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第11話ー2
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――2人が無言で小さな着地音と共に降り立つは、前方を推進していた大型帆船の船尾楼の上。
カプリコルノ島の周辺では見かけない四角い船体で、両端が持ち上がり、真横から見たら三日月形をした船だった。
ハナはすぐさま甲板上にいる船員たちに向かって手をかざし、小さく「ヴェント・デル・ソンノ」と唱えた。
すると、船員たちを微風が撫でたように見えた刹那、ばたばたと倒れて眠りに落ちていく。
思わず小声になるのも忘れて「すごい」とベルが言うと、ハナが腰に手を当てて得意げな表情を見せた。
「まぁな」なんて心の声が聞こえた気がした。
それにしても、凄まじい大きさの船だとベルは目を疑う。
反対側にある船首が、優に50m以上先にあるのが分かる。
「なんだろうな、あれ」
とハナが小声で言いながら、甲板の中央を指で差した。
甲板は左舷と右舷に分かれていて、中央部分が甲板より数十センチほど高くなっていた。
そしてそこには、下の甲板への昇降口か、明かり取りの窓か、穴が10個ほど空いているのが見えた。
それを指差し、あれは何かとベルとハナが互いの顔を見て問いかけるが、どちらも答えは分からず小首を傾げる。
とりあえず分かったのは、カプリコルノの船とは見た目だけではなく、中の構造も違うだろうということだった。
ベルはなるべく足音を立てぬように左右に歩いて行った。
少し身を乗り出し両舷を見てみると、カプリコルノの船と違って船底が尖っておらず、平坦になっているように思えた。
また、カプリコルノの軍船は両舷から砲が多数覗いているが、こちらはそれが無い。
幸か不幸か、3年前の海賊船ではなく、ただの商船かもしれないと思った。
しかしこの船にモストロが乗っているのは確実で、それを思えば武装する必要がないだけのことにも思う。
「艦砲が無いって?」
と、ハナがベルの様子を見ながら問うた。
「その理由はな、重いからだと思うぞ。特にコレに乗ってるかもしれないカーネ・ロッソってさ、土属性のモストロだから、こんなデカい船を動かすのは容易じゃないはずなんだ」
なるほど、とベルは四角く赤い帆の裏側に顔を向ける。
そこには、さっきハナが自分(とタロウ)の船――ハナ号――にそうしたように、魔法の力で風が吹き付けられている。
闇属性のハナやタロウが光属性の魔法を得意としないように、カーネ・ロッソも自身の生まれ持った属性と相対する属性――風――の魔法を使うのは難儀のようだ。
「それにさ、戦う時は相手の船の甲板にテレトラスポルトで直接移動するっぽいからな」
と、ハナが甲板上をくまなく見つめる。
「まぁ、一応カノン砲が少しあるみたいだけど、基本はいらないから積まないのさ。どうせ命中力も悪いしな」
ベルが「ふむ」と返すと、ハナが「あ、そだ」と足元を指差しながら、尚のこと声を小さくした。
「大抵はさ、船長室がこの下――船尾楼にあるんだ」
その黒猫の耳が何かを聞き取るように動いている。
「しっかし……まだまだ乗ってるな。やっぱり皆、カンクロ語だ」
「分かりますか?」
「ああ、完璧じゃないけど周辺の国の言葉は覚えさせられてるよ。周辺の国からは、商人や観光客が大勢来るからさ。とりあえず、移動しよう」
ハナはベルの手を取ると、甲板の中央から左舷寄りにテレトラスポルトした。
