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第8話ー7
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「そういう意味では、私もコニッリョを仲間にするべきだと思います」
と言ったオルランドが、すぐに「しかし」と続けた。
「そのために、父上の側室にモストロやそのメッゾサングエを迎えるというのには、抵抗があるのです」
そうだ、本題はそこだ。
ベルは間髪入れずに「私もです」と同意した。
そして疑問をマサムネに投げかける。
「何故、フラヴィオ様の側室でなければいけないのですか?」
「フラヴィオは『力』と『人気』の『王』やからや。また、この島から出たことのないコニッリョにとっては、フラビーは『人間界の王』だと思ってるところも重要や。この国の人間とコニッリョは、まず互いに対する恐怖や警戒、嫌悪を無くさなあかん」
タロウが「あのね、ベル」と口を開いた。
「さっきもちょっと話したけど、レオーネ島でも大昔は人間とモストロは犬猿の仲だったんだ」
「それはどのような理由からですか?」
「ガット・ネーロの食事は海や川の魚、ガット・ティグラートの食事は山の動物。それは人間にとっての食事でもあるからだよ。コニッリョとも、食料の争奪が一番の原因でしょ?」
「なるほど、そうですね」
とベルが納得した後、タロウは「それでね」と話を戻した。
もう500年近く前の話らしい。
レオーネ国にはフラヴィオのように強い力を持って生まれ、国民からとても愛されていた王太子がいた。
彼が大きくなり、思春期を迎えた時に見初めたのは、趣味の遊漁に行くと顔を合わせるガット・ネーロのメスだった。
それを父や母、臣下たちに伝えると当然のごとく激昂され、それでも妻にしたいと言ったら父に折檻された。
しかし王太子は彼女を諦めきれず、15になった時に他国の王女と政略結婚したが、それでも片時も彼女を忘れることが出来ないまま20歳を迎えた時、父が亡くなり即位した。
国王となっては母でさえ逆らうことは許されなくなり、また謀反を試みた貴族・民衆がいたが、彼は強大な『力』を持っていた故に溜まらず縮退。
後、その罪故の斬首刑。
誰もが引き止められないまま、新国王は彼女を――ガット・ネーロを側室に迎えた。
「国民の反応はどうだったのですか?」
「当然、彼の人気は落ちたよ。でも一時的だった。それほど民衆から支持されていたからね、フラビーみたいに」
「代わりに、ネーロの彼女の方は酷かったんだろう?」
と、アドルフォが溜め息交じりに口を挟んだ。
「民衆から、散々罵倒されたそうじゃないか。あのモストロ女が魔法で王をおかしくした、あのモストロ女が王を誑し込んだ、あのモストロ女が全て悪い……ってな。うちの国でも同じことが起きるぞ。それか、それ以上かもしれん。時に狂気的だぞ、この国の女たちの『陛下愛』は」
「でも、国王が――ガットにとっては『人間界の王』が、彼女を愛した、大切にしたって事実は、ガット・ネーロ、ティグラートの警戒を解いたんだ。それは他の誰でもない、宿敵だった『人間界の王』だから出来たんだ」
「でもその後、民衆の罵倒に耐えられなくなった彼女は自害し、酷く悲しんだ王が病に伏せ、後を追うように亡くなった……って、どんな悲劇だ」
「でも、残されたその2人の間の子を罵倒する民衆はいなくなったんだ。王が亡くなったことで、みんな彼女を責めて死に追いやったことを後悔して、反省したから」
次の王に即位したのは王太子――正室の長男だったが、それは仕方がない。
世襲故の決まりなのだから。
しかし、2人の間の子もちゃんと王子・王女として誰もが認めるようになっただけでなく、人間とモストロの争いが徐々に沈静していき、互いに傷をつけることがなくなり、困っていたら互いに食料を分け与え、いつしかの国王とガット・ネーロのメスのように愛し合う者たちが現れ、メッゾサングエが生まれるようになった。
それ故、現在のレオーネ国の民衆は、半分近くがガット・ネーロ、ティグラートと人間のメッゾサングエになっているらしい。
