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第37話-2
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自室に戻ったベルが、目前にいる親友を抱き締めていた。
「ハナ……なんか逆です」
「だって!」
「この日が来たら、ハナが私を抱き締めてくれるのではなかったのですか?」
と笑ってしまう。
思い出すは、約1年前のこと。
この日――フラヴィオとベルが恋人同士では無くなった日が来たときのことを、ハナはこう言っていた――
「――ベルが泣き止むまで、何時間でも、何日でも、何カ月でも、何年でも、あたいがずっと抱き締めてるよ」
あのときはその言葉がとても心強かった記憶がある。
それがいざこの日が来てみたら逆で、泣いているのはハナで、抱き締めているのがベルだった。
しかもハナの泣きっぷりはこの世の終わりが来たみたいな勢いで、ニャーニャーと慟哭している。
ハナがまた「だって!」と声を上げた。
「ベルが泣かないから、平気な振りしてるから、あたいが代わりに泣いてるんだ!」
「いえ、ちょっとハナ。平気な『振り』ではなく、平気なのですってば、もう」
「本当か……!?」
とハナがベルの顔を覗き込む。
「スィー」と返したベルが微笑した。
「あのとき私の背中を押してくれてありがとう、ハナ。私はこの1年間も、今現在も、そして明日からも、女性としてとても幸せです」
その顔を見つめて、嘘偽りがないことを確認したハナは「分かった」と涙を拭った。
「でも今夜はあたいの腕の中で寝ろ」
「スィー」
と仲良く手を繋ぎ、レットへ向かおうかとき、扉が乱暴に叩かれた。
何事かと扉を開けてみると、4階に寝室のある一同や、3階の客間にいたマサムネやタロウ、ナナ・ネネが寝間着姿でそこに立っていた。
手には祝宴の残りの酒やら料理やら、図書室から持ってきたらしい本やら、居間から持ってきたらしいチェス盤やら、楽士たちの部屋から持ってきたらしい楽器やら、花束やらが持たれている。
ハナのあまりの泣き声に、ベルが心配になってやって来てしまったらしい。
天使番号5番ヴァレンティーナと6番ビアンカ、8番アヤメが狼狽した様子でベルに抱き付いて泣き出す。
「大丈夫よ、ベル! 父上は絶対にいつかベルを妻にするものっ……!」
「ビアンカがいっしょに泣いてあげるわベルちゃまぁぁぁ!」
「うんうん、そやな、悲しいなベルちゃんっ…! ウチにとってのランドが取られたのと一緒やもんなっ……!」
ベルは「私は大丈夫です」と笑顔を見せたが、皆の心配は収まらないらしい。
部屋の中に雪崩れ込んで来る。
「ほら、ベル! まーだまだお料理もワインもあるわよ! ワタシたちと楽しく食べて飲んで歌って踊りましょ!」
「はぁ、ベラ様……」
「見てくれ、ベル。新しい数学の本だ。よく眠れるよう、私と一緒に勉強しよう」
「逆に目が冴える気がします、フェーデ先生……」
「ねぇ、ベル。わたしにチェスを教えてくれない? あなたとフェーデが真剣に勝負をしているのを見る度に、実はちょっとやってみたいなって思ってたの」
「それは構いませんが、アリー様……」
「俺にはこのチェンバロを教えてくれ、ベル。俺が弦楽器を使うとすぐに弦が切れてしまうが、鍵盤楽器ならいけるんじゃないかと思うんだ」
「ドルフ様にとってはネズミも豚も大して重さが変わらないのは存じていますが、鍵盤楽器を持ってくるのなら据置型の大きなチェンバロではなく、携帯型の小さなオルガンにしていただきたく存じます……」
「受け取ってください、ベルさん! テレトラスポルトで裏庭に飛んで、薔薇を摘めるだけ摘んで来ました!」
「ありがとうございます、アラブさん。朝の厨房でジャムに致します。しかしながら裏庭の花々は決して自生しているのではなく、国庫金で仕入れ、腕の良い庭師を高給で雇い、栽培していることをご存知の上でのことでしょうか……」
