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第10話ー6
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移動先は同じ王都ジラソーレの、先ほどの場所からは遠く離れたところだった。
『テレトラスポルト』の立札があるところを見ると、町中には専用の停留所らしきものがあるらしい。
移動先に人がいた場合などを考えると危険故に、納得できた。
「すぐ動かないと危ないんだ」と停留所からハナに手を引かれて歩き出しながら、ベルは少し不審に思って問う。
「ハナさ――いえ、ハナ。先ほどからおかしくありませんか?」
「リコたんたち、いなかったな」
「町で大変なことが起こらぬよう、考慮してのことかと」
「んじゃ、やっぱ町の外にいたのかな。アヤメもまだ一緒にいるのかな」
「分かり兼ねますが……」
と、ベルはハナの顔を覗き込んだ。
「アヤメ殿下が、どうかされたのですか?」
「アヤメっていうより、あたいが……」
とハナが小さく呟いた。
聞こえ辛かったベルが「え?」と小首を傾げると、ハナは「何でもない」と笑顔を作った。
「カプリコルノはさ、パンやパスタ――小麦が主食だろ? でも、この国の人間は『米』でさ」
とハナに手を引かれながらベルが道を右に曲がると、そこには『米屋』の看板が複数あった。
「ここだけでも、こんなに店があるんだ」
「同じお米を売っているのですか?」
「いや、なんかどこもそれぞれ売りがあって、他とは違うところがあるらしいんだ。あたいにはよく分かんないけど」
「そうですか」
「それにあたいを始め、ガットって米は米でも、もち米の方が好きなんだ」
とハナが指さしたところにベルが目を向けると、米屋と米屋のあいだに『餅屋』があった。
カプリコルノに『もち米』はなく、ベルがどういうものか問うと「炊いて潰すともちもちビヨーンてなるやつ」と返って来た。
いまいち分からなかったので、買ってもらうことにした。
ちなみにこの店の店員は、外見年齢20代後半ほどの純血ガット・ネーロのメスが1匹で、それを見たベルは「なんと……」と少し驚く。
さっきのあんこ屋では、店主が人間だったし、ゲンも人間の血が入ったメッゾサングエだったせいか、違和感を覚えなかった。
「レオーネ国は、純血のモストロでも経営権が貰えるのですか」
「そだよー」
とのハナの軽い返事は、至極当然のことだと言っているようなもので、ベルは改めて「なんと……」と驚いてしまう。
現時点のカプリコルノでは、モストロがそういった人間と同等の扱いを受けることは考えられないし、あのコニッリョが人間相手に店を経営、商売している図も思い描くことが出来ない故に。
店主のガット・ネーロのメスが、ベルに話し掛けて来る。
「観光デスだナ、カプリコルノ人? どレにすルマスか? まケてヤルぞです?」
と言葉が片言なのは、ハナいわく、1年前まで野生で育ったネーロだかららしい。
1年前から人間語を勉強したと考えたら上出来で、また商品名の書かれた紙には、達筆ではないが、とても丁寧に書いたと分かる文字があって、ベルは感心してしまう。
同じ人型モストロであるコニッリョもそうだというのなら、蔑んで見るのはとてもおかしなことだった。
さてどれにしようかと、商品の陳列棚を見てみる。
さっきのあんこ屋ではあんこを使った菓子の種類が豊富だったが、こっちは餅が豊富というよりは、餅に付いている味の種類が豊富なようだった。
ネーロが営んでいるだけあって、野生のネーロの主食の魚類もあるが、さっきのあんこやしょうゆ、みたらし、きなこ、くるみ、ゴマ、ずんだ、しょうが、納豆などがある。
ベルの知らないものが複数があり、店主に訊いてみる。
「みたらしとは何ですか?」
「甘イしょうゆ味みタイな感じデすヨ」
「ふむ。きなことは?」