「ちなみに、人間の男と、ネーロの『メス』だったから上手く行ったとあたいは思うよ」
と、ハナが余談する。
「だって野生のネーロ、ティグラートのオスって、やりたいことやったらすぐどっか行くんだ。稀に子育てするオスもいるけど、大抵はメスが一匹で面倒見ることになる」
「まぁ、ネーロ、ティグラートのオスはそういう性質もあって、フラビーが男の王で好都合やった」
そう言ってマサムネがフラヴィオの見て、こう問うた。
「ガット・ネーロとガット・ティグラート、どっちがええ? 純血やと猫耳と尻尾があってモロやから、耳も尻尾もない人間の見た目のメッゾサングエの方がこの国の民衆は受け入れやすいと――」
「お待ちください」
ベルがマサムネの言葉を遮った。
「フラヴィオ様の側室に、ガット・ネーロもしくはガット・ティグラートのメッゾサングエを迎えようというのですか?」
「せやで。コニッリョはまず無理やし、北隣のサジッターリオの山にも一応人型モストロおんねんけど、アレはあかんわ。人間に一切の関心持たんモストロやった。大陸の国は、人型モストロくれる訳ないし。なんでやねんって? この国が欲しくてたまらんからや。もし、うちの国と友好関係が無くなったら即行で襲ってくるかもしれへんで? 上級魔法のテレトラスポルトをまともに使えるようになるには、何年もかかるとはいえな。飛んだ先が海でも空でも、何度も何度もテレトラスポルトを繰り返しとれば、せいぜい30分以内にはこの小さな島にも辿り着けてまうんや」
「いや、『即行』は無いと思うぞ。向こうだって、よっぽどの覚悟がいる。なんせ実際、マグマに落ちて消滅した軍隊がいるわ、戦場のど真ん中に移動して殺された軍隊はいるわ、深海に行っちゃって慌ててまたテレトラスポルトしたんだけど、頑丈なモストロは兎も角、人間たちの胸はぺしゃんこに潰れて死んだわで、ここに辿り着くまでに元の人数から大幅に減ってる可能性が高いからな」
と続いたハナが、「で」とベルの顔色をうかがいながら問う。
「まぁ、その……この通り他の人型モストロは駄目だからさ、あたいらガット・ネーロや、ガット・ティグラートってわけなんだけど……嫌か? メッゾサングエなら、本当に人間の見た目のままのがいるんだ。ちゃんとフラビーに見合った女を探してくるからさ……?」
「ハナさん、タロウさん」
と、ベルが2人の顔を交互に見た。
「私は、お二方にはとても感謝しています。ありがとうございます。ハナさんもタロウさんも、とても心優しく、信頼があり、素晴らしいモストロだと思います」
ベルの声が「しかし」と強くなった。
「それとこれとは、別の話です」
「不服そうやな、ベル。まぁ、どうしてもフラビーの側室があかんっちゅーなら、リコたんでもええねん。この国の女たち見とると、フラビーに負けず劣らずリコたんも愛されとるし。まぁ、『人間界の王』ちゃうからコニッリョの警戒心はすぐには解けへんやろうけど、モストロを受け入れる民衆は徐々に増えて来るはずや。その結果、時間は掛かるけどいつかはコニッリョと融和できるやろ」
ベルのすぐ背後、フェデリコの溜め息が聞こえた。
「しつこいようですが、私にアリー以外の女を愛せというのは難しい」
「別に、側室やからって無理に愛せとは言わへん。おまえの『妻』になることが重要や。例えば、そのメッゾサングエが民衆によって傷付けられたり、最悪かのレオーネ国王に愛されたネーロみたいに自害したとするやろ? マストランジェロ一族のおまえは当然悲しむやろ? 号泣するやろ? 女の心を奪って止まない罪作りなおまえら兄弟の涙は、ほんっまこの国を動かすで。もっと利用せぇや、ドアホ」
「それでは彼女は『犠牲』だ!」
「国を守るためのな。たった一匹の『犠牲』で、国が救えるんやで。おまえやてフラビーの補佐やろ、国を担ってるやろ。その『彼女』や妻アリーちゃんを想う気持ちは分かるけど、そんなこと言ってる場合ちゃうって分かるやろ」
「ムネ殿下……」
とアドルフォからも溜め息が漏れると、マサムネがそちらに視線を移した。
