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身体測定ー8
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ベラドンナが「ううぅ」と、唸りながら小さく挙手する。
「次、何番だっけ? ああ、5番か。ベラドンナ・ガリバルディよ。天使番号は1番。趣味は狩り。最近はドルフの休日に家族で揃って行くわ。特技も狩りと、あと乗馬も。え? 腕っぷしも凄いから格闘も特技でしょ? なーに言ってんのよ、ワタシか弱いわよ! 初恋はフェーデだけど、今の好みは断然、夫のドルフ――アドルフォね。ワタシにとって、これ以上の男なんていないわ。ドルフはマストランジェロ一族の男と比べたら口下手かもしれないけど、その愛は充分に伝わって来るし、こんなにデカい私を華奢で可憐な女に映してくれるのよ。ドルフは世界一の素敵な男性だわ!」
プリームラ軍元帥で『人間卒業生』のクエルチア侯アドルフォの妻、1番目の天使ベラドンナ・ガリバルディ(満31歳)は――
落ち着いた黒茶色の髪と瞳をしている。活発な性格なもので、髪は邪魔になるからという理由でいつも一本に結ぶか、纏めるかしている。
その髪は解くと腰の長さまである直毛で、癖毛がほとんどのこの国では珍しいものだった。
そして故・王妃ヴィットーリアの妹であり、この国の成人女性の中で並ぶ者が居ないほど整った顔立ちを持つ、絶世の美女だ。
と言っても正直、絶世の美王女ヴァレンティーナが成人したときには、この国の成人女性の中で2番手になる気がしているが、ヴァレンティーナは最愛の姉が残した姪だし、姉のように心優しい子だしで、悔しい気持ちにはならなそうだった。
あとベラドンナ本人はか弱いと思っているが、その腕っぷしの方も、とりあえず天使軍の中で随一なのは確実。
狩りをする際は強力に弦を張った弓を易々と引いて矢を放ち、普通の女は殴るにしても平手なのに、必ず拳が出る。
またその拳は腕力だけで繰り出すのではなく、誰が教えたわけでもないのに自然と全体重を乗せて炸裂させるあたりに、生まれながらの格闘の才を感じる。
ベラドンナは傍目には快活な女に映りがちだが、その表面ほど強い心は持っていない。
最強を謳われるアドルフォの子を長いあいだ授かることが出来なく、その間、宮廷のあちこちから陰口を叩かれ続け、精神的に病んでいた時期があった。
それが長いあいだ子を授からなかった原因の一つになっていたように、周りは思う。
フラヴィオが宮廷の近くにアドルフォと2人で静かに暮らせる別邸を建ててくれたことや、ベラドンナの息子になりたいのだと願い出てくれた長男――養子であるマサムネの四男坊ムサシ――の存在が、ベラドンナに癒しや安堵、幸福、そして新たな命を授けてくれたのはたしかだった。
そして、最愛の姉を亡くしたことは、とても大きな悲しみだった。
強い心は持っていないから、愛する夫と愛する長男、その強力でバカでかい新たな命――次男ジルベルトが居てくれなかったら、自身はどうなっていただろうと思う。
この家族が居てくれることはベラドンナにとって大きな支えで、前向きに力強く生きる糧になっていた。
一時は涙に暮れていたが、今はまた、太陽の花――ヒマワリのような、明るいその笑顔を再び咲かせている。
尚、狩りと乗馬は本当に得意で、ときどきベルにも教えている。
その身体測定の結果は、天使軍の中で一番の長身である170cmで、体重は――
「言わないでえぇぇぇっ!」
65kgだった。
「信じらんない、ベラちゃん!」
とアリーチェは体重に驚愕するが、計測しているベルは体重なんかより他の数値に驚愕する。
だってその胸回りは105cm・腰回りは72cm・尻周りは100cmだった。
目を疑って、瞼を擦る。
「ほーらベラちゃん、腰回りが72cmもある! 72cmも!」
「言わないでよ、アリー! でも、ほんと信じらんない! そんなにあったのワタシってぇー!?」