まず恐る恐る覗き込んでみるは、両舷の甲板より数十センチ高く出来ている中央部分――謎の10個の穴。
「――…っ……!」
互いの口を塞ぎながらエビ反りになりかけた後、船の揺れで尻を付く。
そこは下の甲板への昇降口でも明り取りの窓でもなく、直接船倉へ繋がっていると思われる出入口だった。
どうやら船内は壁で仕切りを作り、小さな部屋を並べたような構造になっているらしい。
それぞれの部屋の昇降口には縄梯子があり、船員が今にも顔を出すかもしれない。
ハナが慌てて真上から全船倉口に向かって『ヴェント・デル・ソンノ』を掛け、中の船員を眠らせていく。
梯子を登り降りしていた船員が居たのか、どすんという大きな落下音がいくつか聞こえた。
そのことから察するに、やはりカプリコルノの軍船のように甲板が何層かに分かれいる構造にはなっておらず、梯子は長く続いていて、この下の床は船底になっているように思えた。
船倉に降りていく前に、2人は甲板上をぐるりと見渡した。
小型の船が一艘積載されている他、さっきハナが言った通り大砲を少し――2門――確認出来た。
そして、甲板上で眠る船員の武器が赤く染まっている。
武器から滴り落ちたのか、ところどころには小さな血痕も見えた。
「モストロが乗ってるからって海賊船とは決め付けられないけど、こいつら、ついさっき戦って来ました……って感じだな。この上で戦ってたらもっと大量の血痕があっただろうし、どこかの船に乗り込んで戦って来たんだ」
ベルは頷いて、眠る船員たちを隈なく見つめる。
凹凸の少ない顔立ちはカプリコルノ周辺ではなく、レオーネ国に近いようだった。
またレオーネ人と同様に、黒か、黒に近い茶色の髪をしていた。
「あれは……」
ベルは、真昼間と比べると少し紅くなった陽に照らされ、船倉口脇で煌めいている何かを見つけた。
歩み寄って拾ってみると、それは銀貨のようだった。
それを見たハナが「げっ」と少し声高になる。
「これ、ヴィルジネの銀貨じゃないか……!」
探して見るとそれは後7枚見つかり、すべて左舷側の船倉口付近に落ちていた。
それ故、まずは左舷の最前方の船倉から見ていくことにした。
テレトラスポルトで降りてしてしまうと船員を踏んづけて起こしてしまう可能性もあるので、梯子を降りていく。
ハナが先に降り、ベルはその後を付いて行った。
やはり梯子は長く、また深い穴倉のようになっている中は、傾いて来た陽が差している程度では薄暗かった。
そうでなくとも兜で顔を隠している故に視界が万全でなく、ハナが小声で「ちょっと待て」と言って梯子の途中で止まった。
片手を離して、魔法で小さな光の玉を作ってベルの傍らに浮かべる。
お陰で足元がよく見えるようになり、ベルも小声で「ありがとうございます」と返して、付いて来てくれる光の玉の灯りを頼りに降りて行った。
辿り着くとやはり船底のようで、足元にはスノコが敷かれており、部屋は12畳くらいあるようだった。
「何も積まれてませんね」
「だな。あいつら、何も無いとこで何やってたんだ?」
その『あいつら』こと、壁際で眠っている2人の船員に近寄って行ったベルとハナ。
状況を理解するなり大きく息を呑んだ。
船底から水漏れがしており、どうやらそれを修理している真っ最中だったようだ。
それぞれ一人の船員の胸倉を引っ掴み、ベルは往復ビンタ、ハナは拳で横っ面を殴り付けて眠りから覚醒させる。
船員2人が呻き声をあげ、瞼が動いた瞬間にテレトラスポルトで甲板上に移動。
姿を見られてしまっただろうか?