「あぁ、アドぽんでもええわ。女人気はここの兄弟に敵わへんけど、男人気は高いし、『力』が有りすぎて誰も逆らおうとせぇへんし。あ、なんか、アドぽんがそうするだけで、憧れる男たちがモストロ受け入れるようになりそうやんな? それに今気づいたけど、アドぽんとガット・ネーロ、ティグラートのメッゾサングエが出来たら最強やん! せや、それで行こ」
と勝手に話を進められ、アドルフォが声高になる。
「俺の妻だってこの世でひとりだけです! 俺はベラ以外の女を妻にはしない!」
「あんな、アドぽん。メッゾサングエでなくとも、おまえ譲りの力を持った子供がいないっちゅーのは、この国にとって痛手やで」
「だから、俺には妻が――ベラがいる!」
そして、マサムネからも大きく嘆息が漏れた。
「ええ加減、諦めぇやアドぽん」
「何がです!」
「何がて……何がて、ベラちゃんのことや! ベラちゃんはおまえの子を授からん! 石女や!」
突如静まり返った空間の中。
戸口の方から小さな音がして、皆が一斉に息を飲む。
そこに、やはりというか、ヴィットーリアから眠るよう言われただろう風呂上りのベラドンナが、この晩餐会へと戻って来ていた。
この国の絶世の美女と謳われるほどの、あまりにも美しく整った顔立ちの黒茶色の瞳が、深く深く、傷付いている――
「――ごめん…なさい……」
とベラドンナは小さく呟くと、その場から逃げるように階段の方へと駆けて行った。
なんてことを言うのか。
この男はどこまで無礼なのか。
『制御』など、もう効く訳がなかった。
ムサシが「ベラ様!」と慌てて追い駆ける一方、アドルフォが怫然として立ち上がる。
それによって食卓の上に投げ出されたハナが、マサムネの胸倉を掴もうとしたアドルフォの腕に必死にしがみ付き、タロウが真っ青になってマサムネを背に庇う。
「ごめん、アドぽん! ごめん! 許してくれ!」
ハナの叫び声も届いた様子のないアドルフォの身体を、フラヴィオとフェデリコ、オルランドが3人掛かりで羽交い絞めにする。
フェデリコの膝の上にいたベルは食卓の上に投げ出される寸前、床の上に下りていた。
そしてムサシに続いて、ベラドンナを追い駆けて行った。
と言ったオルランドが、すぐに「しかし」と続けた。
「そのために、父上の側室にモストロやそのメッゾサングエを迎えるというのには、抵抗があるのです」
そうだ、本題はそこだ。
ベルは間髪入れずに「私もです」と同意した。
そして疑問をマサムネに投げかける。
「何故、フラヴィオ様の側室でなければいけないのですか?」
「フラヴィオは『力』と『人気』の『王』やからや。また、この島から出たことのないコニッリョにとっては、フラビーは『人間界の王』だと思ってるところも重要や。この国の人間とコニッリョは、まず互いに対する恐怖や警戒、嫌悪を無くさなあかん」
タロウが「あのね、ベル」と口を開いた。
「さっきもちょっと話したけど、レオーネ島でも大昔は人間とモストロは犬猿の仲だったんだ」
「それはどのような理由からですか?」
「ガット・ネーロの食事は海や川の魚、ガット・ティグラートの食事は山の動物。それは人間にとっての食事でもあるからだよ。コニッリョとも、食料の争奪が一番の原因でしょ?」
「なるほど、そうですね」
とベルが納得した後、タロウは「それでね」と話を戻した。
もう500年近く前の話らしい。
レオーネ国にはフラヴィオのように強い力を持って生まれ、国民からとても愛されていた王太子がいた。
彼が大きくなり、思春期を迎えた時に見初めたのは、趣味の遊漁に行くと顔を合わせるガット・ネーロのメスだった。
それを父や母、臣下たちに伝えると当然のごとく激昂され、それでも妻にしたいと言ったら父に折檻された。
しかし王太子は彼女を諦めきれず、15になった時に他国の王女と政略結婚したが、それでも片時も彼女を忘れることが出来ないまま20歳を迎えた時、父が亡くなり即位した。
国王となっては母でさえ逆らうことは許されなくなり、また謀反を試みた貴族・民衆がいたが、彼は強大な『力』を持っていた故に溜まらず縮退。
後、その罪故の斬首刑。