と仲良しの2人は喚いているが、腰回りがそれくらいあったからといって何だというのだろう。
三桁の胸回りと尻周りのあいだにあって、長身となったら、それはもう括れて見えた。
それにさっきベラドンナ自身も言っていたが、あの人間離れした身体を持つアドルフォと並んでしまえば、充分に華奢に見える。
「あ、次はわたしね。6番、アリーチェ・マストランジェロ。天使番号は2番よ。趣味は刺繍やお花の園芸ね。特技は歌と踊り、それから……これ言うと、ベラちゃんが何言ってるのアンタって、毎回言ってくるのだけど」
「ええ、言うわ。突っ込むわ」
「動物とお話することよ」
「何言ってんのーこのオンナ、何言ってんのー」
ヴァレンティーナが「えー?」と口を挟んだ。
「私も動物とお話できるわよ、ベラ叔母上」
「ティーナはいいのよ、まだ子供だし。アリーは良い年こいて何言ってんのよって話なのよ」
アリーチェの頬が膨らんだ。
「そういう言う方しないでほしいわ。だってわたし、本当に動物とお話できるんだもの。初恋はフェーデよ。だから初恋の人と結婚したことになるのね、ふふ。好みの男性ももちろんフェーデよ。とても優しくて、真面目で、誠実で、わたしや子供たちを大切にしてくれて、本当に素敵なの。わたしは女性として生まれて来て幸せだわ」
オルキデーア軍元帥で『力の王弟』である大公フェデリコの妻、2番目の天使アリーチェ・マストランジェロ(満30歳)は――
ふわふわとした深い金の髪と、榛色の瞳を持つ。
その性格を表すかのような垂れ目がちの優しい目元をしていて、ヴィットーリア・ベラドンナ姉妹が『美人』と言われるのに対し、こちらは『可愛い』と言われることの多い美女。
仲の良いベラドンナに対してはきつい言葉を言うこともあるが、その性格は虫一匹殺せないほど心優しかった。
そのため肉や魚、卵を食べることが出来ず、ひとり草食だった。
周りからすればひたすらに心配で、せめて牛乳くらいは飲んで欲しいところだが、子牛のためのご飯なのだからと頑なに口にしない。
そのせいか並のカプリコルノ人より身体の線が細く、また見たままにか弱く、逞しいベラドンナより男たちが気を遣って接しているように見えなくもない。
夫フェデリコにはベタ惚れされていて、2人きりになると、笑っても泣いても怒ってもキスされる。
また夜の生活は、フラヴィオの方は激しいときもあるようでベルが大変そうだが、フェデリコはいつだってアリーチェを優しく抱く。
またフラヴィオはベルの胸に顔を埋めて眠ったりするが、フェデリコの方にそういう甘えはほとんど無かった。
眠るときは、いつもアリーチェを守るように腕に抱き、アリーチェから規則正しい寝息が聞こえるまで起きている。
そして寝顔を少しのあいだ見つめてから、二度目の『おやすみのバーチョ』をして、ようやく自身も眠りに着く。
尚、アリーチェは――ヴィットーリアもそうだったが――ベルの歌と舞踊の先生。
生徒の歌の方がどうにもこうにも上達しなくて、困り果てている。
その身体測定の結果は、身長はカプリコルノ国の成人女性の平均である164cm。
でも体重は平均に10kg以上及ばず、49kg。
胸回り87cm・腰回り58cm・尻周り86cmだった。
アヤメが再び「いややー」と顔を塞ぐ。
「アリーさんまで、なんでそんなんなん? ウチほんま恥ずかしい」
「あら、アヤメ殿下は大丈夫よ。見るからにベラちゃんより。それに、凄いのはわたしよりセレーナさんよ。だって、信じられる? 20代ならまだ分かるけど、これで40歳なのよ? 天使の鏡よ!」
と、アリーチェがセレーナを見ると、それは「そんなことないですよ」と謙遜した。
しかし、なんら戸惑いなく身体測定に向かって行く様からは、その自信が垣間見えるようだ。
「7番、セレーナ・ビアンキ。天使番号は4番です。趣味はお裁縫ね。特技はお金の計算かしら、いつもお店でやってるから。初恋は夫です。好みの男性も夫だけれど、もちろんフラヴィオ様もよ。ふふ」