「やっぱここはワイとニャンニャンしようや、ベル――」
「おやすみなさいませ、ムネ殿下」
さらに他の皆もあれをしようこれをしようと言い出し、困り果てたベルはこうすることにした。
「分かりました、皆様。では、あの山になっているレガーロの包みを開けるお手伝いをしていただけませんか?」
承知した一同が、レガーロの山を囲って輪を作った。
それぞれの近くには祝宴で余った酒や料理が置かれ、皆ベルを元気付けるように明るい笑顔で談笑しながらレガーロの包みを開けていく。
嘘偽りでも強がりでもなく、自身はとても幸せである自覚があるベルとしては、起床時間まで5時間を切っているので眠りたいのが本音。
しかし皆の優しさがとても嬉しく、付き合うことにした。
やはり年の小さいものから眠りに落ちていき、大人に抱っこされて部屋へ戻されていく。
成人である15歳以上の者だけになったとき、ベルがふと宰相の顔になった。
「町はどうなっていますか?」
「ほとんど飾り付けられていません」
と、アラブが答えた。
「朝が来たら陛下とルフィーナの結婚パラータですが、ほとんど何も……」
「そうですか」
と予想通りだったらしく、特に驚いた様子なく返したベルが、「では」と続けて訊く。
「民衆の矛先は、フラヴィオ様とルフィーナ王妃陛下の二股に分かれていますか?」
一同の手や口が一瞬の硬直を見せた。
「宮廷内の矛先はルフィーナさんで、町は三股に分かれてるよ。分かってるでしょう?」
とタロウが、苦笑した。
「そうならないようにしたのは、宰相なんだから」
「ええ、そうです」
と、ベルの口元が笑む。
アドルフォが「まったく」と溜め息を吐いた。
「俺の想像だと、民衆のシワ寄せは陛下が2割、ルフィーナ殿が8割だったんだが……それが、陛下が1割、ルフィーナ殿が5割、そして残りの4割がベルになってるぞ?」
「シワ寄せでも何でもありません。実際にフラヴィオ様の後妻にルフィーナさんを選んだのは、この私なのですから。私はお二方の結婚パラータで、馬車の御者として参加致します。それなりにお二方の盾となるでしょう」
「『盾』って、本来守られる側の天使が何を言ってるんだ。それに三股に分かれられたら、俺と大公閣下の護衛だけじゃ足りないかもしれないぞ?」
「ハナたちの強力なバッリエーラを10枚掛けていくので何も問題ないかと」
「それはそうだが」
王太子オルランドと第二王子コラード、アラブが手を上げた。
「私も護衛として参加します、ドルフ叔父上。私がベルの脇に付きますので、ご心配なく」
「オレもです。フェーデ叔父上とドルフ叔父上は、父上とルフィーナさんの護衛に専念してください。ベルの脇には兄上とオレが付いて、必ず守ります」
「では自分は馬車の後ろに付きましょう」
ベルが3人の顔を見回して「ありがとうございます」と頭を下げた。
「私もそんなに進んで民衆の評価を下げたいわけではありませんが、最優先すべきは主なもので。善とされることは陛下が、悪とされることは宰相が。いざというときのことを考えると、民衆の目にはそれで良いのです」
「過保護やな、ベル。フラビーの評判なんて、すぐに戻るで?」
「そうでしょうが、良いのですムネ殿下。これで9番目の天使――ルフィーナ王妃陛下の精神的負担を軽減して差し上げられますから。本当は宮廷内でもそうして差し上げたかったのですが……」
今度はアラブが「ありがとうございます」と頭を下げる番だった。
ベルの言動の行き着く先は、すべて他ならぬフラヴィオのためだと分かっていても。
国王フラヴィオと新王妃9番目の天使ルフィーナの結婚パラータは本日午前9時から。
いつもなら王都オルキデーアの中央通りを北から南へと行って帰ってくるものだが、此度は中央通りを突っ切って町の外へ出、西の山――コニッリョの山へと向かう。
そしてその麓で、そのまま2人の結婚式が挙げられることになっている。
「コニッリョの目にはちゃんと分かるのでしょうか。フラヴィオ様とルフィーナ王妃陛下が結婚されたことは」
