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第16話ー3
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一時宮廷に帰ったベルは、ヴァレンティーナの侍女としての仕事を行い、昼餉を取り、ヴァレンティーナを家庭教師の下に届けたら、大手門のある『下の中庭』の端っこに用意していた大量の薪を、アドルフォに手伝ってもらって荷馬車に積んでいく。
「ベル」
呼ばれて振り返ったら、フラヴィオがいた。
「こ……これから火刑か? 余も行く」
ベルとアドルフォが、フラヴィオの表情を見つめるなり首を横に振った。
「フラヴィオ様はここに居てください。処刑場で泣かれては困ります」
「処刑を邪魔されるのは、もっと困ります」
フラヴィオが口を開きかけると、2人は「駄目です」と声を揃えて馬に乗り、大手門を潜って再び処刑場へと向かって行った。
2時半過ぎに処刑場へと戻ると、磔刑中の4人の前には相変わらず観客が押し寄せていた。
その中に、パオラやファビオ、被害に遭ったプリームラ農民たちの姿もある。
「すんげえ、苦しそうだな……」
「同情するでねえぞ、ファビオ! おめぇの妻子が、この貴族女共にどれだけひでぇことされて殺されたと思ってんだ!」
「ああ……んだな」
そんな会話を近くで聞いていたスピーナ公が、ファビオの前へと出て行った。
真っ青になり、目には涙が溜まっていた。
「き、君……私の妻と娘を、ゆ、許してくれないか?」
声が震えている。
近くにいた農民が声を荒げた。
「ふざけんでねえ! おめえらプリームラ貴族は、昔っからわしら農民を奴隷だの家畜扱いだのしてたべ!」
「そうだそうだ! こんなときばっかり何だ! おめえらプリームラ貴族を助けてやる義理はねえ!」
ファビオの隣にいたパオラが、「ベルちゃん」と気付くと、揉めていた一同がベルの方へと顔を向けた。
荷馬車の御者席から降り、アドルフォと共に歩いて来る。
スピーナ公が、すぐさまその下に駆けて行った。
「宮廷天使殿!」
アドルフォが失笑した。
「どうしたんです、公爵閣下。先日はベルを『悪魔』だとか『投獄しろ』だとか罵倒していたのに」
「なんだと、こいつ!」
と激昂した民衆たちに突き飛ばされたスピーナ公が、ベルに向かって頭を下げた。
「申し訳なかった、宮廷天使殿…! どうかこれ以上は、妻と娘を苦しめないで死なせてやってくれ……!」
ベルは少しのあいだスピーナ公を見つめた後、パオラやファビオ、プリームラ農民たちと目を合わせ、最後にスピーナ公爵夫人たちの顔を見上げた。
「ご機嫌よろしゅうございます、スピーナ公爵夫人、並びにご令嬢方。こちらにパオラさんやファビオさん、プリームラ農民の方々がいらっしゃいますよ?」
三姉妹から、喘ぎ喘ぎの声が返って来た。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」
「今までずっと、ごめんなさいっ……もう許してっ……!」
「お願い、助けてっ……苦しいのっ……!」
パオラがファビオの顔を見てこう言った。
「おらは、おらが襲われたことは怒ってねえだ。一番辛い思いしたのはファビオ兄だ。ファビオ兄に任せるだよ」
「オイラは……」
プリームラ農民がファビオ見て言う。
「まさか許すだか? おめえが大切にしてた妻子が何されたか、ちゃんと思い出せファビオ!」
「うん……」
ファビオがベルを見た。
「首謀は、スピーナ公爵夫人なんだべ……?」
ベルは「スィー」と答えると、ファビオを引っ張ってスピーナ公爵夫人のすぐ手前に連れて行った。
「スピーナ公爵夫人、ファビオさんです。何か仰りたいことはございませんか? 火を付けた後は、私はもうお手伝いして差し上げることが出来ませんよ?」
喘ぐ口から吐き出されたのは、唾だった。
ファビオの目の中に入り、「うっ」と擦る。
それによって今朝よりは幾分落ち着いていた民衆が煽られ、たちまち憤怒して手当たり次第にスピーナ公爵夫人に向かって物を投げていく。
流れ弾を食らわぬようアドルフォに守られながら、ベルが低く声を響かせた。