王都オルキデーアの人気パン屋の女店主、『町天使』こと3番目の天使セレーナ・ビアンキ(満40歳)は――
オルキデーア国がまだ一国だった頃、とても美少女で有名で、フラヴィオも一目で恋をした。
髪は有り触れている茶色だが、明るい笑顔と真っ白な歯が印象的な美女。
40歳という年齢にも関わらず、天使の『いつまでも美しくいること』の仕事を怠らず、賢明で、その肌も身体も20代の頃と何ら変わりがない。
性格は穏やかで、情が深く、基本的にいつも笑顔でいる。それは女の笑顔を愛するフラヴィオにとって、とても魅力的に映る。
パンというのは、どこの家でも本来は買うものではなく作るもので、本当はパネッテリーアなんて無くても困らないのが現実。
実際、先王の時代はパネッテリーアなんて無く、フラヴィオが国王になってからパーネ作りが好きなセレーナのために建てたものだ。
セレーナのパーネは絶品ではあるが、やはり無くても困らない店、換言すれば需要の無い店で、それを裏付けるように他には一店舗もない。
でも連日込み合っているのは、セレーナがフラヴィオにとってだけではなく、オルキデーアの民衆にとっても癒しの存在だからだった。
セレーナのパネッテリーアはいざというときの避難所になっている他、オルキデーア民にとっての憩いの場になっていた。
その身体測定の結果は、身長167cm・体重53kg。
胸回り89cm・腰回り58cm・尻周り90cmだった。
アヤメから再び「いややー」と声が出る。
「どうなっとるん、天使って。何したらそんな身体になれるん? なんで出るとこ出とって、凹むとこは凹んでるん? 人種の差?」
「そんなこと無いべ、アヤメ殿下。おら今は妊娠中だから元よりでっかくなってアテにならないけんども、腰回りは元から普通に60cm以上あっただよ。胸だって尻だってそんなに無いし」
と、パオラが身体測定へ向かう。
「8番、パオラ・フォンターナたべ。天使番号は4番。趣味は仕事――野菜作りだべね。おらはほんと好きで農民をやってるだよ。特技はニンジン・カボチャ・豆栽培。あと野菜果物の皮剥き。ほとんど剥かずに食べるけんども。初恋は夫のファビオ兄。好みもファビオ兄みたいな、優しくて強くて、子供好きの人。だからもちろんフラヴィオ様も好きだべ」
王都オルキデーアの外に広がる農村の農民である『村天使』こと、4番目の天使パオラ・フォンターナ(満18歳)は――
ちょっと癖の強い茶色の髪を、いつもお下げにしている。生まれたときは、オルキデーア農村史上で一番の器量良しが生まれたと、村が祭騒ぎになった。
今も変わらず村一番の美女だが、顔がどうこうよりも、フラヴィオは王侯貴族の女にはないパオラの『純朴さ』に惚れた。
農民だからいつも土で汚れているし、宮廷に呼ばれたときや王都でパレードが行われるときはヴェスティートで着飾るが、化粧もほとんどしないし宝石は小粒のオルキデーア石を付ける程度だった。
性格も素直で擦れたところが無く、村の誰もが愛し、屈託のない笑顔でフラヴィオの心を癒す。
フラヴィオが建てた頑丈な石造りの邸宅は村の真ん中にあって、セレーナのパネッテリーア同様、いざというときは村の避難所となる。そしてこれもまた、村の憩いの場になっていた。
その身体測定は、身長は163cmでほぼ平均。
しかし現在妊娠4ヶ月から5ヶ月といったところなので、体重は数kg増えて56kg。
胸回りも大きくなって88cm・目立ってきた腰回りは75cm・尻周りも少し増えて87cmだった。
「妊娠前はたぶん、上から85・64・85程度だべよ。おらは平凡な体型だからね」
「でもパオラちゃん、絶対ウチより胸あるよっ……!」
「胸?」とパオラがベルの胸元を一瞥して、屈託のない笑顔を浮かべた。
「大丈夫だべよ、アヤメ殿下。だってベルちゃんの方が――」
と言葉が途切れたのは、ハナがその口を塞いだから。