ハナの猫耳が起きた船員2人の会話を聞き取る――
「いってぇ……おまえ、殴っただろ!」
「いや、おまえが殴っただろ!」
「ふざけんな、おまえが――って、やべぇ!」
「早く穴塞がねぇと!」
……大丈夫なようだった。
それにしても便利な構造の船だと、ベルは思う。
壁で仕切られている故に、穴が空いた船倉以外は浸水することなく、沈没する恐れが少ないのだから。
「このカンクロ国式の船の設計図が欲しいところです」
「そうか? 他の船倉に行き来する度に梯子の登り降りするの、面倒じゃないか? でもま、うちの造船職人は、この近辺の国の船に詳しいから知ってるかもしれないな。聞いておくよ」
次に降りて行った部屋は、隣――左舷、前方2つ目――の部屋。
梯子を降りながら、ベルの顔が少し歪む。
何故なら、食べ物の腐った臭いがしていた――食糧庫だった。
ここには船員が十数人いて、梯子の真下には3人が重なって眠っていた。
付近には塩漬けの肉や魚が落ちている。
「腐ったものも混じってるのでは……」
「たぶんな。でも、この程度の臭いならマシな方だぞ? モストロがいるなら新鮮な水がいつでも飲めるし、肉や魚を凍らせることも出来るし。人間だけの海賊や軍隊の船の中はもっと臭いが酷いんだ。それに真水持って行くと腐るからって酒飲んで、船酔いと相まって海に『オエェェェェッ』とかなったりしてな」
と小声で話しながら財宝の有無を確認し、無いと分かるとハナは甲板上にテレトラスポルトした。
そこで、何か気付いたように「あ」と言って話を続ける。
「そうか、きついだろうな。犬――カーネ・ロッソには。この船に乗ってたらの話だけど、あたいらガット・ネーロ、ティグラートの耳が利くのに対し、カーネ・ロッソは鼻が利くって言ったろ? 人間でも臭いって思うものは、カーネ・ロッソにとったら激臭なのさ。船倉内は隙間から臭いが伝わって行きそうだし、あそこに逃げてそうだな」
と、ハナが指さしたのは、この船に降り立った際の場所の真下――船尾楼だった。
「たぶん船長室だと思うんだけど、さっきあの中から男と女の声がした。女海賊ってあんまり見ないし、メスのカーネ・ロッソが海賊の男に飼われてるのかもな」
次の船倉――左舷中央――の梯子を少し降りて中に入ると、立ち込めている匂いから今度は調理場だとすぐに察した。
しかし財宝があるかもしれないので降り続けながら、ベルはふと気になったことをハナに問うてみる。
「カーネ・ロッソとは、ガット・ネーロ、ティグラートと比べてどうなのですか?」
「強さか? 今のところ魔力はあたいらガットが最強で、個体差はあるけど、カーネの魔力はモストロの中で『中の中』とか『中の下』あたりだな。ただ、戦ったことないから腕っぷしとかは知らない。爪はガットの方が鋭いけど、牙はカーネの方がでかいし、どうなんだろうな。風魔法以外の弱点とかも知らないし」
船底に辿り着いてみると、船員が食糧庫よりもたくさん眠っていた。
突如眠らされたせいか、床のすのこには酒が零れ、肉・魚料理、皿などが散乱している。
また釜戸があり、大釜が棒に吊るされていた。
「危ないから消しといてやるか」
と、ハナが釜戸の火を指差すと、ふっと火が消えた。
大釜がぐつぐつと煮立っていたので、ハナが人差し指を入れて味見する。
「熱くないのですか?」
「熱いっちゃ熱いけど、平気。――って、バッリエーラ掛かってるからって真似したら火傷するぞ? 魔法で作られた悪意のある料理とかなら兎も角、ただの料理は跳ね返さないからな。あたいはモストロだから人間より平気ってだけさ」
「ふむ。ではバッリエーラは、毒はどうなのですか?」
「そうだ、それも気を付けなきゃ駄目だぞ。バッリエーラは魔法の毒やモストロの毒しか守ってくれないんだ。まぁ、カプリコルノには毒蛇もいないし、死に至るような毒草もないから大丈夫だと思うけど」