「大豆ノ粉ダね。餅ニまぶシテ食べルやツは、砂糖で甘くシてアルんダス」
「ふむ。ずんだとは?」
「枝豆っテいって、大豆が茶色クなる前のヤつデネ。それヲ茹でテ潰シて、んでマた砂糖と隠シ味の塩でサ」
「ふむ。納豆とは?」
「腐ッた大豆」
「多いですね、大豆」
と言った後に、ベルは耳を疑う。
「――って、今なんと……?」
ハナが答える。
「納豆か? なんか昔、どっかの人が大豆を茹でて藁に包んでホカホカした場所に放置しておいたら腐ったんだと」
レオーネ人、何故食す。
ベルに衝撃が走ったが、それは一瞬だった。
思い返すは自身の過去。
野菜の皮で食い繋ぎ、たまのご馳走は床に落ちたパーネだった。
あの頃の自身ならば、腐っていると分かっていても確実に食べただろう。
「その方は貧困にもがき苦しむ故、食されたのですね……」
「いや、たぶん違う。その人将軍だったみたいなこと聞いたし」
つまり、困ってもいないのに食べたということだろうか。腐っていると分かっているものを。
再びベルに衝撃が走る。だって、今のベルならやらない。
「なんか香ばしい匂いがしたから食ってみたら、美味かったんだそうだ」
「お、お腹を下したり、吐き気がしたりということは無いのですか?」
「ない。ていうか、昔リコたんが納豆はカプリコルノのチーズやヨーグルトみたいなものじゃないかって言ってたぞ。食べなかったけど。あと、うちの国では納豆は身体に良い食べ物とされてるんだ」
それを聞いたベルは「なんと……!」と、打って変わって良い方向で興味を持つ。
ベルの信頼する先生フェデリコが、フォルマッジョやヨーグルトみたいなものだと言ったなら安全であることは確定したようなもの。
フラヴィオが嫌いでないようだったら、カプリコルノにもこの健康食品を伝えたいところ。
でもまずは先に、自身で味見をしてみることにした。
そのためハナに納豆餅を買ってもらおうとしたのだが、ハナは「いいけど」と承知しながらも苦笑していた。
「本当に大丈夫か、ベル? いや、好きな人も多いから挑戦してみれば良いと思うけど。でもさ、あたいは苦手なんだ。コレの臭いが」
「どんな臭いがするのですか?」
「マサムネの足袋みたいな」
「――うっ……」
とベルが顔を顰めて鼻を摘まむと、ハナから突っ込みが入った。
「いや、嗅いだことないだろマサムネの足袋」
「そうですが……」
どういう訳か強烈な臭いを想像してしまって、鼻から手を離せない様子のベルを見て、ハナがこう言い直した。
「分かった分かった、ベル。アレだ。マサムネの足袋じゃなくて、フラビーの靴下」
と言ってもハナはそれを嗅いだことはなく、適当に言っただけだったが、充分な効力を発揮したようだった。
心の琴線にでも触れたのか、ベルの鼻から手が離れ、顔がいつもの『無』に戻っていったようで通り越し、どこか陶然とした面持ちに見える。
そして納豆餅を買って与えたら鼻を寄せて嗅ぎ、しみじみとこう言った。
「ああ……かぐわしゅうございますね」
「凄いな、愛って」
そして餅と納豆の糸を伸ばしながら最初の一口を食べ、「美味しゅうございます」と感想を述べたベル。
その後一口食べるごとに「ん?」と言って我に返っていくのが分かる。
最後の一口を噛み締めて飲み込んだ後は、すっかりいつも通りの様子になっていた。
こんなことを思ったらしい。
「これは普通に美味しいものですね。それでいて身体に良いとは、なんと優秀な食べ物でしょう」
「おっ、うちから納豆の輸入始めるか?」
「それは……」
と思案顔になったベルが、餅屋の陳列棚を指差す。
「申し訳ございません、ハナ。きなことずんだも試してみてもよろしいですか?」
ハナが承知して従う。きなことずんだはハナも好きなので、2つずつ買った。
味見したベルの感想は「素晴らしい」だった。
「大豆とは、なんと優秀な豆なのでしょう。アリー様も召し上がることが出来ますし、甘くも辛くも、また調味料にも出来、さらに青くても熟しても美味しく頂けるとは……!」
