那の足取りを追うのだった。 ※第16回恋愛小説大賞に参加。 ※カクヨムでも連載中。

幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

ちゃっぷ
恋愛
家族から産まれたことも生きていることも全否定され、少しは役に立てと言われて政略結婚する予定だった婚約者すらも妹に奪われた男爵令嬢/アルサイーダ・ムシバ。 さらにお前は産まれてこなかったことにすると、家を追い出される。 行き場を失ってたまに訪れていた教会に来た令嬢は、そこで「産まれてきてごめんなさい」と懺悔する。 すると光り輝く美しい神/イラホンが現れて「何も謝ることはない。俺が君を幸せにするから、俺の妻になってくれ」と言われる。 さらに神は令嬢を強く抱きしめ、病めるときも健やかなるときも永遠に愛することを誓うと、おでこにキス。 突然のことに赤面する令嬢をよそに、やたらと甘い神様の溺愛が始まる――。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

とても「誠実な」婚約破棄をされてしまいました

石里 唯
恋愛
 公爵令嬢フェリシアは、8年に及ぶ婚約関係にあった王太子レイモンドから、ある日突然、前代未聞の「誠実な」婚約破棄を提示された。 彼にしなだれかかる令嬢も、身に覚えのない断罪とやらもない。賠償として、レイモンドはフェリシアが婚姻するまで自身も婚姻せず、国一番の金山と、そして、王位継承権まで、フェリシアに譲渡するという。彼女は承諾せざるを得なかったが、疑問を覚えてしまう。 どうして婚約破棄をするの?どうしてここまでの賠償を――?  色々考えているものの、結論は考えていないものと大差が無くなってしまうヒロインと愛が深すぎて溺愛を通り越してしまったヒーローの話です。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...