「もちろんだ」とハナが言った。
「レオーネ国の野生ガットたちが、人間たちの結婚式を見ると雰囲気で察するようにな。特にカプリコルノのオルキデーア式の場合、あちこちで挙式するからコニッリョたちは何十回も目撃してるだろうし」
ベルが「ふむ」と相槌を打つと、ハナが続けた。
「カンクロ相手の防衛戦のときから、人間たちの方はあたいらモストロにちょっとだけまた心を許した感じだったけどさ?」
「正しくは、ハナやタロウさん、ナナさん・ネネさんにだけは心を許した状態かと」
「うんまぁ、それでもさ、またモストロを受け入れたわけじゃん、人間の方は。対してコニッリョは今、人間の中で唯一ティーナにだけ心を開いてる状態だろ?」
「スィー」
「でも、これで必ず何かしらの進展があるはずだよ。コニッリョにとっての『人間界の王』が、モストロの血の入った妻を迎えたってことは」
マサムネが「ああ」と口を挟んだ。
「やーっとこの日が来たわ。振り出しに戻っとった人間とコニッリョの仲が、ようやっとまた前進や。コニッリョの力さえ借りられれば未来のカプリコルノ国は安泰やし、ヴィットーリアはんのときの過ちももう繰り返さへん」
それぞれが「スィー」と頷いた。
数人の目に涙が浮かんで、鼻を啜る音がする。
「ほら、泣いてへんで、おまえら。ヴィットーリアはんは草葉の陰から笑ってるで?」
「そうですね」
と微笑したベルの脳裏には、ヴィットーリアの笑顔が浮かんでいた。
一時は闇黒に包まれたカプリコルノ国に、いよいよはっきりと明るい兆しが見えた気がして。
「ここは昨日に続いて本日から3日間、派手に祝宴と参りましょう」
という守銭奴宰相の言葉にどよめき、歓喜する一同の中、よく利く4匹の猫耳がぴくりと動く。
4匹目を合わせた後、タロウが「厠に行ってくる」と言って宮廷の天井にテレトラスポルトした。
辺りをぐるりと見渡してみると、誰の姿も無い。
(気のせい……かな?)
と少し不審に思いながら、もう一度じっくりと天井を見つめていく。
(誰かの足音が――着地音が、聞こえた気がしたんだけど……)
「ハナ……なんか逆です」
「だって!」
「この日が来たら、ハナが私を抱き締めてくれるのではなかったのですか?」
と笑ってしまう。
思い出すは、約1年前のこと。
この日――フラヴィオとベルが恋人同士では無くなった日が来たときのことを、ハナはこう言っていた――
「――ベルが泣き止むまで、何時間でも、何日でも、何カ月でも、何年でも、あたいがずっと抱き締めてるよ」
あのときはその言葉がとても心強かった記憶がある。
それがいざこの日が来てみたら逆で、泣いているのはハナで、抱き締めているのがベルだった。
しかもハナの泣きっぷりはこの世の終わりが来たみたいな勢いで、ニャーニャーと慟哭している。
ハナがまた「だって!」と声を上げた。
「ベルが泣かないから、平気な振りしてるから、あたいが代わりに泣いてるんだ!」
「いえ、ちょっとハナ。平気な『振り』ではなく、平気なのですってば、もう」
「本当か……!?」
とハナがベルの顔を覗き込む。
「スィー」と返したベルが微笑した。
「あのとき私の背中を押してくれてありがとう、ハナ。私はこの1年間も、今現在も、そして明日からも、女性としてとても幸せです」
その顔を見つめて、嘘偽りがないことを確認したハナは「分かった」と涙を拭った。
「でも今夜はあたいの腕の中で寝ろ」
「スィー」
と仲良く手を繋ぎ、レットへ向かおうかとき、扉が乱暴に叩かれた。
何事かと扉を開けてみると、4階に寝室のある一同や、3階の客間にいたマサムネやタロウ、ナナ・ネネが寝間着姿でそこに立っていた。
手には祝宴の残りの酒やら料理やら、図書室から持ってきたらしい本やら、居間から持ってきたらしいチェス盤やら、楽士たちの部屋から持ってきたらしい楽器やら、花束やらが持たれている。
ハナのあまりの泣き声に、ベルが心配になってやって来てしまったらしい。