「うんうん、凄いだろ? しょうゆの他にも、納豆と枝豆ときなこの輸入なんてどうだ? あ、ついでに味噌も」
「ノ。此度、大豆を少々購入させて頂いて帰国し、とりあえず村天使パオラさんに大豆栽培をお願いしてみます」
「え、ちょっと待て。大豆が出来たらしょうゆの輸入止めるとかフラビーに言わないでくれよ?」
「しょうゆは人気があり、需要もありますが、調べたところ少々輸入価格が――」
「にゃあぁぁぁ!」
とハナから猫らしい鳴き声が出た。
「待て待て待て! た、たしかにちょっと高い気もするかもしんないけど、その分うちのしょうゆって超美味いし! 真似できないし!」
と、餅屋の店主ネーロに「な!?」と同意を求めたハナだったが、「そウなノかー」と返された。
ベルが迫って来る。
「どうやって作るのですか?」
「ひ、秘密だ! 絶対、ひみ――」
「教えて下さい?」
とベルの顔が目前にまで迫って来ると、ハナがまた「にゃあ!」と猫の鳴き声を上げて飛び退った。
「い、い、い、いいだろ、気前良く輸入してくれたってっ……! フラビーは輸入の際のテレトラスポルト代込みだって言って、納得してくれてるんだぞ! 昔、カプリコルノの貿易船がうちに辿り着くまでに1年掛かって、また1年掛けて帰っていったくらい離れてるんだからな! 半分以上の乗組員が病気になって死んだし、すっごい大変なんだぞ! ていうか、カプリコルノは大金持ちなんだからいいじゃないかっ……――って……?」
突如ハナの黄色い瞳が、心配そうに揺れ動いた。
ベルの顔色をうかがうように見つめる。
「や……やっぱり、3年前のアレは大打撃……だったのかっ? じ、実は、貧乏になりつつあるのかっ……?」
「――……え?」
一体、何の話か。
ベルの眉間に皺が寄ると、ハナが同じ表情になった。
「もしかして知らないのか、ベル……?」
その時、またもやマサムネとタロウの声が響いて来た――
「こら、ハナァァァァァッ!」
ハナは「おっと」と言うと、ベルの手を掴んで、またまたテレトラスポルトで逃走した。
『テレトラスポルト』の立札があるところを見ると、町中には専用の停留所らしきものがあるらしい。
移動先に人がいた場合などを考えると危険故に、納得できた。
「すぐ動かないと危ないんだ」と停留所からハナに手を引かれて歩き出しながら、ベルは少し不審に思って問う。
「ハナさ――いえ、ハナ。先ほどからおかしくありませんか?」
「リコたんたち、いなかったな」
「町で大変なことが起こらぬよう、考慮してのことかと」
「んじゃ、やっぱ町の外にいたのかな。アヤメもまだ一緒にいるのかな」
「分かり兼ねますが……」
と、ベルはハナの顔を覗き込んだ。
「アヤメ殿下が、どうかされたのですか?」
「アヤメっていうより、あたいが……」
とハナが小さく呟いた。
聞こえ辛かったベルが「え?」と小首を傾げると、ハナは「何でもない」と笑顔を作った。
「カプリコルノはさ、パンやパスタ――小麦が主食だろ? でも、この国の人間は『米』でさ」
とハナに手を引かれながらベルが道を右に曲がると、そこには『米屋』の看板が複数あった。
「ここだけでも、こんなに店があるんだ」
「同じお米を売っているのですか?」
「いや、なんかどこもそれぞれ売りがあって、他とは違うところがあるらしいんだ。あたいにはよく分かんないけど」
「そうですか」
「それにあたいを始め、ガットって米は米でも、もち米の方が好きなんだ」
とハナが指さしたところにベルが目を向けると、米屋と米屋のあいだに『餅屋』があった。
カプリコルノに『もち米』はなく、ベルがどういうものか問うと「炊いて潰すともちもちビヨーンてなるやつ」と返って来た。
いまいち分からなかったので、買ってもらうことにした。
ちなみにこの店の店員は、外見年齢20代後半ほどの純血ガット・ネーロのメスが1匹で、それを見たベルは「なんと……」と少し驚く。