「左様でございますか……」
ファビオに確認したところ、娘3人の方は「もういい」とのことで、助手の兵士に持たせていた絞首刑用の縄を受け取った。
兵士たちが4人の足元に薪を組んでいく傍ら、ベルはアドルフォに高く持ち上げてもらって、三姉妹に首縄を掛けていく。
そしてその縄の端を持ち、三姉妹の後方に立ったベルは、3時になると火を付けるよう助手の兵士たちに合図した。
「さようなら、お父様……」
三姉妹の声とスピーナ公のすすり泣く声が聞こえて間もなく薪が燃え上がり、ベルが力一杯縄を引くと、彼女たちの首が絞められた。
炎に焼かれ、もがき苦しむ前に、その命が断ち切られていく。
その一方で、それまで気丈でいたスピーナ公爵夫人の様子が変わり始めた。
「あ…熱い…っ……熱いわっ……」
民衆は鼻で笑って見ていた。
「熱いっ……熱いぃっ……!」
華やかなヴェスティートが燃え上がり、露わになった皮膚を炎が焦がしていく。
「助けてっ……助けて、誰かっ……!」
足の指が焼け落ち、もがくと炎の中に血が噴き出した。
風が強くなったことで、スピーナ公爵夫人の顔の近くまで炎が燃え上がると、ついに辺りに絶叫が響き渡っていく。
民衆が動揺し始め、プリームラ貴族の女たちが恐怖に耳を塞ぐ。
スピーナ公はベルの前に膝を付き、額を地面にくっ付けて泣き叫ぶ。
「どうか、お慈悲を下さい! 妻をお助け下さい、宮廷天使殿!」
ファビオが困惑した様子でベルに寄って来た。
「わ、分かった、もういいだ、宮廷天使様。公爵夫人を楽にしてやってけろ」
「だ、駄目だべ、ファビオ!」
と、農民が口を挟んだ。
「この貴族女に同情するでねえ! それに、今からじゃ宮廷天使様が燃えちまうべっ……!」
その通りだった。
さっきスピーナ公爵夫人に予告した通り、火を付けてからでは、もうベルに『慈悲』を与えてやることは出来ない。
ここまで燃え上がってしまってからでは、尚のことだった。
スピーナ公爵夫人の足首から下が焼け落ち、もがいて血が噴き出し、皮膚が剥がれ、断末魔が轟いていく。
「お助け下さいっ…お助け下さい、陛下っ……! フラヴィオ・マストランジェロ陛下っ……陛下あぁぁっ!」
スピーナ公に泣き縋られ、困り果てたベルがアドルフォを見て「申し訳ございません」と言うと、頷いたアドルフォが「気にするな」と大剣の柄に手を掛けた。
その時のこと。
「――あっ……」
絶叫が止んだ。
スピーナ公爵夫人の頭と両腕、支柱がスパッと切られて炎の中に崩れ落ちる。
アドルフォが溜め息交じりに「来ましたか」と言いながら、後ろの方に顔を傾ける。
観客一同がその視線を追うと、そこには赤の愛馬に騎乗し、剣を片手に持った国王フラヴィオ・マストランジェロがいた。
ざわつく民衆の中、フラヴィオが下馬してベルたちのところへとやって来る。
腰に剣を戻した右手は、小刻みに震えていた。
「邪魔して、申し訳ない……」
スピーナ公は、フラヴィオの前に膝を付いて「ありがとうございます」を2回言った後、静かに涙を落としながら燃え行く妻子を正座して見送っていた。
ベルがフラヴィオの右手を両手で握り、顔を覗き込む。
「だ……大丈夫ですか?」
「うむ……」
無理に作った微笑だった。ベルの両手の中で、まだその手が震えている。
民衆の囁きが聞こえてくる。
「ほら見ろ、酒池肉林王が助けに入ったぞ」
「お優しい陛下は見ていられなかったのよ」
「楽にしてやる必要なんてなかったのによ」
「何よ、結果的に陛下が首謀者を『死刑』にして下さったんじゃない」
「まぁ……そうか。そうだな……あの人、今度はちゃんとしてくれたんだな……――」
やがて炎が小さくなってくると、フラヴィオが絞首台の方へと歩いていった。
首縄を切り、ひとりひとり腕に抱いて、兵士が持ってきた火葬用の籠の中に丁重に入れていく。
ベルとアドルフォが手伝い、パオラが手伝い、やがてファビオも手伝い始めると、民衆たちが顔を見合わせた。
フラヴィオの顔を覗き込んだ民衆の女たちが胸を痛めて涙を落とし、膝を付いて死んでいったプリームラ貴族の女たちに祈りを捧げる。
プリームラ貴族の女たちの中から、「ありがとう」と呟く声が聞こえた。
