酒池肉林王と7番目の天使

日向かなた

文字の大きさ
上 下
112 / 303

第21話ー6

しおりを挟む
 ――その頃。

 ルフィーナは、衛兵の死角――宮廷の天井の一角に張り付いていた。

 目前には、ついさっき訪ねて来たマサムネの顔がある。

 その後ろには、テレトラスポルト役のハナもいる。

「もうあかんわ。フラビーにはまだ言い辛いけど、急がなあかんし、あんさんには今のうちに言っとくわ」

「陛下の後妻の件ですか?」

 とルフィーナが問うと、マサムネが少し驚いた顔をした。

「皆さん気付いてますよ、マサムネ殿下がわたしを陛下の後妻にしようとお考えのことは」

「あれっ」と声高になったマサムネの背後、ハナが口を開く。

「じゃあ、こっちでもそういう方向で話が進んでるのか? フラビーとルフィーナさんは、夫婦になるつもりなのかっ……?」

 困惑した声をしていた。ルフィーナが答えるよりも先に、言葉を続ける。

「あ、あたいはフラビーの後妻――王妃には、ベルがいい」

「黙っとれ、ハナ」

 と、マサムネが厳しい声で言った。

「王妃と側室やったら、王妃にルフィーナや。側室とどんだけ影響力に差があると思ってんねん。国民は当然、賢いコニッリョにとっても、『人間界の王』がメッゾサングエを王妃に選んだっちゅー事実は、側室の何倍もデカい。まぁ、自分らと種族の違うモストロのメッゾサングエやから、どの程度の効力があるかは分からんけど……」

「嫌だ、王妃はベルがいい。側室とは格が違うからこそ、あたいの大切な友達を王妃にしたいんだ」

 と剥れた顔をして言ったハナが「ていうか」と顔を上げ、マサムネの向こうにいるルフィーナの顔を見た。

「それ以前に、ルフィーナさんてフラビーとの結婚望んでるのか? だってルフィーナさんの好みって、アドぽんだろ?」

 ルフィーナが「はい」と答えた後、小さく溜め息を吐いた。

「マサムネ殿下……わたしも一応、好きな人との結婚願望ってそれなりにあるんですよ。まぁ、アドルフォ閣下はやっぱり素敵すぎてたぶん永遠に好きとはいえ、もう妻になりたいと思ってませんが。それに、テレトラスポルト旅商人も好きでやってますし……」

 と戸惑った様子のルフィーナを少しのあいだ見つめた後、マサムネがこう問うた。

「この国は好きか?」

「はい、とても。でも今は、見ていて悲しいです。前はあんなに、笑顔の溢れる素敵な国だったのに……」

「もう悲劇を生まないために、国民とコニッリョの融和が必要なんよ。そのために、王妃にメッゾサングエが必要なんよ。この3ヶ月間、フラビーに適したメッゾサングエ探しとるけど、結局あんさんが一番なんや。魔力・技術共に充分やし、父親がこの周辺の国の人間のお陰で馴染むし、その分の親近感も湧くやろうし、器量も及第点やし。それから、国民想いや。これは重要なことやと思っとる」

「そうですか」

 と小さく返したルフィーナが、少しのあいだ当惑顔で黙っていた。

「フラビーじゃ嫌なん?」

 とマサムネが問うと、ルフィーナがふとおかしそうに笑った。

「そんなことないです。アドルフォ閣下に比べたらか弱くて、そんなに好みというわけではありませんが、陛下が国民から愛されるのも納得しています」

 そして真剣な眼差しで待っているマサムネに対し、こう返した。

「今はヴィットーリア王妃陛下が亡くなったばかりで、陛下の再婚は早くても来年になると思います。なので、わたしにもう少しお時間をください。ベルさんには到底敵わない気がしますが、陛下を愛するよう……また、愛されるよう、努力します――」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...