天使番号5番ヴァレンティーナと6番ビアンカ、8番アヤメが狼狽した様子でベルに抱き付いて泣き出す。
「大丈夫よ、ベル! 父上は絶対にいつかベルを妻にするものっ……!」
「ビアンカがいっしょに泣いてあげるわベルちゃまぁぁぁ!」
「うんうん、そやな、悲しいなベルちゃんっ…! ウチにとってのランドが取られたのと一緒やもんなっ……!」
ベルは「私は大丈夫です」と笑顔を見せたが、皆の心配は収まらないらしい。
部屋の中に雪崩れ込んで来る。
「ほら、ベル! まーだまだお料理もワインもあるわよ! ワタシたちと楽しく食べて飲んで歌って踊りましょ!」
「はぁ、ベラ様……」
「見てくれ、ベル。新しい数学の本だ。よく眠れるよう、私と一緒に勉強しよう」
「逆に目が冴える気がします、フェーデ先生……」
「ねぇ、ベル。わたしにチェスを教えてくれない? あなたとフェーデが真剣に勝負をしているのを見る度に、実はちょっとやってみたいなって思ってたの」
「それは構いませんが、アリー様……」
「俺にはこのチェンバロを教えてくれ、ベル。俺が弦楽器を使うとすぐに弦が切れてしまうが、鍵盤楽器ならいけるんじゃないかと思うんだ」
「ドルフ様にとってはネズミも豚も大して重さが変わらないのは存じていますが、鍵盤楽器を持ってくるのなら据置型の大きなチェンバロではなく、携帯型の小さなオルガンにしていただきたく存じます……」
「受け取ってください、ベルさん! テレトラスポルトで裏庭に飛んで、薔薇を摘めるだけ摘んで来ました!」
「ありがとうございます、アラブさん。朝の厨房でジャムに致します。しかしながら裏庭の花々は決して自生しているのではなく、国庫金で仕入れ、腕の良い庭師を高給で雇い、栽培していることをご存知の上でのことでしょうか……」
「やっぱここはワイとニャンニャンしようや、ベル――」
「おやすみなさいませ、ムネ殿下」
さらに他の皆もあれをしようこれをしようと言い出し、困り果てたベルはこうすることにした。
「分かりました、皆様。では、あの山になっているレガーロの包みを開けるお手伝いをしていただけませんか?」
承知した一同が、レガーロの山を囲って輪を作った。
それぞれの近くには祝宴で余った酒や料理が置かれ、皆ベルを元気付けるように明るい笑顔で談笑しながらレガーロの包みを開けていく。
嘘偽りでも強がりでもなく、自身はとても幸せである自覚があるベルとしては、起床時間まで5時間を切っているので眠りたいのが本音。
しかし皆の優しさがとても嬉しく、付き合うことにした。
やはり年の小さいものから眠りに落ちていき、大人に抱っこされて部屋へ戻されていく。
成人である15歳以上の者だけになったとき、ベルがふと宰相の顔になった。
「町はどうなっていますか?」
「ほとんど飾り付けられていません」
と、アラブが答えた。
「朝が来たら陛下とルフィーナの結婚パラータですが、ほとんど何も……」
「そうですか」
と予想通りだったらしく、特に驚いた様子なく返したベルが、「では」と続けて訊く。
「民衆の矛先は、フラヴィオ様とルフィーナ王妃陛下の二股に分かれていますか?」
一同の手や口が一瞬の硬直を見せた。
「宮廷内の矛先はルフィーナさんで、町は三股に分かれてるよ。分かってるでしょう?」
とタロウが、苦笑した。
「そうならないようにしたのは、宰相なんだから」
「ええ、そうです」
と、ベルの口元が笑む。
アドルフォが「まったく」と溜め息を吐いた。
「俺の想像だと、民衆のシワ寄せは陛下が2割、ルフィーナ殿が8割だったんだが……それが、陛下が1割、ルフィーナ殿が5割、そして残りの4割がベルになってるぞ?」
「シワ寄せでも何でもありません。実際にフラヴィオ様の後妻にルフィーナさんを選んだのは、この私なのですから。私はお二方の結婚パラータで、馬車の御者として参加致します。それなりにお二方の盾となるでしょう」
「『盾』って、本来守られる側の天使が何を言ってるんだ。それに三股に分かれられたら、俺と大公閣下の護衛だけじゃ足りないかもしれないぞ?」