そう言った後、ハナが大釜を見下ろして「美味いな」と言った。
常日頃、使用人として厨房を手伝うこともあるベルは興味を持ち、辺りにある調味料の入った袋を調べてみる。
すると、知らない香辛料がたくさん出て来て思わず感動に包まれた。
その感動は料理人としてということもあるが、香辛料は世界各地の王侯貴族しか手に入れることの出来ない高級品故に。
「なんと……! この船が3年前の海賊船や、先ほどヴィルジネ国を襲って来たでしょう海賊船だと断定出来たら、これらは頂いて行ってもよろしいのでしょうか」
「いいんじゃないか? 3年前の海賊船だったらフラビーたちは間違いなく死刑にするし、ヴィルジネを襲ってたら襲ってたでマサムネの第二夫人が許さないし、どっちの場合でも金銀財宝はあるだけ返してもらうし。ていうか、香辛料が好きな国って多いよな。香辛料を巡って戦争してんのとか見たことある。うちの国はそんなに使わないからちょっと不思議だ」
「レオーネ国は治癒魔法があるからでは? 香辛料類は、薬にもなるのですよ」
「そうなのか」
次にベルの興味は、まな板の上に移った。
そこには大きな骨付き肉と、見たことのない大きな四角い包丁が置かれていた。
ちゃんとした料理人がいるのか、料理人の命といっても過言ではないその包丁は、まるで鋭利に研ぎ澄まされた斧のようだった。
まな板の上にあった肉を試し切りしてみると骨ごと断ち切れて、また感動する。
「なんと……! この素晴らしい包丁は、1つ頂いて行ってもよろしいでしょうか」
「いいんじゃないか? 念のため、今は武器を多く持ってた方がいいって意味で。そういえば、ベルって使用人としての仕事は何でも優秀だって聞いたけど、オルキデーア城のフィコ料理長とどっちが包丁捌き上手いんだ?」
「それはフィコ料理長です。フィコ料理長は私の師匠。様々な包丁技を叩き込んで頂きました」
「ほぉー?」
ベルはいそいそと、包丁を腰に装備している矢筒に差し込んだ。
その後、財宝は見当たらなかったので、ハナが甲板上にテレトラスポルトした。
ふと船尾楼の方を見つめるハナに、どうしたのかとベルは小首を傾げた。
「なぁ、ベル……カーネ・ロッソはさ、少し可哀想かも。なんていうか中身がさ、人間の理想の犬って感じでさ」
「理想の犬?」
鸚鵡返しに問うたベルに「うん」と言った後、ハナは次の船倉――左舷・後方から2つめ――に降りていく。
ベルも降り始めると、ハナがこう続けた。
「少し、ベルと似てる」
ベルは「え?」と、下にいるハナを見た。
「私は犬ですか?」
「ああいや、バカにしてるんじゃないぞ? 主に対する忠誠がさ。ただベルはこんな風に自己判断で行動出来るけど、カーネは主の命令に従うことしか出来ないみたいなんだ。だから主が悪なら悪に染まるし、善良なら善良なモストロになる。だからさ、もしこの船が例の海賊船だったとしたら、そういうカーネが一緒に死刑にされるのは可哀想だろ?」
ハナはつくづく心優しいモストロだと、ベルは思った。
だが、少し困惑した。
「ハナ、私は……」
「うん?」
と小首を傾げた矢先に船底に辿り着いたハナが、ベルが言葉を続ける前に「ああっ」と声を上げた。
その後慌てて手で口を塞いだあと、ベルを見ながら中にある積み荷を指差す。
足の踏み場の無いくらい船員が寝転がっているそこには、大きな袋がいくつもあった。
その口からは、ヴィルジネ国の銀貨だけでなく、金貨や真珠、綿織物などが見えている。
ハナが「うっわぁ」と顔を引きつらせた。
「ヴィルジネの銀貨に金貨、たぶんヴィルジネ湾で獲れた特産品の真珠に、ヴィルジネ国自慢の高級綿織物……」
そして、やはり血で汚れている船員たちの武器を見て、ベルは視界を悪くしている兜を脱いだ。