さっきのあんこ屋では、店主が人間だったし、ゲンも人間の血が入ったメッゾサングエだったせいか、違和感を覚えなかった。
「レオーネ国は、純血のモストロでも経営権が貰えるのですか」
「そだよー」
とのハナの軽い返事は、至極当然のことだと言っているようなもので、ベルは改めて「なんと……」と驚いてしまう。
現時点のカプリコルノでは、モストロがそういった人間と同等の扱いを受けることは考えられないし、あのコニッリョが人間相手に店を経営、商売している図も思い描くことが出来ない故に。
店主のガット・ネーロのメスが、ベルに話し掛けて来る。
「観光デスだナ、カプリコルノ人? どレにすルマスか? まケてヤルぞです?」
と言葉が片言なのは、ハナいわく、1年前まで野生で育ったネーロだかららしい。
1年前から人間語を勉強したと考えたら上出来で、また商品名の書かれた紙には、達筆ではないが、とても丁寧に書いたと分かる文字があって、ベルは感心してしまう。
同じ人型モストロであるコニッリョもそうだというのなら、蔑んで見るのはとてもおかしなことだった。
さてどれにしようかと、商品の陳列棚を見てみる。
さっきのあんこ屋ではあんこを使った菓子の種類が豊富だったが、こっちは餅が豊富というよりは、餅に付いている味の種類が豊富なようだった。
ネーロが営んでいるだけあって、野生のネーロの主食の魚類もあるが、さっきのあんこやしょうゆ、みたらし、きなこ、くるみ、ゴマ、ずんだ、しょうが、納豆などがある。
ベルの知らないものが複数があり、店主に訊いてみる。
「みたらしとは何ですか?」
「甘イしょうゆ味みタイな感じデすヨ」
「ふむ。きなことは?」
「大豆ノ粉ダね。餅ニまぶシテ食べルやツは、砂糖で甘くシてアルんダス」
「ふむ。ずんだとは?」
「枝豆っテいって、大豆が茶色クなる前のヤつデネ。それヲ茹でテ潰シて、んでマた砂糖と隠シ味の塩でサ」
「ふむ。納豆とは?」
「腐ッた大豆」
「多いですね、大豆」
と言った後に、ベルは耳を疑う。
「――って、今なんと……?」
ハナが答える。
「納豆か? なんか昔、どっかの人が大豆を茹でて藁に包んでホカホカした場所に放置しておいたら腐ったんだと」
レオーネ人、何故食す。
ベルに衝撃が走ったが、それは一瞬だった。
思い返すは自身の過去。
野菜の皮で食い繋ぎ、たまのご馳走は床に落ちたパーネだった。
あの頃の自身ならば、腐っていると分かっていても確実に食べただろう。
「その方は貧困にもがき苦しむ故、食されたのですね……」
「いや、たぶん違う。その人将軍だったみたいなこと聞いたし」
つまり、困ってもいないのに食べたということだろうか。腐っていると分かっているものを。
再びベルに衝撃が走る。だって、今のベルならやらない。
「なんか香ばしい匂いがしたから食ってみたら、美味かったんだそうだ」
「お、お腹を下したり、吐き気がしたりということは無いのですか?」
「ない。ていうか、昔リコたんが納豆はカプリコルノのチーズやヨーグルトみたいなものじゃないかって言ってたぞ。食べなかったけど。あと、うちの国では納豆は身体に良い食べ物とされてるんだ」
それを聞いたベルは「なんと……!」と、打って変わって良い方向で興味を持つ。
ベルの信頼する先生フェデリコが、フォルマッジョやヨーグルトみたいなものだと言ったなら安全であることは確定したようなもの。
フラヴィオが嫌いでないようだったら、カプリコルノにもこの健康食品を伝えたいところ。
でもまずは先に、自身で味見をしてみることにした。
そのためハナに納豆餅を買ってもらおうとしたのだが、ハナは「いいけど」と承知しながらも苦笑していた。
「本当に大丈夫か、ベル? いや、好きな人も多いから挑戦してみれば良いと思うけど。でもさ、あたいは苦手なんだ。コレの臭いが」
「どんな臭いがするのですか?」
「マサムネの足袋みたいな」
「――うっ……」