この日以降、王都オルキデーア・隣町プリームラのあちこちで起きていた民衆とプリームラ貴族の暴動は沈静化し、それに伴い、11月末には新しい税制度が制定された。
「ベル」
呼ばれて振り返ったら、フラヴィオがいた。
「こ……これから火刑か? 余も行く」
ベルとアドルフォが、フラヴィオの表情を見つめるなり首を横に振った。
「フラヴィオ様はここに居てください。処刑場で泣かれては困ります」
「処刑を邪魔されるのは、もっと困ります」
フラヴィオが口を開きかけると、2人は「駄目です」と声を揃えて馬に乗り、大手門を潜って再び処刑場へと向かって行った。
2時半過ぎに処刑場へと戻ると、磔刑中の4人の前には相変わらず観客が押し寄せていた。
その中に、パオラやファビオ、被害に遭ったプリームラ農民たちの姿もある。
「すんげえ、苦しそうだな……」
「同情するでねえぞ、ファビオ! おめぇの妻子が、この貴族女共にどれだけひでぇことされて殺されたと思ってんだ!」
「ああ……んだな」
そんな会話を近くで聞いていたスピーナ公が、ファビオの前へと出て行った。
真っ青になり、目には涙が溜まっていた。
「き、君……私の妻と娘を、ゆ、許してくれないか?」
声が震えている。
近くにいた農民が声を荒げた。
「ふざけんでねえ! おめえらプリームラ貴族は、昔っからわしら農民を奴隷だの家畜扱いだのしてたべ!」
「そうだそうだ! こんなときばっかり何だ! おめえらプリームラ貴族を助けてやる義理はねえ!」
ファビオの隣にいたパオラが、「ベルちゃん」と気付くと、揉めていた一同がベルの方へと顔を向けた。
荷馬車の御者席から降り、アドルフォと共に歩いて来る。
スピーナ公が、すぐさまその下に駆けて行った。
「宮廷天使殿!」
アドルフォが失笑した。
「どうしたんです、公爵閣下。先日はベルを『悪魔』だとか『投獄しろ』だとか罵倒していたのに」
「なんだと、こいつ!」
と激昂した民衆たちに突き飛ばされたスピーナ公が、ベルに向かって頭を下げた。
「申し訳なかった、宮廷天使殿…! どうかこれ以上は、妻と娘を苦しめないで死なせてやってくれ……!」
ベルは少しのあいだスピーナ公を見つめた後、パオラやファビオ、プリームラ農民たちと目を合わせ、最後にスピーナ公爵夫人たちの顔を見上げた。
「ご機嫌よろしゅうございます、スピーナ公爵夫人、並びにご令嬢方。こちらにパオラさんやファビオさん、プリームラ農民の方々がいらっしゃいますよ?」
三姉妹から、喘ぎ喘ぎの声が返って来た。
「ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」
「今までずっと、ごめんなさいっ……もう許してっ……!」
「お願い、助けてっ……苦しいのっ……!」
パオラがファビオの顔を見てこう言った。
「おらは、おらが襲われたことは怒ってねえだ。一番辛い思いしたのはファビオ兄だ。ファビオ兄に任せるだよ」
「オイラは……」
プリームラ農民がファビオ見て言う。
「まさか許すだか? おめえが大切にしてた妻子が何されたか、ちゃんと思い出せファビオ!」
「うん……」
ファビオがベルを見た。
「首謀は、スピーナ公爵夫人なんだべ……?」
ベルは「スィー」と答えると、ファビオを引っ張ってスピーナ公爵夫人のすぐ手前に連れて行った。
「スピーナ公爵夫人、ファビオさんです。何か仰りたいことはございませんか? 火を付けた後は、私はもうお手伝いして差し上げることが出来ませんよ?」
喘ぐ口から吐き出されたのは、唾だった。
ファビオの目の中に入り、「うっ」と擦る。
それによって今朝よりは幾分落ち着いていた民衆が煽られ、たちまち憤怒して手当たり次第にスピーナ公爵夫人に向かって物を投げていく。
流れ弾を食らわぬようアドルフォに守られながら、ベルが低く声を響かせた。
「左様でございますか……」
ファビオに確認したところ、娘3人の方は「もういい」とのことで、助手の兵士に持たせていた絞首刑用の縄を受け取った。
兵士たちが4人の足元に薪を組んでいく傍ら、ベルはアドルフォに高く持ち上げてもらって、三姉妹に首縄を掛けていく。