「これはもう、決定と言っても良さそうですね」
ハナも「だな」と同意すると、兜を脱いだ。
「こりゃ全員、うちの島に連行だ」
「テレトラスポルトで船ごとですか?」
「無理、無理」
とハナが手を横に2回振った。
「重すぎるよ。テレトラスポルトは、自分一人だけの移動でもかなり力を使うんだ」
そういえば今日、船だと辿り着くまでに1年掛かるほど距離が離れているらしい、カプリコルノからやって来る時のテレトラスポルト役は、ハナだったことをベルは思い出す。
その後もハナは何度もテレトラスポルトを使っていたし、別の魔法も使っている。
「今日はもう、あたいら2人のハナ号までのテレトラスポルトを数回と、ハナ号の風を操って島まで帰るくらいしか出来ないよ。で、この船はうちのでかい船に来させて曳航してもらおう」
とハナが言い終わるや否や、その猫耳に扉の開閉音が聞こえて来た。
カプリコルノ島の周辺では見かけない四角い船体で、両端が持ち上がり、真横から見たら三日月形をした船だった。
ハナはすぐさま甲板上にいる船員たちに向かって手をかざし、小さく「ヴェント・デル・ソンノ」と唱えた。
すると、船員たちを微風が撫でたように見えた刹那、ばたばたと倒れて眠りに落ちていく。
思わず小声になるのも忘れて「すごい」とベルが言うと、ハナが腰に手を当てて得意げな表情を見せた。
「まぁな」なんて心の声が聞こえた気がした。
それにしても、凄まじい大きさの船だとベルは目を疑う。
反対側にある船首が、優に50m以上先にあるのが分かる。
「なんだろうな、あれ」
とハナが小声で言いながら、甲板の中央を指で差した。
甲板は左舷と右舷に分かれていて、中央部分が甲板より数十センチほど高くなっていた。
そしてそこには、下の甲板への昇降口か、明かり取りの窓か、穴が10個ほど空いているのが見えた。
それを指差し、あれは何かとベルとハナが互いの顔を見て問いかけるが、どちらも答えは分からず小首を傾げる。
とりあえず分かったのは、カプリコルノの船とは見た目だけではなく、中の構造も違うだろうということだった。
ベルはなるべく足音を立てぬように左右に歩いて行った。
少し身を乗り出し両舷を見てみると、カプリコルノの船と違って船底が尖っておらず、平坦になっているように思えた。
また、カプリコルノの軍船は両舷から砲が多数覗いているが、こちらはそれが無い。
幸か不幸か、3年前の海賊船ではなく、ただの商船かもしれないと思った。
しかしこの船にモストロが乗っているのは確実で、それを思えば武装する必要がないだけのことにも思う。
「艦砲が無いって?」
と、ハナがベルの様子を見ながら問うた。
「その理由はな、重いからだと思うぞ。特にコレに乗ってるかもしれないカーネ・ロッソってさ、土属性のモストロだから、こんなデカい船を動かすのは容易じゃないはずなんだ」
なるほど、とベルは四角く赤い帆の裏側に顔を向ける。
そこには、さっきハナが自分(とタロウ)の船――ハナ号――にそうしたように、魔法の力で風が吹き付けられている。
闇属性のハナやタロウが光属性の魔法を得意としないように、カーネ・ロッソも自身の生まれ持った属性と相対する属性――風――の魔法を使うのは難儀のようだ。
「それにさ、戦う時は相手の船の甲板にテレトラスポルトで直接移動するっぽいからな」
と、ハナが甲板上をくまなく見つめる。
「まぁ、一応カノン砲が少しあるみたいだけど、基本はいらないから積まないのさ。どうせ命中力も悪いしな」
ベルが「ふむ」と返すと、ハナが「あ、そだ」と足元を指差しながら、尚のこと声を小さくした。
「大抵はさ、船長室がこの下――船尾楼にあるんだ」
その黒猫の耳が何かを聞き取るように動いている。
「しっかし……まだまだ乗ってるな。やっぱり皆、カンクロ語だ」