とベルが顔を顰めて鼻を摘まむと、ハナから突っ込みが入った。
「いや、嗅いだことないだろマサムネの足袋」
「そうですが……」
どういう訳か強烈な臭いを想像してしまって、鼻から手を離せない様子のベルを見て、ハナがこう言い直した。
「分かった分かった、ベル。アレだ。マサムネの足袋じゃなくて、フラビーの靴下」
と言ってもハナはそれを嗅いだことはなく、適当に言っただけだったが、充分な効力を発揮したようだった。
心の琴線にでも触れたのか、ベルの鼻から手が離れ、顔がいつもの『無』に戻っていったようで通り越し、どこか陶然とした面持ちに見える。
そして納豆餅を買って与えたら鼻を寄せて嗅ぎ、しみじみとこう言った。
「ああ……かぐわしゅうございますね」
「凄いな、愛って」
そして餅と納豆の糸を伸ばしながら最初の一口を食べ、「美味しゅうございます」と感想を述べたベル。
その後一口食べるごとに「ん?」と言って我に返っていくのが分かる。
最後の一口を噛み締めて飲み込んだ後は、すっかりいつも通りの様子になっていた。
こんなことを思ったらしい。
「これは普通に美味しいものですね。それでいて身体に良いとは、なんと優秀な食べ物でしょう」
「おっ、うちから納豆の輸入始めるか?」
「それは……」
と思案顔になったベルが、餅屋の陳列棚を指差す。
「申し訳ございません、ハナ。きなことずんだも試してみてもよろしいですか?」
ハナが承知して従う。きなことずんだはハナも好きなので、2つずつ買った。
味見したベルの感想は「素晴らしい」だった。
「大豆とは、なんと優秀な豆なのでしょう。アリー様も召し上がることが出来ますし、甘くも辛くも、また調味料にも出来、さらに青くても熟しても美味しく頂けるとは……!」
「うんうん、凄いだろ? しょうゆの他にも、納豆と枝豆ときなこの輸入なんてどうだ? あ、ついでに味噌も」
「ノ。此度、大豆を少々購入させて頂いて帰国し、とりあえず村天使パオラさんに大豆栽培をお願いしてみます」
「え、ちょっと待て。大豆が出来たらしょうゆの輸入止めるとかフラビーに言わないでくれよ?」
「しょうゆは人気があり、需要もありますが、調べたところ少々輸入価格が――」
「にゃあぁぁぁ!」
とハナから猫らしい鳴き声が出た。
「待て待て待て! た、たしかにちょっと高い気もするかもしんないけど、その分うちのしょうゆって超美味いし! 真似できないし!」
と、餅屋の店主ネーロに「な!?」と同意を求めたハナだったが、「そウなノかー」と返された。
ベルが迫って来る。
「どうやって作るのですか?」
「ひ、秘密だ! 絶対、ひみ――」
「教えて下さい?」
とベルの顔が目前にまで迫って来ると、ハナがまた「にゃあ!」と猫の鳴き声を上げて飛び退った。
「い、い、い、いいだろ、気前良く輸入してくれたってっ……! フラビーは輸入の際のテレトラスポルト代込みだって言って、納得してくれてるんだぞ! 昔、カプリコルノの貿易船がうちに辿り着くまでに1年掛かって、また1年掛けて帰っていったくらい離れてるんだからな! 半分以上の乗組員が病気になって死んだし、すっごい大変なんだぞ! ていうか、カプリコルノは大金持ちなんだからいいじゃないかっ……――って……?」
突如ハナの黄色い瞳が、心配そうに揺れ動いた。
ベルの顔色をうかがうように見つめる。
「や……やっぱり、3年前のアレは大打撃……だったのかっ? じ、実は、貧乏になりつつあるのかっ……?」
「――……え?」
一体、何の話か。
ベルの眉間に皺が寄ると、ハナが同じ表情になった。
「もしかして知らないのか、ベル……?」
その時、またもやマサムネとタロウの声が響いて来た――
「こら、ハナァァァァァッ!」
ハナは「おっと」と言うと、ベルの手を掴んで、またまたテレトラスポルトで逃走した。
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