そしてその縄の端を持ち、三姉妹の後方に立ったベルは、3時になると火を付けるよう助手の兵士たちに合図した。
「さようなら、お父様……」
三姉妹の声とスピーナ公のすすり泣く声が聞こえて間もなく薪が燃え上がり、ベルが力一杯縄を引くと、彼女たちの首が絞められた。
炎に焼かれ、もがき苦しむ前に、その命が断ち切られていく。
その一方で、それまで気丈でいたスピーナ公爵夫人の様子が変わり始めた。
「あ…熱い…っ……熱いわっ……」
民衆は鼻で笑って見ていた。
「熱いっ……熱いぃっ……!」
華やかなヴェスティートが燃え上がり、露わになった皮膚を炎が焦がしていく。
「助けてっ……助けて、誰かっ……!」
足の指が焼け落ち、もがくと炎の中に血が噴き出した。
風が強くなったことで、スピーナ公爵夫人の顔の近くまで炎が燃え上がると、ついに辺りに絶叫が響き渡っていく。
民衆が動揺し始め、プリームラ貴族の女たちが恐怖に耳を塞ぐ。
スピーナ公はベルの前に膝を付き、額を地面にくっ付けて泣き叫ぶ。
「どうか、お慈悲を下さい! 妻をお助け下さい、宮廷天使殿!」
ファビオが困惑した様子でベルに寄って来た。
「わ、分かった、もういいだ、宮廷天使様。公爵夫人を楽にしてやってけろ」
「だ、駄目だべ、ファビオ!」
と、農民が口を挟んだ。
「この貴族女に同情するでねえ! それに、今からじゃ宮廷天使様が燃えちまうべっ……!」
その通りだった。
さっきスピーナ公爵夫人に予告した通り、火を付けてからでは、もうベルに『慈悲』を与えてやることは出来ない。
ここまで燃え上がってしまってからでは、尚のことだった。
スピーナ公爵夫人の足首から下が焼け落ち、もがいて血が噴き出し、皮膚が剥がれ、断末魔が轟いていく。
「お助け下さいっ…お助け下さい、陛下っ……! フラヴィオ・マストランジェロ陛下っ……陛下あぁぁっ!」
スピーナ公に泣き縋られ、困り果てたベルがアドルフォを見て「申し訳ございません」と言うと、頷いたアドルフォが「気にするな」と大剣の柄に手を掛けた。
その時のこと。
「――あっ……」
絶叫が止んだ。
スピーナ公爵夫人の頭と両腕、支柱がスパッと切られて炎の中に崩れ落ちる。
アドルフォが溜め息交じりに「来ましたか」と言いながら、後ろの方に顔を傾ける。
観客一同がその視線を追うと、そこには赤の愛馬に騎乗し、剣を片手に持った国王フラヴィオ・マストランジェロがいた。
ざわつく民衆の中、フラヴィオが下馬してベルたちのところへとやって来る。
腰に剣を戻した右手は、小刻みに震えていた。
「邪魔して、申し訳ない……」
スピーナ公は、フラヴィオの前に膝を付いて「ありがとうございます」を2回言った後、静かに涙を落としながら燃え行く妻子を正座して見送っていた。
ベルがフラヴィオの右手を両手で握り、顔を覗き込む。
「だ……大丈夫ですか?」
「うむ……」
無理に作った微笑だった。ベルの両手の中で、まだその手が震えている。
民衆の囁きが聞こえてくる。
「ほら見ろ、酒池肉林王が助けに入ったぞ」
「お優しい陛下は見ていられなかったのよ」
「楽にしてやる必要なんてなかったのによ」
「何よ、結果的に陛下が首謀者を『死刑』にして下さったんじゃない」
「まぁ……そうか。そうだな……あの人、今度はちゃんとしてくれたんだな……――」
やがて炎が小さくなってくると、フラヴィオが絞首台の方へと歩いていった。
首縄を切り、ひとりひとり腕に抱いて、兵士が持ってきた火葬用の籠の中に丁重に入れていく。
ベルとアドルフォが手伝い、パオラが手伝い、やがてファビオも手伝い始めると、民衆たちが顔を見合わせた。
フラヴィオの顔を覗き込んだ民衆の女たちが胸を痛めて涙を落とし、膝を付いて死んでいったプリームラ貴族の女たちに祈りを捧げる。
プリームラ貴族の女たちの中から、「ありがとう」と呟く声が聞こえた。
この日以降、王都オルキデーア・隣町プリームラのあちこちで起きていた民衆とプリームラ貴族の暴動は沈静化し、それに伴い、11月末には新しい税制度が制定された。
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