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第4話-1 アップンタメント(デート)~前編~
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それは1488年8月の半ば――約2週間前のこと。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
島国カプリコルノの国王フラヴィオ・マストランジェロ――父に、恍惚として抱っこされながら、こう言われた。
「おまえが今年の誕生日に『欲しい』と言ったものがあるだろう? 遅くなってしまったが、父上はちゃーんと用意出来たぞ。今すぐには渡せないが、もう少しだ。もう少しでおまえに贈ろう、この父上が。嬉しいか? 嬉しいだろう? はい、キス」
と寄せられてきた父の頬に、求められるがままにバーチョという名の仕事をした。
父がでれんでれんになった。
――約10日前のこと。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
大公フェデリコ・マストランジェロ――父方の叔父(国王フラヴィオの弟)に、また恍惚として抱っこされながら、こう言われた。
「もうすぐだぞ。もうすぐで、おまえの元に素晴らしい贈り物が届く。いや、兄上からだけじゃない、このフェーデ叔父上も準備に携わった。嬉しいか? ふふ、そうか。はい、バーチョ」
と寄せられてきた父方の叔父の頬にも、求められるがままに仕事した。
こっちもまた、でれんでれんになった。
――約5日前のこと。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
侯爵アドルフォ・ガリバルディ――母方の叔父(王妃ヴィットーリアの妹の夫)に、やはり恍惚として抱っこされながら、こう言われた。
「いよいよだぞ。本当にあと少しでおまえの欲しいものが届く。いやいや、陛下と大公閣下からだけではなく、実はこのドルフ叔父上からもなんだ。喜んでくれるか? おお、そうかそうか。はい、バーチョ」
とやっぱり寄せられてきた母方の叔父の頬にも、求められるがままに仕事した。
これも当然のごとく、でれんでれんになった。
――そして本日。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
波打つ金糸のような髪に澄んだ蒼の瞳、珠のような肌。
その目鼻立ちは、神の最高傑作。
並んでしまえば、ここオルキデーア城の裏庭に庭師が丹精込めて造り上げた庭園の花々もただの道芝と化し、この宝島が誇る最高級の宝石――オルキデーア石ですら価値を失う。
そこにいるだけで老若男女の目を奪い、微笑みかけれた者は蕩けるように腰を抜かし、心身を痛め涙を落としてしまえば戦の勃発。
そんなこの国の絶世の美少女――5番目の天使こと、フラヴィオの長女ヴァレンティーナ・マストランジェロ王女(10歳)は、4階の廊下で鉢合わせになるなり恍惚とした父と2人の叔父の顔を見上げて、待ちきれない様子でこう問うた。
「ねぇ父上、フェーデ叔父上、ドルフ叔父上、まだ? 私の『姉上』は、まだなの?」
3人同時にヴァレンティーナに手を伸ばしたが、フラヴィオの両脇に立っていたフェデリコとアドルフォはふと我に返って手を引っ込める。
こういう場合、国王でありヴァレンティーナの父であるフラヴィオに譲るのは暗黙の了解になっていた。
よってヴァレンティーナを抱っこしたフラヴィオが、こう返答した。
「ああ、待たせたなティーナ。おまえの姉上というか、『姉のような』侍女のベルは、いよいよ明日だ。明日、この父上――」
「と、このフェーデ叔父上」
「と、このドルフ叔父上」
「が、おまえに贈ろう。――って、おい! 何でおまえたちもなんだ! ベルは余が用意したんだぞ!」
「まーまー、兄上」
「まーまーじゃないわ!」
「どーどー、陛下」
「馬か!」