「分かりますか?」
「ああ、完璧じゃないけど周辺の国の言葉は覚えさせられてるよ。周辺の国からは、商人や観光客が大勢来るからさ。とりあえず、移動しよう」
ハナはベルの手を取ると、甲板の中央から左舷寄りにテレトラスポルトした。
まず恐る恐る覗き込んでみるは、両舷の甲板より数十センチ高く出来ている中央部分――謎の10個の穴。
「――…っ……!」
互いの口を塞ぎながらエビ反りになりかけた後、船の揺れで尻を付く。
そこは下の甲板への昇降口でも明り取りの窓でもなく、直接船倉へ繋がっていると思われる出入口だった。
どうやら船内は壁で仕切りを作り、小さな部屋を並べたような構造になっているらしい。
それぞれの部屋の昇降口には縄梯子があり、船員が今にも顔を出すかもしれない。
ハナが慌てて真上から全船倉口に向かって『ヴェント・デル・ソンノ』を掛け、中の船員を眠らせていく。
梯子を登り降りしていた船員が居たのか、どすんという大きな落下音がいくつか聞こえた。
そのことから察するに、やはりカプリコルノの軍船のように甲板が何層かに分かれいる構造にはなっておらず、梯子は長く続いていて、この下の床は船底になっているように思えた。
船倉に降りていく前に、2人は甲板上をぐるりと見渡した。
小型の船が一艘積載されている他、さっきハナが言った通り大砲を少し――2門――確認出来た。
そして、甲板上で眠る船員の武器が赤く染まっている。
武器から滴り落ちたのか、ところどころには小さな血痕も見えた。
「モストロが乗ってるからって海賊船とは決め付けられないけど、こいつら、ついさっき戦って来ました……って感じだな。この上で戦ってたらもっと大量の血痕があっただろうし、どこかの船に乗り込んで戦って来たんだ」
ベルは頷いて、眠る船員たちを隈なく見つめる。
凹凸の少ない顔立ちはカプリコルノ周辺ではなく、レオーネ国に近いようだった。
またレオーネ人と同様に、黒か、黒に近い茶色の髪をしていた。
「あれは……」
ベルは、真昼間と比べると少し紅くなった陽に照らされ、船倉口脇で煌めいている何かを見つけた。
歩み寄って拾ってみると、それは銀貨のようだった。
それを見たハナが「げっ」と少し声高になる。
「これ、ヴィルジネの銀貨じゃないか……!」
探して見るとそれは後7枚見つかり、すべて左舷側の船倉口付近に落ちていた。
それ故、まずは左舷の最前方の船倉から見ていくことにした。
テレトラスポルトで降りてしてしまうと船員を踏んづけて起こしてしまう可能性もあるので、梯子を降りていく。
ハナが先に降り、ベルはその後を付いて行った。
やはり梯子は長く、また深い穴倉のようになっている中は、傾いて来た陽が差している程度では薄暗かった。
そうでなくとも兜で顔を隠している故に視界が万全でなく、ハナが小声で「ちょっと待て」と言って梯子の途中で止まった。
片手を離して、魔法で小さな光の玉を作ってベルの傍らに浮かべる。
お陰で足元がよく見えるようになり、ベルも小声で「ありがとうございます」と返して、付いて来てくれる光の玉の灯りを頼りに降りて行った。
辿り着くとやはり船底のようで、足元にはスノコが敷かれており、部屋は12畳くらいあるようだった。
「何も積まれてませんね」
「だな。あいつら、何も無いとこで何やってたんだ?」
その『あいつら』こと、壁際で眠っている2人の船員に近寄って行ったベルとハナ。
状況を理解するなり大きく息を呑んだ。
船底から水漏れがしており、どうやらそれを修理している真っ最中だったようだ。
それぞれ一人の船員の胸倉を引っ掴み、ベルは往復ビンタ、ハナは拳で横っ面を殴り付けて眠りから覚醒させる。
船員2人が呻き声をあげ、瞼が動いた瞬間にテレトラスポルトで甲板上に移動。
姿を見られてしまっただろうか?