親友の顔を恐る恐る一瞥し、次の測定を催促した。
「ほ、ほらー、次はティーナだぞー」
「次、何番だっけ? ああ、5番か。ベラドンナ・ガリバルディよ。天使番号は1番。趣味は狩り。最近はドルフの休日に家族で揃って行くわ。特技も狩りと、あと乗馬も。え? 腕っぷしも凄いから格闘も特技でしょ? なーに言ってんのよ、ワタシか弱いわよ! 初恋はフェーデだけど、今の好みは断然、夫のドルフ――アドルフォね。ワタシにとって、これ以上の男なんていないわ。ドルフはマストランジェロ一族の男と比べたら口下手かもしれないけど、その愛は充分に伝わって来るし、こんなにデカい私を華奢で可憐な女に映してくれるのよ。ドルフは世界一の素敵な男性だわ!」
プリームラ軍元帥で『人間卒業生』のクエルチア侯アドルフォの妻、1番目の天使ベラドンナ・ガリバルディ(満31歳)は――
落ち着いた黒茶色の髪と瞳をしている。活発な性格なもので、髪は邪魔になるからという理由でいつも一本に結ぶか、纏めるかしている。
その髪は解くと腰の長さまである直毛で、癖毛がほとんどのこの国では珍しいものだった。
そして故・王妃ヴィットーリアの妹であり、この国の成人女性の中で並ぶ者が居ないほど整った顔立ちを持つ、絶世の美女だ。
と言っても正直、絶世の美王女ヴァレンティーナが成人したときには、この国の成人女性の中で2番手になる気がしているが、ヴァレンティーナは最愛の姉が残した姪だし、姉のように心優しい子だしで、悔しい気持ちにはならなそうだった。
あとベラドンナ本人はか弱いと思っているが、その腕っぷしの方も、とりあえず天使軍の中で随一なのは確実。
狩りをする際は強力に弦を張った弓を易々と引いて矢を放ち、普通の女は殴るにしても平手なのに、必ず拳が出る。
またその拳は腕力だけで繰り出すのではなく、誰が教えたわけでもないのに自然と全体重を乗せて炸裂させるあたりに、生まれながらの格闘の才を感じる。
ベラドンナは傍目には快活な女に映りがちだが、その表面ほど強い心は持っていない。
最強を謳われるアドルフォの子を長いあいだ授かることが出来なく、その間、宮廷のあちこちから陰口を叩かれ続け、精神的に病んでいた時期があった。
それが長いあいだ子を授からなかった原因の一つになっていたように、周りは思う。
フラヴィオが宮廷の近くにアドルフォと2人で静かに暮らせる別邸を建ててくれたことや、ベラドンナの息子になりたいのだと願い出てくれた長男――養子であるマサムネの四男坊ムサシ――の存在が、ベラドンナに癒しや安堵、幸福、そして新たな命を授けてくれたのはたしかだった。
そして、最愛の姉を亡くしたことは、とても大きな悲しみだった。
強い心は持っていないから、愛する夫と愛する長男、その強力でバカでかい新たな命――次男ジルベルトが居てくれなかったら、自身はどうなっていただろうと思う。
この家族が居てくれることはベラドンナにとって大きな支えで、前向きに力強く生きる糧になっていた。
一時は涙に暮れていたが、今はまた、太陽の花――ヒマワリのような、明るいその笑顔を再び咲かせている。
尚、狩りと乗馬は本当に得意で、ときどきベルにも教えている。
その身体測定の結果は、天使軍の中で一番の長身である170cmで、体重は――
「言わないでえぇぇぇっ!」
65kgだった。
「信じらんない、ベラちゃん!」
とアリーチェは体重に驚愕するが、計測しているベルは体重なんかより他の数値に驚愕する。
だってその胸回りは105cm・腰回りは72cm・尻周りは100cmだった。
目を疑って、瞼を擦る。
「ほーらベラちゃん、腰回りが72cmもある! 72cmも!」
「言わないでよ、アリー! でも、ほんと信じらんない! そんなにあったのワタシってぇー!?」
と仲良しの2人は喚いているが、腰回りがそれくらいあったからといって何だというのだろう。
三桁の胸回りと尻周りのあいだにあって、長身となったら、それはもう括れて見えた。