誰もが引き止められないまま、新国王は彼女を――ガット・ネーロを側室に迎えた。
「国民の反応はどうだったのですか?」
「当然、彼の人気は落ちたよ。でも一時的だった。それほど民衆から支持されていたからね、フラビーみたいに」
「代わりに、ネーロの彼女の方は酷かったんだろう?」
と、アドルフォが溜め息交じりに口を挟んだ。
「民衆から、散々罵倒されたそうじゃないか。あのモストロ女が魔法で王をおかしくした、あのモストロ女が王を誑し込んだ、あのモストロ女が全て悪い……ってな。うちの国でも同じことが起きるぞ。それか、それ以上かもしれん。時に狂気的だぞ、この国の女たちの『陛下愛』は」
「でも、国王が――ガットにとっては『人間界の王』が、彼女を愛した、大切にしたって事実は、ガット・ネーロ、ティグラートの警戒を解いたんだ。それは他の誰でもない、宿敵だった『人間界の王』だから出来たんだ」
「でもその後、民衆の罵倒に耐えられなくなった彼女は自害し、酷く悲しんだ王が病に伏せ、後を追うように亡くなった……って、どんな悲劇だ」
「でも、残されたその2人の間の子を罵倒する民衆はいなくなったんだ。王が亡くなったことで、みんな彼女を責めて死に追いやったことを後悔して、反省したから」
次の王に即位したのは王太子――正室の長男だったが、それは仕方がない。
世襲故の決まりなのだから。
しかし、2人の間の子もちゃんと王子・王女として誰もが認めるようになっただけでなく、人間とモストロの争いが徐々に沈静していき、互いに傷をつけることがなくなり、困っていたら互いに食料を分け与え、いつしかの国王とガット・ネーロのメスのように愛し合う者たちが現れ、メッゾサングエが生まれるようになった。
それ故、現在のレオーネ国の民衆は、半分近くがガット・ネーロ、ティグラートと人間のメッゾサングエになっているらしい。
「ちなみに、人間の男と、ネーロの『メス』だったから上手く行ったとあたいは思うよ」
と、ハナが余談する。
「だって野生のネーロ、ティグラートのオスって、やりたいことやったらすぐどっか行くんだ。稀に子育てするオスもいるけど、大抵はメスが一匹で面倒見ることになる」
「まぁ、ネーロ、ティグラートのオスはそういう性質もあって、フラビーが男の王で好都合やった」
そう言ってマサムネがフラヴィオの見て、こう問うた。
「ガット・ネーロとガット・ティグラート、どっちがええ? 純血やと猫耳と尻尾があってモロやから、耳も尻尾もない人間の見た目のメッゾサングエの方がこの国の民衆は受け入れやすいと――」
「お待ちください」
ベルがマサムネの言葉を遮った。
「フラヴィオ様の側室に、ガット・ネーロもしくはガット・ティグラートのメッゾサングエを迎えようというのですか?」
「せやで。コニッリョはまず無理やし、北隣のサジッターリオの山にも一応人型モストロおんねんけど、アレはあかんわ。人間に一切の関心持たんモストロやった。大陸の国は、人型モストロくれる訳ないし。なんでやねんって? この国が欲しくてたまらんからや。もし、うちの国と友好関係が無くなったら即行で襲ってくるかもしれへんで? 上級魔法のテレトラスポルトをまともに使えるようになるには、何年もかかるとはいえな。飛んだ先が海でも空でも、何度も何度もテレトラスポルトを繰り返しとれば、せいぜい30分以内にはこの小さな島にも辿り着けてまうんや」
「いや、『即行』は無いと思うぞ。向こうだって、よっぽどの覚悟がいる。なんせ実際、マグマに落ちて消滅した軍隊がいるわ、戦場のど真ん中に移動して殺された軍隊はいるわ、深海に行っちゃって慌ててまたテレトラスポルトしたんだけど、頑丈なモストロは兎も角、人間たちの胸はぺしゃんこに潰れて死んだわで、ここに辿り着くまでに元の人数から大幅に減ってる可能性が高いからな」
と続いたハナが、「で」とベルの顔色をうかがいながら問う。
「まぁ、その……この通り他の人型モストロは駄目だからさ、あたいらガット・ネーロや、ガット・ティグラートってわけなんだけど……嫌か? メッゾサングエなら、本当に人間の見た目のままのがいるんだ。ちゃんとフラビーに見合った女を探してくるからさ……?」