と3人の喧嘩が始まりそうになる一方、ヴァレンティーナの蒼い瞳が煌めいていく。
「そう、ベルっていうのね!」
「ああ、そうだぞー」
と、即座にヴァレンティーナに顔を戻したフラヴィオの顔は、でれでれになっている。
「ベル――ベルナデッタというんだ。父上の7番目の天使でな、かぁーーーわいい顔をしているんだぞーう。好きなだけヴェスティートの着せ替えをすると良い。嬉しいか、ティーナ? 嬉しいか?」
「とってもうれしいわ、父上!」
「おお、そうかそうか。はい、バーチョ」
「スィー」
「フェーデ叔父上にも」
「スィー」
「ドルフ叔父上にも」
「スィー」
と、3人相手に仕事して忙しそうなヴァレンティーナを、こっそりと自室から見つめていたベル。
音を立てぬようにそっと扉を閉めた。
右手と右足、左手と左足を揃えて向かうは後方8m。
三人掛けソファに腰かけ、昼餉後の茶を楽しむ3人の美女と1人の美幼女の前。
「わ……わわわ」
とベルが声を震わせると、3人掛けソファの中央に腰かけている国王の『女神』――王妃ヴィットーリアが、「ほほほ」とおかしそうに笑った。
「わわわ、わた、私が、あの、ててててて天使すぎるててててて天使の――」
「少し落ち着きなさいよ、あんた」
と突っ込んだのは、ヴィットーリアの右隣に座る国王の『1番目の天使』こと、ヴィットーリアの3つ下の妹でありアドルフォの妻――ベラドンナ・ガリバルディ(29歳)。
ヴィットーリアがこの国で2番目の美女とされているのは、このベラドンナが1番の美女とされているからだった。
黒茶の髪や瞳は姉妹一緒だが、ベラドンナは子供の頃からお転婆で、趣味はヴィットーリアのしない『狩り』。
あまりよく考えずに大胆な行動することがあり、その都度皆に心配を掛けているものだから、『天使軍の問題児』なんて呼ばれることもある。
活発な性格には長い髪が邪魔になるらしく、下ろしているのは入浴の時と寝る時くらいで、本日は頭の真上で大きな団子にしており、そうすることでより顔立ちの美しさが際立っていた。
ちなみに、一応はヴィットーリアの侍女だ。
子供の頃からそうであるように、逆にヴィットーリアが世話をしていることも少なくないが。
「ワタシだって一応『1番目の天使』だし『絶世の美女』って言われてるのに、あんた初対面の時そんな反応してた?」
ヴィットーリアがもう一度おかしそうに「ほほほ」と笑った。
「ベラよ、我が娘ティーナはそなたにはない『可憐さ』を持っているのじゃ。また、動物を見れば弓を構え矢を向けるそなたと違って、ティーナは挨拶をし笑顔を向ける。同じ女大好きマストランジェロ一族の男でも、フラヴィオはそなたを美しい美しいと誉め倒していたが、フェーデは昔こうぼやいていたではないか。ベラが絶世の美女だというのは分かるが、天使かと言われると『なんか違う』と」
「あの瞬間、初恋が終わったと分かったわよ。ワタシ、フェーデのことほんっと好きだったのに……あーあ、うらやましー」
とベラドンナが目を向けたのは、ヴィットーリアの左隣に座っている国王の『2番目の天使』こと、フェデリコの妻アリーチェ・マストランジェロ(今年で28歳)。
ふわふわの深い金色の髪と、垂れ目がちな榛色の瞳を持っている。
ヴィットーリア・ベラドンナ姉妹が『美しい』と言われることが多いのに対し、こちらは『可愛い』と言われることの多い美女だった。
性格は虫一匹殺せぬほどに心優しく、他の王侯貴族が肉や魚を食べる中でひとり草食だった。
そのせいか身体の線が細く、心配する周りにときどき肉や魚を食べるよう強要されるのだがどうしても食べられず、卵も抵抗があり、ならばせめて乳製品を摂取して欲しいところだが、本来は子牛の食事であるそれを奪う訳にはいかないと頑なに口にしない。
また、現在その腕の中で、『6番目の天使』こと夫フェデリコとのあいだに出来た長女ビアンカ(1歳)がすやすやと眠っている。
その髪の色や顔立ちから察するに、将来はアリーチェと瓜二つになるだろう可愛らしさだった。
アリーチェも一応はヴィットーリアの侍女だが、ただ単にヴィットーリア・ベラドンナ姉妹と仲が良いからと言った方がしっくり来るかもしれない。