それにさっきベラドンナ自身も言っていたが、あの人間離れした身体を持つアドルフォと並んでしまえば、充分に華奢に見える。
「あ、次はわたしね。6番、アリーチェ・マストランジェロ。天使番号は2番よ。趣味は刺繍やお花の園芸ね。特技は歌と踊り、それから……これ言うと、ベラちゃんが何言ってるのアンタって、毎回言ってくるのだけど」
「ええ、言うわ。突っ込むわ」
「動物とお話することよ」
「何言ってんのーこのオンナ、何言ってんのー」
ヴァレンティーナが「えー?」と口を挟んだ。
「私も動物とお話できるわよ、ベラ叔母上」
「ティーナはいいのよ、まだ子供だし。アリーは良い年こいて何言ってんのよって話なのよ」
アリーチェの頬が膨らんだ。
「そういう言う方しないでほしいわ。だってわたし、本当に動物とお話できるんだもの。初恋はフェーデよ。だから初恋の人と結婚したことになるのね、ふふ。好みの男性ももちろんフェーデよ。とても優しくて、真面目で、誠実で、わたしや子供たちを大切にしてくれて、本当に素敵なの。わたしは女性として生まれて来て幸せだわ」
オルキデーア軍元帥で『力の王弟』である大公フェデリコの妻、2番目の天使アリーチェ・マストランジェロ(満30歳)は――
ふわふわとした深い金の髪と、榛色の瞳を持つ。
その性格を表すかのような垂れ目がちの優しい目元をしていて、ヴィットーリア・ベラドンナ姉妹が『美人』と言われるのに対し、こちらは『可愛い』と言われることの多い美女。
仲の良いベラドンナに対してはきつい言葉を言うこともあるが、その性格は虫一匹殺せないほど心優しかった。
そのため肉や魚、卵を食べることが出来ず、ひとり草食だった。
周りからすればひたすらに心配で、せめて牛乳くらいは飲んで欲しいところだが、子牛のためのご飯なのだからと頑なに口にしない。
そのせいか並のカプリコルノ人より身体の線が細く、また見たままにか弱く、逞しいベラドンナより男たちが気を遣って接しているように見えなくもない。
夫フェデリコにはベタ惚れされていて、2人きりになると、笑っても泣いても怒ってもキスされる。
また夜の生活は、フラヴィオの方は激しいときもあるようでベルが大変そうだが、フェデリコはいつだってアリーチェを優しく抱く。
またフラヴィオはベルの胸に顔を埋めて眠ったりするが、フェデリコの方にそういう甘えはほとんど無かった。
眠るときは、いつもアリーチェを守るように腕に抱き、アリーチェから規則正しい寝息が聞こえるまで起きている。
そして寝顔を少しのあいだ見つめてから、二度目の『おやすみのバーチョ』をして、ようやく自身も眠りに着く。
尚、アリーチェは――ヴィットーリアもそうだったが――ベルの歌と舞踊の先生。
生徒の歌の方がどうにもこうにも上達しなくて、困り果てている。
その身体測定の結果は、身長はカプリコルノ国の成人女性の平均である164cm。
でも体重は平均に10kg以上及ばず、49kg。
胸回り87cm・腰回り58cm・尻周り86cmだった。
アヤメが再び「いややー」と顔を塞ぐ。
「アリーさんまで、なんでそんなんなん? ウチほんま恥ずかしい」
「あら、アヤメ殿下は大丈夫よ。見るからにベラちゃんより。それに、凄いのはわたしよりセレーナさんよ。だって、信じられる? 20代ならまだ分かるけど、これで40歳なのよ? 天使の鏡よ!」
と、アリーチェがセレーナを見ると、それは「そんなことないですよ」と謙遜した。
しかし、なんら戸惑いなく身体測定に向かって行く様からは、その自信が垣間見えるようだ。
「7番、セレーナ・ビアンキ。天使番号は4番です。趣味はお裁縫ね。特技はお金の計算かしら、いつもお店でやってるから。初恋は夫です。好みの男性も夫だけれど、もちろんフラヴィオ様もよ。ふふ」
王都オルキデーアの人気パン屋の女店主、『町天使』こと3番目の天使セレーナ・ビアンキ(満40歳)は――