「ハナたちの強力なバッリエーラを10枚掛けていくので何も問題ないかと」
「それはそうだが」
王太子オルランドと第二王子コラード、アラブが手を上げた。
「私も護衛として参加します、ドルフ叔父上。私がベルの脇に付きますので、ご心配なく」
「オレもです。フェーデ叔父上とドルフ叔父上は、父上とルフィーナさんの護衛に専念してください。ベルの脇には兄上とオレが付いて、必ず守ります」
「では自分は馬車の後ろに付きましょう」
ベルが3人の顔を見回して「ありがとうございます」と頭を下げた。
「私もそんなに進んで民衆の評価を下げたいわけではありませんが、最優先すべきは主なもので。善とされることは陛下が、悪とされることは宰相が。いざというときのことを考えると、民衆の目にはそれで良いのです」
「過保護やな、ベル。フラビーの評判なんて、すぐに戻るで?」
「そうでしょうが、良いのですムネ殿下。これで9番目の天使――ルフィーナ王妃陛下の精神的負担を軽減して差し上げられますから。本当は宮廷内でもそうして差し上げたかったのですが……」
今度はアラブが「ありがとうございます」と頭を下げる番だった。
ベルの言動の行き着く先は、すべて他ならぬフラヴィオのためだと分かっていても。
国王フラヴィオと新王妃9番目の天使ルフィーナの結婚パラータは本日午前9時から。
いつもなら王都オルキデーアの中央通りを北から南へと行って帰ってくるものだが、此度は中央通りを突っ切って町の外へ出、西の山――コニッリョの山へと向かう。
そしてその麓で、そのまま2人の結婚式が挙げられることになっている。
「コニッリョの目にはちゃんと分かるのでしょうか。フラヴィオ様とルフィーナ王妃陛下が結婚されたことは」
「もちろんだ」とハナが言った。
「レオーネ国の野生ガットたちが、人間たちの結婚式を見ると雰囲気で察するようにな。特にカプリコルノのオルキデーア式の場合、あちこちで挙式するからコニッリョたちは何十回も目撃してるだろうし」
ベルが「ふむ」と相槌を打つと、ハナが続けた。
「カンクロ相手の防衛戦のときから、人間たちの方はあたいらモストロにちょっとだけまた心を許した感じだったけどさ?」
「正しくは、ハナやタロウさん、ナナさん・ネネさんにだけは心を許した状態かと」
「うんまぁ、それでもさ、またモストロを受け入れたわけじゃん、人間の方は。対してコニッリョは今、人間の中で唯一ティーナにだけ心を開いてる状態だろ?」
「スィー」
「でも、これで必ず何かしらの進展があるはずだよ。コニッリョにとっての『人間界の王』が、モストロの血の入った妻を迎えたってことは」
マサムネが「ああ」と口を挟んだ。
「やーっとこの日が来たわ。振り出しに戻っとった人間とコニッリョの仲が、ようやっとまた前進や。コニッリョの力さえ借りられれば未来のカプリコルノ国は安泰やし、ヴィットーリアはんのときの過ちももう繰り返さへん」
それぞれが「スィー」と頷いた。
数人の目に涙が浮かんで、鼻を啜る音がする。
「ほら、泣いてへんで、おまえら。ヴィットーリアはんは草葉の陰から笑ってるで?」
「そうですね」
と微笑したベルの脳裏には、ヴィットーリアの笑顔が浮かんでいた。
一時は闇黒に包まれたカプリコルノ国に、いよいよはっきりと明るい兆しが見えた気がして。
「ここは昨日に続いて本日から3日間、派手に祝宴と参りましょう」
という守銭奴宰相の言葉にどよめき、歓喜する一同の中、よく利く4匹の猫耳がぴくりと動く。
4匹目を合わせた後、タロウが「厠に行ってくる」と言って宮廷の天井にテレトラスポルトした。
辺りをぐるりと見渡してみると、誰の姿も無い。
(気のせい……かな?)
と少し不審に思いながら、もう一度じっくりと天井を見つめていく。
(誰かの足音が――着地音が、聞こえた気がしたんだけど……)
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