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118 正しい選択を
しおりを挟む三日間かけて塩漬けし、水分を抜いたプルモンは掌で転がるほど小さくなってしまった。
食べるために今度は真水で強く揉み洗いし塩気を抜いていくが、大きさは大(たい)して変わらず小さいまま。
食べたいと言ったのは私だが、手間がこんなにもかかったというのにこれだけの量しか食べられないのならばそんな頻繁に作る気はないな。
大量に獲れた時のみ頂くことにしよう。
一息ついて今度は食べるために塩抜きしたプルモンを細く切っていく。
試しにし少し食べてみたがコリコリとした食感で面白いが、塩の味しかしない。故に今回はこのプルモンを使って中華クラゲならぬ、中華プルモンを作る予定だ。
プルモンの他に入れる具材は鶏肉とキュウリの二つ。
鶏肉は茹でて筋に沿ってバラバラにし、キュウリは細切りに。
三つの素材をボールで混ぜ合わせ、醤油、ごま油、砂糖、酢、鷹の爪を入れてよく混ぜれば中華プルモンの出来上がりである。
調理方向はいたって簡単なこの料理だが手間ばかりかかって出来た量は中皿一つ分で、それ程多くはない。独り占めして食べてもいいくらいの量なのだけれども、一応貰い物だし、真後ろでニコニコ笑って待ってるアルノーとソワソワしているダリウスにはあげないと可哀想だろう。
「ーープルモンの中華和え出来たけど、いる? 人によっちゃゲテモノ料理の類にはなるかもだけど?」
「食べる!」
「是非とも!」
キラキラとした笑顔をふり撒いた二人はフォークを握り、一口分の中華プルモンを口の中へと放り込んだ。
アルノーはいつものように美味しいと呟き、ダリウスは少し戸惑ったように首を傾げながら咀嚼する。
私も二人の様子を伺いつつ一口頬張ると、コリコリとした食感とシャキシャキのキュウリ、味の染み込んだ鶏肉の旨味が滲み出てくる。中華サラダといえば春雨だと言う人もいるだろうか、どちらかといえば私は海月派なのだ。
まぁ、中華春雨を食べたことのある人間など私以外にはいないだろうけれども。
春雨といえば春雨も澱粉でできてる訳だし作れるのではないのだろうか?
そこまでの長期保存は望めないかも知れないがアルノーに持たせる保存食の一つとはしていける。
また同系統のフォーなら米を粉砕して作れる麺だし、氷魔法の使えるアルノーならそれこそ長期保存が可能だろう。
近いうちに試してみてもいいかも知れないな。
とまぁ、そんな事を考えているといつの間にか皿の上にあった中華プルモンは半分以下になっていて、私は急いで二人からお皿を遠ざけた。
「いやいや! 全部食べちゃ駄目だよ!」
「……まだあるんじゃないの?」
「残念ながらもらったプルモン、これで全部! あれだけあったけど食べられるように加工するとこれだけになっちゃうんだよ! だからもう当分加工する気ないし、これを大事に食べるの!」
私が大人でお酒が飲めればビール片手におつまみにするんだが、いかせん私はまだお酒が飲める歳ではない。本来ならば成人してるし飲めるっちゃ飲めるが、これからの成長に期待して飲みくないってのも本音である。
一応アルノーにもそう教えているが、時と場合で己で判断してもらうようになるだろう。
騎士になれたら飲みませんなんて言えない状況もあるかもしれないしね。
少なくなったプルモンをもう一口食べ保冷庫に保存し、不満足そうなアルノーにはオヤツに作った蜂蜜ケーキを渡しておく。
そしてもう一切れをダリウスに渡そうと向き合うと、彼はまだモグモグと口を動かしながら考え込んでいるようだった。
「どうかしました? 美味しくなかったですかね?」
彼にとって中華風の味付けは初めてだろうから気に入らなかったのかも知れないと思いつつ声をかけると、ダリウスは咀嚼をやめて飲み込み、そして真剣な眼差しを私に向けた。
「プルモンが食べられるなんて最初は信じられなかったが、美味くて驚いた。 そして何よりプルモンを食べようとする発想と食べ方があるなんて俺には思いつきやしなかったんだ。 君はなんで食べようと思ったんだ? 何故加工の仕方を知っているんだ? プルモンの名前すら知らなかったんだろう?」
流石に商家の息子と言うべきか、よく頭が回る。
賢い子供は嫌いだが、アルノーのお友達だ、邪険にはできない。
ならば私がすべき事一つなのである。
「何故ってそれを知ってどうするんです? 知って利益があるのはダリウスさんですが、私には何も利益がない。 思いつきを話す分私には不利益じゃないですかぁ?」
「それはーー」
「それに何より私は美味しいものが食べたい。 だから食材となるものは追求する。 アルノーが騎士になりたくて学院に入って学ぶように、私も色んな方法を試しているだけですよ?」
そう言ってニッコリと笑う。
私がすることはただそれだけだ。
「ダリウス。 リズは色んなものを美味しく作れる思考と、手を持っている。 俺が精霊に力を借りて魔法を当たり前に使うようにね、リズはそれを当たり前に使うだけだよ。 おかしい事なんてない」
「そうかも、知れないがーー」
「そんなに気になるならもう食べなくていいのね? あげなくていいよね? 俺のリズエッタの事を変に勘繰るなら、たとえ友人であるダリウスだとしてももう食べさせたくないしあげたくないっ!」
「っそれは困る! リズエッタ、さん、その、申し訳なかった! 言い訳にしか聞こえないだろうがどうも商家としての昔からの癖で。 本当に申し訳ない。 なので何卒今後もお恵みをっ!」
アルノーの思ってもいなかった言葉でダリウスは床に頭がついてしまうのではないかと言うほど深々と頭を下げ、少しばかり声を震わせているように思えた。
そりゃあ、アルノーにも持たせている保存食は市場に出回っているものよりかなり美味しいもの。それをわざわざ自分から手放すなんて彼はしないだろう。
だから私はニッコリと笑ってそれを許してあげるのである。
「ダリウスさん、そんなに謝らなくていいですよ! あ、でも、こんどまたそんな事言われたら悲しくて料理作れなくなるかもなんで気をつけてくださいね?」
遠回しに次はねぇぞと付け加えて。
身内に勘の良い人がいるのまだ良い。
スヴェンだとかアルノーだとか、私を守ってくれる人ならば。
そうじゃない他人ならば、それは邪魔なだけ。
ダリウス少年が賢い子供にならないように、私は深く祈ったのである。
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