オルキデーア国がまだ一国だった頃、とても美少女で有名で、フラヴィオも一目で恋をした。
髪は有り触れている茶色だが、明るい笑顔と真っ白な歯が印象的な美女。
40歳という年齢にも関わらず、天使の『いつまでも美しくいること』の仕事を怠らず、賢明で、その肌も身体も20代の頃と何ら変わりがない。
性格は穏やかで、情が深く、基本的にいつも笑顔でいる。それは女の笑顔を愛するフラヴィオにとって、とても魅力的に映る。
パンというのは、どこの家でも本来は買うものではなく作るもので、本当はパネッテリーアなんて無くても困らないのが現実。
実際、先王の時代はパネッテリーアなんて無く、フラヴィオが国王になってからパーネ作りが好きなセレーナのために建てたものだ。
セレーナのパーネは絶品ではあるが、やはり無くても困らない店、換言すれば需要の無い店で、それを裏付けるように他には一店舗もない。
でも連日込み合っているのは、セレーナがフラヴィオにとってだけではなく、オルキデーアの民衆にとっても癒しの存在だからだった。
セレーナのパネッテリーアはいざというときの避難所になっている他、オルキデーア民にとっての憩いの場になっていた。
その身体測定の結果は、身長167cm・体重53kg。
胸回り89cm・腰回り58cm・尻周り90cmだった。
アヤメから再び「いややー」と声が出る。
「どうなっとるん、天使って。何したらそんな身体になれるん? なんで出るとこ出とって、凹むとこは凹んでるん? 人種の差?」
「そんなこと無いべ、アヤメ殿下。おら今は妊娠中だから元よりでっかくなってアテにならないけんども、腰回りは元から普通に60cm以上あっただよ。胸だって尻だってそんなに無いし」
と、パオラが身体測定へ向かう。
「8番、パオラ・フォンターナたべ。天使番号は4番。趣味は仕事――野菜作りだべね。おらはほんと好きで農民をやってるだよ。特技はニンジン・カボチャ・豆栽培。あと野菜果物の皮剥き。ほとんど剥かずに食べるけんども。初恋は夫のファビオ兄。好みもファビオ兄みたいな、優しくて強くて、子供好きの人。だからもちろんフラヴィオ様も好きだべ」
王都オルキデーアの外に広がる農村の農民である『村天使』こと、4番目の天使パオラ・フォンターナ(満18歳)は――
ちょっと癖の強い茶色の髪を、いつもお下げにしている。生まれたときは、オルキデーア農村史上で一番の器量良しが生まれたと、村が祭騒ぎになった。
今も変わらず村一番の美女だが、顔がどうこうよりも、フラヴィオは王侯貴族の女にはないパオラの『純朴さ』に惚れた。
農民だからいつも土で汚れているし、宮廷に呼ばれたときや王都でパレードが行われるときはヴェスティートで着飾るが、化粧もほとんどしないし宝石は小粒のオルキデーア石を付ける程度だった。
性格も素直で擦れたところが無く、村の誰もが愛し、屈託のない笑顔でフラヴィオの心を癒す。
フラヴィオが建てた頑丈な石造りの邸宅は村の真ん中にあって、セレーナのパネッテリーア同様、いざというときは村の避難所となる。そしてこれもまた、村の憩いの場になっていた。
その身体測定は、身長は163cmでほぼ平均。
しかし現在妊娠4ヶ月から5ヶ月といったところなので、体重は数kg増えて56kg。
胸回りも大きくなって88cm・目立ってきた腰回りは75cm・尻周りも少し増えて87cmだった。
「妊娠前はたぶん、上から85・64・85程度だべよ。おらは平凡な体型だからね」
「でもパオラちゃん、絶対ウチより胸あるよっ……!」
「胸?」とパオラがベルの胸元を一瞥して、屈託のない笑顔を浮かべた。
「大丈夫だべよ、アヤメ殿下。だってベルちゃんの方が――」
と言葉が途切れたのは、ハナがその口を塞いだから。
親友の顔を恐る恐る一瞥し、次の測定を催促した。
「ほ、ほらー、次はティーナだぞー」
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