といっても、ベラドンナとは3日に1回はちょっとした口論になっているが。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
島国カプリコルノの国王フラヴィオ・マストランジェロ――父に、恍惚として抱っこされながら、こう言われた。
「おまえが今年の誕生日に『欲しい』と言ったものがあるだろう? 遅くなってしまったが、父上はちゃーんと用意出来たぞ。今すぐには渡せないが、もう少しだ。もう少しでおまえに贈ろう、この父上が。嬉しいか? 嬉しいだろう? はい、キス」
と寄せられてきた父の頬に、求められるがままにバーチョという名の仕事をした。
父がでれんでれんになった。
――約10日前のこと。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
大公フェデリコ・マストランジェロ――父方の叔父(国王フラヴィオの弟)に、また恍惚として抱っこされながら、こう言われた。
「もうすぐだぞ。もうすぐで、おまえの元に素晴らしい贈り物が届く。いや、兄上からだけじゃない、このフェーデ叔父上も準備に携わった。嬉しいか? ふふ、そうか。はい、バーチョ」
と寄せられてきた父方の叔父の頬にも、求められるがままに仕事した。
こっちもまた、でれんでれんになった。
――約5日前のこと。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
侯爵アドルフォ・ガリバルディ――母方の叔父(王妃ヴィットーリアの妹の夫)に、やはり恍惚として抱っこされながら、こう言われた。
「いよいよだぞ。本当にあと少しでおまえの欲しいものが届く。いやいや、陛下と大公閣下からだけではなく、実はこのドルフ叔父上からもなんだ。喜んでくれるか? おお、そうかそうか。はい、バーチョ」
とやっぱり寄せられてきた母方の叔父の頬にも、求められるがままに仕事した。
これも当然のごとく、でれんでれんになった。
――そして本日。
「おお、愛らしい愛らしい5番目の天使よ」
波打つ金糸のような髪に澄んだ蒼の瞳、珠のような肌。
その目鼻立ちは、神の最高傑作。
並んでしまえば、ここオルキデーア城の裏庭に庭師が丹精込めて造り上げた庭園の花々もただの道芝と化し、この宝島が誇る最高級の宝石――オルキデーア石ですら価値を失う。
そこにいるだけで老若男女の目を奪い、微笑みかけれた者は蕩けるように腰を抜かし、心身を痛め涙を落としてしまえば戦の勃発。
そんなこの国の絶世の美少女――5番目の天使こと、フラヴィオの長女ヴァレンティーナ・マストランジェロ王女(10歳)は、4階の廊下で鉢合わせになるなり恍惚とした父と2人の叔父の顔を見上げて、待ちきれない様子でこう問うた。
「ねぇ父上、フェーデ叔父上、ドルフ叔父上、まだ? 私の『姉上』は、まだなの?」
3人同時にヴァレンティーナに手を伸ばしたが、フラヴィオの両脇に立っていたフェデリコとアドルフォはふと我に返って手を引っ込める。
こういう場合、国王でありヴァレンティーナの父であるフラヴィオに譲るのは暗黙の了解になっていた。
よってヴァレンティーナを抱っこしたフラヴィオが、こう返答した。
「ああ、待たせたなティーナ。おまえの姉上というか、『姉のような』侍女のベルは、いよいよ明日だ。明日、この父上――」
「と、このフェーデ叔父上」
「と、このドルフ叔父上」
「が、おまえに贈ろう。――って、おい! 何でおまえたちもなんだ! ベルは余が用意したんだぞ!」
「まーまー、兄上」
「まーまーじゃないわ!」
「どーどー、陛下」
「馬か!」
と3人の喧嘩が始まりそうになる一方、ヴァレンティーナの蒼い瞳が煌めいていく。
「そう、ベルっていうのね!」
「ああ、そうだぞー」
と、即座にヴァレンティーナに顔を戻したフラヴィオの顔は、でれでれになっている。