ハナの猫耳が起きた船員2人の会話を聞き取る――
「いってぇ……おまえ、殴っただろ!」
「いや、おまえが殴っただろ!」
「ふざけんな、おまえが――って、やべぇ!」
「早く穴塞がねぇと!」
……大丈夫なようだった。
それにしても便利な構造の船だと、ベルは思う。
壁で仕切られている故に、穴が空いた船倉以外は浸水することなく、沈没する恐れが少ないのだから。
「このカンクロ国式の船の設計図が欲しいところです」
「そうか? 他の船倉に行き来する度に梯子の登り降りするの、面倒じゃないか? でもま、うちの造船職人は、この近辺の国の船に詳しいから知ってるかもしれないな。聞いておくよ」
次に降りて行った部屋は、隣――左舷、前方2つ目――の部屋。
梯子を降りながら、ベルの顔が少し歪む。
何故なら、食べ物の腐った臭いがしていた――食糧庫だった。
ここには船員が十数人いて、梯子の真下には3人が重なって眠っていた。
付近には塩漬けの肉や魚が落ちている。
「腐ったものも混じってるのでは……」
「たぶんな。でも、この程度の臭いならマシな方だぞ? モストロがいるなら新鮮な水がいつでも飲めるし、肉や魚を凍らせることも出来るし。人間だけの海賊や軍隊の船の中はもっと臭いが酷いんだ。それに真水持って行くと腐るからって酒飲んで、船酔いと相まって海に『オエェェェェッ』とかなったりしてな」
と小声で話しながら財宝の有無を確認し、無いと分かるとハナは甲板上にテレトラスポルトした。
そこで、何か気付いたように「あ」と言って話を続ける。
「そうか、きついだろうな。犬――カーネ・ロッソには。この船に乗ってたらの話だけど、あたいらガット・ネーロ、ティグラートの耳が利くのに対し、カーネ・ロッソは鼻が利くって言ったろ? 人間でも臭いって思うものは、カーネ・ロッソにとったら激臭なのさ。船倉内は隙間から臭いが伝わって行きそうだし、あそこに逃げてそうだな」
と、ハナが指さしたのは、この船に降り立った際の場所の真下――船尾楼だった。
「たぶん船長室だと思うんだけど、さっきあの中から男と女の声がした。女海賊ってあんまり見ないし、メスのカーネ・ロッソが海賊の男に飼われてるのかもな」
次の船倉――左舷中央――の梯子を少し降りて中に入ると、立ち込めている匂いから今度は調理場だとすぐに察した。
しかし財宝があるかもしれないので降り続けながら、ベルはふと気になったことをハナに問うてみる。
「カーネ・ロッソとは、ガット・ネーロ、ティグラートと比べてどうなのですか?」
「強さか? 今のところ魔力はあたいらガットが最強で、個体差はあるけど、カーネの魔力はモストロの中で『中の中』とか『中の下』あたりだな。ただ、戦ったことないから腕っぷしとかは知らない。爪はガットの方が鋭いけど、牙はカーネの方がでかいし、どうなんだろうな。風魔法以外の弱点とかも知らないし」
船底に辿り着いてみると、船員が食糧庫よりもたくさん眠っていた。
突如眠らされたせいか、床のすのこには酒が零れ、肉・魚料理、皿などが散乱している。
また釜戸があり、大釜が棒に吊るされていた。
「危ないから消しといてやるか」
と、ハナが釜戸の火を指差すと、ふっと火が消えた。
大釜がぐつぐつと煮立っていたので、ハナが人差し指を入れて味見する。
「熱くないのですか?」
「熱いっちゃ熱いけど、平気。――って、バッリエーラ掛かってるからって真似したら火傷するぞ? 魔法で作られた悪意のある料理とかなら兎も角、ただの料理は跳ね返さないからな。あたいはモストロだから人間より平気ってだけさ」
「ふむ。ではバッリエーラは、毒はどうなのですか?」
「そうだ、それも気を付けなきゃ駄目だぞ。バッリエーラは魔法の毒やモストロの毒しか守ってくれないんだ。まぁ、カプリコルノには毒蛇もいないし、死に至るような毒草もないから大丈夫だと思うけど」
そう言った後、ハナが大釜を見下ろして「美味いな」と言った。
常日頃、使用人として厨房を手伝うこともあるベルは興味を持ち、辺りにある調味料の入った袋を調べてみる。
すると、知らない香辛料がたくさん出て来て思わず感動に包まれた。
その感動は料理人としてということもあるが、香辛料は世界各地の王侯貴族しか手に入れることの出来ない高級品故に。
