リズエッタのチート飯

10期

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117 ダリウスとプルモン

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 外はパリ、中はもっちりとしたフランスパンに用意したのはマーマレードとベリーのジャム。
 甘いジャムだけでなく野菜がゴロゴロ入ったラタドュイユも用意した。
 そのほかにも葉物野菜のサラダとオニオンスープ、デザートにカットフルーツを準備してあとは食べるだけなのだが、どうも中々朝食まで進まない。
 それはどうしてかと問われたのならば、私の愛しい弟が、友人ダリウスを笑顔で威嚇してるからだと答えよう。

「ねぇ、なんでダリウスは毎日ここにくるの? 宿とってたんだよね? むしろ昨日はお店の方に顔を出すって言ってたよね?」
「んまぁ、そんなこと言ってたようななかったような? なぁ頼むよアルノー、俺、うまい飯が食いたいんだっ!」

 そう言って必死に拝むダリウスへ冷たい笑顔を向けたのは今日だけではない。
 昨日も一昨日もその前も、彼は何故が早朝からこの周辺をウロウロしていて私が引き入れている。
 アルノーの友人だからこうして家の中に入れて入るし、別にご飯を食べていくことも苦ではない。
 しかしながらアルノーにとってそれは良い事ではないようだ。

 アルノーとスヴェンと私と、そしてダリウス。
 私はともかく男が一人増えれば料理の量も増えるわけで。
 商家出身だからか毎回割高な手土産持参で来てくれるものの、私の作ったお菓子の方が美味しいのでそこまで有難くもなく。
 つまりのところアルノーにも私にもまったくもって利点がないのである。

「まぁまぁアルノー。 別にご飯は減らないし、ダリウスさんにもご飯食べてもらおうよ、ね?」
「でもねリズ、ダリウスはなんの役にも立ってないんだよ! ご飯の用意も手伝ってないし、タダ飯食いはよくないよ!」

 このやりとりも実に三日目である。
 いくら温厚なアルノーでさえも三日も続けば怒りが湧くようで、その額にはうっすらと青筋が見えているではないか。
 さてどうしたものか未だに言い争いをする二人を横目で見ながら頭を悩ませていると、一人傍観していたスヴェンがボサボサの髪を掻きながら、そして呆れたように、けれども面白そうに口を開いた。

「なら、リズエッタが欲しいもんを用意して貰えばいいんじゃねぇか? 俺と違って三ツ星トレのローガン商会なら用意できるもんがあるだろうよ」

 ニヤリと笑ったスヴェンは私に欲しいもんはないかのかと聞き、私はまたもや頭を悩ませた。

 欲しいものといえば家畜類だが流石にダリウスに頼むのは気が引ける。それなりの量が欲しいし、なんでと何処で育てるのと突っ込まれるのが何より面倒くさい。
 故に家畜は却下。
 だとすればまだ見ぬ食材だろうか?

 なにか、食べたいもの。
 私がまだこの場所で見つけてないもの。
 それはなんだろうか。

「んー。 欲しいもの欲しいもの。 食べたいもの? ……ダリウスさんの商会は海で漁することは可能ですかね?」
「大丈夫だ、問題ない! 新鮮な魚が希望か!? なら用意するぜ!」
「じゃあーー」

 私が欲しいもの、食べたいもの。
 それは浅瀬でも獲れなくはないモノだが、今まで市場で見ることのなかったものである。







 アルノーを説得し早々に朝食を食べ、私たちが向かったのはローガン商会だった。
 そこで船でも借りるのかと思いきや流石にダリウスに決定権はなく借りる事などできず、じゃあ品物を用意出来るかと訊ねてもそれすら難しいとのこと。
 そりゃまぁ欲しいものがマイナーなものなのだ、普通ならとらない。網にかかるかもしれないが獲ろうとすらしないものなのだ、現品があるなんてそうそうだろう。

 一人顔を歪め項垂れるダリウスにアルノーは声をかけ、そして爽やかな笑顔で地獄へ叩き落としたのである。

「獲れるまで、朝も昼も夜も来ないでね? おやつもダメだからね?」
「そ、そんなぁーー」

 アルノーは我弟ながら食べ物が関わると容赦しないのだと思いつつ、獲れたらいつでも来てくださいねと声だけはかけておく。
 そんなに期待してはいないが獲れたら食べないなんて思ってその日を過ごし終え、翌る日を迎えると、早朝には樽を乗せた荷台を引くダリウスが庭先でまっていた。
 全くもって、彼も食い意地が張っているらしい。

「ちゃんと獲ってきたぜ! 言ってたのはコレで違いないだろ?」

 こんな朝早くに我が家に訪れにこやかに笑うダリウスに若干の苛つきを感じるが、確かにそこには私が欲しがっていたものが浮遊しているので許そう。

 ぷるんとしたフォルムに長い触覚。
 大きさは人の顔ほどあるだろうか。
 ふわふわと揺れるソレは私の知る海月そのものである。
 見た目からして毒はなさそうかな。
 詳しいことはスヴェンが誰かで試してみよう。


「コレであってます! えっと確かこれの名前はーー」
「プルモンだ! あってて助かった。 これでその、今日もここで食べていいかな?」
「どうぞどうぞ。 私はプルモンの加工がありますので中でくつろいでてくださいね」

 そう言ってリビングに通すと先ほどまでいなかったアルノーが真顔で仁王立ちしており、ダリウスは顔を引きつらせた。

「今何時だかわかる? 迷惑とか考えないの?」
「あー、えー、新鮮なうちに届けないとと思って……」

 いつもニコニコのアルノーも可愛くて良いが、真顔のアルノーは男前で格好良いこと!
 うっかり緩んだ頬を引き締めることなく、私は助けて欲しそうなダリウスを無視して調理場へ向かった。

 海月、もといプルモンを食べるには少々工程がいる。
 触覚は食べられないので切り落とすがうっかり刺されないよう気を付けなければならない。
 まぁ、ダリウスが持ってくる時点で毒のある種ではないだろうけど、念のため革手袋をはめて作業をする。
 触覚を取り除いたら真水につけて置いてぬめりを取る。
 小一時間かかるのでその間に簡単な朝食の準備を済ませ、アルノー達に先に食べておくように言っておくのも忘れない。

 ちなみに今日の朝食は白米と生卵、豆腐の味噌汁とガンペシェの塩焼き。ダリウスが来るなんて思ってなかったから純和風なメニューだ。

 生卵を食べると言った時のダリウスの顔は見ものだったが、今後真似して外では挑戦して欲しくはない食べ方でもある。

 庭で撮れた卵に限り庭効果のおかげか食中毒を起こさない事を身をもって確認済みだが、他所はそうはいかないだろう。アルノーが食中毒にかかるかは不明だが、一応言い聞かせておかないといけないかもしれない。

「さてと、そろそろ良いかなぁ」

 滑りが取れたプルモンを塩とミョウバンで揉んでいく。
 ミョウバンは以前茄子の漬物が食べたくなったときに願ってみたら出来たもので、電子機器じゃないからいけたらしい。ちなみに味の素風なのも庭に生えている。
 滅多に使わないが、こんなときに役に立ってくれるとは嬉しい限りだ。

 後はコレを半日くらい置いて、また同じ塩に漬け込むこと二、三日で漸く下準備の完成となるのだ。


 今更だが、とてつもなく面倒だ!



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