「ベル――ベルナデッタというんだ。父上の7番目の天使でな、かぁーーーわいい顔をしているんだぞーう。好きなだけヴェスティートの着せ替えをすると良い。嬉しいか、ティーナ? 嬉しいか?」
「とってもうれしいわ、父上!」
「おお、そうかそうか。はい、バーチョ」
「スィー」
「フェーデ叔父上にも」
「スィー」
「ドルフ叔父上にも」
「スィー」
と、3人相手に仕事して忙しそうなヴァレンティーナを、こっそりと自室から見つめていたベル。
音を立てぬようにそっと扉を閉めた。
右手と右足、左手と左足を揃えて向かうは後方8m。
三人掛けソファに腰かけ、昼餉後の茶を楽しむ3人の美女と1人の美幼女の前。
「わ……わわわ」
とベルが声を震わせると、3人掛けソファの中央に腰かけている国王の『女神』――王妃ヴィットーリアが、「ほほほ」とおかしそうに笑った。
「わわわ、わた、私が、あの、ててててて天使すぎるててててて天使の――」
「少し落ち着きなさいよ、あんた」
と突っ込んだのは、ヴィットーリアの右隣に座る国王の『1番目の天使』こと、ヴィットーリアの3つ下の妹でありアドルフォの妻――ベラドンナ・ガリバルディ(29歳)。
ヴィットーリアがこの国で2番目の美女とされているのは、このベラドンナが1番の美女とされているからだった。
黒茶の髪や瞳は姉妹一緒だが、ベラドンナは子供の頃からお転婆で、趣味はヴィットーリアのしない『狩り』。
あまりよく考えずに大胆な行動することがあり、その都度皆に心配を掛けているものだから、『天使軍の問題児』なんて呼ばれることもある。
活発な性格には長い髪が邪魔になるらしく、下ろしているのは入浴の時と寝る時くらいで、本日は頭の真上で大きな団子にしており、そうすることでより顔立ちの美しさが際立っていた。
ちなみに、一応はヴィットーリアの侍女だ。
子供の頃からそうであるように、逆にヴィットーリアが世話をしていることも少なくないが。
「ワタシだって一応『1番目の天使』だし『絶世の美女』って言われてるのに、あんた初対面の時そんな反応してた?」
ヴィットーリアがもう一度おかしそうに「ほほほ」と笑った。
「ベラよ、我が娘ティーナはそなたにはない『可憐さ』を持っているのじゃ。また、動物を見れば弓を構え矢を向けるそなたと違って、ティーナは挨拶をし笑顔を向ける。同じ女大好きマストランジェロ一族の男でも、フラヴィオはそなたを美しい美しいと誉め倒していたが、フェーデは昔こうぼやいていたではないか。ベラが絶世の美女だというのは分かるが、天使かと言われると『なんか違う』と」
「あの瞬間、初恋が終わったと分かったわよ。ワタシ、フェーデのことほんっと好きだったのに……あーあ、うらやましー」
とベラドンナが目を向けたのは、ヴィットーリアの左隣に座っている国王の『2番目の天使』こと、フェデリコの妻アリーチェ・マストランジェロ(今年で28歳)。
ふわふわの深い金色の髪と、垂れ目がちな榛色の瞳を持っている。
ヴィットーリア・ベラドンナ姉妹が『美しい』と言われることが多いのに対し、こちらは『可愛い』と言われることの多い美女だった。
性格は虫一匹殺せぬほどに心優しく、他の王侯貴族が肉や魚を食べる中でひとり草食だった。
そのせいか身体の線が細く、心配する周りにときどき肉や魚を食べるよう強要されるのだがどうしても食べられず、卵も抵抗があり、ならばせめて乳製品を摂取して欲しいところだが、本来は子牛の食事であるそれを奪う訳にはいかないと頑なに口にしない。
また、現在その腕の中で、『6番目の天使』こと夫フェデリコとのあいだに出来た長女ビアンカ(1歳)がすやすやと眠っている。
その髪の色や顔立ちから察するに、将来はアリーチェと瓜二つになるだろう可愛らしさだった。
アリーチェも一応はヴィットーリアの侍女だが、ただ単にヴィットーリア・ベラドンナ姉妹と仲が良いからと言った方がしっくり来るかもしれない。
といっても、ベラドンナとは3日に1回はちょっとした口論になっているが。
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