酒池肉林王と7番目の天使

日向かなた

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第40話ー2

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 ――その頃のカンクロ国の王都ロート。

 その北門付近にある木陰に、フラヴィオ一同が帽子付きの地味なコートカッポットを纏い、身を潜めていた。

 ただし、ルフィーナとベラドンナを除く天使一同と王子たち、アラブはカプリコルノ国で留守番させている。

 また、ここまで送ってくれたマサムネの猫4匹は、カーネ・ロッソよりも遥かに魔力が高くて警戒されないわけがなく、さらに密偵と疑われる可能性も高いのでレオーネ国で待機している。

「ムネ、あの門はおまえが絵に描いた宮廷の北門ではないのだな?」

 と、フラヴィオがそこから見える大きな門を指差した。その前には人間とカーネ・ロッソの門衛が合計5人いる。

 マサムネが「ああ」と頷いた。

「それは2つ向こうの門で、そこにある門は王都ロートの北門や。ここの城は城壁が四重になってて、そこの王都の北門を潜ると、官僚とかが住んどる区域に出る。で、真っ直ぐ進むと、次の城壁にぶつかる。その門を潜ると、そこは今度は王族の住居地や。んで、そこの中にようやく国王の住居――ワイが絵に描いた宮廷がある。必ず見ておきたいのは、宮廷の北門を入って真っ直ぐに進んで行くとある王妃の寝殿や。あ、ちなみに庶民は、町の南側を囲ってる城壁の中で暮らしとる」

 ベラドンナが問う。

「宮廷までやたら距離がありそうだけど、門から門まではテレトラスポルトしていいの?」

「まぁ、問題ないやろな。ちゃんと通行証代わりの『金の腕輪』を見せれば」

「分かりました」

 とルフィーナがカッポットを脱ぐと、ベラドンナとテンテンも続いた。

 ルフィーナとベラドンナにはマサムネの猫4匹によるバッリエーラが10枚掛かっている。

「気を付けるんだぞ」

 の男たちの言葉に、女2人が「スィー」の返事をすると、テンテンが緊張した様子で口を開いた。

「そ、それじゃ……行くよっ……!」

 テンテンを先頭にして、ルフィーナとベラドンナが横に並んで付いていく。

 そして門が近くなってくると、咳払いをしたテンテンが声高にカンクロ語を喋り出した。

「ここだよ、ここ。ここが王都ロートだよ、美人のお姉さん方」

 門衛5人が振り返るなり、唖然とする。

 ルフィーナとベラドンナの顔を交互に見た後、ほとんどが後者に――絶世の美女に視点を置いた。

「あら、なんて立派な町かしら! ねぇ、アン?」

「ええ、本当に素晴らしいですね。あなた流石だわ、エミリー。こんなところに住んでる国王陛下に見初められちゃうなんて」

 アンがルフィーナで、エミリーがベラドンナになっている。尚、出身国の設定はアクアーリオ国になっているので、アクアーリオ語で会話した。

 テンテンが門衛たちに声を掛ける。

「こんにちは、門衛さんたち。アクアーリオ国から遥々やって来たこのお姉さんたち、国王陛下に呼ばれたらしいんだけど、道で迷ってたからおれが連れてきた」

「な、なんだ陛下に呼ばれたって? 俺達は何も聞いていないぞ、通行証を出せ」

「でも、なんか……」

 とテンテンがベラドンナを見ると、それはワン・ジンの名とカンクロ国の国章が彫られている金の腕輪を取り出した。

 まだカンクロ語を勉強中の身であるベラドンナの代わりに、元テレトラスポルト商人で堪能なルフィーナが代わりに説明する。

「このエミリーが、ワン・ジン陛下にこれを持ってここへ来いって言われたみたいなんですけど。あ、ちなみにわたしは彼女の友人です」

「ん? これは……」

 と5人の門衛が金の腕輪を凝視した後、「ああ」と声を高くした。

「そうだ、思い出した。この陛下の名と国章が彫られている金の腕輪を持った女が来たら通せって、たしかに指令が出た」

「そうだそうだ、これを持った人間の女が来たら通すよう言われたな。ずいぶん前のことだが」

 と、門衛たちが改めてベラドンナの全身を食い入るように見つめる。

「これは凄い……! カプリコルノだけじゃなく、その近辺の国も美男美女が多いのか。あの人間の女嫌いの陛下も見初めるわけだ」

「通してくれる?」

 とベラドンナがカタコトのカンクロ語で問うと、「どうぞどうぞ」と鼻の下を伸ばした門衛たち。

「あ、でも……」

 と顔を見合わせた。

「陛下はもうお帰りになったのか?」

「まだその知らせは来ないが……」

 この場にいる3人の他、近くの木陰に隠れて耳を澄ませているフラヴィオたちも反応した。

「陛下はいらっしゃらないのですか?」

 とルフィーナが問うと、衛兵たちが頷いた。

「詳しいことは聞かされていませんが、昨日から愛犬のテレトラスポルトでお出掛けになったまま、現在もお帰りになっていません」

「陛下とその愛犬……カーネ・ロッソさんでしょうか? お二人だけでお出掛けになったんですか?」

「そうです。長期間お出掛けになるとも聞いていないので、もしかしたらもうお帰りになっているかもしれません。その場合、陛下は朝廷に出られているかと」

「では、宮廷の中で待たせてもらっても良いですか?」

 とルフィーナが問うと、承知した門衛たちが道を開ける。

 テンテンが「おれはこれで」と去って行った後、ルフィーナとベラドンナが王都ロートへと入って行った。

 マサムネが言っていた通り、道を真っ直ぐに進んでいく。

 官僚たちの住居地らしく、厳粛な雰囲気をしていた。

 ベラドンナが小声で口を開く。

「さっきあの門衛たち、ワン・ジンは帰ってないって言ったのよね?」

「そうです。愛犬と2人で出掛けたみたいですし、王太后ではなくワン・ジンがベルさんを攫ったのでしょう。でもまだ帰ってないって……ちょっと遅くありませんか?」

「そうね。宮廷に真っ直ぐに帰って来ないで、どこかに寄ってる……みたいな」

 2人が不審そうに眉を顰めたとき、さっきの門衛の声が聞こえて来た。

「次の門まで、テレトラスポルトでどうぞ」

「はい」と2人は声を揃えて笑顔を返すと、ルフィーナのテレトラスポルトで次の門の前まで飛んでいった。

 また金の腕輪を見せて門を潜ると今度は王族の住居地で、一軒一軒がとても立派で華やかな雰囲気をしていた。

 またテレトラスポルトすると、そこにようやく宮廷の北門がある。人間2人、カーネ・ロッソ2匹の門衛がいた。

 同じように金の腕輪を見せて事情を説明すれば通してもらえるのかと思いきや、それらは顔を見合わせて当惑した様子だった。

「何か不都合なことでも?」

 とルフィーナが問うと、カーネ・ロッソの門衛がカタコト口調でこう返してきた。

「王太后陛下が、人間のメス嫌いナンですヨ」

 人間の門衛が続く。

「しかし、本日王太后陛下は外朝に向かわれているかもしれません」

「それは陛下の代わりにということですか?」

「そうです。陛下は昨日お出掛けになったままお帰りになっていなくて……」

「デモ帰って来ルかもシれない。王太后陛下が後宮にいるカ、見て来ル」

 と、カーネ・ロッソの門衛がその場からテレトラスポルトで消えた。

 少しして戻って来ると、急いだ様子で「どうゾ」と宮廷の中――後宮の方を手で指した。

「王太后陛下、外朝に行っテルみたいですカラ、今の内に。女官が案内しマす」


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