「なんと……! この船が3年前の海賊船や、先ほどヴィルジネ国を襲って来たでしょう海賊船だと断定出来たら、これらは頂いて行ってもよろしいのでしょうか」
「いいんじゃないか? 3年前の海賊船だったらフラビーたちは間違いなく死刑にするし、ヴィルジネを襲ってたら襲ってたでマサムネの第二夫人が許さないし、どっちの場合でも金銀財宝はあるだけ返してもらうし。ていうか、香辛料が好きな国って多いよな。香辛料を巡って戦争してんのとか見たことある。うちの国はそんなに使わないからちょっと不思議だ」
「レオーネ国は治癒魔法があるからでは? 香辛料類は、薬にもなるのですよ」
「そうなのか」
次にベルの興味は、まな板の上に移った。
そこには大きな骨付き肉と、見たことのない大きな四角い包丁が置かれていた。
ちゃんとした料理人がいるのか、料理人の命といっても過言ではないその包丁は、まるで鋭利に研ぎ澄まされた斧のようだった。
まな板の上にあった肉を試し切りしてみると骨ごと断ち切れて、また感動する。
「なんと……! この素晴らしい包丁は、1つ頂いて行ってもよろしいでしょうか」
「いいんじゃないか? 念のため、今は武器を多く持ってた方がいいって意味で。そういえば、ベルって使用人としての仕事は何でも優秀だって聞いたけど、オルキデーア城のフィコ料理長とどっちが包丁捌き上手いんだ?」
「それはフィコ料理長です。フィコ料理長は私の師匠。様々な包丁技を叩き込んで頂きました」
「ほぉー?」
ベルはいそいそと、包丁を腰に装備している矢筒に差し込んだ。
その後、財宝は見当たらなかったので、ハナが甲板上にテレトラスポルトした。
ふと船尾楼の方を見つめるハナに、どうしたのかとベルは小首を傾げた。
「なぁ、ベル……カーネ・ロッソはさ、少し可哀想かも。なんていうか中身がさ、人間の理想の犬って感じでさ」
「理想の犬?」
鸚鵡返しに問うたベルに「うん」と言った後、ハナは次の船倉――左舷・後方から2つめ――に降りていく。
ベルも降り始めると、ハナがこう続けた。
「少し、ベルと似てる」
ベルは「え?」と、下にいるハナを見た。
「私は犬ですか?」
「ああいや、バカにしてるんじゃないぞ? 主に対する忠誠がさ。ただベルはこんな風に自己判断で行動出来るけど、カーネは主の命令に従うことしか出来ないみたいなんだ。だから主が悪なら悪に染まるし、善良なら善良なモストロになる。だからさ、もしこの船が例の海賊船だったとしたら、そういうカーネが一緒に死刑にされるのは可哀想だろ?」
ハナはつくづく心優しいモストロだと、ベルは思った。
だが、少し困惑した。
「ハナ、私は……」
「うん?」
と小首を傾げた矢先に船底に辿り着いたハナが、ベルが言葉を続ける前に「ああっ」と声を上げた。
その後慌てて手で口を塞いだあと、ベルを見ながら中にある積み荷を指差す。
足の踏み場の無いくらい船員が寝転がっているそこには、大きな袋がいくつもあった。
その口からは、ヴィルジネ国の銀貨だけでなく、金貨や真珠、綿織物などが見えている。
ハナが「うっわぁ」と顔を引きつらせた。
「ヴィルジネの銀貨に金貨、たぶんヴィルジネ湾で獲れた特産品の真珠に、ヴィルジネ国自慢の高級綿織物……」
そして、やはり血で汚れている船員たちの武器を見て、ベルは視界を悪くしている兜を脱いだ。
「これはもう、決定と言っても良さそうですね」
ハナも「だな」と同意すると、兜を脱いだ。
「こりゃ全員、うちの島に連行だ」
「テレトラスポルトで船ごとですか?」
「無理、無理」
とハナが手を横に2回振った。
「重すぎるよ。テレトラスポルトは、自分一人だけの移動でもかなり力を使うんだ」
そういえば今日、船だと辿り着くまでに1年掛かるほど距離が離れているらしい、カプリコルノからやって来る時のテレトラスポルト役は、ハナだったことをベルは思い出す。
その後もハナは何度もテレトラスポルトを使っていたし、別の魔法も使っている。
「今日はもう、あたいら2人のハナ号までのテレトラスポルトを数回と、ハナ号の風を操って島まで帰るくらいしか出来ないよ。で、この船はうちのでかい船に来させて曳航してもらおう」
とハナが言い終わるや否や、その猫耳に扉の開閉音が聞こえて来た。
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