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新婚旅行ー6

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「――あいつ、ほんまにちゃんとアヤメに優しくしとんのかな」

 と、アヤメの父マサムネ。

 ガット・ネーロの生息地付近の木陰に、フラヴィオとベル、ハナと共に身を潜めていた。

「大丈夫だろ、ランドだし。フラビーは激しいときもあるみたいだけど」

 と、ハナが見たのはフラヴィオだったが、その傍らにいるベルが羞恥して頬を染めた。

 こほん、と咳払いする。

「オルランド様が万が一優しくされていなかったとしてもご心配なく、ムネ殿下。女性は優しくしてして頂きたいときもございますが、そうでも無いときも無くはないような気がするようなしないような気がしま――」

「どっちやねん、ベル」

 とマサムネが突っ込んだとき、フラヴィオが小さく「来たぞ」と言った。

 その目線の先にいるのは、見るからにここレオーネ国ではなく、カプリコルノ国やその周辺の国の容姿をした少女だった。

 それは、フラヴィオとベルが見慣れている石造りの豪邸の中へと入っていく。

 フラヴィオが今から約17年前に、レオーネ国に追放処分とした元プリームラ国の王女だった。

「何度見ても、どこが刑罰なんだか」

 とハナが呆れの溜め息を吐いて、フラヴィオを見る。

「フラビーがあんなデカい豪邸建ててやるわ、プリームラ王家の財産をすべて持たせてやるわで、贅沢三昧してるぞあの極悪プリームラ王家の末裔」

「それで良いのだ。彼女には何の罪も無いのだから」

 フラヴィオはそう言うと、満足した様子で「よし」と言った。

「帰国するか、アモーレ」

 ベルの返事が無かった。

 フラヴィオが身を屈めて覗き込んでみると、それは元プリームラ国の王女が入っていった豪邸を見据えていた。

 一抹の不安が揺らいでいるように見えた栗色の瞳が、フラヴィオの碧眼を捕らえる。

「彼女を始末すべきではありませんか?」

「こら」

「嫌な予感がするのです。彼女の追放が終わる、ずっと先の未来に」

「考えすぎだ。帰るぞ」

 また返事が無かった。

 何か黙考した様子で俯いたと思ったら、ふと背に装備しているクロスボウバレストラを構える。

 フラヴィオはまた「こら!」と叱ると、ベルの手からバレストラを取り上げた。

「だって」と膨らんだベルの頬を抓り上げる。

「だってじゃない! 叱られたいのか? 叱られたいんだろうな、そうだろうな。さっき、優しくして欲しくないときがあるとか何とか言っていたしな? ああ、よかろう。帰ったらそなたの望み通りに抱いてやろう」

 怒っているフラヴィオとは逆に、ベルの眉が下がっていく。

 フラヴィオの胸にしがみ付いて、「スィー」と返事をした。

「なっ……」

 なんでそうなるんだと言おうとしたフラヴィオの言葉が続かない。

 吊り上がっていた眉も、少し鋭い碧眼も、下がっていく。

「送ってくれるか……ハナ」

 黙って頷いたハナが、テレトラスポルトで2人をカプリコルノ国に送り届ける。

 10秒も経たずにマサムネの下へ戻って来ると、その黄色い猫目に涙が浮かんでいた。

「見てらんないよ」

 と、着物の袖で瞼を擦る。

「ええ加減に分かれや、ハナ」

 とマサムネが言い終わるや否や、ハナが「分かってるよ!」と声を上げた。

「分かってるよ……けど、けどっ……!」

「おまえ、泣くにしてもまだちょっと早いで。ランドとアヤメの新婚旅行の後は、フラビーとベルの楽しい楽しい『新婚旅行もどき』が待ってるんやから。貸し切り温泉旅館は日替わりにしたし、当然どれも最上級の部屋やし、どの旅館にも最高級のレオーネ料理を振る舞うよう言ってあるし、豪華な船やって用意したで」

 ハナは頷いて「そうだな」と言うと、涙の出てくる瞼をもう一度拭った。

 カプリコルノ国と繋がっている空を見上げる。

 こっちは星空だが、向こうはまだ蒼の空だった。

「フラビー、ベル……最後の夫婦ごっこに、最高の思い出を作っていってくれよ――」





※本編36話へ
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