「ハナさん、タロウさん」
と、ベルが2人の顔を交互に見た。
「私は、お二方にはとても感謝しています。ありがとうございます。ハナさんもタロウさんも、とても心優しく、信頼があり、素晴らしいモストロだと思います」
ベルの声が「しかし」と強くなった。
「それとこれとは、別の話です」
「不服そうやな、ベル。まぁ、どうしてもフラビーの側室があかんっちゅーなら、リコたんでもええねん。この国の女たち見とると、フラビーに負けず劣らずリコたんも愛されとるし。まぁ、『人間界の王』ちゃうからコニッリョの警戒心はすぐには解けへんやろうけど、モストロを受け入れる民衆は徐々に増えて来るはずや。その結果、時間は掛かるけどいつかはコニッリョと融和できるやろ」
ベルのすぐ背後、フェデリコの溜め息が聞こえた。
「しつこいようですが、私にアリー以外の女を愛せというのは難しい」
「別に、側室やからって無理に愛せとは言わへん。おまえの『妻』になることが重要や。例えば、そのメッゾサングエが民衆によって傷付けられたり、最悪かのレオーネ国王に愛されたネーロみたいに自害したとするやろ? マストランジェロ一族のおまえは当然悲しむやろ? 号泣するやろ? 女の心を奪って止まない罪作りなおまえら兄弟の涙は、ほんっまこの国を動かすで。もっと利用せぇや、ドアホ」
「それでは彼女は『犠牲』だ!」
「国を守るためのな。たった一匹の『犠牲』で、国が救えるんやで。おまえやてフラビーの補佐やろ、国を担ってるやろ。その『彼女』や妻アリーちゃんを想う気持ちは分かるけど、そんなこと言ってる場合ちゃうって分かるやろ」
「ムネ殿下……」
とアドルフォからも溜め息が漏れると、マサムネがそちらに視線を移した。
「あぁ、アドぽんでもええわ。女人気はここの兄弟に敵わへんけど、男人気は高いし、『力』が有りすぎて誰も逆らおうとせぇへんし。あ、なんか、アドぽんがそうするだけで、憧れる男たちがモストロ受け入れるようになりそうやんな? それに今気づいたけど、アドぽんとガット・ネーロ、ティグラートのメッゾサングエが出来たら最強やん! せや、それで行こ」
と勝手に話を進められ、アドルフォが声高になる。
「俺の妻だってこの世でひとりだけです! 俺はベラ以外の女を妻にはしない!」
「あんな、アドぽん。メッゾサングエでなくとも、おまえ譲りの力を持った子供がいないっちゅーのは、この国にとって痛手やで」
「だから、俺には妻が――ベラがいる!」
そして、マサムネからも大きく嘆息が漏れた。
「ええ加減、諦めぇやアドぽん」
「何がです!」
「何がて……何がて、ベラちゃんのことや! ベラちゃんはおまえの子を授からん! 石女や!」
突如静まり返った空間の中。
戸口の方から小さな音がして、皆が一斉に息を飲む。
そこに、やはりというか、ヴィットーリアから眠るよう言われただろう風呂上りのベラドンナが、この晩餐会へと戻って来ていた。
この国の絶世の美女と謳われるほどの、あまりにも美しく整った顔立ちの黒茶色の瞳が、深く深く、傷付いている――
「――ごめん…なさい……」
とベラドンナは小さく呟くと、その場から逃げるように階段の方へと駆けて行った。
なんてことを言うのか。
この男はどこまで無礼なのか。
『制御』など、もう効く訳がなかった。
ムサシが「ベラ様!」と慌てて追い駆ける一方、アドルフォが怫然として立ち上がる。
それによって食卓の上に投げ出されたハナが、マサムネの胸倉を掴もうとしたアドルフォの腕に必死にしがみ付き、タロウが真っ青になってマサムネを背に庇う。
「ごめん、アドぽん! ごめん! 許してくれ!」
ハナの叫び声も届いた様子のないアドルフォの身体を、フラヴィオとフェデリコ、オルランドが3人掛かりで羽交い絞めにする。
フェデリコの膝の上にいたベルは食卓の上に投げ出される寸前、床の上に下りていた。
そしてムサシに続いて、ベラドンナを追い駆けて行った。
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